「ドッグ子をどうするつもりじゃ?おどりゃーー」

空海がギャンギャン叫ぶが、シラセナンキョクの返事はなく、森の中むなしく木霊するだけだった。

「ああ、そのことならボクが知ってるけど…」

しゅばっと空海とホツカが声を発した主であるドッグ君につめよる。

「なんじゃと? はよ教えんかい」

ぎゅむっとドッグ君の柔らかぬいぐるみボディを空海が掴む。

「おい、離せよ! 暴力振るう奴になんか言うこときくもんか」

ふてぶてしい態度でドッグ君は空海の束縛から逃れようと体をぐにんぐにんとひねり暴れる。

「空海さん乱暴はよくないですよ。それにドッグ君はドッグ子にそっくりじゃないですか。かわいそうですよ」

ホツカにそう言われて空海は「そうじゃな、すまんな」と言ってドッグ君を解放する。
ドッグ君はふんぞり返って「教えてあげないこともないけど、条件があるよ」と言ってきた。

「条件って?」

「今からボクがクイズを出すから、それに正解すればボクが知ってることを教えてやるよ」

「クイズ…」

空海とホツカが互いを見合ってしばし考えるが、二人ともドッグ君の出すクイズに答えることにした。このわけのわからん空間で、ドッグ子のピンチ、ドッグ君は貴重なヒントだ。

「じゃあいくぞ。この世で一番の美少女といえばだーれだ?」

「え? 美少女って…」

ドッグ君のクイズにホツカはぽかんとさせられる。

『この世とは、どの世のことを言うのやら』

師匠の指摘もそうなのだが…

「美少女、というのも。美的感覚は人によりますし…」

「お前らこんな問題もわかんないのか? なら話にならないよ」

考え込むホツカたちを馬鹿にするようにドッグ君が急かす。

「わかったぞ! ローカル番組で人気急上昇中の小学生女子の「空海さんちょっと待ってください!」

おそらく思いつきで答えようとした空海をホツカが遮る。空海が答えようとしたのが誰かはホツカにはわからないが、思いつきや自分の感覚で答えたら不正解になる気がする。

「落ち着いて考えましょう。ドッグ君のクイズ、おそらくドッグ君の思う美少女が答えなんだと思うんです。今までのやりとりから見て、ドッグ君はワガママな性格のようなので、基準がドッグ君自身なのだと思うんです」

「そうか、つまりドッグ君が思う美少女が正解というわけか。…もしや、ドッグ子か?」

「違います。落ち着いて、思い出してください。ドッグ君はすでに答えを言ってるんです」

考え込む空海だが、ドッグ君とのやりとりを思い出して「わかったぞ」と答えに気づいた。

「なんだよ、お前ら早くしろよ、タイムオーバーにするからな」

「答えはわかったよ。正解は」「パリミちゃん!じゃな」

ビシッと自信満々でホツカと空海が答えた。

「うえっっ、な、なんでわかったんだよ?!」

あわあわとうろたえるドッグ君。まさか正解するとは思ってなかったようだ。

「さっきドッグ君口走っていたよね。無意識に言ったのかもしれないけど、空海さんに言ったよね? ボクに触っていいのはパリミちゃんだけだって」

「あ…」

あんぐり、と口を開けたまま固まるドッグ君。

「僕はパリミちゃんのことはよく知らないけど、ドッグ君が好きな相手なのかなということはわかったから。きっとドッグ君にとってのこの世で一番の美少女がパリミちゃんなんだろうなと思ったんだ」

「うわわわわ、なんでボクがパリミちゃんが好きだって知ってるんだよ!? そんなこと一言も言ってないぞ」

ぬいぐるみのくせに顔面真っ赤でうろたえるドッグ君。

『なんてわかりやすい奴なんじゃ…』

ドッグ君の自己主張の強さのおかげで、クイズは実に簡単だった。

「ううー、仕方ない、約束だからな。教えてやろう。ボクはシラセナンキョクから案内役としてここに呼ばれたんだ。手伝えば、あとでパリミちゃんとデートさせてくれるって言ったしさ♪」

ドッグ君も他の者たちと同じように、願いを叶えてやるの誘惑で呼ばれてしまったのだろう。

『やれやれぬいぐるみのくせに欲望にまみれた奴じゃな』

「あのドッグ子っていう犬だけど、たぶんすでにぬいぐるみにされてしまってると思うよ」

「な、なんじゃとーー!? うちの犬になにしてくれとんじゃ」

掴みかかる空海からドッグ君はぽよんぽよん跳ねながらかわす。「空海さん落ち着いて。ドッグ君の話を聞きましょうよ」とホツカに言われて、焦る気持ちながらも「そうじゃな」とドッグ君の話を聞く態度に戻る。

「だからと言って手遅れってわけじゃないよ。シラセナンキョクが言ってたけど、ダンジョンを無事クリアできれば、元の姿に戻れるってさ。ただし、クリアできなかった場合はお前たち全員ぬいぐるみになって元の世界には戻せないってさ」

さらり、と恐ろしいことを言われたが。とにかくダンジョンを脱すればドッグ子も元の犬に戻れるということだ。悲観することはないだろう。

「そうそう」と言って、ドッグ君がどこに隠し持っていたかしれない怪しげな本をホツカへと寄こした。

「我ら熱血探検隊!…」

ホツカが本のタイトルを読み上げると、ドッグ君が「ボクはお前らと探検隊になった覚えなんてないぞ」とつっこみ、師匠が『たしかにな』と同意するように頷いた。

「(自分から渡しといて…)」納得いかないと、ドッグ君のツッコミに心の中でつっこみ返すホツカだった。


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