第三話 その男戦闘狂い

予知夢に導かれ旅するホツカ
やってきたのは廃れし町アシャヒカ
荒野の寂しさ反して、響き渡るは爆発音
ああ大変だ、とんでもないテロリストガールが現れた!
協会相手にケンカ売る命知らずなガールはシャニィ
彼女が召喚するは、最強の人類カツミだー!
見よ!キチガイどもの夢の跡!三番も熱い展開、さあ聴いてくれよ〜♪





「!カツミ」

シャニィが歓喜の感情で目の前の相手の名を呼ぶ。
だが、呼ばれた相手【カツミ】は、シャニィには目もくれず、ズラリと並ぶ魔動兵士の軍勢を見やる。
なにも言葉を発することなく、ズンという効果音が似合いそうな立ちっぷりだ。がっしりとした筋肉の武闘派といったいでたちだが、特別大男というわけでもないのに、その存在感は圧倒的だ。見た目どうこうじゃない。その者が放つ気のためだろうか?
気は目に見えるものではないが、生物なら感じる。強者への畏怖。
ホツカも、魔法使いでなくても、カツミが特別な強さを持つ人類であると本能的に感じていただろうと思う。

この人は戦わずして勝てる人だ。
生物なら、危険察知してカツミには近寄らないだろう。
しかし、今目の前にいる敵は機械だ。Mストーンと魔高炉によって動いている鋼鉄の人形だ。カツミに恐怖することも怖気づくこともしない。
そしてカツミも、ひるむ気などなく、まっすぐに連中に向かい、拳を振り上げ打ち付ける。


「ゴッ」「グボッ」
破壊で砕ける音が、まるで人形の断末魔のように聞こえる。
兵士たちも反撃を始める。ホツカもカツミの援護をしようと杖を構えたが、すぐにその必要はないと判断を改める。

兵士が放った鉄の矢をむき出しの拳ではじき、受け止め、たたき折る。

走り出しその勢いのまま、兵士を殴り破壊する。

「ゴキャッ」

「ふん、あっけない連中だ。もっと仲間を呼んで来い」

初めてカツミがしゃべったが、それは挑発の言葉だった。カツミを呼んだシャニィには存在すら気づいていないのか、最初から興味がないのか、一度も見てはいない。カツミの目には敵である兵士たちしか見えていないようだ。
噂どおりの戦闘狂のようだ、この男。


「カツミ、やっぱりアタシのこと、守りに来てくれたんだ」

先ほどまで爆弾投げてたバイオレンスガールは、感極まってうるうる瞳でカツミを見つめながらそうほざいている。恋は盲目というあれだろうか。
そんなシャニィとは反して、ホツカと師匠は冷静にカツミを分析していた。

『あの娘はああいっとるが。あの男、助けに来たわけではあるまい』

カツミが現れたのは、シャニィのピンチのせいじゃない。シャニィが敵を集めたからだ。カツミは戦いの気を求めて現れたのだろう。たまたま近くにいたのかはしらないが。


「カツミ、がんばれー! そんな奴ら全部ぶっ飛ばしてやれ!」

やんややんやシャニィが声援を送る。しかしそんな声援なくてもかまわないだろう。負ける気がしない、カツミの圧倒的強さ。
生身の肉体で、しかもこの男防具もろくに身に着けておらず、ほとんど裸みたいな格好だ。それでも傷ひとつ負うことなく、戦いで熱を帯び、汗も蒸発し、湯気が立つ。


ドッカーン
何体かは派手に爆発して破壊されてしまった。内部の魔高炉にまで大ダメージを与えてしまったんだろう。カツミの拳撃によって、50体はいた魔動兵士たちはあっという間にスクラップにされてしまった。わずかに故障を逃れた個体もいたが、まともに動けるほど機能していなかった。動いているものでも技師による修理が必要な状態だ。


「僕の出番は必要なしか」

ホツカが援護するまでもなく、苦もなくカツミはたった一人で兵士の軍勢を倒してしまった。あっという間瞬く間、魔法ではなく己の肉体一つで。息すら乱れておらず、ウォーミングアップが終わったといった程度の疲労だ。物足りなさを語るように、カツミの表情には満足はかけらもなし。


故障した兵士たちは信号を発信し、しばらくすると兵士たちを回収する戦車が現れる。戦車には戦意がないことを示す旗が掲げられている。戦車が現れた時点で、兵士サイドは撤退の意思表示になる。これ以上の追撃はしてはならないというのが暗黙のルールだ。
戦車が現れた時点で、カツミサイドが勝利したということだ。
だがしかし。


「フン」

鼻息吐いてカツミは駆け出す、撤収を始める戦車に向かって。


『な、なにを考えとるんじゃ? あの男』

傍観していた師匠も思わず驚いて羽ばたく。ホツカも「ちょっちょっと」とツッコミを入れる。「カツミさいこー」とシャニィだけは歓喜だ。

カツミは戦車の機体にも、兵士たちと同じように拳で打ちつける。

「ラァッ」

掛け声とともに、ドガァッと鋼鉄の戦車を破壊させて停止させてしまった。

『あの男、非常識にもほどがあるぞ』

やれやれと後ろにいる白カラスのあきれた声がホツカの耳に届く。それにはホツカも激しく同意するが。

「でも、シャニィの望みは叶ったわけですし。これで、彼女が協会に囚われる心配も…」

ホツカがシャニィのほうを見やる。シャニィはうれしそうにジャンプしながら「カツミー」と当人のほうに駆け寄っていた。

「カツミ、ありがとう。またアタシのこと助けに来てくれて」

ランランした目で感極まった表情でシャニィはカツミに初めて近寄り、言葉を伝える。シャニィのテンションに反してカツミは無表情で彼女を見る。

「誰だ? お前は」

「え、アタシのこと覚えてないの? 二年前だよ? そりゃあのころより成長しているけど。あの時もカツミアタシの前に現れて、兵士たち倒したじゃん」

カツミはすっとぼけるでもなく、本気でシャニィのことなど知らない態度だ。これではシャニィが一方的に知り合いといってるようなもの。だが狂言ではなく、シャニィは確かにカツミと以前会っていたのだ。感動の再会にはならない。カツミの興味の対象に彼女はなりえないのだから。
ねぇねぇ?となおもしつこくまとわりつくシャニィを迷惑そうにはねのける。

「邪魔だ。お前のようなガキに用はない」

冷たいまなざしで、カツミは言い放つ。心のそこから「お前などどうでもいい」と言っているように。用は済んだとばかりにカツミは立ち去ろうとシャニィに背を向ける。ピタリと歩を止めたのは、カツミが気にしたのは背景のように溶け込んでいた少年ホツカだった。おもちゃのような杖を持っている以外は普通の少年にしか見えない。常人ならそうだろう。シャニィやシャニィの父がホツカをただの小僧と思ったように。だがカツミは感じ取った、ホツカの普通ではないなにかを。

「何者だ? お前…」

が次の瞬間、カツミの意識は別の方向に向くことになる。ホツカとは別の異質の異常な不気味な存在が現れる。その異様な気を師匠とホツカも感じ取る。ぶわりと嫌な汗が浮き上がる。肌が波打ちより警戒を濃くしろと警告を発する。


『いかん、とてつもない魔力がきておる。この気は』

危険すぎる!と師匠がホツカに伝える。ホツカもそれは体がビシビシと感じ取っている。早急に逃げなければ、せめてシャニィだけでも。まさか最悪の形でピンチを迎える羽目になるなんて。わかっているのに、体が機敏に動けなくなっている。
超魔力を持つホツカが気圧される。とんでもない敵が姿を見せる。岩山の上のほう、それはしなやかな女性の姿。しゃらりと肩より流れる銀色の美しいストレートヘア。白い肌に浮かぶ薄紅色のさした唇がゆるりと笑む。漆黒の瞳がホツカたちを不気味に捕らえる。


「なに? あの女、なんか体透けてない?」

常人のシャニィがもしかしたら一番冷静でいられるのかもしれない。シャニィの感想どおり、遠目からでも彼女の体が生霊のように透けているのがわかる。

帰ろうとしていたカツミも気が変わったように足を止め振り返り、謎の生霊女を見やる。
彼女が何者か、ホツカもそして師匠もよく知っている、彼女は……

「救世士ドーリア」





戦鬼カツミの圧倒的強さ!魔動兵士も戦車までも破壊!破壊!破壊!
気持ちいいまでにこっぱ微塵。この強さ、シャニィじゃなくても惚れ惚れしちゃうぜぃ〜
ホツカは出番なしいいとこなし、だけど終わりよければすべてよし
予知夢も回避とうまいこと事が運び、また人助け無事完了〜…とはいかないのが世の常かい?
こんな序盤で最強最悪の難敵…協会のトップ【救世士ドーリア】が現れたよさあ大変!
どうするホツカ?どうなるシャニィ?そしてカツミはなにを考えているのか?
ドキドキハラハラの四番も聴きにおいで、ドーリアに見つからないようにこそっとね。シーユー…バイチャッ!


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