エピローグ
黒水晶との長く激しい戦いの歴史の幕は降り、リスタルの民に平和な時が訪れ、穏やかさとさらなる活気によって元気な空気が溢れていた。
あの祭りの夜、マリンを探して街を飛び出したタルとそのタルについていったチールは半日後、おなかをすかせながら一度街へと戻り、再びマリンを探しに行こうとしたときに、ジストも行方がしれずとなっていることを知り落胆する。
タルはジストを探して街や周辺の山や遺跡、いける限りのすべての場所を捜索した。
そんな日々が何日も過ぎ、ジストが見つかることはなく、タルの寂しく辛い日々は過ぎていった。
自分の意思で出て行ったアクアやサファ、そしてだれにもなにも告げず、突然姿をくらましたのは族長のジストと聖乙女アメジ。
タルだけでなく、リスタル中の人々がふたりを探したが結局見つかることはなかった。
族長不在の日々が長く続き、一ヵ月後には代理の者が務めていたのだが、その一年後には族長の弟であるガーネが族長の任に就くことになった。
ジストに比べるとどうも頼りなさげなガーネだったが、周囲のバックアップとともに、妻のパールの支えもあり、族長の任をこなしていった。
ひとりぼっちになったタルはガーネのもとで世話になっていたが、毎日のようにジストを探しては落ち込む、そんな日々だった。
ジストがいなくなってからは、タルは別人のように落ち込み塞ぎこんだ性格になってしまった。
そんなタルを勇気づけたのは、昔からのケンカ友達であるチールだった。
そんな二匹は同じ時を家族として過ごすうち、お互いを強く想い合うようになり、数年の後結ばれ本当の家族となる。
ガーネの三人の子供達と、タルが産んだ五匹の子で族長の家は大家族で毎日慌しい賑やかな声で溢れていた。
ガーネの友人のガラスは水晶使いを止め、菓子職人になり店をもつ。
彼はお菓子のおじちゃんと子供達に親しまれ、ガーネとは家族ぐるみで親しい関係は続いていた。
ガラスは20歳の時に知り合ったひとつ年下の家庭的なおっとりとした女性と結婚。ひとり息子と共に菓子店を営んだ。
ラルドはサファとジストがいなくなってからは少し落ち込むような表情を見せはしたが、あのムダに有り余ったパワーは健在で、弟子であり族長であるガーネをビシバシしごきながら生涯現役を貫き通した。
そのラルドの後を継いで、次期大神官の任に就いたのはラルドの孫娘のエメラであった。
黒水晶を倒した後のあの祭りの夜に、周囲を騒がせたエメラの突然の告白からガラスとエメラは付き合うことになったのだが、心変わりの早いエメラは一年も経たない間にすぐに別の相手を好きになってしまい破局。
それから何度も恋の噂の絶たない日はなかった彼女だが、ラルドの後を継いで30歳で大神官となり、生涯独身を貫き、弟子の育成に人生を捧げた。
アメジが飛ばされた100年後のリスタルの世界はアメジ不在でも時は流れていく。
アメジの名は「紫水晶の聖乙女」としてラルドの書物に残された。
そして、黒水晶を倒した「紫水晶」はアメジとともに消え、その存在は時を経て幻のような存在となっていった。
「・・・・・・う・・・・・・・」
ジストは気を失っていたらしく、顔の下に地面があった。地面にうつぶせていたのだ。
ゆっくりと身を起こす。
「・・・・ここは・・・・?」
体を起こし、目をこする。見渡せば後ろにはそびえる山。
殺風景な景色。
「たしか、私はアメジを追って・・・・」
アメジを追って、水晶神殿へとやってきたはず。
でもそこは神殿などではない。そしてアメジの姿もない。
あの時、アメジを包むような眩しい光があって、アメジに手を伸ばしたが、その手は届かず共に光の中に飲み込まれたのだ。
ジストは立ち上がり、ぐるりと見渡した。
ここはリスタルなのか?
見える風景はリスタルの大地に似ている、でもどこか違う。神殿らしき遺跡は見当たらない。
どこか違和感を覚えるジストははっとする。
「まさか、青水晶の力のように、どこかに飛ばされたのか?」
動こうとしたジストは急に目眩を感じ、膝を突きながら倒れこむ。
自分の身になにが起こったのかよくわからないが、とてつもない疲労感が襲う。
再び地面に顔をつけ、目を閉じかけたジストの頬にある感触が、じょりっとした生暖かいそれは
「みゃっ!」
ジストが目を開けるとそこには青い毛並みの見たことない幼い聖獣がいた。
「君は・・・?
!?それは」
ジストが驚いたのは、その聖獣の首元にあった輝くもの。
それは見覚えのある、あの力強き輝きを放つ
「紫・・・・水晶・・・?」
「アメジストーンみゅ!」
「えっ?」
顔を起こそうとしたジストは再び強い疲労感に襲われ、また意識が遠のいていった。
あの聖獣の言葉が気になりながらも・・・・
耳をぴーんと立てなにかを感じ取ったその聖獣は走って山道を下っていく。
その聖獣は山道の下にいた存在に飛びつきながら
「見つけたみゃ!あたちの水晶と合う存在、発見みゃよ!」
ぴょんと飛び降りて、案内するように再び山道を登る聖獣。その後を追うその存在は、聖獣が向かった先にいたジストを見つけて声をもらす。
「こんな偶然ってあるのか。この一年、アンタがどうなったか心配していたけど、同じ時に飛ばされていたなんてさ。」
その声にジストの意識は再び蘇り、驚いたように目を開け顔を起こす。
その先にいたのは・・・・
「アメ・・・ジ・・・?」
自分へと歩み寄るその存在、あの紫水晶の聖乙女
「さあ、新しいアメジ伝説の始まりだよ!」
アメジスト 完。 もどる。