第十一話 濡らすお姉さん

なんとヤードは闇耐性の特異体質だった!?
もしやヤードは切り札となる仲間かい?
だけどもホツカ別れちゃった
ヤードを死なせたくない、そのために
ホツカは再び師匠と二人旅に戻ったよ
だけどものんびりしてられないぜ
予知夢は次々ホツカに人々の救済を強制しちゃうよ
急げホツカ、協会から罪なき人たち救ってくれよ!
ホツカはわざと囚われたが、なんとそこに救い主参上とな?
シャニィが現れホツカを助ける…なんてことはなかったよ
ヤデトがシャニィを捕え、処刑する気満々だ!
ホツカよシャニィも助けてくれよ?
見よ!キチガイどもの夢の跡!十一番はあの人の活躍だよん♪











「はーー、ったく、なんでここまでついてくるのさ」

ホツカの言葉はそこにはいない誰かさんに向けての、独り言だ。
その相手は先ほどホツカを助けに来たといって、まんまとヤデトに囚われてしまったシャニィ。
ホツカとしては別れた、つもりだったのに…。
ヤードたちが上手く説得してくれなかったのだろうか? あのシャニィのことだ、まともに聞かず勝手な思い込みで突っ走ってきたに違いない。きっとそうだ。

一度結ばれた縁は簡単に絶てないものなのだろうか?

ふとそう感じて、因縁めいたようにドーリアやヤードたちの顔が浮かぶ。

自分と関わったばかりに、シャニィまでもが処刑されることになってしまう。そんなことになるのはごめんだ。処刑される人たち、そしてシャニィも助け出さなければ。

「余計なことしなけりゃいいけど、それにここは火の精霊の加護が弱い。シャニィのほうも、バクダンが湿気て使えないみたいだし…」

ぴちゃぴちゃと水滴の音がいたるところでしている。ここは水気が強く火の精霊は多く集まることができそうにない。ここでやりあうのは適切ではない。移動先で手を打つしかないだろう。

「ドーリア…」

今はそこにいないドーリアの名をホツカがつぶやく。処刑の場で、予知夢どおりになればドーリアと対面することになる。正直、今のホツカの力ではドーリアに敵うはずがない。だがホツカも無謀な突撃を考えてはいない。気になるのは処刑装置、それに連動する【天候制御装置】だ。

【天候制御装置】
魔法科学によって生み出された天候を操る装置。現時点でこの装置に勝る発明はない。天候を操ると言えば大げさだが、効力を発する範囲は限られ、またありとあらゆる天候を防いだり、発生させたりできるわけではない。が、この装置によって以前より自然災害による被害は極端に減った。それだけでも歴史に名を残す大きな発明だろう。装置は効果を発揮しやすいように屋外に設置されている。鋼鉄の円柱型で直径は二メートルほど、高さは十メートルほどになる。内部には巨大な魔高炉があり、内蔵のMストーンは特に純度が高いものを使っている。貴重な装置のため、設置されているのは主要都市の一部や主要施設のある一部に限られている。装置の作動権限は中央政府にあるが、政府が実質協会にのっとられているため、協会に作動の権限があるといっていい。

魔高炉はもちろん、外装の強度もかなり高い。ホツカの魔法でも簡単に破壊できる代物ではない。がしくみは魔動ロボやら魔動兵士といった魔動器と同じだ。Mストーンも魔力を得てエネルギーになった鉱石だ。影響を与えることは不可能ではないはず。

天候制御装置はそれだけ強力な力を持つが、危険もはらむ地雷にもなりかねない。中央政府も管理のほうは徹底しているだろう。じかに天候制御装置にしかけることは難しい、が連動している処刑装置であればホツカの魔法をしかけることも難しくないだろう。



ホツカのいる独房のほうへと物々しい足音が複数やってくる。処刑の場へと移動させるため、魔動兵士たちがきたのだろう。
顔を上げるホツカを見下ろすのは、兵士たちを引き連れて現れたヤデトだ。ギリギリと釣り目がちな目をさらに吊り上げながら、ヤデトは

「協会にあだなす姉上の敵、お前がホツカか。貴様いったい姉上とどういう関係だ!?」

扉越しだが、胸元を掴まれて揺さぶられているような迫力で、ヤデトがホツカに問い詰める。ドーリアの敵は自分の敵だ。目からして激しくそう主張している。

どういう関係、一言では言い表せないような、それに、ヤデトであれ話すつもりはない。だからホツカは不敵に返す。

「僕に聞くよりドーリア本人に聞けば?」

「ぐっ、貴様っっ」

ガシャン!と鉄製の扉が揺れる。ヤデトが拳で叩きつけたためだろう。ホツカのほうからは見えないが、その手は赤くなってそうだ。実際ヤデトはうっすらと涙目だ。怒りと屈辱でヤデトの顔は赤く染まっている。

「そのクソ生意気な態度で万死に値する! 今日こそ貴様を処刑してやる。いくら魔法使いでも首をはねられれば死ぬだろうからな!」

「どうせ処刑されるのなら、ドーリアの手で処刑を望むよ」

ホツカの言葉にさらにヤデトの怒りの炎は強まり、くわっと口を広げる。

「姉上のお手は煩わせん! 貴様はボクが処刑してやる。じわじわと苦しみうめいて苦しんで苦しんで大いに後悔して死ぬがいい! あの世で姉上にボクにわび続けろ!」

連れて行け!と後ろにいるはずの兵士たちに命じるヤデトだが、兵士たちはヤデトの命令どおりに動かない。どころか、空を飛びながら脇の水路へと飛び込んでいくではないか。

「なっ」「えっ」

ヤデトとホツカの驚きの声が重なった。兵士たちは狂ったように水路に飛び込んでいく…、のではなかった。次々となにかによって弾き飛ばされて、水路に落ちていくのだ。
ガシャン!兵士たちの足音とは別の鉄製の足音。ホツカはその音に聞き覚えがあった。それは直後確信に変わる。「はぁ〜い」と高音の艶かしい独特の女性の声。

「フィアさん…」

どうしてここにパート2だ。兵士たちをみんな蹴り飛ばして、爽やかな笑顔で通路に立っているのはフィアだ。わなわなとヤデトが振るえ、怒りのあまりフィアに向かって

「この化け物女め!」

と罵り叫んだ。ぴくり。フィアのこめかみが微妙に振るえ、ヅカヅカとヤデトのほうへと前進しながら、白く長い足を振り上げた。ヤデトは完全に固まり、動くことができなかった。一瞬の出来事で、予想外で、足を振り上げたフィアの顔が、それほど長身でもないのに関わらずとても高いところに見えて、その顔が笑顔なのに、言いようもないほど恐ろしくて……。

「ひっっ」

息を飲み込むような情けない悲鳴がヤデトの口から漏れた。振り上げたフィアの鋼鉄ブーツは、ヤデトの頬すれすれを通過して床を凹ましながら振り落とされた。じょろろ…。水路の水の音とは別の液体が流れる音。生暖かいそれはヤデトの半ズボンを濡らしながら水濡れた通路へと伝い落ちた。目からも涙がこぼれそうになっている。ガクガクと恐怖に震えるヤデトを見下ろしながら、フィアは彼に言う。

「ボクー、女性にそういうこと言っちゃーだめよー」

ウインクでうふっと微笑むフィアだが、その目は笑っていなかった。ヤデトは地雷を踏んでしまったらしい。ヤデトの目にはフィアの笑顔は悪魔の笑いにしか映らない。やっぱり化け物女だ!と心の中で叫んだ。

「く、くそっ。お、覚えていろよ」

涙目でがに股歩きでヤデトはホツカたちの前から去った。敵ながらヤデトの哀れな姿に、ホツカも同情した。フィアさんは怒らせてはいけない。それを知ることができたヤデトに感謝だ。

「うふふ、おもらししちゃってー、かーわいいー。ボクー、おいたはダメよー」

もう聞こえていないであろうヤデトに向かってそういうフィア。くるりとホツカのほうへ振り返り、どこで入手したのか独房の鍵を取り出し、鍵を開ける。

「さ、ホツカ君。助けにきたわよ。ここから逃げ出しましょう」

「あの、どうしてあなたがここに? それより、シャニィが捕まってるんです。僕より彼女を助けにいって」「あのこなら心配ないわ、カツミが助けに向かったもの」
シャニィのことも知ってるふうのフィアは、即答で答えた「心配ない」と。

「カツミさんも来ている? ってことは」
「ふふっもちろん組長もいるわよ。やっぱり気になってた?」

通路を抜けながら、フィアはホツカのもう一つの質問には「あとで話すわ」と伝えた。
フィアは話してくれなかったが、検討はついた。フィアたちがここにきた理由は、ホツカを助けることが目的ではなかったのだと。目的の場所にたまたまホツカが囚われていた、ということだろう。

「ここに囚われている人たちは」
「安心して、みんな無事に助け出したわ。もしかして、君は彼らを助けに来たの? もうホツカ君が頼れる男の子だってわかるけど、無茶はよくないわよ。ここに囚われた人たちがどうなるか、わかるでしょう?」

ドジ踏んで捕まっていたのだと思われている。シャニィにもそう思われていたし、そう思われても仕方ない状況なのだが…。
上の階へと向かう階段の手前で「あらー、お出迎えきちゃったわー」と言いながらホツカに止まるように手で合図するフィア。無数の金属の足音。兵士たちがいっせいに降りてきた。これでもかとぎっしりと列になって。

「ホツカ君下がってて」「でも、いくらフィアさんでも楽に切り抜けられる数では…」

前衛の兵士は分厚い盾でガードしながら前進してくる。後方の兵士がその上から狙いを定めるように投槍を構えている。防御に特化した個体が横一列に並び、さすがに敵もバカではない。フィアへの対策をしてきたということだろう。通路も狭く濡れている床は滑りやすく、戦いにくい場所だ。

「あら、心配してくれるの? ふふ、でもお姉さん守られるようなかよわいお姉さんじゃないのよ」

前方の敵を注視しながらも、フィアの口調は明るく軽い。きっとホツカに心配かけまいとしてのことだろう。フィアがかよわい女性ではないことはよくわかっている。とはいえ、たった一人でこの軍勢はやはりキツイだろう。

「そういえば、フィアさんは水の属性…」

目の前のフィアを見ながら、ホツカがそうつぶやく。ちらりと横目に捉えるは、子供一人溺れるに充分な深さのある水路が流れる。ここの環境は水の精霊の加護を得やすい。水属性のフィアがともにいるなら、なおさらだ。

「(これは偶然なのだろうか?それともまさか、師匠が言ってたように…、僕が引き寄せた?)」

「あら、どういうこと? ホツカ君、ワタシが水の属性って、つまり…濡れてるってこと? イヤーン、ホツカ君ってばえっちなのねv」

思わずズルっと滑りこけそうにになる、フィアのノー天気な返答に力を抜かれたが。

「フィアさん、僕と一緒に戦ってください。僕も守られるほどかよわい少年じゃありませんから」

フィアよりもずっと背丈の低い少年の、だけどもその目は恐れるものなく強く光っていた。それを確認したフィアは「うふふ、そうよね。ホツカ君は、魔法使いなのよね。一緒に突破して組長に会いに行きましょう」特に説明は要らない。戦いの中生きてきた彼女には、言葉よりもわかりあえる方法がある。

「水の精よ、僕とフィアさんに力を」

ぴちょんぴちょん、水滴の音が返答するみたいに連続で鳴ったと思えば、巨大な生き物のように水路の水が鎌首をもたげる。危機を感じた兵士たちがいっせいにフィアたちに向かって攻撃を開始する。無数の矢のように飛んでくる投槍を、はじき返すのは水路より飛び出したうねる巨大な水の固まり。

「わお! ホツカ君の魔法の力すごいのね。ああん、ワタシ外までこんなに濡れちゃったわー」

「もうちょっと濡れるかもしれませんけど、我慢してください。水魔法の力見せつけてやります」











ホツカ囚われ処刑を待つ身
だけどもまたまた助っ人来たよ、今度はまさかのフィアだって?
まさかホツカを探してた?いやいやどうも別の目的みたいだね
だからたまたま?たまたまホツカを助けに来たの?
フィアとホツカ、二人も不思議な縁があるみたいよ?
頼れるセクシーお姉さん、だけど怒らせると恐ろしいよ〜
ヤデト悪い奴だけど、ちょっと、かわいそう…だよね?
なんだかあとが怖い気するが、ホツカとフィア二人が組めば大丈夫
水がいっぱい、水属性、ただの偶然とは思えない〜?
退路兵士に塞がれてるけど、きっと突破できるよね!
続きもぜひとも聴きにきてくれよ?シーユーバイチャッ!


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