「おい、人を呼びつけといて、こんな格好させて、なにやらせるつもりなんだよ?」
「おやおやなかなかお似合いではありませんか、レヴィン王子」
にこにこと微笑むクロードに、にやにやとそれに同意するシグルドの両名を、レヴィンはむむむと睨む。
「レヴィン、今日はセイレーンのお祭りの日だというじゃないか」
短い夏季の後半に行われるセイレーンの祭りは、セイレーン市の生誕を祝う主に商売繁盛の精神を掲げた街全体で盛り上がる活気あるシレジア内での大きな祭りの一つだ。
貿易によって繁栄してきたセイレーンは、新しいものを積極的に取り入れる。祭りの形も時代によって大きく変化し、特別決まった形を持たない。
商店はいつも以上に活気を持ち、シレジア中から、またアグストリア方面からも商人や旅人が集いにぎわいを見せる。
「我々もシレジアには世話になっている身だから、少しでもその力になればと思ってね。大いに祭りを盛り上げたいじゃないか。仮にも私はセイレーン城の代表だからね」
「まてまて、何勝手に城主きどってんだよ。お前は客人だろ!」
一応ここの城主はレヴィン、なのだが…、当のレヴィンが長らく城を空けていたこともあって、その威厳はなきに等しい。恐ろしいことに、城にいる多くのものがそのことを認識してなかったりする。セイレーンの市民からも、レヴィンの認知度はけして高くない。普通にとおりを歩いていても【王子】だと気づかれない事が多いのだ。
「勝手にしきってこきつかって、不愉快極まりないな」
「文句言いつつ着てくれたり、私はお前のノリのいいとこ好きだぞ」
「男からスキとか言われても気持ち悪いだけだからな!」
「やっぱり緑の髪に赤い衣装は似合いますね〜」
「これってサンタクロースだろ? 童話のキャラクターの一人だ。十五年ほど前に子供達の間ではやったのをきっかけに毎年祭りでコスプレを見かけるようになったんだよな。よく知ってたな」
サンタクロースは童話に登場する空想上のキャラクターだ。国や地域によってその姿かたちに多少の違いはあるが、子供たちを愛し、すべての者を平等とし、相手の望むものをプレゼントする愛と平和の使者なのだと。
サンタクロースのコスプレは、赤いとんがり帽子に赤いコートやマントを纏う。それから赤いブーツにプレゼントを詰めた大きな袋を担げば完成だ。
「当然だろう。シレジアにお世話になっているんだ。シレジアのことを知らないわけにはいかないだろう」
大きな顔して当たり前のことを言わないで欲しい…とレヴィンはあきれた目でシグルドを見る。
理由を聞かなくてもわかってしまう。祭りを盛り上げたいとかつって、サンタクロースの格好をさせられたのはレヴィンだけ。この二人は偉そうにイスにふんぞり返っているだけ。
「セイレーンは開放的で自由な都市だからな。新しいものや外から入ってくるものにも寛容だしな。だからこそお前らなんかも自由を許されてるんだぞ。逆にトーヴェなんかは閉鎖的で保守的だからな。まああそこは、領主も領主だし、近づくんじゃないぞ」
叔父マイオスの顔を思い浮かべて、苦い顔になる。マイオス自身もあまりシグルドたち一行を歓迎して無いから、関わらないようにするのがもめごとも防げていいだろうと。
「で、どうして俺だけがこんな格好させられるんだよ」
祭りを盛り上げたいと思っているなら自分たちや、部下たちでやればいいだろうに。
「ははは、フュリーと同じこと言うんだな」
「は?フュリーとって、まさか…」
まさか、シグルドたちはフュリーにもコスプレさせたということだろうかと、そのまさかのようだった。嬉しそうに二人はこくこくと頷く。真面目なフュリーにコスプレさすなんて、いやいやながらも従うフュリーが想像できて、レヴィンは脱力する。
「あいつ絶対不機嫌になってただろう。こういうの苦手そうだしな」
「それでもセイレーン市民のためだからと言ったら引き受けてくれたんだぞ。お前も見習うべきだろ」
ムリヤリやらせてんのと同然だと思うが…。
「彼女のシレジア愛をお前も見習うべきじゃないのか? いやそれ抜きにしても、お前には適任だと思うぞ。
ほら、お前は人々を笑わせるのが夢だと言ってたじゃないか。愛と平和の使者として、人々に笑いを届けてやるのが君の使命だと思うがね」
偉そうにそう言うシグルドに、レヴィンはあきれつつためいきつく。
「何様なんだよ、お前は…。まあでもたしかにそのとおりだな。修行で長らく芸から遠ざかっていたから、やっとこさ本来の道に戻れそうだ」
人々に笑いを届けるのが己の目指すべき道なのだと、そう確認してやる気を見せ始めるレヴィン。
「そうだレヴィン、お前は今日サンタクロースになってみんなに幸せな笑いを届けてやるんだ。
特に、フュリー。彼女を笑わせてやれ」
「ああ、まかせろ、て、は?」
なんだその無理難題は!とレヴィンは叫んだが、黙殺された。
「大丈夫だレヴィン。お前のギャグのくだらなさすべりっぷりは神がかっているからな。その空回りっぷりがおもしろいんだ自信を持っていいぞ」
とのシグルドの言葉に殺意が芽生えつつ、レヴィンサンタは部屋を出た。


「俺の芸がわからんとはセンスがないんだよなアイツは」
ムカムカしつつも、道化役は得意だと思うレヴィンはみんなを楽しませてやろうと思った。
「ところでこの袋の中なーに入ってるんだろうな?」
「あっ!?」
袋を担ぎつつ階段を降りていくレヴィンに向けて発せられた驚きの声が一つ。「ん」とレヴィンが目線をやると、丸い目でこちらを見ていたのはティルテュだった。
「メリークリスマス♪」
片手を挙げておどけながらレヴィンはサンタクロースの決め台詞を放つ。
「あーー、その格好サンタクロースだーー」
ティルテュは目をキラキラさせて嬉しそうに声をあげる。
レヴィンはその反応に意外そうに目をぱちぱちさせる。
「なんだ、ティルテュ知ってるのか」
「うん。子供の頃ね、おばあちゃまに読んでもらった絵本で大好きだったの。すごーい、もしかして、その中にプレゼント入ってるの?」
「もちろん! さ、受け取りたまえ」
レヴィンサンタは袋の中から小さな包みの一つを取り出して手渡す。
「わー、ありがとう。あ、お菓子の詰め合わせだおいしそう」
「なんだこれ菓子の詰め合わせになっているのか」
ぱっと袋の中を覗いてみたところどれも同じような包みで大きさだった。まあ妥当なところだろう。しかし甘党の人以外にはどうでもいいプレゼントかもしれないと思うと不公平な気もするが。
「シレジアでサンタクロースが流行ってるなんてステキだね。さっきデュー君サンタにもあったし」
「デューの奴もやってんのか。俺何番煎じなんだよ…」
「いいなー、あたしもやりたい。あっ、そうだレヴィンはどんなプレゼントが欲しい? あたしがあげられることならなんでもするよ」
「俺限定のサンタになってくれるって? 気持ちは嬉しいけどティルテュ、サンタクロースってのは何人であれ特別扱いしちゃいけない平等平和の使者なんだぜ。いくら俺が男前だからって贔屓しちゃいけないんだぞ」
「別にそういうわけじゃないんだけど。レヴィンにはいろいろお世話になったし、風精アレルギー治ったの嬉しくて、そのお礼になにかしたいの。ね遠慮しないで教えて」
「んー、それじゃあ、君の笑顔が欲しい、なんてな」
冗談交じりレヴィンの答えにティルテュはハッとした顔になり気づく。
「それってつまり…、レヴィンの芸オンザステージってこと?!」
「なんだ? 君は俺の心が読めるのか?!」
「まかせて、今夜までに間に合うようにがんばってみるから、楽しみにしてて!」
善は急げとばかりにティルテュはすぐに駆けて行った。一瞬ぽかんとしていたレヴィンだが、しだいににまにまと顔が緩んでいく。
「俺のステージ?なにそのステキな響きは! やべー楽しみだ。あっ、でもムリしなくていいからな」
と言ったところでもうティルテュの姿はない。
「俺のステージでみんなを笑いで幸せにできるんだよな。マジサンタクロースだな。よしっ、とっととみんなにプレゼントを配ってくるか」
よっこいせと袋を担いで、ややよたつきながらレヴィンは歩き出した。


年に一度の祭りということもあり、セイレーン城も祭りのムードたっぷりだ。きらびやかな飾り付けが庭や通路、部屋の各所に施されている。それを見ているだけでも心がうきうきと躍ってくる。
いろいろと心沈む事もあったが、ティルテュの気持ちは今嬉しく踊っていた。アゼルやユングヴィ姉妹とは親しく優しくしてもらっている。レックスとの関係はまだ気まずいままだが、最悪だった一時期よりは良好に向かっているとティルテュは勝手に思っている。フリージの娘という負い目もあって一歩引いていたが、みんなともっといい関係を築きたいと思うティルテュはこの祭りがそのきっかけになればと思うと、気持ちも高鳴ってくる。
「ステージの場所どこがいいかな。あっ、あのあたり使ってもいいのかな?」
庭内の一角、人も通りやすい渡り廊下側のスペースにティルテュは目をつけた。だれに許可を取るべきかと少し考えて、城の責任者?のシグルドの元に向かう。シグルドは快く許可してくれた。場所の確保はできたとして、ステージの設置をしなければ。道具はお城の倉庫から探す。ステージの土台になりそうなものも運良くあったのだが、埃を被っている。軽く埃をはたけば問題なく使えそうだ。が…
「さすがにあたしの力では運べそうにないな」
土台は大きくティルテュの少女の腕では運び出すのは難しい。誰かに協力を仰ごうと倉庫を出る。
「手伝って…くれるかな…」
不安ありつつもレックスを頼ろうと思った。斧騎士のレックスなら力があるし。ただ自分の頼みを引き受けてくれるかと言えばとても自信がないのだが。レックスを探して城内を行くティルテュは鼻をくすぐる甘いにおいに足を止めさせられた。においの元は調理場から漂っていた。甘い甘い誘惑に釣られるように、興味深くそこを覗き込む。
「あら、ティルテュ」
ふわりと空気を含んだ柔らかい金色のウエーブが揺れるエーディンがこちらへと振り返る。長い髪を後ろにひとまとめにして、白いエプロンに身を包んだエーディンとアゼルがそこにいた。
「すごくいいにおい、ケーキ?」
「ええそうよ。今日はセイレーンのお誕生日でしょう。それでケーキを焼いてみんなに振舞おうと思って」
うふふとエーディンは幸せそうに微笑む。
「エーディンは本当に優しいよね。そんなエーディンをボクは誇りに思うよ」
「アゼルったら大げさだわ。夜にはできあがるはずだから、ティルテュにもご馳走するわね」
「ありがとう。楽しみにしてるね。あの、ところでアゼル、…レックス知らない?」
「あ、あー、レックスねー」
ティルテュに聞かれてなぜかアゼルは眉間にしわ寄せて天井を見上げる。その態度に「?」とティルテュは首をかしげる。なにかあったのだろうか?すると答えたのはエーディン。
「レックスならお姉さまに付き添われて…」
となぜか語尾を濁すエーディン。ブリギッドとレックスという組み合わせにますます「??」とティルテュは首を傾げる。
「ブリギッドと? 一緒なの?」
あの二人仲良かっただろうか? むしろ険悪にも思えたが。
「ごめんなさい」
となぜか申し訳なさそうに謝るエーディン。はーーとあきれたようなためいきでアゼルがわけを話す。
「実はね、ブリギッドがお酒飲んで気分よくなっちゃってさ、ちょっと…うるさくなっちゃって…」
合間に「はー」と何度もためいきで区切りながらアゼルが続ける。
「それで近くにいたレックスにしつこく絡んじゃってさ。レックスもほっときゃいいのにあまりにウザイからつっかかっちゃって、それでブリギッドにケンカ売られてあいつもムキになっちゃって」
「ケ、ケンカ!?」
ティルテュの脳内に流血の惨事が浮かぶ。
「で、レックスの奴、酔いつぶれちゃったんだよ。ダサいよね」
はーーと最後にしめるようにまたためいきのアゼル。どちらにあきれているのか両方になのか。さすがにブリギッド贔屓のエーディンもあきれているのか恥ずかしいのか、がっくりとうなだれている。
よっぽどバカバカしいケンカを繰り広げたのだろう、あの二人は。周囲が巻き込まれなかっただけマシとしたい。
「そうなんだ…」
流血の惨事じゃなくてほっとしたような、脱力感にティルテュは肩を落とした。
「レックスもバカだよね。せっかくティルテュがデートに誘いに来たっていうのに」
「デッ…て違うってば。そんなんじゃなくて。ちょっと手伝ってもらおうと思ってただけなの」
「あら、私でよければ力になるわよ。遠慮しないで声かけてねティルテュ」
「ありがとうエーディン。とりあえず他に頼める人がいないか探してみるね」
ぱてぱてと慌しくティルテュは駆けて行った。
「急用かしら? 協力してくれる人がいてくれるといいんだけど。あとで様子見てあげましょう。ケーキの具合を見つつ、姉様とレックスの看病にも行かなくちゃ」
「エーディン、あの二人はよっぱらいなだけだから看病も何も放置、ううんなんでもないよ優しいエーディン」
うるうると瞳をうるませる恋人に気付いて、アゼルは慌てて前の言葉を打ち消した。心の中で「おどりゃーレックス」と舌打ちしながら。

今日は祭りと言う事もあって、街に出かけている者も多いみたいだ。城内に残っている人もまばらだ。
人を探しているだけで時間が経ってしまいそうだと思いつつ通路を渡っていたティルテュは、庭内のすみっこに蹲りなにかブツブツ言ってる物体を見つけ足を止める。
「あれは、アーダン?」
シグルドに仕える重騎士のアーダンだ。強面で大柄な男で誤解されがちだがお茶目で気さくな男だ。だがたまにネガティブになってしまうようで、今もネガティブにぶちぶちと膝を抱えぼやいている。大男のそれは見ていてうっとおしいが、ティルテュは別にそこを気にすることなく「そうだ」と彼に声をかけ近づく。
「今日も街で女の子に声かけただけで悲鳴上げて逃げられちゃうしな…。俺の存在ってなんなんだ? いらない存在なのか…はぁー」
「こんにちは、アーダン」
「なんか今かわいい女の子の声が聞こえた気がしたな。幻聴か? 幻聴が聞こえるほど重症なのか」
呼びかけても大きな背中を丸めたまま、アーダンはぶつくさとぼやいている。
「もしもし?」
「またなんか幻聴が、き、うわぁぁーーー」
振り返ってティルテュと目が合うとアーダンは恐怖体験でもしたかのような表情で驚き激しくのけぞる。
「ごめんなさい、急に声かけたりして」
「あ、あなたはフリージのティルテュ様! 申し訳ございません、なにか失礼を」
ティルテュに声をかけられたことが予想外だったのか、アーダンは動揺し、なぜか謝る。
ざかざかとうしろずさりながら何度も頭を下げる大男に面食らいながら「違う違う」とティルテュは手を振る。
数秒してアーダンも己の勘違いに気付いて落ち着く。
「ごめんね、休んでいるところを急に」
「いえいえ、滅相もない! 御用があればいつでもおよびください! 特に今日は暇をもてあましてますので」
「そうなんだ。ならお言葉に甘えてお願いしちゃおうかな。ちょっと付き合ってくれると嬉しいんだけど」
「えっ!? えええーー!? いやそんな、私でよろしければぜひ! 地の果てまでお供いたします!」
大きな声で答えるアーダンはやる気マンマンでテンションマックスになっていた。「(俺にもついに春がっっ)」と心の中で感涙しながら。
力自慢のアーダンがいればステージの準備もはかどるだろう。ぱてぱてと忙しなくティルテュは走り出す。


「お、おいノイッシュ見たか? 今の」
庭を挟んで向かいの通路を歩いていたアーダンとティルテュに気づいて驚きの視線を向けるのは、アーダンの同僚のシアルフィの騎士アレクとノイッシュだ。
「ああアーダンとティルテュ様だったな」
「めずらしい組み合わせだよな。なにかの間違いじゃないのか? 見たか?あいつのルンルンっぷり。ついさっきまでラケシス王女にこっぴどくされてこの世の終わりみたいになっていたのに現金な奴だぜ」
「あいつには同情するが、最近のラケシス様の不機嫌ぷりはハンパないからな」
「へぇ、それでお守りのお前やベオウルフも近づけないでいるわけか」
「…まあラケシス様もマスターナイトになられてからは、護衛も必要ないほど強くなられたからな…」
「寂しそうだねお前も。でもわかるぜ。俺も最近シルヴィア遊んでくれないしよ。ほんとレヴィンなんかのどっこがいいんだかね。あんなヘタレの塊のどこがいいんだか、あーなんかむかついてきたわ」
「おいアレク失礼だぞ。アレでも一応シレジアの王子だろ」
「どっちもだろ! だれがヘタレだよ? 特にアレク、お前にだけは言われたくない!」
二人の間ににゅっと割り込むのは、話題にされていた張本人。
「どっわーーでたーー」
「レヴィン王子! これは失礼を」
「全然そんなこと思ってないだろ。お前みたいに真面目っぽいのが信用できないんだよ」
「あっそれには同意っす」
「おい!アレク」
「あ、王子こいつ王子のいないとこで結構王子の文句言ってるんすよ」
「なーにー?」
「お、おい文句って何言って…。私はただラケシス様のお気持ちを考えると…」
「は? ラケシスがなんだっていうんだよ?」
どこでラケシスと自分が繋がるのかレヴィンにはわからない。がどうもノイッシュの不満の中に二人が繋がるらしい。
「ご自分の胸に聞いてください」
「え? なんだよそれ。ハッキリ言わないとわかんないだろ」
ノイッシュはムッとしてそれ以上答えてくれない。レヴィンもムッとなり袋を抱えなおす。
「もういいよ。人のネガキャンする奴にはプレゼントやんないからなー。サンタはいいやつにしかプレゼントあげないからな」
とティルテュには平等の使者と説教たれていたくせに、己の発言の矛盾にはいい加減なレヴィンサンタだった。
「ケチいっすねー、サンタ王子は。でもいいかー。俺ら美脚のサンタガールにプレもらったんでー。わざわざ野郎のサンタからもらわなくていいんでー」
差し出した手を「ちぇっ」と言いながら引っ込めつつも、アレクがつぶやく。すでに別のサンタからもらったそうだ。
「それってフュリーのことか?」
「そういやフュリーちゃんもヤケに不機嫌じゃないっすか。それも王子のせいだったりするんじゃないんすかねー」
「は?」
「とにかく一度ラケシス様にきちんと謝ってあげてくださいよ」
「あのな、わけもなく謝れないし、なんでなんでもかんでも俺が悪いってことになってんの?」
ぶすくれながらレヴィンサンタは城を出た。城門を抜けた先には城下町。街全体がお祭りムードで賑わいもいつも以上だ。人間もたくさんで、人口がこの日ばかりは増える祭り効果だ。サンタコスの人間もちらほら見かけて、その中ではレヴィンも埋もれてしまう。
だけども、どんな人並みの中にあっても、目立つ者はいるものだ。
王族としてのオーラというよりも、その者本来の強い存在感のせいかもしれない。まだ少女とも言える幼さを残した顔立ちの中にアグストリアの王族として生きてきた誇りから滲み出る気品があり、容姿の美しさは着飾ればなお引き立つものになるだろう。が、目立つのはそこではなく、その華奢とも見える少女には似つかわしくない物騒な得物が原因で…。
「ラケシス…」
その姿を遠目から見つけてしまっただけでレヴィンの疲労感はハンパなかった。
ノイッシュには謝れと言われたが、わけもわからず謝る義理はないし、とにかく関わらないほうが吉と判断してそそくさと去ろうとした。が、また余計なものを目撃してしまったから、そうはいかなくなってしまった。
「そこのキレイなお嬢ちゃん、お一人ですかい?」
「あら、私のことですの?」
いかにも下衆な風貌の男連中に声をかけられて、ラケシスは足を止め返事をする。普通の女性なら警戒するタイプの男であれ、世間知らずなラケシスはなんの警戒もなしに受け答えしてしまう。盗賊のデューからも疑うことなく物をもらっているくらいだから、今さらだ。
下衆い連中の下手なナンパにひっかかる女もそうそういないと思うが、ラケシスはそうじゃなかった。
「そうそう。今から俺たちとご一緒しない? おいしーいところ、案内してあげるからさ」
「まあ、ほんとうですの? ぜひ!」
一片も疑うことなくラケシスは男たちの誘いに乗った。レヴィンはごーんと建物の横壁に頭をぶつけてしまった。ズッコケで。ほいほいとナンパ男たちについていくラケシス、「あいつ強いしほおっておいてもいいんだよな」第一彼女の手には、小さな体には不釣合いなほどの大きな鋼の斧があるわけだし。めんどうはごめんだと背を向けた、はずが気がついたら反対方向に身を走らせていた。「あーもうー」となにかに苛立ちつつレヴィンは狭い路地へと向かい出すラケシスと男たちの間に割って入った。
突然やってきたサンタに、彼らは目をぱちくりさせる。
「悪い、こいつ俺の連れなんで」
男たちが固まったのは、レヴィンのその発言に…ではなく。
「だ、…誰があなたの連れですのッ!?」
ブオンと空気が震える音がすぐ側でした。ラケシスが振り上げた鋼の斧がレヴィン目掛けて振り下ろされる。
「ぶっ、わっちょっまっっ」
袋をかすめられたがなんとか身をかわした。レヴィンによけられた斧はそのままの勢いでどごっと地面に突き刺さり、ぼごっと地面に大ダメージを与えた。可憐な少女はそこになく、闘気を纏った鬼神が立っていた。本能的に逆らってはいけないものだと感知した男たちは「ひぃーー」と小者のような悲鳴を上げて逃げていった。
「(ああ、もう、やっぱりスルーが正解だったんだよ俺…)」
怒りの形相で鋼の斧を振りかざすラケシスに睨まれて動けないレヴィンサンタだった。


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2010/1/4UP