島魂粉砕

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  後日談 二年後のそれぞれ  

僕とシズクが島を離れてから、二年が経った。
本土に渡ってからはいろいろと慌しく、元々一人暮らしのつもりで見つけた住まいも、シズクがついてきたために新たに住居を探す羽目になり、しょっぱなから苦労が増えた。
シズクは住まい近くの弁当屋さんでアルバイトを始めた。箱入り娘で散々甘やかされたため、仕事なんて大丈夫かと心配したんだが。料理の勉強にもなるし、社会勉強もしたいからとやけに張り切って、一年経つ頃にはすっかり板についてきたらしい。シズク目当ての常連も増えたらしく、お店も売り上げが上がってぜひとも看板娘になって欲しいと言われたそうだ。
シズクは島に帰る気でいるからそれはできないと断った。

本土でもシズクはなにかと注目を浴びていた。
ここでもシズクは一般的にかわいいほうだし、体つきもますますエロくなってきた。別に露出が多い格好をしているとか、そういうんじゃないんだが、にじみ出るオーラってのか? とにかく、メバルやマサトじゃなくても、シズクに気を持つ男ってのがあとを絶たない。
外に出ればシズクはこれみよがしに僕にくっついてくるわけだが、それが道行く男たちの嫉妬を買いまくる。面と向かってなにかを言われるわけじゃないが、わざとらしく舌打ちされたり、聞こえるように「あんなかわいい子が、あんな冴えない男とねー」とかイヤミ言われたり。
結構神経にこたえる。ここでも禍はいたるところにいる。もうボランティアでしかないが、ちょくちょく禍退治はしている。

それでも本業は学業だ。二年間ってのはあっという間で、時間も惜しいし結局長期休暇も学校に費やした。ちょくちょく親父には元気でやってると連絡は入れたが。そのたびに僕のことより「シズクちゃんは元気か? 子供はまだできそうにないのか?」と聞いてくる。うざいことこのうえない。まあ、親父の気持ちもわからなくはないけど。
あんまり僕をあてにしても困るんだよな。跡継ぎはメバルなんだから、メバルのほうをもっと気にしてやれよ。まだ早いかもしれないけど、アイツも十四歳になるし、婚姻はまだ先でも婚約者を見つけてやるでもしてやればいい。メバルの奴には長いこと会っていないからな。二年も経てば背も伸びているだろうし、親父の話では修行もがんばっているらしい。今頃すでにマサトを越える呪術師になっていたりしてな。



「あー、懐かしいなー。もうすぐ島に着くねキョウジ。みんな元気にしてるかなー」

僕とシズクは二年ぶりに島に帰る。僕は無事学校を卒業し、シズクはアルバイトをしたり本土の文化に興味もったりとなかなか充実した二年間を過ごした。僕やシズクにもいろいろあったように、島のみんなにもいろいろあったに違いない。

「ジンヤにも息子が生まれたしな。顔見に行ってやんないとな」

生涯童貞宣言していたジンヤが一児の父になるなんて、人生とはわからないものだ。なんだかんだとスミエとは上手くいっているということなのだろうか?

「そうだね、キョウジ。わたしとの約束もちゃんと果たしてよね」

ジンヤの話題を出したせいで、シズクが例の約束を強調してくる。約束と言うのは、二年後に島に帰ったその時に夫婦の儀をするという約束だ。



家に着いて、玄関を開けると白い塊がどびゅっと勢いよく飛び出していった。

「今のミルキィでしょ? あー、久々の再会なのに、お出かけしちゃったのねー」

相変わらずマイペースな白猫だよな。帰宅して早々僕らを出迎えてくれたのは親父とミヨシさんだ。

「シズクちゃんもよく帰ってきてくれたね」

「はい、だってキョウジと約束しましたから。二年後島に帰ったら、夫婦の儀をしてくれるって」

にこにこと嬉しそうにシズクと親父が話している。

「そうか、よしよし。儀式の準備なら十日前からできているからな。いつでもできるぞ」

親父はりきりすぎだろ。十日前からって、バカだろ…。


「キョウジ、お前これからはずっと島で暮らすのか? そうしたほうがいいだろう。シズクちゃんのためにも」

「ずっとってわけじゃないけど。しばらくは島でゆっくりするってシズクと約束したから、そのつもりだよ」

「そうか、うんいいじゃないか。しっかりと子作りに励めば、なぁ」

…親父、やっぱりそれが本心なんだな。

「そういえば、メバルは? 今日って学校は休みなんだろ?」

「ああ、メバルな。…夜まで修行で帰ってこないんだ」

…親父、なんか歯切れが悪いな。

「アイツも大分変わったからな。驚かないでやってくれ」

親父ばつが悪いな。…まさか、メバルの奴そんなに変わってしまったのか? さすがに未だにタンクトップに短パン姿でおっぱい連呼しているほうが心配になるけど。

「まさか、ぐれてるとか?」

「いやいや、悪い意味で変わったわけじゃない…。とにかく気にしないでやってくれ」

不良になったというわけではないらしい。けど、親父の態度が妙に怪しい。気になって僕はメバルの部屋を覗いてみた。


「!? なんだよ、これ…」

「キョウジ、どうしたの? メバルの部屋、すごいスッキリしてるじゃない…。いっぱいエッチな本持ってたのに、本棚もスカスカ…」

僕の後ろから入ってきたシズクも驚いていた。無理もない。メバルの部屋は殺風景なほど物が無くなっていた。あんなにたくさんあったエロ本コレクションも、見当たらない。エロを卒業したにしても、ちょっと極端すぎて不気味だ。
親父に聞いたが、エロ本はメバル自身が処分したとのこと。

「メバル、きっと好きな女の子ができたのよ。それでえっちな本は卒業したんだわ」

シズクはずいぶんメルヘンな結論を出していたが、僕はそれには疑問だ。まあ真相はメバルに会えばわかるだろう。


夕食が始まるころに、玄関が開いてミルキィが勢いよく入ってきた。メバルが帰宅したか。

「父上、ただいま戻りました」

「! 今の声ってメバルだよな?」

声変わりしたのか男っぽい声色になっていたけど、メバルに違いない。けど、今父上って言わなかったか? シズクと顔を見合し、二人でメバルの元に行く。

「メバル…?」

思わず確認するように訊ねた。メバルは頭はツルツルに剃りあげた坊主頭で、白装束に身を包んでいた。僕らの中ではやんちゃなエロガキだったが、今のメバルからはその名残が感じられない。顔つきも無表情に近く、表情筋固まってんじゃないのか?と思うほど。

「兄上に義姉上、お戻りになられたのですね。お元気そうで何よりです」

「え、あ、ああ」「ええ…」

僕もシズクも戸惑いながらメバルを出迎えた。僕らがいたことに対してリアクションもなく、メバルのやつは居間の親父に挨拶して部屋に向かった。

「ど、どどどういうことだよ? アイツ別人みたいになってるじゃないか」

さすがに僕も動揺した。二年間で成長期とはいえ、メバルの奴変わりすぎだろ? ただの成長とは思えない。なにか理由があってああなったんだ。親父に問い詰める。

「ああ、メバルが変わったのは、二年前、シズクちゃんがキョウジと一緒に島を出た日になる…」

シズクのほうを見て、「シズクちゃんは悪くないから気にしないでくれ」と前置きする親父。

親父の話では、メバルが変わったきっかけは二年前に僕とシズクが島を出た日に遡る。メバルはシズクが僕と一緒に出たことを知らなかったわけで、あとになって親父から事情を聞かされた。メバルの奴はそのことにずいぶんショックを受けて落ち込んだらしい。親父がアイツに先に事情を伝えていれば、あれほどのショックを受けずに済んだだろうなと悔いていたが。
メバルはシズクのことを忘れようと、修行に没頭したらしい。さらにエロ本ももう一切興味はないと言って自分の手で処分した。エロへの興味が失せたと同時に女の子への関心もなくなったらしい。感情も表に出さないようになって、呪術に一途に打ち込むと決意し、今のようになってしまったとのこと。かつてのジンヤを悪い方向に進化させたみたいになったってことだ。
その決意が呪術の方向ではよい方向に伸び始めているそうだ。だが、親父が危惧しているのは、メバルの人間関係だろう。このままでは恋人どころか、友人すらできないのではと。

「たしかに驚いたけど、メバルが自分で決めてああなったってことだろ。なら、メバルを信じてやろう」

僕は親父にそういった。一時的なものかもしれないし、そうじゃなくても、いつか変化するかもしれないし。シズクに失恋したショックが原因なら、それが別に悪いことじゃない。それだけ衝撃受けるくらい人を好きになったってことは、人生の中で貴重な経験だろう。

メバルだけじゃない。四家の人間も、いろいろと変化があったそうだ。
ジンヤは息子を厳しく躾けると堅く心に誓っている。自分が尊敬する父親にそう育てられたように、北地の跡取りにふさわしく厳しくすると言っている。だが、嫁のスミエはとことん溺愛して、ジンヤの教育方針には真っ向から反対しているらしい。さらにマサト信者にすべく洗脳教育を始めているらしい。そして、未だにジンヤはスミエからマサトを愛しているとホモ疑惑を払拭できないでいるらしい。不憫なやつめ。

クマオさんは、シズクが僕と婚姻してからしばらく塞ぎこんでいたらしい。最近は少しずつ変わろうとしているらしく、お見合いを何度かしているそうだ。ヨウスケさんも早くクマオさんにお嫁さんが来て欲しいといろんなところで声をかけているらしい。シズクが時々顔を見せにいっているが、シズクに会うとクマオさんも嬉しそうに笑顔になるようだ。…未だに僕に対する謝罪はないけど、シズクのことで許すことにするけど。

僕にとっては一番どうでもいい奴のことだけど、マサトがどうしているかというと。
マサトの奴すっかりシズクのことはあきらめたらしい。あんなに執着していたのに、なんなんだろうなアイツは。まあ変態のことなんて理解できるわけないが。
最近婚約者ができたらしい。その彼女とは趣味も合うらしく、溺愛しているらしい。
まあ元々見た目は男前だし、女にはもててたから相手に困ることなんてなかっただろうけど。
ただ、その相手に僕も驚かされた。相手はまだ九歳の幼女なんだ。さすがにドン引きしたわ。

「キララさんもあと二三年すれば初潮が始まるでしょう。成長などすぐですよ、ふふふ。
それに愛に年齢は関係ありませんよ。大事なのはフィーリングですよ」
とはマサトの弁。とにかく、気持ち悪すぎるなコイツ。幼女(名前はキララっていうらしい)の親御さんはよく許したよなって思う。

とりあえず、近況はこんなとこかな。まあ他人のことより自分のことを考えないとな。夢を実現するのはこれからなんだし。
まずは目の前の、…シズクとの約束を果たさないとな。
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