白猫りったんのお話

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  りったんと毛布  

ぽかぽかのあたたかい朝です。
寒い寒い冬がいつのまにかすぎさり、あたたかいぽかぽかの春がやってきました。
この季節になると、人間たちも「そろそろしまい時だな」とつぶやくようになりました。
それを聞いた毛布は、『ああ、もうお休みの季節なんだなぁ』としみじみ感じるのでした。
それは毎年のこと。
毎年のことですが、今年はどうしても、毛布にはやっておきたいことがあったのです。
それは……

――たてたてたてたて。聞きおぼえのあるその音に毛布はハッとします。
やわらかいピンクの肉球の足音、りったんです。
『あっ、りったん!』
りったんは毛布のそばまでやってきて、ジャンプして毛布の上にのってきました。
『りったんりったん』
毛布はうれしそうに、りったんの名前を呼びます。
毛布はりったんが大好きです。
ふわふわの白い毛に、やわらかいピンクの肉球の、あいらしいあいらしい白猫の女の子のりったんが、とても好きなのでした。
りったんは毛布に鼻を近づけて、くんくんしました。
『りったんりったん、あのね』
毛布はりったんに話しかけます。でも毛布の声はりったんには聞こえません。
りったんは両足を使って、毛布をもにもにし始めました。
右、左、右、左…と規則正しく、リズミカルに、毛布をもむように。
いちに、いちに、そんな声がどこからか聞こえてきそうです。
りったんは目を細めながら、気持ちよさそうな顔でもにもにもにもにします。
のどを、ぐるぐるぐるぐる、歌を唄うように鳴らしながら、もにもにもにもに。
気持ちいいのはりったんだけではありません。
もにもにされている毛布も、とても気持ちよくなりました。
『ああ、りったん、気持ちいいよ。ありがとう、いつもありがとう』
そうです。りったんはいつも毛布をもにもにしていました。
いつもいつも、だれにたのまれたわけでもないのに。りったんはまるで使命(しめい)のように、いっしょうけんめいにもにもにをしました。
きっとそれは毛布のためでなく、りったんのためでしょう。でもそんな理由などどうでもよかったのです。毛布にとっては。
もにもにもにもに。りったんはいっしょうけんめいにもにもに続けました。
肩(かた)に力をいれて、力強くもにもにと毛布を押します。
りったんの肉球にもまれるたび、毛布はふわふわとやわらかく動きました。
りったんにもにもにされるたびに、ふわふわと、どんどんやわらかくなっていくようです。
『ありがとう、ほんとにありがとう、りったん』
うれしそうに毛布は言いました。りったんには聞こえないのに、それでも何度も毛布は言いました。
りったんはやがて、まぶたをおとして、ゆっくりとすわりました。
体の向きを変えて、もにもにを続けます。
もにもにもにもに、また体の向きを変えて、毛布をまんべんなく、もにもにしていきます。
『ありがとう。りったん、そこもいっぱいしてくれてほんとにありがとう』
りったんはほんとうに集中してもにもにをします。もにもにはりったんのお仕事。
りったんだけの、りったんにしかできない特別なお仕事です。
もにもにもにもに。
ぐるぐるぐるぐる、りったんののどの音。
だんだんそれが小さくなっていきます。そして、りったんはいつのまにやら、ねむってしまいました。
気持ちよかったのでしょう。いいねがおをしています。
『りったん、おやすみりったん』
もにもにのお礼に、毛布はふわふわをプレゼントします。
きっとりったんはいい夢が見られるでしょうね。
『ありがとうりったん、ほんとにありがとう。りったんと出会えてほんとうによかったよ』
やっぱり毛布の声はりったんにはとどきませんが、それでも毛布はりったんに言いました。
お礼を。毛布はりったんとのお別れの前にどうしてもそれが言いたかったのです。
もうすぐお別れの時。さみしいけれど、それはしばらくの間。
また冬になれば、会えるのですから。
『りったん、いいねむりを。また、冬になったら会おうね。そのときはまた、もにもにしてね』
りったんはすでに夢の中。気持ちよさそうなねがおで、りったんの前足はゆっくりともにもに…と動くのでした。

ふわふわのあたたかい幸せなひととき。
また冬に会えますように。りったんの幸せは毛布の幸せ。
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