「ダロスしねぇぇぇぇーーーー!!!」
海賊の男は容赦なく斧をダロスへと振り下ろしてきた。

「くっっ」
ガキーンという金属の激しくぶつかる音。
ダロスは構えた鉄の斧でその攻撃を受けた。
ダロスは一般よりずっと力のある男だが、それでも重たい斧を受けた衝撃はダロスの両肩を襲った。
だが苦痛の表情を見せたのも一瞬のこと、ダロスは「うおぉぉぉぉーー!」と力強い雄たけびと共に
力任せでそれを上へと押し上げながら、両腕にぐわっと力を籠めて、振り払いながら海賊の男に鉄の斧で一撃を与えた。

「ぐぅぅっ」
海賊は呻いて倒れこんだ。
ダロスは初めての戦闘に勝利した。ダロス自身自覚はなかったが、ゴメスが見抜いていた通り、ダロスには戦いのセンスがあったのだ。ただの船乗りにしておくのはおしいほどに。
だからこそゴメスはダロスの力を欲した、使える奴だと思っていた。
ダロスが暴力だの戦いだのまったく好まない平和主義な男だとしても。

「ごめんね。でもやっぱり悪いことは許せないよ。

ボクだって、守りたい、そのためにはやらなくちゃいけないことだってあるんだ」
倒れた男にそう言うダロス。
ダロスにも罪悪感があったから。ダロスの意思とは関係なくダロスの船はゴメスたちによって改造させられ、その船を使ってこのガルダの町を壊しているのだ。
自分にも責任がある。止めることはできたかもしれないのに、自分はそれをしなかった。
ダロスは己の弱さを恥じていた。だからこそ余計にその正義の心は激しく燃えたともいえる。

初めての戦闘を終え、少し息が荒くなっているのをダロスは感じていたが、止まっている暇などない。
バッと顔を上げ、ダロスは走った。

守らなくちゃ、この町の人を
そして、止めなくちゃゴメスを!!

鉄の斧をぎゅっと握り締めてダロスは走った。ガルダの港町を・・・


穏やかな港町は混乱の町と化していた。好き放題暴れまくる海賊達。
非日常的ともいえる光景はそれだけではなかった。
石畳を駆ける馬の蹄の音。その上でかすれるように音を立てるのはガルダでは見慣れない甲冑姿の男、それは騎士。
さらには上空には白い翼を羽ばたかせているペガサスの姿があった。
そんな見慣れない景色に人々は驚きながらも、その存在が何者なのか気づいたものが声を上げると、人々は歓喜した。

「アリティアテンプルナイツだ!海賊どもこれ以上貴様らの好きにはさせーん!」
ただでさえ赤い鎧姿が目を引くカインが、大きく声を上げ、槍を掲げながら海賊を威嚇する。
カインの姿を見て、逃げ惑っていた女性が救いを求めるようにカインへと駆け寄ってきた。

「ああっアリティアの騎士様!どうかお助けください!」

女性に救いを求められ、カインのテンションも上がり、声が少し裏返りながら
「もちろんですとも、海賊どもはアリティアテンプルナイツの赤き聖騎士カインが成敗してやりますよ」
鼻息荒くそういうカインに背後から馬で駆けて来た同僚のアベルが呆れながらつっこむ。

「お前妄想と現実がごっちゃになってないか?いつ聖騎士になったんだ?」
馬上で剣を構えたアベルはカインに毒を吐き残して、海賊達へと走っていった。

「ぬっ、まてアベル!またまたおいしいとこオレから奪う気満々だな?そうはいかん」

カインもまたアベルの後に続くように海賊達へと突撃する。
さらに重い鎧で二人の馬足に追いつけないドーガはゆっくりと前進していた。歩くだけでふーふーと息が荒くなっていった。テンプルナイツ一の防御力を誇る絶対無敵なドーガだったがこの機動力のなさが弱点でもあった。こういった城外の広い戦いの場には向いていないのかもしれない。

「おらーーっ」「でりゃーー」
街の通りでも武器のぶつかり合う音が響いていた。サジやマジもきこりで鍛えた筋肉を盛り上がらせ、斧を振るっていた。彼らが慕うオグマもまた豪快に暴れていた。
サジやマジも強かったが、オグマの闘い方はまた二人とは違う物があった。
それは戦いのプロともいえるそんなオーラを放っていた。穏やかな国タリスで平和の中生きてきたサジたちとは違う人生を歩んできたオグマとの違いなのだろう。オグマは戦いの中に生きてきた。あの日、シーダたちタリスの人と出会うまでは・・・
オグマはタリスが好きだった。あの穏やかな時の流れる自然の美しい島国が。戦いのことなど彼方にやってしまうほどの優しい空気に癒されていた。
だが同時に感じていた虚しく思うもの
ガザックたちとの戦いにて再確認した。
オレは闘うことが好きなんだろうなってことに。
根っこに流れる剣闘士の血がオグマの口端をあげているのだろうか。
一人、また一人と次々と海賊達を沈めていくオグマに刺激を受け、サジたちのテンションもますます上がっていく。
「オグマ隊長!」
「おれら隊長にどこまでもついていくっす!」

「たっ・・・ておいおい、だれが隊長だよ!?」
オグマは苦笑いを浮かべながらも、サジたちに慕われるのは悪くないと思うのだった。


「うっ、いたた」
通りを走るダロスは痛みに顔を歪めていた。脂汗も浮いている。
あれから何度か海賊との衝突があった。何度か斧をぶつけ合った。
ダロスとて無敵ではなく、致命傷はないにしろ体中には傷跡と、血が滲んでいた。
接近戦はまだいい、ダロスは接近戦には強かったが、飛び道具は苦手だった。
離れた場所から飛んでくる手斧は、斧にしては殺傷能力は低いものの、反撃できない攻撃だからこそ厄介であった。何度かはかわしたものの、何度かはかわしそこない、ダロスの傷は増えていった。
手斧はまだいい、ダロスが厄介だ勘弁してくれと思ったのが弓矢による遠方よりの攻撃だ。
この港町であることが弓使いにとってより有利に働いているのか、見えないところから突然襲ってくる矢は脅威だ。ダロスは体も大きい分、広い背中は格好の的だ。
ダロスは何度も振り向きながら、走った。ゴメスの姿を探して。

ダロスは戦いながら、住民に避難を呼びかけながら進んでいた。
ダロスの呼びかけもあって、戦いの力を持たない弱い人はすぐに避難した。そのかいあって住民の被害も最小限に防がれたようだ。
これでダロスもゴメスのことに集中できる。と思ったとき、ダロスの視線の先に見えたのは、杖を携えた初老の男。
見た感じ無抵抗のその男に三人の海賊が迫っているのが見えた。

「たっ大変だ、おじさーん逃げてー!」
叫びながら自分の方へと駆けてくるダロスにリフも気づいた。
そしてリフがハッと周囲を確認するともう目前まで凶悪そうな海賊達が斧を手に近づいていた。
マルスを手伝うと戦いに向かったシーダを助けようとそのあとを追ったリフだったが、初めての場所であるのと戦いの混乱で仲間の姿を見失ってしまったのだ。
リフは僧侶。戦いの武器を持つことの出来ない身。
素人ながら勇ましく戦えるサジ達とも違う。他の者にはない癒しの力を秘めたライブの杖が使えるといっても、リフにはその力だけ、戦う力はゼロなのだ。
身を守ってくれる存在がいてくれるか、そうでない場合は逃げるしかない。
しかし、三方から迫ってくる海賊から、リフの運動能力では逃れられないこともリフはわかっていた。
だがそんな状況でもリフは取り乱す様子もなく、冷静であった。
死を受け入れられる覚悟がある。神に使えるリフにはその心が強かった。
誰かを傷つけて生き残る道よりも、自らが傷つき終える道をリフは選ぶ。
リフは目を閉じ、そこに立ち尽くした。

だがダロスにはリフが諦める姿を見るのはイヤだった。
ダロスの全力疾走が間に合った。海賊たちの攻撃がリフに届く直前、リフの前に強い風が走った。
リフが目を開けるとそこにはダロスの逞しい背中があった。
海賊の攻撃を自分の斧で受け止め、激しくそれを払い落としながら、力任せで斧を横へと払う。
海賊達はダロスの周囲からぶっとんだ。
さらにまた集まってくる海賊たちに、ダロスは息を荒げながらも斧を構え、リフを守るように立つ。

「あなたは・・・・」
ダロスを見上げながらそういうリフにダロスはゼィゼィ乱れる息を飲み込みながら答える。

「ボクは・・・ダロス。

大丈夫、ボクがアナタを・・・・守るから・・・安心して」

ぎゅっと斧を握り、向かってくる海賊たちを再び力技でなぎ払う。
ダロスの疲労はそうとうのものだった。荒い息がそれを物語っている。
体中に受けた傷もまた痛みと共にダロスに強い疲労感を与えていた。
それでもダロスを動かし続けたのは、リフを守りたいという強い正義心があったからだ。

ダロスの登場に一瞬驚いていたリフだったが、ダロスの背に見えた無数の傷跡に気づき、そして自分の使命を再確認させられた。
リフは手に持っていた癒しの杖「ライブ」をダロスのほうへとかざしながら杖の力を発動させた。
リフの杖の先端の宝玉より明るい白い光が放たれ、それは大きくなってダロスの体を包んだ。

ダロスは突然自分を包んだ暖かいそれに一瞬驚き、そして不思議な感覚の中にいた。
その光はダロスの傷を塞いでいった。

「!えっ、い、今のは一体?」
ダロスは驚いて振り向いた。リフはにこりと優しい笑みを浮かべてダロスへと頷いた。
ダロスもそれがリフのしたことだと気づいた。
リフの癒しの力でダロスは再び力を取り戻した。
ライブの杖には傷を塞ぐ力しかないのだが、ダロスは疲労感さえ回復した気がしていた。
それは気持ちの問題なのだが、たとえ思い込みだろうが、かまわない、ダロスには戦う力が漲っていった。

リフを背に守り助けられながらダロスは戦った。ダロスは争いがキライだった。
でもそれ以上に滾る正義心がダロスを進ませる。
そんなダロスを見ていて、リフはダロスの力のすごさを感じていた。きっとダロスが仲間になってくれたら、戦力不足のアリティア&タリス連合軍にとっても嬉しいことだろう。
ただ、そう思っても自分にはそれをダロスに言う権利さえないと思われた。
そして感じていたのはその強さだけではなく、ダロスの優しさも感じていたリフは会ったばかりのダロスに好感を抱いていた。

ダロスはゴメスの姿を探して港にいた。港は海賊達の暴れの結果、酷い有様になっていた。
火薬の匂いに咽ながらダロスがゴメスを探していると、まだわらわらと残っていた海賊達がダロスを目にすると声を上げながら襲い掛かってきた。

「ダロスー!てめー、裏切り者がーーっ」

「裏切り者とは?ダロスさんは彼らの仲間だったのですか?」
そう訊ねるリフにダロスは首を振りながら複雑な顔を見せながら

「裏切り者って言われるのは筋違いのような気がするんだけど・・・でも関係ないって言い切れるわけでもなくてー」
そんなダロスの複雑な感情によくわからず?を浮かべるリフだったが。

そんなことより今は戦いに勝たなきゃ!とダロスは掛かってくる海賊に向かおうとした時
ダロスの視界左手側より走るように現れた影があった。
その影は素早く海賊達へと切りかかり、次々と倒していった。

「!?」
ダロスは我が目を疑った。海賊達へと斬りかかったその影は、まだ幼くも見える細身の少年。
青い髪と青い瞳が印象的な、自分からするとずっと小柄な人間だ。
スマートな剣を手にしているその少年は、正義を宿した真っ直ぐな瞳をしていた。それはとても力強く、引き込まれてしまいそうなそんな力を持っていて。
ダロスも一瞬固まってしまったほどだ。
よく見ると、倒れた海賊の背には刺さった矢のようなものが見えた。弓で援護した者がいたのだろう。
ダロスがそう気づいた時、ダロスの後ろにいたリフがその者へと声をかけた。

「マルス王子!お怪我はございませんか?」

「えっ?マルス王子?!」
ダロスは再びその少年を見た。リフがマルスと呼んだその少年がまさか、あのマルス?

ゴメスが悪だと言っていたマルス?
海賊達からタリスを守ったというマルス?

ダロスは想像していた姿とまったく異なっていた、その少年をしばらく見ていた。
マルスも警戒の顔を見せながらも、ダロスを見ていた。おそらくマルスもリフと同じように、ダロスの中の正義を感じ取っているのかもしれない。

「リフ?その人はだれなんだ?」
マルスがリフにそう問いかけた時に、別のほうから少年のような声がした。

「マルス様!リフさん!危ない!」

「えっ!?ぐぅっ」
ダロスの左腕を刺さるような痛みが襲った。びゅっと風をきるような音が一瞬したかと思った直後、それは襲った。

「ダロスさん!?」

「待てゴードン!」

痛みで顔をゆがめるダロスにリフが駆け寄る。ダロスの腕には一本の矢が刺さっていた。
ダロスたちのほうに走ってきた影は少年顔の弓兵ゴードンだった。

リフの様子とマルスの声色でゴードンもすぐに自分の過ちに気づいて、慌ててダロスへと駆け寄った。

「この方は敵じゃありません!私を助けてくれたのです!」

「ごめんなさい!ボクてっきり海賊にリフさんが人質にとられているんだと勘違いして、ほんとにごめんなさい!!」
涙目で謝罪するゴードンにダロスは平気平気と笑って答えた。すぐにリフの杖で治してもらったのだが、それでもダロスは(弓はこりごりだよ)と思うのだった。

ダロスはマルスに事情を話した。そして一緒に元凶であるゴメスを探した。
港にはたくさんの船があった、だがほとんどが壊されて残骸であった。

「あっ」
ダロスの愛船も、改造されてしまったそれも、哀れな姿となっており、ダロスは遠い世界に心が飛びそうになった。

落胆するダロスを再び狙う光る矢があった。それはダロスの気づかない場所から、じりじりと狙っていたのだ。

「うらまないでください、僕にはお金が必要だから・・・」


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