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第60話

「アメジさん?なにを考えて・・・」
アメジの突然の発言に困惑の表情を浮かべるガーネに、
アメジは手の中の紅水晶をちらつかせながら、にやりと笑う。

「もしかしたらその娘、蘇るかもしれないわよ。」

「えっ?!」

ガーネはアメジに言われるまま、パールを布で包み、外から見えない状態の彼女を抱えると、アメジとともにアクア宅へと向かう。
リスタルの街の最下部に位置したパールのいた家から、街で高い位置にあるアクアの家までかなりの距離、続く階段はけして楽ではないが、アメジの言葉に唯一の希望を繋ぐガーネは弱音を吐くことなく布に包まれたパールを抱えたまま、階段を登っていく。
そんなガーネに近づいてくる声があった。

「ガーネ!何もってんだよ?どこにいくのさ?」
その声はチール。ガーネの足元でぎゃんぎゃん喚くそれにガーネは足を止めることなく答える。

「パールを・・・、アメジさんが、パールを蘇らせるって。」

「えっ?パールを蘇らせるって・・・。

ガーネ、いい加減に目を覚ませよ!そんなことできるわけないじゃん!ガーネ!うわっ」
まとわりつくチールを足で払いのけ、階段を登る主人をチールは悲しげな顔で見送る。


「アクア、ちょっといい?」
予告もなしにやってきたアメジとガーネに驚きつつも、アクアはアメジを招きいれ、なんだ?と訊ねる。アクアの横にはマリンがちょこんと座している。傷跡は残るものの、アクアは動き回れるくらいに回復していたようだ。
アメジがやってくるのには慣れているものの、ガーネも一緒というのは初めてのことだ、そして彼が抱える大きな荷物も。
アクアも直感で、アメジがとんでもない頼みごとに来たのではと予測する。

「そういえばアンタ言ってたよね?この紅水晶に死者を蘇らせる力があるって。」
一瞬アメジの言っていることがわからなかったアクアだが、ガーネが降ろしたその荷物から少女の顔が見えると、アクアにもアメジがしたいこと、しようとしていることがわかった。
アクアの顔色が変わる。

「アメジ・・・まさかお前・・・」
アメジ、ただこくりと頷いた。


この紅水晶には大きな水晶が秘められている。それははるか昔、リスタルの初代族長であり、水晶使いの創始者でもあるルビィの力強き水晶が今も尚宿っている、その赤い石。
その石の力は初めて、今までまったく歯の立たなかった、赤い目の黒水晶にダメージらしきダメージを与えることができた。
今のアメジたちにとって、希望の光ともいえる紅水晶。
だが、その石に秘められた力には限りがあった。
すでに何度か力を使ったその石からはかなりの水晶が失われ、色を失いはじめている。
それにこの紅水晶、すごい力を秘めているのだが、だからこそなのか、それともオルドが言っていたように結晶化された水晶は生み出した本人でないと使いこなせないからなのか、アメジには上手く使いこなせなかった。何発かムダ撃ちで、余計に水晶を消費してしまった。
限りあるこの紅水晶を使って黒水晶を倒すか、また新たに水晶結晶化の儀式を行い、アメジの水晶を生み出すか。
アメジの中にその二択があったのだが、ラルドの言うとおりならその儀式、巫女が四人いないことにはなりたたないものらしい。

「このこ黒水晶の毒を受けて死んだって聞くじゃない。

てことは、このこが生き返れば、かなりの水晶を宿した体で復活するんじゃ。で、このこを巫女とすれば、儀式もできるっと。

そしてアメジ様の水晶で、黒水晶を倒す!」

よし完璧!アメジ様のかっこいい生き様をオヤジのやつに見せつけてやるぜ!とガッツポーズかまして言うアメジにアクアは即答。

「ダメだ。」

「えっ」

「それはマリンが命がけでとってきたものなんだ。それに、やっとあいつを倒せる力を手に入れたのに、そんな、可能性に懸けるような」
「マリンはいいでちゅ!」
アクアとは違う目でアメジを見るマリンにアクアは「えっ」と驚きの声を出してしまう。

「マリン!」

「マリン、くろついちょたおちたいでちゅ。でもちんだひといきかえるならそっちのほうがいいでちゅ。」

マリンは子供ゆえになにもわかってない、だから簡単にアメジの言うことに賛成してしまうのだろう。マリンがどう言おうがアクアは死者復活のために紅水晶の力を使うことに頷くわけにはいかなかった。

だがこのアメジ、アクアの言葉に従うような女ではない。

「マリンちゃんの許可も下りたし、じゃ、やってみますか!」
おい!と一人反対の意思を示すアクアを無視して、パールをアクアのベッドの上に寝かせると、アメジ紅水晶を眺めながら、アクアに問いかける。

「ねぇ、死人を蘇らせるって、どうするわけ?」
それにアクアは「知るか。」と投げやりな返事をよこすだけ。

とりあえずやってみるか、とアメジ、ドクロ水晶を取り出し、紅水晶をドクロのおでこへとカチンと当てる。
黒水晶と戦った時と同じアクションだ。
使い方ってこれしか知らない。

アメジ、当てた紅水晶をドクロから離そうとすると、そこからぶわっとすごい量の赤い光が溢れだす。
今まで以上のすごい水晶にアメジは焦り、とにかくやってみれ!といった気持ちで溢れる赤い光の帯をパールの上へと投げかける。

「うわっっ!」
アメジその勢いで後ろへと倒れこむ。アメジの手から離れた赤い光の帯はベッドごと包み込むようにパールの上へと降り注ぐ。
衝撃があったのか、パールの体がどんと瞬間宙へ舞った。

「すごい今の水晶は・・・」
皆、目を丸くしていた。そしてアメジが最初に異変に気づく。

「わわっ」
アメジの手の中の紅水晶はみるみる黒くなり、ぶわっと粉のように砕け、アメジの手を伝い、床へと無惨な形で落ちていく。

「紅水晶今ので・・・全部の水晶を」
使い果たしてしまったのだ。アメジの掌に黒い粉がざらざらと残るだけで、赤い石は見る影も無い。

「パール!」
光が消えた後、すぐガーネはパールの元へと近づく。

うー、目覚めろ!目を開けろ!!
アメジ念を送る。これでパールが蘇らなければ、アメジの計画パーなのだ。
アメジ、アクアの痛い視線に耐えながら、パールが目覚めるのを
ただ祈った。

戻る。

第61話

アメジの手の中で、全水晶を使い果たし、黒い粉となって零れ落ちる紅水晶を目にし、アクアは凍りついた。

紅水晶が・・・。

ガーネはベッドの上のパールに必死に何度も呼びかける。
背後にアクアの視線を感じながら、アメジも心の中でひたすら祈った。
数分が経過し、アクアが深いため息をついた時、ガーネが握っていたパールの腕が、ぴくり。と動いた。

「パール?!」
瞼をぴくぴくと振るわせるパールの頬を、震える手でそっとなぞりながら、ガーネは再び彼女の名を呼ぶ。

「パール!」
その瞼はうっすらと開かれた。ぼんやりと、虚ろな瞳がガーネの目に映る。

「あ・・・・、ガ・・・ネ・・・?」
震えながらゆっくり開かれた唇からガーネの名が零れた。
その瞬間ガーネの目からは涙がぼろぼろと溢れ出し、ベッドの上で横たわったままのパールに、覆いかぶさるように抱きしめながら、号泣した。
もらい泣きしながら、マリンも「よかったでちゅ。」と喜んだ。
アメジも、ほっとしつつ、マリンと目を合わせ、ぐっと拳を突き出し、やったぜ☆ポーズを決める。

そんな中、一人こっそり部屋を出たアクア。彼の様子が気になりアメジも部屋を出る。

アクアの背中、怒っているんじゃなかろうか、アメジはそう感じてしまい言葉がつまる。

アクアの見つけてきた希望を絶ってしまったのは自分だ。アクアの気持ちを考えると今更ながら、うしろめたい気持ちに襲われそうだ。

「アクア、あのさ・・・」
アメジが声をかけた瞬間、背を向けたままのアクアから「フッ」という零れた笑いが

「お前のことだから、俺がなんと言おうと実行したんだろうな。」
そう言って振り返ったアクアの表情からは、怒りは微塵も感じられなかった。かすかにゆるんだその表情は、呆れたような、しかたない奴だ、と言わんばかりの軽い笑みを浮かべていた。

それにとりあえずはほっとしたアメジ。

「で、アメジ。お前の言ってた考えってのは・・・。」
すぐにギン。と真剣な眼差しでアメジを見据えるアクアに
アメジは力強く頷きながら

「儀式のことね。まずはあのこの様子見て、それからジストとラルじいに持ちかけてみるわ。」



パールは闇の中にいた。
母親との二人暮しの、質素な生活。
母の口からはいつもネガティブな言葉しか出ていなかった気がする。幼いながら、母を喜ばせようと思ったパールは祭りで見た踊り子の舞を覚え、母の前で舞って見せたりしたが、ネガティブな言葉が途切れることはなかった。
そんな母のネガティブな言葉を消し去ることができたのは、彼女の前に現れたひとりの男。
男といる時の母の瞳は輝いていた。自分がどんなにがんばっても見せてくれなかった笑顔を、男は簡単に引き出してしまった。

母が幸せになってくれることが自分の幸せだと思い込んでいた幼い日々。
だが母の幸せは自分の幸せではない。その笑顔を愛を一度もパールは受けることなく、母は男とともに姿を消した。

大人たちの残酷な言葉がパールの心に突き刺さった。
聞きたくない言葉は嫌でも耳を貫き、入ってきた。

乱暴されてできた子だとか
水晶のないできそこないの子だとか
親に捨てられた哀れな子だとか

あなたって不幸なのね。
優しく声をかけてくる大人はみんなそう言っているようで、苦しかった。

もしかしたら、不幸なんだと一番思い込んでいたのは自分自身なのかもしれない。

10歳の時、踊り子を目指す女の子グループに入った。
女の子達と夢を語ったり、踊ったりしている時は気が紛れたし、パールはなにより踊ることが好きだったから。
だがそんな日々も長くはなかった。
黒水晶による日々の被害、戦いの中酷い最期をとげたという巫女の話を聞くたびに、少女たちの中で強い憧れの思いは薄れていった。
ひとり、またひとりとグループから抜けていき、気がつけばパールだけになっていた。
中には巫女としての修行ではなく、祭りで舞うだけのただの踊り子になりたいと踊りを続けていた少女もたくさんいたが
パールは巫女になりたい憧れを捨てられずにいた。

なぜ巫女になりたかったのだろう
パールの母は巫女になりそこなった踊り子だった。
幼い頃から、母の想いを叶えたいという気持ちが強くあった。
自分が巫女になればきっと母も喜んでくれるかも。
巫女になるには踊り子から、そんなことを聞き、祭りで踊りを見ては必死で覚えた。

ある日、踊り仲間の少女から「水晶のないパールはどんなにがんばっても巫女にはなれない。」と言われ絶望した。
それしか見えてなかったパールは、唯一目指すべき道を絶たれ、途方にくれた。
その時、初めてガーネと出会ったのだ。
パールはガーネを一方的に知っていた。けっこうな有名人だったから。
水晶使い見習いの中で特にめきめきと実力を伸ばしている有望株だと注目されていたからだ。
そして自信満々、むしろ過剰気味のポジティブな性格も注目される要因だった。

最初に声をかけてきたのはガーネのほうだった

「最近踊らないんだな?スランプなのか?」
パールは驚いた。
ガーネも一方的に自分を知っていたようなのだ。
実際は初めまして、なのにずっと見知っていたような口ぶりで話しかけてきた。

「なんでそんなこと知って・・・」

「いつも見てたからさ、一生懸命だなーって。

なんか、他の子と違うんだよ。感じるものがなんか、

オレと似ているなって。」

一瞬彼の言っていることがよく理解できなかったのだが

「ほら、最近あれじゃん。真剣に巫女の修行を続けている女の子いなくなって。
そんな中、ずっと見てて感じたんだ。

オレと同じ熱いもの持っているよなぁって。

オレも父さんみたいなリスタル一の水晶使いになるっていう夢に進んでいるからさ。」

真っ直ぐな、迷いの無い瞳はパールに笑いかけながらそう言う。

「同志ってやつだな。」


きっとその時からだ。
あたしはガーネと本当の同志になりたくて、踊ることを、夢見ることを続けられたんだ。
その時からずっと・・・ガーネがあたしの希望、支えだったんだ。

パール!

闇の中で聞こえたその声のほうへと、パールの魂は進んだ。
その声の先に、差し込む光に

「ガーネ?」
ぼんやりと、少しずつ蘇る世界。
目の前には涙でぐしょぐしょの、だけど嬉しそうな表情のガーネの顔。
それを夢だと思っているからこそパールの口から素直な気持ちが零れる。

「ガーネ・・・あたし・・・ずっと、ガーネのことが・・・」


パールの回復を知り、アメジはアクアとともにラルドのもとへと向かう。
この時、まだアクアはアメジのしたいことがよくわからない状態だったが。

寺院の一室にて、アメジとアクア、そしてラルドとジストが顔をそろえた。
そして二人に、粉々になった紅水晶を見せながら、事の成り行きを話した。

ラルドは顔を卓上にがばっと伏せながら嘆いた。

「なんということじゃ、たったひとりの小娘のために、希望をーー!」

「アメジ、本気なのか!?

本気で儀式を・・・?」
真剣な表情で、ジストはアメジの気持ちを確認するように

「当然じゃない。やるわよ!儀式っての!」
アメジの決意は固いらしい。
力強い、なにも恐れないその真っ直ぐな瞳にジストは飲み込まれそうな感覚になりながら、我に返る。

「アメジの気持ちが、そこまで強いのなら・・・・

私も儀式を行おう。ラルド様!」
ジストとアメジがラルドへと視線を送る。
二人の強い目にたじたじとラルドは負けそうになりながら

「族長がそういうなら、するしかないじゃろう。」
ラルドも承諾した。よっしゃーとアメジはガッツポーズの拳をぎっと握り締める。

ただそれを後ろで聞いていたアクアの心には、不安なものが渦巻いていた。

戻る。

第62話

ラルドに寺院の一室に呼び集められたのは
アメジ、ジスト、サファ、アクア、ガーネ、エメラ、パールの七人の水晶使いたち。
族長の許可が下りたということで、大神官ラルドの命で、行う運びとなった、水晶結晶化の儀式。

ガーネたちはなにが話し合われるのかよくわからないまま、こちらに集まった。
パールは水晶を宿した身で蘇ったとはいえ、巫女としてろくに修行をつんでいない新米であるし、エメラも巫女としてはまだまだ半人前である。
そんな二人がメンバーにいるというあたり、ラルドも不安な目で彼女らを見ながらも、しかたなしに、と進めることに。

儀式を知るのはこの中では、ラルドとジストの二人のみ。
実際その儀式に参加し、失敗、惨劇を体験している二人だけに、厳しい面持ちだ。

「なんとも心許無いメンバーじゃが、仕方あるまい。」
ふぃー。と息を深く吐きながら、ラルドが話し始める。

「水晶結晶化の儀式。ルビィの儀式とも呼ばれるその禁断の儀式は、今生存している者の中で、この儀式を知っている者は、ワシと族長の二人だけじゃ。

儀式の失敗で、ワシの孫娘が、あんなに惨たらしい最期を迎えてからは、二度と執り行われることを禁止したんじゃ。」

「お姉様が?!じゃあ、お姉さまが死んだのはその儀式のせいだっていうの?」
サファが目を見開いて、ラルドのほうへ
ラルドは「うむ。」と静かに頷いた。

自分の知らないところで行われていたというその儀式、一体どんな儀式なのか、不安な空気が流れる。

ラルドの口より、語られる水晶結晶化の儀式。
まずは、最初に結晶化を行う巫女が、黒水晶の毒を受け、自らの力でその毒を浄化しなければならない。

「ワザと毒を?」
「そんなの死んじゃうです!」
実際毒を受け、死の世界を彷徨ったパールは表情を凍らせる。

「つまり、じゃ。それを行う巫女には人並み以上の生命力、精神力が必要なんじゃ。」

問題なのはこの第一段階、ここにすべてがかかっている。

「そして儀式じゃが。
儀式には四人の水晶使いと四人の巫女が必要じゃ。巫女には結晶化を行う者も含めて、じゃな。

で、その準備のために今日は集まってもらったんじゃ。
準備をするのは、水晶使いのほうのみじゃが・・・・族長。」
ラルドからジストへと交代する。

「精霊召喚という特殊な曲を使うことになる。

アクア、お前は覚えているか?おそらく昔、父上に教わった特殊な曲があるはずだが。」

アクアは複雑な表情を見せながら「ああ。」と小さく答えながら

「嫌でも、覚えている、体が・・・。」
嫌な記憶でも蘇ったのか、表情を曇らせながら、そう答える。

「ガーネ、お前も覚えがないんか?

お前の母親がお前に託したと言ってはおったが・・・。」

ガーネはしばらく考え込んだ後「もしかして・・・」と思い出したような表情で

「人のいるとこで絶対に吹いちゃいけないって曲があったんすよ。もしかして、それのことすかね??

でも、すごく大事な曲だから、忘れちゃダメだって、母さんに言われた記憶が。
オレの、死んだ父さんから託された大切なものだからって。」

「ふむ、その曲は特別な曲じゃ。

先代族長は自分の兄弟と三人の息子に託したと言っておったからな。
今生きておる中で、曲を知っているのはワシと、お主ら三人だけで間違いなかろう。」

「てことは、死んだら代わりはいないってことね。」
とアメジが言ったと同時に
「ちょっとラルド様、今なんかさらりと気になる発言がなかったですか?」
身を乗り出し、ラルドへと確かめるようにガーネ

ん?なんのこと?とその場にいた他のものは一瞬そう思い、ガーネへと注目した。

そんなガーネに、「ちょうどいい機会じゃから」とラルドが答える。

「お前の母親との約束があったから、今まで黙っておったんじゃが。
お前もいつ死ぬかわからんしの、ほんとのことを教えてもよいじゃろう。

ガーネ、お前は先代族長の子じゃ。」

「は、はい?!」
その場にいた皆(アクア以外)も突然のラルドの告白に驚き、目を丸くする。
一番驚いていたのはガーネ自身であったが、混乱しているようにもあった。

「え、だって、オレの父さんって、リスタル一の水晶使いって、聞いて・・・、え?」

「ふん、リスタル一の水晶使い。お前の母親はウソなんぞついとらんかったろうが。
リスタル一の水晶使い、先代の族長のことじゃ!」

「本当なのですか?ラルド様それは。

ということは、ガーネは私の弟に?」
ジストも確かめるようにラルドに訊ねる。ジストもまったく考えもしなかったことだ。

「コニアさんが・・・。」
コニアとはガーネの亡き母の名だ。
思い起こせば、母が亡くなった後、父である族長を影ながら支えていた女性がいたことを幼い記憶の中に残っている。
公の場に、あまり姿を見せることがなかった、とても控えめで、そして慈悲深い女性であった。

「そう・・・だったのか。」
改めてジストはガーネを見た。ガーネはどことなく父親の面影があったのだ。
ジストは母親似、アクアは父親似、アメジが以前ガーネとアクアはどこか似ていると感じたのも気のせいではなく、ガーネとアクアは兄弟だったのだ。

「そっか、それでアクアと似ている気がしたんだ。」

「オレの父さんが、先代族長・・・。」
ガーネは遠い記憶をたどり寄せている。
幼い頃、何度か族長に声かけてもらったことがあったんだ。
オレはちゃんと覚えている。
父さんのこと、オレは知っていたんだ。

「いつまでボーっとしとるんじゃ、この小僧がっ!
わかったな、その曲じゃ。

使う楽器はなんでもかまわん。自分に一番馴染んだものでな。
今日は以上じゃ!

次の集合は儀式本番。

すべてはアメジ殿にかかっておる。」

ラルドの声で解散の合図となり、皆それぞれの住処へと戻っていった。


儀式、儀式とはそういうことか・・・
水晶結晶化の儀式、それをアメジが・・・

ワザと黒水晶の毒をその身に受け、それを浄化し、その儀式の力によって体内より結晶を生み出す・・・。
あの紅水晶のような、強い力を秘めた石を生み出すために・・・


その夜、ジストが本日の仕事を終え、寝床につこうとした時、館を訪れた者がいた。
それはジストにとって意外な人物の訪問。

「アクア?」
戸を開けるとそこに立っていたのは、アクアだった。
厳しい表情で、無言でジストを睨みつけている。
そんなただならぬアクアの気を感じながらも、平静を装うジストは、アクアを館内へと招き入れる。

兄弟でありながら、長年関わることもなく、再会した今も、ほとんどろくに会話を交わしたことはない。
こうしてアクアが自分の元を訪れることも、初めてだろう。

タルはすでにベッドで先に眠りについている。
ここにはジストとアクアのふたりきり。
シンとした夜の静けさと、無言の二人に、妙に緊張した空気が流れる中、口を開いたのは

「俺は反対だ。」
ジストにそう強く言い放つアクア。
ジストはただそんなアクアの目をじっと見た。
アクアの強い目は、ジストに強い敵意を向けているように感じる。

「あんな儀式、絶対にさせるわけにはいかない。」

「アクア。」

「アメジを犠牲にしてまで、アンタはこの街を、他の連中を守りたいのか?
黒水晶を倒したいのか?!」
白い髪の下から透けて見える金色の瞳からは、怒りの炎が見えてくるぐらい、アクアはジストに激しい怒りの感情を向けている。

「ムリヤリじゃない。それを望んだのはアメジなんだ。」
静かに、だけどどっしりとした口調でアクアへと答える。

「そんなことは、どっちだっていい。

俺は、絶対にさせない!絶対にアメジを、アンタの思うようには!」

「アクア!」
強く言い放ったアクアは眼光鋭いまま、ジスト宅を出て行った。

感情に鈍いジストにもわかった、アクアの想いに。

アクアがなにより強くアメジを想っていることに。

自分にあれだけの敵意を抱くほどに、アメジのことを・・・。

「そして、私はどう思っているんだ?アメジのことを・・・。」
アクアのその想いを知ってしまった今、揺らぐ心にジストは襲われそうになる。


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