第十話 ホツカ投獄される

もう一人のドーリアは、ホツカと師匠のみぞ知る
幽霊ドーリア彼女の伝えたいことはなに?
幽霊と会話はできぬが、ホツカは知ってるらしいとな?
ホツカとドーリア、二人の間になにあった?
いつか話してくれるよねぃ?
そしてホツカがヤードに気まずい理由明かされた!
ホツカと出会い、それでヤードが死んじゃうって?
そんな未来は嫌すぎる、なんとかなるかい?してみせて〜
カツミと再会、シンクロ魔法使ってみたよ
効果はバツグン! あれれ、ヤードは効いてない?
ヤードよいったい何者よ?
見よ!キチガイどもの夢の跡!おっともう十番なのかい?これから本腰よん♪









結局、ヤードの館で一夜を明かしたホツカは、早朝目覚めリビングへと入る。

「やあホツカ君おはよう、よく眠れたかい?」

コーヒーをすすりながら朝刊に目を通していたヤードがホツカに微笑みかける。早すぎるともいえる時間帯ながら、すでにしっかりと覚醒しているヤードのほうこそちゃんと寝たのだろうかと心配に思うホツカだが。太陽が昇り、日の光が届くころ、ホツカがかけた闇魔法の効果が解けて、フィアたちも目覚めるだろう。その間、ここではホツカとヤード二人だけになる。

「おはようございます。ええ、おかげさまで」

とホツカは答えたが、隣のベッドのシャニィのいびきが結構うるさかったが、ホツカの睡眠の妨げにはならなかった。ぐっすり眠れたかといえばそうでもないが。気になることがあって、考え事をしていたからだ。その考え事というのが目の前のヤードのことで。ホツカの視線を察してなのか、ヤードのほうから話しかける。

「あれからフィアもぐっすりと眠っていたよ。彼女は普段から眠りが浅いほうでね。少し心配していたんだが、ホツカ君の魔法がよく効いていたみたいだね。きっと疲れもとれているに違いないよ。ああ、カツミなら少し前に目覚めて外に出かけたよ。パトロールもかねた走り込みとトレーニングだね。彼は体を動かしていないと落ち着かない性分でね」

ホツカが気になっているのは、カツミのことでもフィアのことでもなくヤードのことなのだが。ヤードはそれに気づいてわざとそらしているのか、それとも本当に気づいていないだけなのか。

「あの、ヤードさん。あの時、なにかしましたか?」

「ん? あの時って?」

ホツカの問いかけに、なんのことかとヤードが訊ね返す。自分で聞きながらもホツカもわかっていた。ヤードはなにかをしたわけではないのにと。

「僕が魔法を使ったとき、です。効果の対象にヤードさんも入っていたはずなのに、ヤードさんはかからなかった。しっかりとヤードさんにも魔法がかかっていたのはたしかなんですが」

魔法使いであるホツカには精霊たちの働きはすべて感知できる。そこからは目視できない場所にいる相手にも、魔法がかかったことはホツカなら知ることができる。ホツカの感じた限り、ヤードにも魔法はかかっていたのだ。

「ふーむ、たしかに私だけなにも起こらなかったようだが、特別何かをしたわけでもなし。魔法を使ったホツカ君にわからぬのなら、私にもわからないね。おかしいことなのかい?」

「いえ、おかしいというわけでは…」

ありえないことではないが、かなり特殊なことだ。がそれをはっきりとヤードには伝えないホツカ。

「ん? どうかしたのかな?」

ヤードから視線を外し、口ごもるホツカを気にするようにヤードが視線を向ける。


「今日はお肌の調子がすごくいいわー。組長おはようって、あらん。なんだか意味深な空気ね。うふふ、ホツカ君となにかあったのかしら?」

明るく艶っぽい女性の声がリビングに入ってきた。フィアだ。くねんくねんと腰を揺らしながらヤードたちのほうへ歩いてくる。

「やあフィアよく眠れたみたいだね。残念ながら、ホツカ君とは君が想像しているようなことはなかったよ」

「あら、そうなの? ふふはたから見たらすごくいい雰囲気よ。それに組長、ホツカ君みたいな子理想じゃない?」

「はははそうかい? ホツカ君はイイ少年だね」

にこやかに談笑するヤードとフィア。ヤードにイイ少年と評価されても、ホツカは照れるわけでも素直に評価を受け取るでもなく、複雑な気持ちで視線をそらす。
ヤードたちからすれば、ホツカは住民を守った勇気ある少年にうつっているのだろう。そう評価されることはホツカの真意ではない。
人々を救うことは後ろめたい思いから、どうにもならない過去の過ちから。そんなことはヤードたちにわかるはずもないが、ホツカは彼らに賞賛されることに素直に喜ぶことはできないのだ。


「ホツカ君急ぎの旅じゃないなら、もう少しここでゆっくりしてけばいいのよ。そのほうが組長も嬉しいわよねー」

「あの、そのことですが……」






『ホツカよ、よかったのか?』

ホツカの肩にとまった師匠が問いかける。ホツカは前を見たまま「ええ」と答える。
ホツカと師匠はヒャケンの町を発ち、今街道を歩いている。そこにシャニィの姿はない。
直接シャニィと話していないが、彼女はヤードの団体に協力したいと言っていた。シャニィの目的はカツミに会うことだったろうし、ヤードの元にいることこそ本望だろう。シャニィとはたまたま旅で一緒になっただけの間柄で、彼女のことはヤードたちにまかせたいと言って、ホツカは旅の事情は伝えず「大事な用があるので」とだけ言ってヤードの元を発った。
ホツカの返事に『そうか』と師匠はどこか寂しげにつぶやいた。また二人旅に戻っただけだ。

『次の目的地は見えたのか?』

師匠の問いかけにホツカは『ええ、昨夜見ました』と答えた。昨夜見た予知夢。協会によって反逆者として捕らえられた人々が、収容所に収容されていて、処刑が行われる、というものだった。場所は協会本部がある都市の象徴とも言える民の広場。中央には巨大なシンボルタワーが立ち、魔法科学による仕組みで辺り一帯の気候を完全にコントロールしている。そのタワーの仕組みと連動した処刑装置が置かれ、そこの装置の側に立たされて収容された人たちは裁きを受けることになる。
処刑される人々をひときわ高いところから見下ろすのは、冷酷な眼差しのドーリアだった。

『ホツカよ、ドーリアの懐に飛び込むつもりか?』

無謀にもほどがある。師匠がホツカを止めるのも当然だ。先日のドーリアは意識体でありながらもあれだけの魔力だった。本物のドーリアと対峙することになれば、今のホツカの能力では太刀打ちできない。

「でも、僕が動かない限り、たくさんの人が協会に消されてしまうんです。このまま放置すれば、協会は…ドーリアはどんどん罪を犯していくばかりです。
誰よりもそれを止めたいのは、彼女自身なんです」

迷いのないホツカの横顔に、師匠は昨夜の霊体ドーリアの悲しげな顔を思い出す。
ホツカを止めたところで、協会は悪事を重ね、貶められた人々は命を落としていく。いいことなど一つもないが、ホツカは師匠にとって唯一の希望だ。ドーリアに敗れることは、ホツカの消滅を意味する。
ホツカは不老不死だが、魔法使いは魔法によって死ぬことが可能だ。自分よりも上回る魔法の力によって、命を奪われる。
つまり、この世でホツカを殺せるのはドーリアだけで、ドーリアを殺せるのもホツカだけだ。

だからこそ、ホツカには失敗してもらっては困る。

「大丈夫です師匠。みんなを助けて、僕もムリだった時はなんとかして逃げますから」

考えなしに無茶をするほどホツカもバカじゃない、とはわかってはいるが。ホツカはあの日家族を失い、天涯孤独になってしまった。この先大切な人ができても、ホツカは不老不死、老いることも死することもできない体。唯一、死ねる道はドーリアによって殺されることだ。
ホツカ個人からすれば、ドーリアに負けることはけして不幸とはいえないだろう。逆に、ドーリアを倒してしまえば、永遠の生という、死よりも苦しい人生が彼を待つ。
どちらにしても、残酷な道だ。



師匠を飛び立たせ、ホツカは街道沿いの岩山の影に身を潜ませる。街道をガタガタと走行する協会の戦車へと、風の移動魔法を駆使して乗り込む。戦車内部は無人だが、操縦席では協会の管理部と常に通信し、遠方から戦車の動きは監視されている。内部は倉庫のようでギシギシと故障した魔動兵士たちが詰め込まれている。端のほうの空間にホツカはじっとしゃがみこんで、戦車が目的地へ到着するのを待つ。
到着するまで、余計なことは思考しないようにしたかったが、ふと脳内に浮かんだのは今朝別れを告げたばかりのヤードの顔だった。穏やかに微笑みかけるヤードの顔が、別の誰かとシンクロする。
全然違う顔なのに、なぜ似ているように感じるのだろう。
時に厳しく、だけどもいつも想ってくれていたお父さん。
子ども扱いされるのがうっとおしいと思っていたけど、ちゃんと感謝の気持ちを伝えたかったお母さん。
そして、素直になれない自分の気持ちを見抜いて、優しく励ましてくれたあの日のドーリア。ホツカだけが知るあの日のドーリア…。

がたごとと揺れる車内が別世界のように感じかけていたことに気づき、ホツカはハッとして首を振る。

「(なにを考えているんだろう、僕は…。両親やドーリアやヤードさんが同じように感じるなんて。だけど、どこか似ているんだよな。なんていうのか、オーラが…。
それにヤードさん、あの人自体は光属性で珍しくないのに、闇耐性があるってのは特殊だ。あの特性は…)」

ホツカが気になるのは、ヤードの魔法に対する特性のことだった。人には生まれもって属性があり、それを感知できるのは精霊と、ホツカたちのような魔法使いだけだが。その人の環境や生き方によっては属性と上手くかみ合えば生活が送りやすくなる。
ホツカが感知したとおり、ヤードの属性は光だ。光の精霊と好相性で日中の生活に適した性質だ。本来なら自分の属性と反する属性とは相性が悪く、ヤードであれば闇魔法が効きやすくはあれど効きにくいということはまずありえない。特異体質の持ち主であると言えた。

ヤードが変わっている部分といえばその一点が気になっていたが、昨夜こんなことも言っていた。
「私は少年が好きなんだ」と。どういう意味かよくわからないが、まあどうでもいいことなのだろう。それよりも、ホツカが考えるべきことはこの先のことだ。兵士を回収する作業場にてわざと見つかり、囚われ収容所に連行される。監獄の中収容されたホツカは他の収容され投獄されている罪なき罪人たちと一緒に処刑される運びになる。


「ずいぶんと湿気がきてるな…」

石作りの床は水気を帯びており、天井からひたひたと雫が落ちている。ここは地下で、監獄へと続く通路は狭く、周囲が水路になっていた。あちこちカビが生えており、じめじめとしている。床に座ればお尻からびちょびちょに濡れてしまうだろう。罪人を収容する場所とはいえ、劣悪な環境だ。まあ長居するわけでもないから、しばしの我慢だ。ホツカにとってはそれほど苦痛ではない。
他にも投獄されている人がいるはずだが、生物の息吹が感じられないほど、しーんとしている。ぴたんぴたんと水が伝い落ちる音、水路は循環しているのかかすかに水の流れる音も聞こえる。幸いにも異臭はあまりないから下水ではないのだろうが。

まるで一人きりだ。
実際には通路の奥には監視の兵士が配置しているだろうし、壁や天井には監視装置が取り付けられているから、管理部の目が常に届いていると思ってもいい。

「大丈夫ですから、師匠」

届くはずのない言葉をホツカはつぶやく。それは師匠へのメッセージというよりも、自分自身に言い聞かせるみたいに。
時が来るまでじっと待つ。処刑される人たちと一緒にホツカも公開処刑の場へと移動させられることになるだろう。移動先で、予知夢のとおりならドーリアとご対面だ。

地下だから外の景色を見れるはずもないが、すでに夜を向かえているころだろう。それにしてもこの収容所は不気味なほど静まり返っている。
ぴたんぴたん、水気を帯びた足音が、早足でホツカのいる独房のほうへと近づく。兵士のものではない、人が立てる足音、それは目の前で止まり、ホツカをぎょっとさせる。

「たく、なにあっさりと捕まってんだよ」

「どうして君がこんなところにいるんだ?」

ホツカが驚くのも無理はない。予想外の相手が目の前にいる。どうしてと思うのも無理はない、ヤードのところで別れたはずのシャニィがいたのだから。

「お前が一人で出て行ったっておっさんから聞いて探してたんだ。そしたら途中でシラスを見つけてさ、追いかけたらここについたってわけだ」

「師匠が? だからってなんで僕を探す必要があるんだよ? 君の目的はカツミさんに会うことだったんだろ? ヤードさんのもとに残っていればよかったじゃないか」

「はあ? 仲間助けるのに理由なんてないだろ! カツミには、おっさんのところにいけば会えるけど、お前はそうじゃないだろ? 早速捕まってるし…」

逆ギレされてしまった。ほんの短い旅の付き合いだが、シャニィはホツカを仲間だと思ってくれていた。だがシャニィの言葉にホツカは素直に「ごめんありがとう」は言えない。わざわざ危険なことに足を突っ込んできて、自業自得だが、自分と関わったせいでもあるから複雑な気持ちになる。

「捕まったのはわざとだよ。僕には僕の考えがあるんだ。助けてくれなくていいから、早く逃げたほうがいいよ」

やすやすとシャニィがここに侵入できるなんておかしい。そう思っていた矢先、シャニィの頭上から機械音がして、「あっ」と驚きの声を上げた時は遅く、天井から降ってきた鉄の籠にシャニィは閉じ込められた。

「なんだよこれ、ふんぎーー出しやがれ!バクダンぶつけるぞ!」

じたばたとシャニィが暴れるがびくともしない。バクダンも湿気ていて爆発しない。「いわんこっちゃない」だから言ったのにとつぶやくホツカに、暴れ狂うシャニィ。二人のほうに高笑いをしながら近づく足音。

「いいザマだ、バクダン女め。貴様もホツカともども処刑してくれる」

「ヤデト!」

シャニィの入った籠の底から車輪が出てきてそのまま通路を走っていく。「出せーー」と叫ぶシャニィの声が遠ざかっていく。












一気に仲間増えたよと思ったつかの間
ホツカはヤードに別れ告げ、再び師匠と二人旅
この世を救うためだとて、ヤードを死なせるわけにゃいかぬ
ホツカの決意、吉と出るかそれともまさか…?
協会の悪事止めるため、処刑される人々救いに
ホツカ収容所へ乗り込んだ
師匠心配しているぜ?だけどもホツカに策があり?
ホツカとドーリア、因縁二人の再会近し?
だがその前に波乱ありそうだねぃ
なぜかシャニィが助けに来たよ
だけどもやっぱり捕まった、現れたのは二人が憎しと怒りに燃えるヤデトだよ
どうなるホツカ? シャニィの処刑もなんとか止めておくれよね!
続きもぜひとも聴きにきてくれよ?シーユーバイチャッ!


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