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第57話
「んん・・・と
帰って来たのかな?」
100年前の水晶神殿で現代リスタルへと戻ろうと青水晶へと触れたアメジたち。
青白い光とともに目眩に襲われ、軽く体が浮いたような感覚のあとアメジは青水晶へと再び視線をやると
青白く輝いていたその石は黒く変色し、輝きを完全に失っていた。
「うわっ、石が!オヤジ?!」
アメジが呼びかけてももうその石からはオルドの声はしなかった。当然かもしれない、アメジたちはすでに100年先の現代のリスタルへと飛んできた後なのだ。
「戻ってきたるか?」
ジストをパチパチと瞬きしながら見上げるタル。
「そうかもしれないな。戻ってみないことにはまだわからないが。
もう完全に水晶を使い果たしてしまったようだな。
人体で結晶化された青水晶にこれだけの力があったなんて・・・」
まだぼうっとする頭を抱えながらジストは青水晶をまじまじと見つめた。
「そうだね。モンドの母さんが生み出したこの青水晶でさえこれだけの力があったんだ。
あたしが生み出す水晶の結晶はきっと、これの数千倍はすげー力を持っているに違いないね!」
そういうアメジにいつものようにタルが呆れる。
「その自信はどっからくるたるか?」
「よし帰ろう!ラルじいに水晶結晶化の儀式のこと聞かなきゃね!」
「アメジ、その儀式は・・・」
ジストの声など届かないとこまでアメジは駆けていった。
その後をギャーギャーと駆けていくタル。
言葉を飲み込みジストもその後に続いた。
「そういえば、こちらでの時間の流れはどうなっているんだろうな?」
アメジたちが寺院に着くと、ラルドはものすごい勢いでアメジの元へとドドドドという効果音とともに走ってきた。ムダなエネルギーだとアメジはしみじみ思った。
アメジがしゃべるより先に半泣きでラルドが
「アメジ殿!ワシはアメジ殿に2日間も会えずもう死ぬ寸前でしたぞ!さぁさぁ早くそのすばらしき尻をワシの目に・・・」
突進ラルドを両手で止めながらアメジ
「尻は止めぃ!
て、え2日たってたの、こっち…」
アメジたちが水晶神殿に向かってから、およそ2日が経過していたらしい。
「たしかに神殿に向かえとワシの頼みで行ってもらったのじゃが、いくら相手が族長とはいえ、夜を共にするなど・・・むむう、やはりワシが代わりにいけば・・・」
タルが呆れながら息を吐く
「タルも一緒なんたるけど。」
「むっ、アメジ殿!そ、それは?」
ラルドはアメジが持っているドクロ水晶が自分が渡した物と別の物だと目ざとく気づいた。
「ああ、これ、実は・・・」
アメジが言うより先にラルドひとりで勝手にわめく嘆く
「アアア、アメジ殿!ワシ以外の男からドクロを受け取るなど、アメジ殿!それは俗に言う二股!というやつですぞ!」
やかましいジジイだ、とアメジもタルも大いに呆れる。ジストは苦笑いするのみだ。
「それより、ラルじい・・・」
「ラルド様、水晶神殿でのことですが・・・」
アメジとジストはラルドに神殿で起こったことを話した。
それにラルドも真剣に耳を傾け、うむうむと頷きながら
「青水晶とな、でその石は?」
青水晶こそ黒水晶を倒せるカギでないかと思って訊ねるラルドだが、アメジは首を振った。
「あの石はもう完全に水晶を使い果たして、ただの黒い石になっちゃったよ。」
「なんじゃと?時を越えたことで力を使い果たしてしまったと?
なんということじゃ、やはりあの場には黒水晶を倒せる力が眠っておったというのに・・・残念じゃ・・・むむう。
と、なると・・・」
「無くなった物は新しく生み出せばいいんだよ。
水晶結晶化の儀式だよ、このアメジ様の体でね!」
アメジのその発言にラルドも目を丸くする。ラルドもその儀式を知る数少ないひとりである。アメジのそれに簡単に頷いてはくれなかった。
「アメジ殿、それがどれだけ危険な儀式か知っておるのか?」
「ジスト様!」
話を遮るようにアメジたちの前に現れたのはサファだった。
「サファ。」
「神殿に調べごとに行っていたって。」
「ああ、今そのことで・・・」
「ジスト様がいない間いろいろ大変だったのよ。アクアさんが・・・」
「へっ、アクア?アクアがどうかしたの?」
サファからアクアのことを聞いたアメジはアクアの家にと向かった。
アメジ、そのことを聞いたとき、嫌な汗が伝った。アメジがあんなテキトーなこと言ったばかりにアクアのやつがムリをしたんじゃないかと。アメジは走って急いでアクアの元へと。
「アメジちゃま!」
戸を開けるとマリンが走ってきて出迎えてくれた。
マリンはアメジを見ると飛びついてきて、丸い目をうるうると潤ませ振るえている。
そんなマリンにアメジはどきっとなる。
「アクア、まさか!」
アメジはアクアがいる寝室へと慌しく入る。
アクアのやつ、まさか、そんなに!?
アメジの脳内に今にも死にそうに青ざめているアクアの姿が浮かんだ。ムリの末死ぬ寸前か!?
「アクア!」
「なんだ?騒がしい。」
だがアメジが思っていたほどアクアは死にそうではなかった。
ベッドからわずかに身を起こし、痛々しい傷は目につくもの、憎まれ口をはけるくらいぴんぴんしていた。
ほっとしたアメジははー、と息を吐いた。
たく、紛らわしい。
「アメジちゃま、アクアちゃまちゅごいんでちゅよ!あかちゅいちょみちゅけたんでちゅ!」
アクアのベッドの上にぴょんと飛び乗り、嬉しそうにうるうると潤んだ目でアメジに言うマリンの声はかなり興奮したかんじだ。
「へ?あかすいしょう?」
よくわからず聞き返すアメジにアクアも嬉しげに頷きながら
「これでちゅ!」
マリンが棚の上に置かれていた赤い石をアメジの前に持ってきて見せた。
それは掌に収まるほどの小さな赤い石、純粋に赤というよりかはすこし黒ずんでいて古さを感じた。あの青水晶のような輝きは持っていなかった。
アメジはそれを手に取ってみた。
「!あ。」
その古い石からは水晶を感じた。
「それが紅水晶、初代族長ルビィの体内より生まれたとされる結晶化した水晶。」
「え、これが?ルビィの生み出した赤い石?」
気の遠くなる昔に誕生したと言われる伝説とも言える赤い石。それが今自分の手の中にある、なんだか信じがたい現実だが。
「それを使えば、黒水晶を倒せる。」
自信ありげに言うアクアだが、アメジはどうも信じられず
「うーん、たしかに水晶を感じるけど、でもこれが本当にルビィの石だとしても、結晶は生み出した本人しか本当の力を使いこなせないってオヤジも言っていたし。」
「ああだがルビィの石はルビィの死後も不思議な力が働いたという、水晶の無い者に水晶の力を与えたり、黒水晶の毒を浄化したり、人と聖獣の絆を深めたのもその石の力あってだと言われている。
そして俺自身手にして実感した。その石の不思議な水晶に。」
水晶使いの原点ともいえるこの石になにか運命めいたものを感じる。アクアの瞳は希望に満ちていた、マリンも同様だった。
「これが紅水晶、黒水晶を倒す力が・・・?」
水晶結晶化の儀式が頭にあったアメジだが、また別の道がアメジの前にと現れた。当然より楽できるのはこっちのほうだ、と思うわけだが。
アメジたちは黒水晶を倒す第一歩を踏み出した。
戻る。
第58話
「むむう、この石にそんな力が・・・?」
アクアより紅水晶を手にしたアメジはラルドの元へと、その石を携えてやってきた。
ラルドは未だに納得のいかない表情を浮かべ、石を見つめていた。
アクアの手柄など、死んでも認めたくない変なプライドがラルドにはあったのかもしれない。
「まあ、どんな力があるか実際は試してみないとわからないかもしれないけどね。
またアクアのやつにいろいろ聞いてみるよ。」
「アメジ殿!あんな小僧よりワシのほうが頼りになりますぞい!」
うるうると目を潤ませてアメジに迫るラルド、マリンのうるうるはかわいいがこのジジイのうるうるはかなりキモかった。アメジは引き引き
「いや、あいつもなかなか頼りになるとこあるって。
それにあたしにはこのドクロもあるし、今度は絶対に負けたりしない。」
アメジはトパーズよりもらったドクロ水晶を手に掲げ、誇らしく見つめた。ラルド、またそれに嫉妬しわめく。
「アメジ殿!ワシのドクロは!?」
「ラルじいのドクロもちゃんと持ってるよ!」
ラルドの相手はさすがのアメジもけっこう疲れる。寺院を出たアメジ、掌にある紅水晶を見てみるが、まだその使い方がよくわからなかった。アクアに聞いてみるかと思ったが、動けないほどの酷い怪我ではないものの、あまりムリをさせないほうがいいかもと思ったアメジ、もう少し日を置いてから頼りに行くかと考えた。アクアのやつ思い込んだらけっこう無茶をしそうだ、ああ、そこんとこがジストと似ているかもしれない、まったく逆に思える二人だったが。
アメジが歩いていると見覚えのある二人に出くわした。
それはガラスという巨漢の少年と、あの騒がし娘エメラだった。
どこかいつもと違う様子にアメジも気になった。
あのエメラがひどく思いつめた顔でガラスに話しかけていた。
「パールさんがあんなことになって、ガーネも・・・。
エメラどうしたらいいか、わからないです、ガラスさん。」
「エメラちゃん・・・、ボクも・・・わからないよ・・・。」
ガラスの表情もいつも以上に暗く沈んでいた。
「あっ、ごめんなさいです。ガラスさんだって・・・パールさんのこと・・・。」
「ボクが・・・ボクが弱かったから・・・だから、ビーズだけじゃなく・・・パールちゃんまで・・・ボクが・・・」
「うわっと!」
アメジのいたほうへと大きな体を揺らして走ってきたガラス、慌ててよけたアメジに目もくれずそのまま走り去っていった。去り際に見えたかんじ、泣いていたようだった。
「なにごとよ?痴話喧嘩?」
「あっ!アメジさま!」
エメラはアメジを目にすると、助けを求める子犬のように擦り寄ってきた。
「お願いですアメジさま!ガーネを元気付けてほしいです!」
この時アメジにはなんのことかまったくわからなかった。ガーネが今どんな状況なのかも、ただいつもとは別人のようなエメラの態度からもただ事ではないと感じ取ったのだった。
エメラに連れられアメジが向かったのはリスタルの下部のほう、寺院よりも下った先の東のエリア、そこのある小さな一軒家だった。その家の前でアメジが鉢合わせたのは医者らしき男。
「はぁ、参ったよ。死んだ人間を治せなんて、あっ、聖乙女様!
彼をなんとか説得しちゃくれませんかね、他にも患者待たせてるんで私はこれで。」
男は逃げるように通りを走っていった。
???
アメジは男の言葉の意味がよくわからず、とりあえずその家の戸をゆっくりと開いて中をのぞく。
そこにはベッドの前にうな垂れた様にイスに座ったままこちらへと背を向けているガーネの姿が。
ベッドの上に横たわっているのは青白い顔で眠っている少女が見えた。アメジにも覚えがあった、以前ガーネと一緒にいた踊り子だった。ただその寝顔には生気がなかった。
「ガーネ?」
部屋を覗き込んでいるアメジを後ろからくいくいと引っ張り、外へとエメラは連れていき、アメジに状況を説明する。
「パールさん、黒水晶の毒を受けたらしいです、それで・・・」
「黒水晶の毒を?じゃ、さっきの男が言ってたことは。
あのこ、もう死んで?」
アメジの言葉にエメラは力なく頷く、エメラもショックを受けているのか力ない表情だ。
「ガーネ自分のせいだって思い込んで責めてるです。ほんとはガーネ悪いわけじゃ・・・」
その時、アメジたちの方向にやかましい声が段々と近づいてきた。
「ガーネ!!!大変だよう!黒水晶が来た!!」
デデデデと走ってくるのはチールだった。
「あ、モッサリーノ!黒水晶って!」
チールはこくこくと頷きながら、家の中へと走って入る。
「ガーネ!黒水晶だよ!オイラたちの活躍をみんなに見せつけるんだろ!?」
だがチールの主人はその呼びかけに腰を上げない。
「ガーネ!!」
動かないガーネをそのままにアメジとエメラは戦いへと走った。
走りながら上空へと目をやるアメジの視線の先に巨大な黒い体の悪魔が羽ばたいていた。
「ギャアアアアーーー」
あの嫌な声を響かせ、飛んでいく悪魔をアメジは追う。
またいたる場所が破壊され、道が壊されていた。
スピードを落とさないアメジはそれを追いかけ、ついに街を出た。
すでにその先で、黒水晶を誘導するように動いているサファとジスト、タルの姿があった。
アメジの後ろからはラルドの声が。
「アメジ、さっさと来るたるよ!」
アメジに怒鳴りながら、ジストの水晶を受けるタル。
サファの描いた線に乗って攻撃を与えに行く。
「サファ姉さま、エメラも行くです。」
戦いの場へと走るエメラを見てラルドが叫ぶ。
「こらエメラ!ガーネのやつはどうしたんじゃ!
まったくあの小僧は怪我じゃゆうて、ガーネのあほうは。
肝心な時におらんとは、やはりあやつを一人前の水晶使いとして認めるわけには当分いかんな!100年はムリじゃ!」
ゆでだこのように怒るラルドにエメラは
「ガーネの分までエメラががんばるです!」
水晶使いと巫女は仕事が違うじゃろうが!と言うラルドに聞く耳持たずエメラは駆けていった。
実際巫女三人に水晶使い一人ではさすがにバランスがよくなかった。ジストとタルには休む間がないからだ。
それでも息を乱さず、バツグンのコンビネーションで次々とアタックを続けていく。
アメジも黒水晶を見据えて、ドクロを取り出し水晶を籠める。
アメジが手にしたのは、100年前のリスタルでトパーズより託されたドクロ水晶だ。
アメジの指がドクロへと触れる。
!!
今までとは少し違う感覚だった。なんというか、以前のものよりも滑らかにそして力強い水晶の線が描けた。
「トパーズ様!」
ドクロより感じる遠き過去のトパーズの暖かき水晶は時を越えたアメジへとさらなる力を与える。
アメジの描いた線へと乗るタル、攻撃を与えた後ジストの元へと戻ったタルは、いつも以上にアメジの水晶の力強さを感じていた。
「アメジ少しはマシになったるね。」
「ああん?なんだとタル!」
口喧嘩する余裕のある二人は、にやりと笑みを浮かべながら再び黒水晶への攻撃へとうつる。
「アメジさんの水晶、また少し大きくなっているわ。」
「むむう、なんじゃあのドクロは、なんかワシのよりアメジ殿の水晶により馴染んでおる気がするわ。」
しかめっ面で安全な場でその様子を見守るラルド。
いつも以上の手ごたえを感じていたアメジたちではあったが、日々水晶を強めている黒水晶のほうがずっと上だった。
タルの攻撃にも何度も受けていながら、まったくダメージを受けていない様子、さらにこちらをバカにするような笑みさえ浮かべているように見える。
くそっ、トパーズ様にもらったこのドクロで戦っているっていうのに、あのやろうこれっぽっちも痛がってねーし・・・くそっ。
その時アメジふと手にしたそれに気づく。それはアクアより渡された紅水晶。アクアはこれが黒水晶を倒すカギだと言っていたが・・・、使い方はわからない。
とりあえず、物は試し。アメジはその紅水晶を親指と人差し指で掴んだら、それをドクロ水晶へと当ててみた。
「!?うわぁっっ」
その瞬間、すごい水晶の流れをアメジは感じ、思わず叫んでしまった。
アメジそのドクロに当てた紅水晶をドクロより離すと、ドクロより、いや紅水晶からであろうか、今までに見た事が無い太く赤い大きな光の線が延びていた。
「すっ、すげぇ!!」
アメジ驚く、アメジ自身強くその力を感じたからだ。その古びた石に秘められていた巨大な水晶の力に。
その赤い光にアメジならずその場にいた皆が釘付けになっていた。
戻る。
第59話
紅水晶より延びる赤い光は眩く光りながらふわふわと宙を漂う。
アメジ、驚きから暫しそれを呆然と眺めていたが、黒水晶の鋭い気を感じ、気を引き締め戦闘モードへと戻る。
いつもと同じ感覚でいけばいいのかな
アメジはいつもと同じように、指の代わりに紅水晶で線を描いていく、それはいつもと違いより太く、そして赤く輝く光の道しるべ。
「おっしゃーいっけーー!」
アメジ翔りながら、上半身をねじるように、大きく振りかぶって、黒水晶へと赤い光を投げつけるように放った。
黒水晶、その赤い光に反応を示したように、巨体をびくりと振るわせた、その直後にその線に乗って突撃してきたタルを受け
「ギャアアアアアーーーー!!!」
激しく鳴いた黒水晶の体の首の付け根の一部分が少し抉れたような傷が見えた。タルの攻撃が効いていた。
その部分からはじわりと血が滲み出していた。
「すごいたる。今まで無い手ごたえがあったるよ!」
「ああ、すごい。いけるぞ。」
初めて赤目の黒水晶にダメージらしきダメージを与えることができた。ジストもタルも強い手ごたえを感じ、その手に力がこもる。
「すごいです、アメジさま。」
「ほんとうに、紅水晶の力、すごいわ。」
エメラとサファも感嘆の声を漏らす。
「さすがはアメジ殿!さあ、どんどん突撃あるのみじゃ!」
ジストはすぐにタルにと水晶をこめ、タルは輝きアメジの次の道を待つ。
調子のでてきたアメジも気合が入り、再び同じように紅水晶をドクロへと当て、自分の水晶の流れと紅水晶に込められている水晶を引き出すように、ぶつける。
「!」
再び赤い線が描かれるが、今度は先ほどよりさらに大きい、太い赤い線が水晶より引き出された。
「うっわっ」
アメジも予想以上の強い水晶に上手く制御できず、赤い光はアメジの手を離れ、暴走、黒水晶ではなく土壁にとぶつかり、光は土の中へと吸い込まれていった。
「び、びっくりした。」
紅水晶のコントロール、アメジが思っていたより簡単ではないようだ。
そんなアメジたちに黒水晶は向かってくる。傷を受けたとはいえあの程度の傷、黒水晶にとってはかすり傷程度。
傷を受けた怒りから、さらに敵意の篭った攻撃が襲い掛かってくる。
「きゃあ!」「エメラ!」
地面へと急降下してくる黒水晶の突撃から、サファはエメラを庇いながら、岩陰へと逃げる。
アメジは横っ飛びしながら、攻撃をかわし、再び紅水晶をドクロへとカチンと当て再チャレンジ。
「うっしゃあ!」
またすさまじい水晶の力をその体に感じながら、アメジは今度こそはと、至近距離から黒水晶に真っ直ぐな太い線をぶつける。
「バカアメジ!」
すでに走り始めたタルはその線に乗った瞬間叫んだ。
アメジのいる場所から一直線にと黒水晶の顔へと向かうタル。
黒水晶は大きな顔を右へと傾け、タルの突撃をかわした。その瞬間赤い線も宙に溶け込むように消失。
黒水晶はそのままアメジへと巨大な口を開け、その顔をアメジへと迫らせる。
「だああーー!」
アメジ、黒水晶の顔を蹴り上げ、宙へ舞い、攻撃をかわす。
黒水晶に睨まれ、慌てて紅水晶を使う。
「バカアメジ!直線はダメって巫女の常識たるよ!」
叫ぶタル。アメジ初めての紅水晶の力に焦っていたのかそんな常識もうっかり忘れていた。
黒水晶は直線の動きにはやたらと強い。攻撃は曲線、の動きを意識することはリスタルの水晶使い、そして巫女にとっては常識であること。
「見てろ、次こそ!」
アメジ再びチャレンジ、赤い線を描いて駆ける。それを追いかける光るタル。
赤い線は黒水晶を捉え、光の兵器タルは赤い光に乗り、わずかにその赤い光を纏いながら駆け、黒水晶の腹部へと直撃!
黒水晶は悲鳴のような声を上げ、山脈の向こうへと飛び去っていった。
「紅水晶・・・・、これが結晶化した水晶の力・・・。」
「紅水晶を使ったのか?!」
アメジは報告も兼ねてアクアの元を訪れていた。
アメジの話を聞いていたアクアの表情は突然焦った顔で、アメジの手から紅水晶を奪いとると
「ムダ撃ちしたと言っていたな?」
鋭いアクアの視線にアメジ一瞬どきりと額を汗が伝う。
「それ水晶の力はたしかにすごいけど、だから余計にコントロールしづらいというか・・・」
「結晶化された水晶に籠められている水晶には限りがある。
お前が戦いで引き出した分、すでに消費されてしまっている。」
アクア真剣な面持ちで紅水晶を握り締め、その中の水晶を確認しながら言う。
たしかにアクアが手にした時より、籠められた水晶は少なくなっていた。
「えっ、てことはムダ撃ちできないってこと?!」
アクアはそれに強く頷く。アメジは、たはー。と息を吐きながら頭を叩いた。それは失敗が許されない、かなりのプレッシャー。
でもたしかに、この紅水晶の力はあの黒水晶にダメージを与えられることができた。この力を使えば今度こそ、黒水晶を倒せる気がする。
だが、この紅水晶、アメジにもコントロールは難しかった。引き出す水晶の量の調整も上手くいかなかった。
「残りの力で、黒水晶倒せると思う?」
さすがにアメジも不安になってきた。アクアもはっきりとは言えなかったが、これこそが唯一の希望と信じるアクアはただ
「アメジを信じる。」としか言えなかった。
寺院へと戻ったアメジはラルドと紅水晶、そして今後の戦いのことについて話し合っていた。
あの戦いを見てからラルドの紅水晶に対する関心度も上がっていたのだ。紅水晶の力に希望を見る。
アメジはラルドに、アクアのもとで話したことを伝えた。
「なるほどのう、たしかに、水晶神殿の青水晶も水晶を使い果たしてただの石になったと言うし・・・。
この石も力が限られておるということか。」
そしてアメジにはルビィの水晶をコントロールできる自信もいまいち足りない。唯一の希望を兵器をムダにできないとなると、さすがのアメジも消極的になりそうだ。この石を取るために、マリンもアクアも命を懸けたと聞くと尚更だ。
その時、アメジが思い出したように浮かんだのは父オルドの言葉。
「水晶結晶化の儀式!」
アメジのその発言にラルドは眉を寄せ、首を振る。
「なんでラルじい、そんなに危険な儀式だから?」
「アメジ殿、それだけじゃないんじゃよ。その儀式にはある条件があるんじゃが、その条件を満たさんことには儀式はできんのじゃ。」
「儀式?
儀式って巫女が黒水晶の水晶を受けて、それを体内で浄化するってことなんでしょ?」
ラルドごくりと唾を飲み、真剣な眼差しでアメジを見ながら答える。
「それは儀式の中の一部じゃよ。
儀式には四人の水晶使いと、四人の巫女が必要なんじゃ、結晶化を実行する巫女を含めて四人。
儀式を行える条件が今は揃わんのじゃ。よってアメジ殿、現実儀式は不可能なんじゃ。」
「えっ・・・。」
たしかに、水晶使いはジスト、アクア、ガーネ、ラルドがいるとしても、巫女はアメジ、サファと一応エメラを含めても、足りないことになる。現代リスタルには戦える巫女が他にいないのだから、ラルドのいう条件が儀式に必要最低限なことなら、行えないことになる。
「その紅水晶とアメジ殿の力に懸けるしかないのう。」
ラルドアメジに希望の眼差しをきらんと向ける。
プレッシャー・・・。
結局儀式のそれ以上の詳しいことは聞いてなかったが
水晶結晶化の儀式、アメジが思っていた以上にややこしそうだ。
アメジ、ため息ながら通りを歩いていた。
「たしかに、この石はすごいよ。すごい力が秘められているのはわかる。
けど、正直、使いづらいんだよね。」
アメジ左手で太陽にと赤い石を翳してみる。光を受けて赤く反射するが、その石、最初に手にした時よりも黒ずんでいるようだ。この紅水晶も、水晶を使い果たせば、あの青水晶のようにただの黒い石になってしまうのだろう。
失敗できないよなあ、アクアのためにも。
でも、ムダ撃ちできないっていうプレッシャーが・・・。黒水晶のやつはまだそこまで弱ってはいないし、きっとあいつのことだ、あの程度の傷ならすぐに回復してそう・・・。
アメジらしからぬ不安が募りそうな時、アメジの目に映ったのは
生気が抜けたような力なくうな垂れているガーネの姿。
「ガーネ?・・・そういえばあいつ・・・。」
パールという少女が死んでから戦いにも姿を現さなかったガーネ。いつも一緒にいた聖獣のチールさえ寄せ付けない負のオーラを纏っていたその姿からはかつての自信家の顔は消えていた。
アメジの知るガーネとは別人のようなその彼に、アメジは声をかけ近づいた。
「ガーネ、あんたなんで戦いにこなかったのよ?
アクアのやつも怪我で出て来れなかったし、ジストだけじゃね。
せっかくこのアメジ様がこの紅水晶を使ったっていうのに
肝心な時にいないんじゃ使えないっての!」
「オレ・・・もうムリっすよ。」
「へ?」
「パールのいない世界で戦う意味なんて・・・オレには・・・」
どこを見ているのかわからない目で、そうつぶやくように言うガーネからは覇気どころか、生気さえ感じられないほど。
アメジにはガーネとパールの関係はよく知らない、だが、ガーネにとってパールはかけがえの無い存在なのだということは感じ取れた。
あたしがどうこう言って、立ち直れるようには思えないが・・・。
アメジが反応に悩みつつ立ち尽くしていると、アメジたちの後ろを二人の男たちが通り過ぎ、ガーネのすぐ後ろのパールのいたあの家屋へと入っていった。
それに気づいたガーネは血相変えて、その後を追った。アメジも何事かと後を追う。
男達はベッドに横たわったままのパールをどこかへ運び出そうとしていた。それをガーネは阻止する。
「おい、こらなにするんだ。」
「それはこっちのセリフだ!パールをどこへ連れて行くんだ!」
もう一人の男が掴みかかるガーネを抑えるように、仲間から引き離す。
「君こそいつまで彼女を晒しておくんだ。早く大地に帰してやるんだ。」
男達の行為は善意だ。パールには埋葬してくれる身内がいなかった。だが今のガーネには彼らの行いも悪にしか映らない。
抵抗するガーネに男達も苦悩の表情を浮かべる。
「ねえ、その娘、黒水晶の毒で死んだのよね?」
家の入り口で事を見ていたアメジが確かめるように聞く。
アメジ、手に持っていた紅水晶を目にしながら、あることを思いつく。
「ちょっとその娘の処分、あたしにまかせてくれない?」
にやりと笑うアメジの言うことがいまいち理解できない男達とガーネは丸くした目でアメジを見ている。
アメジの中で、今とんでもない試みが行われようとしていた。
つぎのぺーじへ もどる。