第八話 真夜中の逢引

ヤデト操る魔動ロボ、ホツカとシャニィがやっつけた!
シャニィの爆弾、シンクロさせろ爆発!大爆発!
ド派手に勝利を見せつけた、怖いものなしかかってこい?
だけども派手にあばれりゃいいってもんでもないぜ
うじゃうじゃ援軍現れる、どうするホツカ?ピンチかい?
しかしここで現れた!お色気お姉さん現れた
うなる機械のブーツで蹴り技、兵士たちをぶっ飛ばす!
ホツカたちの前に現れたるは、訳あり風味の中年男その名はヤード
ついに出会った二人が出会った!
見よ!キチガイどもの夢の跡!八番はホツカの気持ちに要注目〜♪







ガツガツガツ
ホツカの横ですさまじく下品な音がしているが、それは目の前の食べ物にがっつくシャニィが立てている食いっぷりの音だ。
ヤードと名乗る男のもてなしをホツカとシャニィは受けている。テンション高く目の前の食べ物に食いつきながら、ヤードたちの話を聞いているシャニィに反して、ホツカの表情はどこか浮かない。
ホツカの様子を気にかけて、ヤードが問いかけてくる。

「ホツカ君と言ったね? もしかして苦手なものがあったのかな? 取り替えてあげるから遠慮なく言ってくれてかまわないよ」

手を差し出しながらヤードは優しい表情でホツカを気遣う。慌ててホツカは首を振る。

「いいえ、そういうわけではないです。すみません、少し考えごとをしていただけで」

なにも手をつけないのは返って失礼だと思い、慌ててホツカはスプーンを手に器の中のスープから口に運ぶ。ミルクがしっかりきいててこってりとした甘いスープでおいしかった。横のシャニィは遠慮皆無で何度もおかわりをしている。これだけもてなしてくれているということは、ヤードはそれなりの身分の人物なのだろう。彼が何者かは、魔法使いの知識があるホツカにはわかっていた。が、ホツカが知ることはそれだけではなかった。ホツカだけが知るそのそれだけではないことが、ホツカが顔を曇らせる原因なのだ。

「ホツカ君にシャニィ君、町の人から大方聞かせてもらったが、君たちが住民を協会から守ってくれたそうだね。住民の代表として、私から礼を言わせて欲しい。本当にありがとう。君たちの勇気ある行動のおかげで命を救われた人がいる。心から感謝するよ」

ずいぶんと年下の子供相手にも礼儀を欠かず、ヤードは二人に深く感謝するように頭を垂れた。「いえそんな…」と謙遜するホツカに反して、シャニィは「ははは、まあ当然だ。正義は勝つ!シャニィ様は正しいってことよ」となんだか調子をこいてしまっている。「少しは遠慮しなよ」と横目でぼやくホツカだが、シャニィの俺様な態度にもヤードは不快感など微塵も見せず、にこにこと優しい笑顔を二人に向けている。

「もしかしておっさんここの権力者とか?」

初対面のヤードに対しておっさん呼ばわりするシャニィに、ホツカは「ちょっと」とテーブルの下で肘で小突くが、シャニィには悪びれた様子はない。おっさん呼びにもヤードは表情を崩すことなくシャニィの質問に答える。

「私はヤード。残念ながらこの町の権力者ではないよ。まあこの町を拠点にしている一組織の代表をしているだけでね」

「一組織?」

もぐもぐと食べ物を噛みながら、シャニィが部屋の中を見渡す。部屋の中にはヤードと、それからもう一人いたはずだが…。

「うふふ、正義の味方団ってやつよー。ワタシたちはー協会から人々を解放するために活動をしているのよ」

答えたのは女性の声。ホツカのすぐ後ろで、ホツカに後ろから抱きつくようにぎゅっと体を押し付けてきた。

「あ、あのぉ…」

ばつが悪そうにホツカが声を漏らすが、女性は気にするでもなく、うふふと笑いながらますます体を密着させてくる。

「おい、ホツカ、お前セクハラされてるぞ」

横目でシャニィが伝えてくるが、たまたまなのかわざとなのか女性は胸をホツカの後頭部あたりに押し付けている。軽く左右に揺らしながら、明らかにホツカの頭を豊かな胸で挟み込んでいる。

「すみません、スープをこぼしてしまうので、離れてくれませんか?」

恥ずかしがるというよりも、迷惑そうな声色と顔色でホツカは女性に訴えた。それに「あらー、ごめんねー」と言って女性はホツカから離れた。

「ふふふ残念だったねフィア。君の色仕掛けもホツカ君には効かないようだ」

「あらー、このくらいの年頃の男の子なら真っ赤になってかわいい反応してくれるんだけどなー。ホツカ君って見た目よりずっと大人っぽい子なのねー。逆にワタシが教えてもらったほうがいいのかしらー?」

残念ーと言いながらホツカに向かってウインクをしている女性フィア。先ほどは鋼鉄の兵士たちを蹴り倒し、鬼のごとく強さを見せ付けられたが。ホツカとシャニィ二人を抱きかかえて運んだし、パワフルなようだが、こうしてみるとどこにそんな力があるのか不思議なくらい、色っぽい女性的な曲線美の女性だった。どんと突き飛ばせば「ああーん」と言ってしりもちをついてしまいそうなほど華奢にも見える。が、人は見かけによらないものだ。彼女は只者ではなかった。

楽しそうに談笑するヤードとフィアをそれぞれ見ながら、シャニィがホツカに耳打ちする。

「なあなああの二人ってアレだよな。愛人…」

眉間にしわ寄せながらシャニィは勝手に二人の関係を愛人関係だと判断した。がそれがフィアの耳に届いていたのか、「あら、残念ながら違うわよー」とフィア本人が否定した。

「ワタシは組長の護衛をやっているのよ。それから愛人なんて誤解されると困っちゃうわ。ワタシにはちゃーんと恋しい相手がいるんですからー。ねっ、組長」

くねんと腰をくねらせながら、艶かしい口調で横にいるヤードにそう言うフィア。しかしそういう彼女のしぐさがいちいちややこしい。シャニィでなくてもフィアを見れば誤解をしてしまいそうだ。先ほどのようにホツカに抱きつくような行為だって、他の男性相手なら相手の男性が勘違いをしても仕方ないくらいだろう。無意識でやっているのならたちが悪い。フィア自身女の色気を具現化したような女性だからだ。付き合いが長いのか、フィアの独特の態度にもヤードは変わらぬにこにこマイペースな態度を崩さない。

「私は組織の代表ゆえ協会から命を狙われることがあってね。彼女には護衛をしてもらっているんだ。それからもう一人いるんだが、今は席を外していてね。戻ってくれば紹介をしたいところなんだが。
ところで君たちはこれからどうするんだい? 急ぎでないのならここで一泊していくといいよ」

「アタシたちはカツミを探して旅をしているんだ!」

えっへんとばかりにシャニィが答える。たちとホツカも一緒くただ。ホツカにとってはカツミ探しはメインの目的ではないのだが。「カツミだって?」とカツミの名前を聞いてヤードとフィアが反応する。

きょとんと見返すシャニィに、ヤードは「ああそれならちょうどいいよ」と言って頷く。

「君が言うカツミが私の護衛をやっているあのカツミなら、私の元にいれば出会えるさ」

「ええっ、マジでかー?! ラッキー、てかこれってマジで運命じゃん」

まさかの偶然にシャニィの目は輝き、嬉しさで飛び跳ねる。

「あら、カツミを探しているなんて、どんな用なのかしら? 迷惑に巻き込まれたとか?」

「いえその逆です。カツミさんには協会から助けてもらったことがあって」

ホツカの返事を聞いて、フィアは一拍考え込むしぐさをした後、口元に指先を寄せて「ふふ、そうなんだー」と艶っぽく笑う。

「カツミも人知れず人助けをしていたのねー」

「当たり前だろ! カツミはヒーローだぞ!」

噛み付きそうな勢いでシャニィが反応する。やれやれとホツカは女二人のやり取りを他人事のように見て息を吐く。ともかくシャニィはヤードの元にいれば彼女の目的は達成されるのだろう。


「よし決めたぞ! ホツカ、アタシたちもこのおっさんの仲間になるぞ!」

意気揚々とシャニィが宣言する。

「おっさんのところにはカツミもいるし、協会と戦っているなら目的は同じだろ?」

間違いなく同意するとシャニィは信じ込んでいるようだが、ホツカは違う。協会と戦うことがホツカの目的ではない。本来の目的を果たすため、そこに立ちはだかるのが協会だから戦わざるを得ないだけで。できることなら関わりあいたくないのに、予知能力が嫌でもホツカを動かすからで。正義のヒーローのように、悪は許さん!人々の幸せと自由は守ってみせる!などという気概があるわけではない。

一人熱く猛るシャニィに反して、ホツカはどこまでもクールだ。でこぼこな二人を交互に見て、ふー、とフィアはため息をつく。

「君がそうしたいならそうすればいいよ。でも僕は協会と戦う正義の味方団の一員にはなれない」

ホツカの返答にシャニィは予想外とばかりに目を丸くして、一変目尻を吊り上げ「ハァ? お前ナニ言ってんだよ?」と憤る。

「協会と戦うんじゃなかったのかよ? お前魔法使いなんだろ? 戦う力がある奴がなんで戦おうとしないんだよ!?」

一人怒り叫ぶシャニィ。彼女が発した言葉に、フィアとヤードが声をそろえて反応する。「魔法使い?」と二人してシャニィの怒りの矛先のホツカを見やる。やれやれ余計なこと言うんだから、とホツカは頭をかいた。

「魔法使いって、ドーリアがそうだとは有名だけど…。ホツカ君は奇術が得意なのかしら?」

シャニィの言葉にフィアはすぐにドーリアと同じ意でのものとは思わなかったようだが、疑問符を浮かべながら確認するよう問いかける。それをシャニィが「違うっての。コイツは正真正銘の魔法使いなんだって。アタシの爆弾パワーアップしてあのロボ爆発させたんだ」と反論する。

「たしかに僕は魔法使いだけど、だからといって君みたいに協会と戦うために力を振るいたいなんて思っていないよ」

「なんだとーー!? お前はアレか腰抜け野郎か? アタシの爆弾で頭冷やしてみるか?」

血気盛んなシャニィが一人赤い顔して憤怒する。ホツカに飛び掛りそうな彼女を後ろから「だめよー、おいたは」と艶かしい声色でフィアが抱きとめる。

「まあまあ二人とも落ち着いて。ホツカ君が魔法使いならぜひとも力を借りたい、ところだが、なにしろ私はフィアやカツミに守ってもらっている立場だし、君たちを必ず守るなんて約束はできない。
シャニィ君の申し出はありがたいけど、私と一緒に協会に立ち向かうということは大きな危険が付きまとうということなんだ。今夜中にはカツミも戻ってくるはずだから、夜が明ければカツミに君たちを送らせるようにしよう。
来客用の寝室があるから、今夜はそこで休んでいくといい」

ヤードがシャニィたちをなだめる様にそう言って、二人の顔を交互に見て優しく微笑む。穏やかなヤードの表情と声色にシャニィの怒りは和らぎ、ホツカはなぜか居たたまれない顔でヤードから目をそらす。



時は深夜をまわり、カツミを待っていたシャニィも眠気に根負けしベッドの上でいびきをかいていた。
ホツカは一人屋外へと移動する。闇夜の中、白い羽ばたきがこちらへと向かってくる。

「師匠!」

ホツカの肩に白カラスの師匠が止まる。

『今夜も現れたようじゃな…』

師匠とホツカ、ヤードの館の裏庭の大きな木の下のほうに視線を向ける。そこにほんのりとゆらめく白い人型のもの。その体は透け、不安定にかすかに揺れている。
ホツカたちのほうを見つめ、悲しげに顔をゆがめる。それは若い女性で、長い髪を三つ編みで一くくりに束ねている。髪型と衣装が異なるがその姿はあのドーリアに瓜二つだった。
何かを訴えるように、口を動かしているが、その声はホツカにも師匠にも聞こえない。

『相変わらず、なにを言っておるのかは聞き取れないが…』

「ええ、ですが彼女の伝えたいことはわかります。彼女の想いは痛いほど感じ取れるから…」

彼女に会うたびにホツカの胸は締め付けられるように苦しくなる。相対するのが、本当は怖いのかもしれない。だけど、彼女が現れる夜だけは、絶対に会いたいと願ってしまう。
今にも消え入りそうな、もう一人のドーリアに……。









ついに出会ったホツカとヤード
さらにカツミとの縁もこんなところで
なんだか運命を感じちゃうぜ?
ヤード率いる正義の味方団!
実は正式名称はまだ決まってないみたいだよ?
ヤードととっても強いむちむちセクシーなお姉さんフィア
戦鬼カツミに、まだまだ仲間はいる…のかもしれないねー?
仲間が増えればホツカもパワーアップ、いいこと尽くめだ
しかしホツカ、なにを思うか浮かない顔だぜ?
さらに夜中の逢引だって?ドーリアに瓜二つの幽霊女性は何者さ?
ホツカの秘密はいつ語られる?
続きもぜひとも聴きにきてくれよ?シーユーバイチャッ!



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