第69話
「おおー、祭りじゃ祭りじゃーー!!」
お約束のように響き渡る大神官ラルドの声と水晶使いたちの奏でる楽器の音。祭りの音。
夜は深け、月明かりが照らす時間帯であるが、月光がぼやけるくらい眩しく輝く祭りの灯り。
長年戦い、苦しめられてきたリスタルの民、そして共に生きてきた聖獣たちにとって最大の天敵であった黒水晶を倒し、皆喜び舞った。明るい笑い声に歌声が止まることなく流れている。
そんな祭りの空気に触れることなく街を去り行く影があった。
「みんなたのちちょーでちゅ。これでみんなちあわちぇになるでちゅね。」
灯りに照らされてきらきらときらめく丸い瞳でアクアを見上げながら、マリンがそう言う。マリンの言葉に小さく「ああ。」と頷いてアクアは優しく胸元に抱いているマリンを優しく撫でた。
アクアとマリンは祭りの空気に触れることなく、人気のない通りにいた。
アクアの背には、わずかながらの荷物が詰められた鞄が抱えられていた。
リスタルを出る。
アメジにそう言ったアクアの気持ちは本当だった。アクアはリスタルを離れるつもりでいる。今夜発つ。
広場から背を向けるように歩き出したアクアに、胸元のマリンがハッとしたように
「アクアちゃま、アメジちゃまおちょいでちゅね。」
きょろきょろと辺りを見渡しながら、小さな首を振るマリン。そのマリンの頭を軽く押さえる様に撫でながら、アクアの言葉
「アメジは来ない。」
「えっ?」
なんででちゅか?
そんな顔でアクアを見上げるマリン。
マリンはアメジとアクアと一緒に旅立つものだと思い込んでいた。だからアクアの言葉の意味がわからず、そんな顔で見上げている。
丸く揺れる青色の瞳を月明かりと同じ色を放つ金色の瞳が優しく微笑み返す。
「これでやっと、マリンとふたりきりだな。」
「アクアちゃま!」
アクアの言葉にマリンは耳をぴんと立てて嬉しそうに返事をした。
アクアとマリンは祭りの音から段々と遠ざかり、リスタルの街を後にした。広い広い荒い土の広がる砂漠へと足を踏み入れる。夜のうちにできるだけ進む。
水晶の力は大地より、この地球より得ている。
リスタルの地を離れても、水晶の力は離れることはないのだ。
そして、アクアには
大地を通じてアメジの水晶と通じている、そう信じていたから、そのまだ見ぬ世界へと歩みを進められるのだ。
「アメジ、ありがとう。お前に会えたことは、俺の生涯の大きな宝だ。」
「マリンも!アメジちゃまのことわちゅれないでちゅ。
ちょちておねえたんも、チールも、みんなマリンわちゅれないでちゅ!」
マリンもアクアの胸よりリスタルの街へと振り返り、別れを告げる。
アクアとマリンは月明かりの下、新たな世界へと向かった。
「さあさあ祭りたるよ!タルもはじけるたる!」
祭りの音に心はやるタルは族長館の中でそそくさと準備をしていた。準備というのは身だしなみを整えるといったかんじのもの。
タルも乙女なので、キレイに毛並みを舌で整えながら、鏡を見て確かめる。
ジストはすでに祭りの場である広場へと向かった。
タルも急いで準備をしていた。
「これでやっとジストもゆっくりできるたる。」
ジストの身のことを考えるとタルもほっとする。もう一緒に戦えないことは寂しいのだが、それでもジストと一緒にいられることがタルの一番の幸せだからだ。
「最後にこれを整えて、と。」
タルはいつも身につけていたスカーフを首に巻きつけた。
これはタルのお気に入りだ。ジストに誕生日のプレゼントにもらったもので、タルにとって思い出深い大事な品。
長年愛用したせいでところどころほつれていたりするのだが、大事に扱っている。
「タルはジストが大好きたる。ジストとずっといられたら幸せたるよ。」
祭りが始まる前にタルはジストからサファとの婚約が解消となった事実を聞かされた。二人の間になにがあったのかは詳しくは知らないが、ジストが誰のものにもならないという事実はタルにとっては嬉しいことだった。
「ということは、ジストは誰とも結婚しないたるか・・・?
まさか間違ってアメジなんかとそんなことになったら・・・」
アメジのにやーとした顔がタルの脳内に浮かび、むぎゃー、ありえないたるよ!と一人キレて暴れどかっとテーブルの足に蹴りが入った。
ぱさり。
今のタルの蹴りの振動で、テーブルの上に置かれていたらしい紙切れがタルの頭に落ちてきた。
「ん?なんたるか?」
なにか書かれた手書きの紙切れは手紙のよう。
だがタルにはそれを読むことができず、でもその内容がなんだか気になった。手紙の端にマリンのものと思わしき、手形の印があったからだ。
「遅いわよガーネ!先に行ってるからね!」
通りを走るのは踊り子の衣装を身に纏ったパールだった。人並みの中を走っていくパールの後を追うガーネとチールはちょっと疲れた表情だ。
「はぁ、たく祭りとなると元気だなぁ。」
掌でオカリナをくるくると回すガーネの言葉にチールも頷く。
「そうそうオイラたち戦いで疲れているってのにさ。」
「まあラルド様は戦ってないから、元気有り余ってんだろうな。」
「マリンー、どこにいるんだろうなー。
おっタル!!」
向こうより走ってきたタルに気づき、チールが大きな声で呼ぶ。
「マリンはどこにいるか知らないか?」
チールが問いかけると同時にタルは口に咥えていた紙切れを突き出しながら
「こんな気になる物があったる、もしかしてマリンの・・・?」
タルより受け取った紙切れをガーネが読む。
不安げに見上げるタルと興味津々のチール。
そして二匹が知る衝撃の事実。
その手紙はマリンからタルに当てたものだった。思い出のことや感謝の言葉などがマリンの言葉で綴られ、そしてアクアと共にリスタルを旅立つことが書かれていた。
それを知ったタルとチールは愕然とする。
「そ、そんなマリン!!!」
タルは祭りのことなど忘れて妹を探しに走った。
「あっおい!」
「待てよタル!オイラも行く!!」
ガーネのもとを離れ、チールもタルの後を追い、姿を消した。
ガーネもチールたちのことは気になったものの、祭りへとパールのあとを追い広場へと走った。
寺院前の広場はジストたちの結婚式並、もしかしたらその時以上の人が集まり、大いに盛り上がっていた。
台座を囲むように踊り子である乙女達が舞い、水晶使いたちの奏でる楽器の音が包む。
祭りの音、祭りの匂い、今までと違う気持ちに包まれながら楽器を奏でるガラスだった。
ガラスのもとにガーネも到着し、中央で踊るエメラやパールに視線をやりながら祭りに溶け込んだ。
寺院前のテント下に陣取り、酒を飲みながら笑い声を上げるラルドの後ろを通りすがるサファ。
サファに気づいたラルドとその隣に座るジストは彼女に目をやった。
サファは祭り用の舞の衣装を身に纏っていた。
「おおっ、お前の舞いも久しぶりじゃ。」
嬉しそうに手を叩くラルドにサファが告げるのは
「はいそうですね。これが最後の舞になるから、おじい様、ジスト様、しっかり目に焼き付けてくださいね。」
にこり、と意味深な笑みを浮かべてサファはさらりと流れる風のように中央の台へと向かった。
サファの言葉の意味がわからず一瞬酔いがさめたように目が点になるラルド、不思議な顔して隣のジストを見た。
そういえば戦いのとき、サファはこういっていた。
「たしか、リスタルを離れると・・・、あの山を越えたいと、話していました。
サファは本当に、ここを離れるつもり、なんでしょう。」
ジストの言葉にさらにさらに目が点になるラルドは一呼吸置いて叫んだ。
「どういうことじゃ!?おいこりゃサファ!!」
ジストとの結婚がなくなったということもかなりのショックなのに、さらにリスタルを離れるなど。
ラルドはさらに酒を喰らう、もうやけっぱちだ。
サファの舞が始まると皆そちらに目が釘付けになる。
サファの巫女の舞い、これが見納めかと思うと、ラルドの目頭は熱くなる。
サファだってもう子供ではないし、なにより真面目に生きてきた娘。ラルドはかわいい孫娘の願いをかなえてやりたいと常々思っていた。それがジストと共に歩む道であったから、だが今のサファが挑もうとしているのはとんでもない道である。無謀ともいえる、とんでもない道。
とても笑って許せるものではない、だが、サファの幸せは自分の望みでもある。
大人しい性格ながら思い込んだら頑として一直線なところがあるサファ。きっと説得などできないだろう、そんな諦めもあり、ラルドの支えはエメラのみとなった。
ジストはそんなラルドの気持ちも察しながら複雑な想いでサファの舞へと目をやった。
美しく、そしてどこかすがすがしくも見えるその舞はサファの未来への明るい道が見えてくるようだ。
サファのそんな姿は嬉しくもあり、だが寂しくもあった。
一人取り残されていく、遠い過去に・・・・
ふとそんな思いにかられる。
ジストがはっとしたころ、サファの舞は終わっていた。
去り行くサファにエメラはエールを送ると、皆サファを称える拍手と歓声が起こった。
皆の興奮が少し落ち着いたのと同時に、エメラが大きな声で主張をはじめたのだ。皆なにごとかと注目する、特に若い男連中。
「みんな、エメラここで告白したいことがあるです!」
また皆の注目を集めるエメラに、ガーネたちも視線をエメラへと向けながらガラスと駄弁る。
「おい、エメラのやつまたとんでもないこと言うんじゃないだろうなー。」
かつてのあの時の騒ぎがガーネの中で蘇る。祭りの準備を行っていたあの日のエメラの主張。
皆のいる前で自分(ガーネ)のことが好きだと言って皆を驚かせたあの事件。
正直勘弁してくれな表情で顔をしかめるガーネに、ガラスが笑いながら、大丈夫だよ、と告げる。
「エメラちゃん、今はアクアさんが好きだって言っていたよ、だからガーネ君は心配いらないよ。」
それにほっと胸をなでおろしながら
「そうなのか、今はアクアさんブームなのかあいつ・・・。
でもかわいそうになエメラ。アクアさんついさっきリスタルを旅立ったんだよ。」
哀れむ目でエメラを見ながらそういうガーネ、それを聞いてガラスもエメラをかわいそうに思う。
「そうなの?エメラちゃんがっかりするだろうな。」
「皆聞いてほしいです、エメラは今新たな恋をしているです。
その人のことをみんなに知って欲しいです。エメラの自慢の愛の人です。だから祝福してほしいです。」
「アクアさんこの場にいたら災難だったろうな。」
「その人は、あそこにいるガラスさんです!!!」
「あははそうだね、ん?」
のん気に話していたガラスとガーネ、二人の周囲が静まる、それは一瞬のこと。
なにが起こったのかわからず目をくるくるさせているガラスのもとに突進してくるように抱きついてきたお騒がせ娘に、ガラスの脳はついていかない。固まる。
固まる、周囲も、そしてなにより固まるのは
エメラを愛して止まない、溺愛しまくりのラルド!
「えっえっ、エメラちゃん?」
わけがわからず身を固くするガラスに遠慮なく抱きつき、頬まで摺り寄せるエメラに周囲(主に若い男連中)の悲鳴に似たブーイングが沸き起こる。
困惑するガラス、エメラの行動が理解できない。
「エメラ気づいたです。本当の愛にやっと気づいたです。」
エメラはそう言ってガラスを見上げる、キラキラ恋する乙女は無敵モードで、周囲のブーイングなどエメラには関係ない。
ちょっと太めでお世辞にもかっこいいと言える容姿でないガラスと超美少女のエメラの組み合わせには納得がいかない者たちは興奮してさらにブーイング。
それを押しのけるようにして二人の前にきたパールとガーネが
「二人とも結構お似合いよ、あんなやつらのやっかみなんて気にしない!」
「そうそう、仲良くやれよ二人とも♪」
「はい、嬉しいです。こうしてエメラたちの仲は認められていくです。」
「パールちゃん〜ガーネくん〜〜」
若者達をものすごいオーラでフッ飛ばしながらかけてきたのは
真っ赤な顔したラルド
「こりゃーー、エメラーー、ワシは認めんぞ!!」
「わーーーっっっ」
エメラの登場で、サファの舞のときとがらりと空気は変わっていた。いろんな声が上がる中、多くは笑い声であった。
「よっしゃー、皆こんなめでたい夜は、おもいっきりはじけまくろう!」
エメラたちの後ろのほうからしたその声の主に一気に皆の視線が集まる。
「アメジ様!」
「アメジ殿!」
「アメジさん!」
いつの間に現れたのか、祭りの舞台の中心に現れたアメジ。
口にはもぐもぐとなにかを噛んでいるよう、片手に持ったドリンクを掲げながら、盛り上げるように声を上げる。
「ラルじい無礼講ってやつ、無礼講!」
「アメジ殿、ワシは傷心しておりますわ。どうか慰めを
その尻を!!!」
嘆きのラルド、さらなる救いをアメジの尻に求める。
「アメジ様!聖乙女さま!!」
どどっとすごい勢いの人の波にラルドは押され、アメジへと近付けず、不愉快な声を上げ顔をさらに赤くしていた。
そんな様子をテント下の席から見ていたジストも思わず笑みがこぼれた。
アメジは一瞬にして人々の目をひきつける、強い存在感を放つ。
そして強さを与えてくれる。
はちゃめちゃだが、乱暴だが、アメジのそんな存在は特別にでかい。
眩しい祭りの灯り、ふと細めた目のせいなのか、ジストには一瞬ぼやけて見えた。
いつか、幻だったと思う日が来るかもしれない恐怖が、一瞬だけよぎった気がして・・・・・
祭りが終わり、一人リスタルの街の階段を上り、一番高いとこにきて、くるりと振り返り、街をぐるりとジストは見渡した。
小さな世界、このリスタルの街。だけど、大きくて、ここに生きる者にとってはすべての世界。
自分が守ろうとした、守ってきた、守るべき、この世界。
黒水晶との戦いは終わり、自分の人生の中でも大きな目標のひとつは達成した。だが、これからも族長としての仕事は残っている。すべてが終わりではない。
目を閉じて、さきほどのサファの舞を思い出す。あんなに自由に舞っていたサファは始めて見た。
どこかうらやましく感じた・・・・それは・・・・
「よおっジスト!」
自分の頭上より声がした、その相手はすぐわかった、アメジ。
「アメジ!」
アメジへと振り返ったジストの側に、階段を飛び越えながらアメジがきて、ジストにあるものを手渡した。
「これ、アクアからだよ。」
アメジが手渡したのはアクアからの手紙。
「アクア?」
ジストが受け取り、それを確認する前にアメジが伝える。
「アクアのやつ、もうリスタルを離れたって。」
「アクアがリスタルを?!」
今初めてジストは知った。アメジの口よりアクアがリスタルを離れたこと。マリンとともに砂漠を越え、外の世界へと旅立ったこと。
「そうなのか、アクアまで・・・。
私は、あいつに何一つしてやれなかったのに・・・・」
最後まで兄弟らしい会話を交わせず、離れてしまった。悔しく寂しげな顔のジストの肩をぽんと叩きながらアメジが言う。
「そんなことないだろ。きっとジストの存在ってのはアクアにとっていい刺激になっていたと思うよ。
まあ世の中馴れ合いの兄弟ばかりがいいんじゃないだろうしさ。
あいつ不器用だから、そういう気持ちの表現下手なんだよ。
そうやって、ジストに手紙残しているってことは、少なくとも気持ちがあったってことでしょ。
あいつは誰にも見送りとかしてもらってないと思う。そういうの苦手そうだしね。」
ジストはかすかに笑みを浮かべて、そして視線を落とした。
後悔は残る、自分勝手な感情かもしれないが、なにかしてやりたかった、そんな兄心は残るのだ。
「寂しそうな顔するなって、あいつはさ、大地の上で繋がっているってそう思っている。あたしへの手紙にそう書いてあったし。
あたしもそう思うよ。どこにいったっても大地で繋がっているんだ。
たとえ、何百年離れた世界でも、きっとね。」
「アクアが、そんなことを・・・・
そう、そうか。
大地の上で、繋がりあう、流れる水晶の暖かさはきっとどこにいても同じだろう。」
ジストは顔を上げた。それがリスタルの民の生き方。
この地を離れたアクアと、そしてあの山を越えるというサファ。皆それぞれの新たな道へと進みだした。
ジストはうらやましく思い、そして、自分が抱いてはいけない感情が零れそうになる。
そんな想いがふと口から零れる。
「私も族長を辞めようか・・・・」
その発言に一瞬目を丸くし、固まったアメジ、ぷっと軽く吹き出しながら
「ははっ、ジストあんたもそんな冗談言うようになったんだ。」
「冗談・・・ああそうだな、半分冗談だ、そして半分本気だ。」
真剣な眼差しでそういうジスト、くしゃりと笑顔を見せながら言葉を続ける。
こんなことを思うようになったのは・・・・
「アメジ、君のせいだ・・・・。」
祭りが終わってもうとっくに日付が変わっていた。
族長館へと戻ったジストが見たのは、自分宅で勝手に寝ている大神官の姿。真っ赤な顔で、涎を垂れ流し、大いびきをかいている。
はぁー、とため息をつきながらも、起こそうとしたが酔いつぶれたラルドは寝言は吐いてもちっとも目覚める様子もなく、奥の部屋へと運んで寝かせた。
「タル!?」
自宅で待っていると思ったタルの姿もなく、ラルドのいびきだけが響き渡る。
「どこに行ったんだ?タルは・・・」
タルもずいぶん祭り前はしゃいでいた。祭りの興奮冷めやらずチールたちのもとで遊んでいるのだろうか。
今日はもう休もう、そう思ってジストが戸を閉めようとした時、ラルドがううーん、と唸りながら身を起こした。
「あっ、ラルド様!」
「アメジ殿は?」
半分寝ぼけたような目のまま問いかけるラルド
「アメジが、どうかしたのですか?」
「アメジ殿は、どこにもいかんじゃろうな、サファのように。
ワシは夢を見とった。
アメジ殿が、大地の中に消えていくさまを・・・・
アメジ殿は、消えてしまうんじゃろか。アメジ殿は聖乙女・・・・むがぁ・・・・」
再びんがーといびきを上げ眠った。ラルドの手から本がどさっと落ちた。
ジストがそれを拾い見てみると、それはオルドの本だった。
なにげなしにぱらりとめくったそこには、アメジの行く末が書かれていた。
「かっこよく、姿を消し、新たな世界へと、向かった・・・・」
?
一文を見ただけではよく意味がわからなかったが、そんな内容だった。
その夜、ジストは夢を見た。
アメジが砂煙と共に、姿を消し、このリスタルから去ったという、そんな夢。
「夢・・・か・・・・」
夢、夢のはずなのに、なぜか胸騒ぎがして止まなかった。
ジストは気がついたら外へ飛び出していた、寝起きのまま。
まだ早朝の、早すぎる時間に。
水晶神殿、そのほうへと、足は向かった。
アメジは山道を歩いていた。そのてにあるのはドクロ水晶と、そして自分の身より生まれた紫に光る宝石。
朝日を受けてきらりと光るそれをきゅっと握り締め、アメジは例の場所へと歩を進める。
水晶神殿
アメジにとって終わりであり、始まりでもあったその場所。
なぜここに来たのか
アメジもまた夢を見ていた。それはオルドが出てくる内容で。
黒水晶を倒して有頂天のアメジを「まだまだかっこいい生き様にはほど遠い。」とバカにされ笑われるというアメジにとってかなりムカッとくる夢であった。
そんなアメジは文句言いたい気分もあり、水晶神殿へと足は向かった。
ここは100年後のリスタル、オルドの魂もすでに浄化して留まってはいないし、青水晶もすでに力を使い果たしている。
なので来るだけムダなのだが
それはどうでもいい、とにかく文句たれたかったのだ、頑張ったかわいい娘を褒めるどころかバカにするクソオヤジに!
たとえ夢でもムカツクことはムカツク、そんな単純アメジは神殿に来て、すうっと息を吸い込んだ、その時
「!!!???なっ」
アメジの手の中の紫水晶が激しい輝きを放つ、まさか
「まさか!?」
激しい光がアメジの体を包む、大きな光は神殿内を覆うように広がりアメジの体は見えなくなるほど輝きの中で埋もれる。
ものすごいエネルギーを発しているそれを放すこともできず、アメジは光の海の中。
まさか、あたし、この紫水晶の力でどこかに飛ばされるのか?!
でもオヤジがいじった青水晶とは別物だろうに、でもまさか。
混乱するアメジを呼ぶ声が聞こえた。
「アメジ!?」
光の中でも、そこにきたのは誰かすぐわかった。
「ジスト!?バカ来るな!!」
ただ事でないことを感じているアメジはジストに離れろと叫んだが、逆に手を伸ばすジスト
「アメジ、だめだ行くな!!」
「バッ、や、やばい、ジスト逃げ・・・・うぁっ」
眩しい光が一瞬神殿から溢れそうになり、すぐに光は小さくなり神殿内はしんとした空気が戻った。
そこにはなにもなかった、ジストの姿も、アメジの姿も、紫の宝石も。
エピローグへ もどる。