第63話へ 第64話へ 第65話へ

第63話

水晶結晶化の儀式を実行することとなったアメジたち。

それが決まった翌日、早速現れた黒水晶へとアメジたちは挑むことになる。
街を出た先の山の広場にて、黒水晶と戦いながら、アメジは毒を直接受けなければならないのだ。

いつものように安全地帯から檄を飛ばしながら、戦いを見守るラルド。
アメジとサファが次々と線を描いていく中、ガーネとチール、ジストとタルのコンビが攻撃のモーションへと。
まだ戦いと水晶の扱いになれていないパールはエメラと交互に巫女の役目を果たしている。ちなみにパールのドクロ水晶はアメジがラルドからもらったものを譲り受けたもの。
アクアとマリンも戦っていたが、アクアの目線は黒水晶の動きよりも、アメジのほうを気にしていた。
そんなアクアを、ジストも気にしていた。タルに水晶を放ちながら、その合間にアクアの様子をちらちらと確認していた。

「俺は反対だ。」
昨夜のアクアが自分に発した言葉が、アクアのあの強い目がジストの中に強くあった。

たしかに危険な儀式だ。ジスト自身それを目の当たりにしてよく知っているつもりだ。
最初は反対していた。だが、今は
アメジを見ていると、アメジならばと
そう強く信じている自分がいる。

私は、この儀式を成功させたい。
絶対に邪魔はさせない。
そう思うジストは、アクアの動きにも注意を払っていた。


(ワザと毒を受ける。か)
アメジはそう思いながらも、黒水晶が近づいてくるたびに、反射的に素早くかわしてしまう。

毒をうける。
ただむやみに近づいても、鋭い嘴に切り裂かれたりしてしまえば元も子もない。
攻撃は確実にかわす、そんな中毒の息をうける。
けっこう簡単にいきそうにはなかった。

黒水晶もアメジに迫って来るときは、肉体を傷つけるような攻撃ばかりしかけてくる。鉤爪で、頭突きで、嘴で、翼で叩きつけるように。
基本的なアタックは体当たりのようだ。毒の息はなかなか吐いてこない。
黒水晶はアメジには外傷を与えたいらしい。
チャンスをうかがいながら、アメジはその数々の攻撃からかわしつつ、ドクロに手をあて、水晶の線を描いていく。

「むう。なかなか毒を吐かんようじゃ。アメジ殿、上手くいくんじゃろうか。」
岩陰から不安な顔で見守るラルド。

「こんな攻撃、アメジ様には当たらないんだよ、黒水晶!!」
黒水晶の攻撃をなんなくかわしながら、アメジは挑戦的に黒水晶に向かって吐く。
大地へと足をついた巨大な黒い悪魔は、アメジと睨み合うように立った。
黒水晶もアメジに攻撃が当たらないことに、少なからずイラつきがあるようだ。不気味に光る赤い目がアメジを睨み捕らえる。

「ギギ・・・」
そして黒水晶の巨大な口がアメジを前に開かれる。
ついに来る!
ぐっ。アメジも覚悟を決める。

受けてやるよ、このアメジ様は・・・

「アメジ!」
アクアはアメジに向かって走り出した。

「ぐっっ!」
だがすぐにうしろから飛び掛るようにジストがアクアを地面へと覆いかぶさるように押さえつけた。走った勢いのまま、アクアは地面を滑るようにこけた。
自分に覆いかぶさり、動きを封じているジストを振り向き激しく睨みつける。

「放せ!邪魔をするな!」
攻撃的なオーラ全開で叫ぶアクアを押さえつけながら、ジストは強い目で

「邪魔はさせない。アメジの邪魔はだれにも、な。」

「くっ」
いらだちながらも悔しそうな表情を見せたアクアの側でマリンの心配そうな声がした。
地面に伏せながらも、アクアの感情的な言葉がジストの耳に入る。

「アメジに、なにかあったら・・・俺はアンタを絶対に許さない。」
顔は見えないが、ギリギリと悔しそうなアクアが感じ取れた。ジストはただ静かに頷いた。

そこにいただれもが、唾を飲み、息を止め、見守った、その瞬間を。

黒水晶は巨大な口を開き、自分の前に仁王立ちになっているアメジに向かって息を吐いた。
瞬間ぶわっとアメジの周辺の空気が黒く濁った。

「むっ、今じゃサファ!」
ラルドがアメジが毒の息を受けたのを確認すると同時に叫んだ。
すぐにサファが線を描いて、ガーネたちが攻撃をしかける。
チールやタルのアタックを数度受けた後、黒水晶はぶわり、と激しい風を巻き起こしながら飛び去っていった。

黒水晶が去ったのと同時に、アクアの上からジストがどいた瞬間、アクアはアメジのもとへと走った。

アメジはしばらく立っていたのだが、アクアがアメジの元へと走りよる直前、「へっ」と小さく声を漏らしながら、大地へと沈んだ。

「アメジ!」
アクアの悲鳴にも似た声。アクアがアメジに呼びかけるが、アメジの目は閉じたまま、だがその手にはしっかりとドクロ水晶は握られていた。


戻る。

第64話

うー・・・・やべぇ・・・

マジで気持ち悪すぎだ・・・・、うー・・・うげぇ・・・

なんかもう世界がガンガン回っているし

なんなんだよ、コレェ・・・ううう、本気で気持ち悪い


『よお、アメジ、なさけねぇ面してやがんな。』

この・・・ムカツク物言いは・・・オヤジ!!!

『おお、まだ元気余っているみたいだな。』

なに言ってんのさ、どこが・・・あたしマジで、かなり辛いんだけど

てか、体が、感覚が、なんか変なんだよ。

あたしいったいどうしちゃったの?



そうだ、黒水晶の毒を受けたんだ、それで、意識が遠のいて・・・

まさか、あたし・・・

『ああ、残念だったな、アメジ。』

マジで?オヤジと話しているってことは、あたしもう

死んじゃったっての?!

『アメジ・・・』

んがーーーっマジであたし負けてしまったの?
死んでしまったの?!

かーーーっあたしの青春返せ!二度もムダにしちまったじゃねーかよ!!むきーーーっ

『アメジ、早とちりしやがんな。


まだ死んではいねーよ。』

へ?

『お前は今、その一歩手前にいるんだ。

今お前の体は生きるか死ぬか、そんな状態だ。』

マジで?なんだ、脅かすなよ。

『バカのん気言ってんなよ。どちらかといえば死のほうに傾いているようだ。』

えっ、じゃあ。あたしもうじき・・・死・・・

『ああ、このままいけばな。』

マジで?

んな、どうすればいいのさ?

『精神力だな。今お前の魂は体から離れてしまっている。
だから余計に肉体のほうが弱っていってるんだな。

精神力の強さは水晶使いとしての強さにも繋がっている。

アメジ、すぐに肉体に戻るんだな。』

戻るったって、どうすれば

『気持ちだ。黒水晶を倒したい、リスタルを救いたい、かっこいい生き様を見せてやろうって気力だ。』

黒水晶を・・・そうだ、あたしは水晶結晶化の儀式を・・・

だけど、戻れば、苦しみに耐えなきゃいけないんだよね。

楽して生きる、それがすべてだった。

あたしあんまり、楽してないじゃん。

なあ、オヤジ、このままいれば・・・もしかしてあたし楽になれんの?

『楽にはなれるぜ。だが、かっこよくはねぇな。』

は、オヤジはそればっかだな、娘が苦しんでいる姿見てもどーってことねーってか?


ねぇ、オヤジ。

かっこいい生き様ってなんなのさ?


戻る。

第65話

「アメジちゃま・・・」

ベッドの上に横たわり、いまだ意識の戻らないアメジの枕元で心配そうにアメジを見守るマリンと、横でずっとアメジを見守るアクアの姿があった。

黒水晶の毒を受け、アメジは倒れずっと意識を失ったまま
いくら強い水晶を持つアメジであれまともに黒水晶の毒をその身に受けたのだ、いくらアメジでも・・・

そんな想いからアクアはアメジの側を離れられずにいた。

このままアメジが目覚めなかったら・・・俺は・・・

何度も何度もその不安に押しつぶされそうになる。
アメジがいなくなる。
アクアにとってこれほど考えられず、恐ろしいことはない

「アメジ、死ぬな。

お前が死んだら・・・俺は・・・。」

アメジが倒れてから、もう一日が経過している、それからずっと看病を続けていたアクアとマリン。アクアの表情にもかなりの疲れが見える。だがアクアは瞬きさえ行う余裕などない、一瞬でもアメジから目を放せなかった、不安でたまらなかった。
ずっと自分に付き合っている幼いマリンを気づかい、休むことを勧めたが、マリンは首を振り

「マリンもアメジちゃまめじゃめるまでちょばにいるでちゅ。

おうえんちゅるでちゅ。」
枕元から小さな体でアメジを励ます言葉をかけるマリン。


「アメジのやつ、まだ寝ているたるか?」
アクアの背後から声がした。

「おねーたん。」

部屋の入り口に立つのは、タルとジスト。

「ふん、えらそーなこと言っといて、またグーたらしすぎたるよ、こいつは。」
憎まれ口をたたきながらも、タルはとっ、とジャンプし、マリンのすぐ隣へと降り立った。

「マリン、お前はもう寝るたる。お子ちゃまは夜更かし厳禁たるよ。」

そう言いながら、タルはマリンにじょりじょりと毛づくろいをしてやりながら、早く寝ろ。とお姉さん節を発揮する。

「みゅっ、でも。」

「アクア、お前もだ。あれから一睡もしてないんだろ?

アメジのことなら大丈夫だ。早く休むんだ。」
ジストが後ろからアクアに言う。
アクアは背を向けたまま

「俺は、アメジの側を離れたくない・・・。」

声の調子からもアクアの疲労具合が感じて取れた。

「だめだ休め。アメジが目覚めたら儀式を行わなければならない。
お前が倒れてしまえば、儀式は行えなくなるんだ。

アメジの行為をムダにする気なのか?!」

アクアはアメジを心配している気持ちは、ジストにも痛いほどわかる。だが、ジストにとってもアメジにとっても、このリスタルにとっても水晶結晶化の儀式を成功させることがすべて。
アメジが命を懸けたこの行為を、絶対成功に導かねばならない。
それは族長としても、ジストとしても強い想いがあった。
儀式の担い手のひとりであるアクアが欠けてもダメなのだ。

素直に従わないのなら、力づくでも連れて行こうとさえ思った。

「アクア!」

「アメジが・・・死ぬかもしれないんだぞ・・・・こんなに、弱ったアメジなんて見たことあるか?

アンタは・・・アンタは平気なのか?!」

涙で詰まる言葉で、アクアは立ち上がりジストを睨みながらそう言った。
充血したその瞳には強い感情の炎が灯っていた。

「私はアメジを信じている。

アメジは必ず戻ってくると。アメジは死なない。」

真っ直ぐな目でアクアを見るジストのその瞳には強い感情があった。
ジストの瞳には恐れなど微塵もない。
アメジを失う不安で壊れそうなアクアとは対照的に、力強く揺ぎ無い強い心であるかのように・・・。

アメジが意識を失っていたその数日間、アクアたちにとっては気の遠くなりそうな長い時間を感じていた。
その間、黒水晶が襲ってきても、アクアとマリンは戦いにはゆかず、アメジの側に付き添っていた。
数度、ガーネやサファたちも見舞いに来たが、アメジの様子に変化は見られなかった。

アメジはまだ、死んではいない。だが目覚める兆しも見られない。
アクアはずっと不安に襲われていた。このままでは先に心が死んでしまいそうだ。

アメジ、お前が死んだら、俺も一緒に・・・・

そう思いアクアが目を伏せた瞬間

「・・・・て・・・・ヤジ・・・」

ぽつりとなにかつぶやくような声がした。

「みゅっ!」
驚いたようにアメジの枕もとのマリンが声を上げる。

「アメジ?!」

「アメジちゃま!」

がばっ、とアメジに覆いかぶさる勢いでアクアとマリンがアメジを覗き込む。

アメジの眉間に、ぐぐっと深い縦じわができている。そんなものなかった。今できたのだ。つまり今アメジの眉間が動いたのだ。

「う・・・・」
呻くような声がアメジの口から漏れた。

「アメジ!!しっかりしろ!」

「アメジちゃま!めじゃめてくだちゃい!!」

「ん・・・ぎ・・・?」
アメジは口元をんごんごと動かした後、ゆっくりとその瞼を開いた。

・・・ぶしい・・・・

数日振りの光に、その眩しさに眉寄せるアメジ、そのアメジの目に最初に飛び込んできたのはアクアだった。

「・・・・に、泣いてんの?アクア」
以前より、力ないかんじの表情ながら、生意気な口元で笑みを見せるアメジに、感情が溢れるままアメジの胸元へと沈み込むアクア。

「うをい、どさくさに紛れてお前・・・・重いんじゃー・・・」
顔が伏せた状態であれ、上下する肩を見ても、アクアが泣いているのがわかった。

「アメジちゃま」
枕もとのマリンも涙でぽろぽろなのに、アメジの頬をペロペロと舐めていた。

「マリンたんv」



「アクア、いーかげんどいてよ。」
先ほどよりも声に力を感じるアメジの声。目覚めてアメジも少しずつ元の元気を取り戻してきたようだ。
アクアは身を起こし、複雑な表情で目を逸らした。
その口元は少し震えていた、そんなアクアの様子が気になって

「おい、どーした?」

「俺は・・・・悔しい・・・・」
そうつぶやくアクアの言っている意味は、アメジにはわからず

「なにが、だよ?」

「俺は、不安でしかなかった。アメジ、お前が死ぬかもしれないと、そんな不安な気持ちしかなかったのに・・・・」

アクアはジストのあの目が、悔しかった。
力強く恐れなく、アメジを信じていると言ったジストのあの目が

自分にはないジストの強さ、それが悔しかった

叶わないと思ったから


アメジへの想いは自分のほうがずっと勝っていると思っていた、だがアメジのことをわかっていたのは、自分ではなく

その悔しさが悲しかった。

力なく俯くアクアにアメジは

「アクア、あたしのこと本気で心配してくれてたってことでしょ?

それってすげぇ嬉しいよ。ありがとうな、アクア。」
にかっ。とアメジらしいスマイルを見せる。
アクアもかすかに笑みを浮かべた。

さてと。というとアメジはベッドから起き上がり、キッと顔を整える。

「さーて、アメジ様復活ときて、さぁ、とっとと儀式おっぱじめよーか!」

アメジ、目覚めてすぐ準備はOKだった。

待っていろよ黒水晶!

アメジ様の水晶で、倒してやるからさ!


つぎのぺーじへ   もどる。