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第48話

アメジは走る

街へ入り、すぐさま飛び込んでくる階段をそのままの勢いで飛び越えながら、下っていく。

途中何度かアメジと行き違う人を縦や横にジャンプやらでかわしながら

アメジが向かったのはトパーズの元

トパーズたちは寺院前の中央広場にいた。
それを走りながら確認したアメジはトパーズの名を呼びながら走ってきた。

「アメジ!」
そこにはトパーズとプラチナ、そして青ざめた表情で立ち尽くすモンドがいた。

「トパーズ様、黒水晶が・・・」
アメジがすべて話す前に、トパーズは頷きながら答える。

「うむ、お前の話していた通りになってしまったようだ。

被害が広がぬうちに食い止めねば・・・・

・・・・モンド」

トパーズはもう一度モンドに強く問いかける。

「モンド?」

モンドのいつもと違う様子に、アメジも不安げに近寄る。

モンドの体はガタガタと震えていた。

「ちょっと、モンド、聞いてんの?

黒水晶が出たのよ!あんただって黒水晶のことぐらい知っているでしょ?!

アンタ族長でしょ?!

プラチナのマスターでしょ?!」

アメジ、モンドの肩を掴んで揺すりながら、モンドに呼びかける。
プラチナは聖獣の中で一番の力を持っている。しかし、プラチナの力を発揮できるのは主人であるモンドただ一人。

「マスター大丈夫です。私が必ずマスターのお力になります!

さあ、行きましょう!」

「・・に言ってんだよ、アメジ。

だっておれら、楽して生きてこうって、そう言ったじゃん」

「へ?」

弱々しくモンドがぼそりとつぶやいた。

「冗談じゃ、ないって・・・戦いなんて

黒水晶なんて・・・・」

まったく戦う意志のないモンド、その時、モンドを呼ぶ男がこちらへと走ってきた。


「モンド!大変だ!」

男は慌てた様子でモンドの側まで走ってきた。

モンドは(こいつもおれに黒水晶と戦え。と言いに来たのか?)と思っていたのだが


「シルバが・・・・シルバが黒水晶に・・・!」
息切れ切れながら男が発したのは、モンドの妻シルバの名

「?!シルバが?

シルバがどうしたんだ?!」
モンドの顔はさらに青ざめ、男に掴みかかりながら問いかける

「ケガをして、危険なんだ・・・

早く、お前とプラチナが駆けつけて・・・」


シルバが・・・ケガ?・・・黒水晶に・・・?

モンドは頭真っ白になりながらそのまま膝をついた。がくりと肩を落とし。

そんなモンドを見て、心配してすぐにプラチナが側に駆け寄ろうとした時、プラチナの前に影が、行く手を遮られた。

プラチナより先にモンドを掴んだのはアメジだった。

アメジに胸元を掴まれ、起こされたモンドは情けない表情で、情けなく泣きながら

「アメジ・・・どうしょう・・・シルバが・・・シルバが・・・


おれ・・・・だれか・・・助け・・・」

アメジに起こされ、すぐ目の前にアメジの顔、涙でぼろぼろ力ないモンドと至近距離。

アメジの目がかすかに細まったか・・・と思った瞬間


モンドの体は宙を舞っていた


ドシャーー

「ぐはぁっ」

地面を滑りながらモンドが悲鳴を上げる

彼の頬には赤い拳の跡が・・・・アメジの拳の跡

一瞬あっけにとられたプラチナだが慌ててモンドへと駆け寄る。

「アメジ殿!なんという酷いことを!」

アメジをギッと睨みつけるプラチナ、しかしアメジはそれ以上の迫力で睨み返す。プラチナもそれ以上前には出られなかった。



「モンド、アンタはあたしをフッてまであのシルバを選んだんでしょ?!

ここでシルバを捨てるってことはあたしに対する侮辱でもあるの!

アンタが助けにいかなくて誰が助けにいくんだ?!」

拳をぎっと握り締めたまま、アメジがモンドに言う。

「だけど・・・・おれ・・・・


シルバ・・・・・」

戻る。

第49話

モンドは今二つの気持ちの間で揺れていた

黒水晶とは戦いたくない

だけど、シルバの元にすぐにでも走りたい

だけど、黒水晶は・・・・

どちらの気持ちも強かった

でも選ばなければいけない、きっとどちらを選んだとしてもなにかを失うことになるかもしれないが

「おれは・・・おれは・・・・」

目を伏せたまま、モンドは思った
なにより大事な物を

その数秒後、自分を見上げているプラチナのほうへと向いたモンドは


「なあ、プラチナ・・・・おれに

力・・・貸してくれるか?」

プラチナは青い瞳を輝かせながら答える

「もちろんです!私の力を引き出せるのはマスターただ一人。

このプラチナの意志はマスターと同じです!」

モンドの呼びかけに嬉々として答え、駆け出したプラチナを追うようにアメジとモンドも駆け出す。

「ふっ、モンドめ。」
その少し後をトパーズが追いかけた。


階段を駆け上りながら、モンドは隣を走るアメジを見ながら

「アメジ・・・お前さ・・・・」

「へ?なに?」

「なんか・・・お前

・・・・かっこよくなったよな」

そう言ってアメジに笑顔を向けるモンドにアメジも笑顔で返しながら

「モンド、アンタもね!


だけど、ほんとにかっこよくなるのは

これからじゃない?!」

それに無言で頷きながら、モンドたちは黒水晶へと走った。


一方、黒水晶と戦っている水晶使いたちは
ジストとタルの参戦で善戦していたものの、戦いなれていないシルバの負傷によって、再び苦戦を強いられていた。

シルバは黒水晶に捕まったような形で、黒水晶の後方へと蹴り飛ばされた後は、そのままうずくまってしまった。

黒水晶2体がジストたちの前に壁のように立ちふさがり、シルバは皆から隔離されたような状況になっていた。

さらに他の巫女達はほとんどが水晶を使い果たした状態になり、しばらくにらみ合いの状態が続いていた。

「むぅ・・・アメジはなにしてるたるか?」

タルがそうぼやいた時、あの声がタルたちへと届いた


「おまたせー、さああたしが来たからにはもう安心よー!」

その姿にそこにいたジスト以外の水晶使いたちは驚いて、その姿を確認した。


「あれは、アメジ・・・か?」

「まさか・・・・」

「早く、来るたる!巫女がいないとタルたち戦えないたるよ!」

さらにアメジと共に駆けてきた存在にも驚いた

「モンド?

あのダメダメ小僧が、戦えるのか?」

モンドの性格をよく知る者たちは不安な顔をみせたが

「むっ・・・

マスター、さあ見せてやりましょう。私に水晶を!」

黒水晶を前に燃え上がるプラチナ

想像以上に巨大なバケモノにモンドの腰は引き気味になったが

「アメジ。黒水晶の後方に、負傷した巫女が・・・」

ジストが現状をアメジに伝える、それを耳にしたモンドが恐れながらもそのほうを確認すると

「シルバ?!」
遠目ながらも確認できたその姿は自分の妻であるシルバ!

それによって高まる心臓音と熱くなる心
震える体のまま、拳をぎゅっとにぎりしめたモンドはプラチナの名を呼ぶ

「プラチナ、いくぞ!

シルバを助けるんだ!」

「はい、マスター!」

そんなモンドを見ながら、アメジもドクロ水晶を取り出し駆け出す。

アメジの動きに合わせ、ジストも水晶を籠めタルへと向ける。

攻撃のモーションへと移りだしたアメジたちに気づいた黒水晶は地面を蹴りながら羽ばたく、二体ともアメジに警戒を強め、攻撃の意志を同時にアメジへと向ける。

「しまった、二体とも!」

アメジに危険が!と焦る水晶使いたちにジストが伝える

「彼女なら、大丈夫です。」

「そうたる、アメジに意識いっているあいだに攻撃するたるよ!」

「えっええ?

ところでアンタは一体だれなんだ?見たことない顔だが・・・?」

「こまかいことはきにしないたる!」

アメジが光の道を描きながら地を駆ける。力強いその足から、めいっぱい地球から水晶の力を得るように
挑戦的なアメジの水晶は、黒水晶を刺激するようだ、黒水晶たちは敵意むき出しでその巨体は追いかけてくる。
ぶわっ、とアメジに覆いかぶさるように巨大な黒い影がふってくる。

周りにいたものはアメジが黒水晶に潰されたかのように見えた。

「アメジーーー!!」

思わず叫んだモンドにジストが

「大丈夫です、アメジなら・・・・ほら」

ぶわぁと土煙上がる中、風のようにびゅう、と飛び出してきたのは光の帯を纏ったかのようなアメジ

一瞬不安にかられ、一安心したモンドだが、ふと不思議に思いジストを見た。

アメジの描いた道に、ジストの水晶をうけたタルが輝きを放ちながら乗る。

「モンド!なにやってんの?!

アンタも早く!」

アメジの声にはっとしたモンドも慌てて

「そ、そうだ・・・えっと・・・」

戸惑っているモンドにうしろから

「水晶を集める!」

「トパーズのじっちゃん!」

モンドのうしろに立つトパーズはモンドを勇気付けるようにアドバイスを送る。

「水晶使いの基本で一番重要なことだ。

お前はこれだけは得意だったろう。さあ、本番も練習も同じだ。

お前は優秀な聖獣がついているのだから、プラチナに安心してまかせるといい。」

プラチナもこくりと頷く

「わ、わかったよ。

ありがとうトパーズのじっちゃん。おれ、

一人じゃないもんな。プラチナがいて、そしてアメジもいて


こんな心強いことってないよな。

おれも・・・親父やオルド伯父さんみたいにかっちょよく戦えるよな」

モンドには生まれ持っての水晶使いとしての強い能力が備わっていた、それはアメジと同等である。

ただ、めんどくさがりなその性格が壁となっていたのだ。

目覚めたモンドはきっとだれよりも優れた水晶使いになれる。

プラチナはだれより強くそう信じてきたのだ。

主人を誇れる日を心待ちにしていた。そしてついに・・・・


「いっけぇーーーー!!プラチナ!」

集めた水晶をモンドは放った。

モンドはコントロールはいまいちだったが、優秀なプラチナは上手く動いて、放たれた水晶を体に受けた。

パァァァ

強く輝くそのプラチナの姿に驚きつつも、モンドはさらに勇気付けられた。

「モンド!今のうちにシルバを!」

アメジの線に乗ったプラチナを確認したアメジがモンドに叫ぶ

「シルバ!」

黒水晶がアメジを追っている今、シルバの近くには黒水晶はいない。

モンドは土煙舞う中、シルバの元へと走った。

戻る。

第50話

黒水晶をアメジが引き受けているすきに、シルバの元へとモンドは走った。

その間ジストをはじめとする水晶使い達が次々と黒水晶への攻撃を続ける。

アタックを終え、戻ってくるプラチナは行き違いになる黒水晶へと向かうタルに気づいた。

その瞬間、同じ血の流れを、そしてその身に宿した水晶が、自分が慕う主人のものと同等のものだと感じたのだ。

ジストの近くに着地したプラチナはそれを確かめるように、彼の姿を見上げた。

「あなたは・・・やはり・・・マスターの・・・」

そんなプラチナに無言で頷くジストは、早くマスターの元へとプラチナに合図し、すぐに目線をタルと黒水晶たちへと戻した。


「シルバ!」

無事シルバの元へとたどり着いたモンドは、彼女の名を呼びながら、横たわる体を抱き起こした。

「う・・・」

モンドの声を聞き、シルバは意識を取り戻す。

「シルバ!大丈夫か?」

自分を心配な顔で覗き込むモンドに、安心した表情をシルバは浮かべた。目に涙を溜めながらも。

「はい・・・あの・・・私・・・

ごめんなさい。黒水晶から、みんなを・・・守らなきゃいけないのに・・・・私、モンド様の妻・・・失格ですよね?」

涙ながらにモンドに謝るシルバにモンドは首を振った。
シルバはアメジとは対照的な娘で、真面目だが気弱で行動力もない娘だった。
そんな彼女もモンドと結婚してからは、必死にがんばってきた。
そんな彼女の頑張りも周りから評価されはじめ、モンドとは違い認められるようになってきた。
だからこそ余計に期待に答えたい、そんな気持ちが強かった。

そして、なにより愛するモンドの力になりたかった。
だから震える体を抑えても、あのバケモノたちと戦える勇気を持てたのだ。

ケガはたいしたことはなかったが、精神的ショックはかなりのものだった。
でも気持ちだけは、向かわねばと奮い立たせようと、転がったドクロ水晶を手にするシルバだったが、手の震えは止まらず、またころりとドクロ水晶は彼女の手を離れた。

そんなシルバの気持ちをひしひしと感じたモンドは胸を熱くさせながら、彼女の手をぎゅっと握った。

「安心しろシルバ、おれが、あいつら倒してくるから・・・

お前は、ゆっくり休んでろ、な。」

「モンド様・・・・」

モンドの力強い瞳にシルバも安心し、こくりと頷いた。

シルバはモンドに続くように駆けてきた男に抱きかかえられ、避難する。
モンドはくるりと黒水晶たちへと向きかえり、プラチナの名を呼ぶ。

「プラチナ!」

「はい!マスター」

その間ずっと黒水晶たちを翻弄していたアメジは汗を飛ばしながらも、まだまだスタミナも水晶も切れず、走り回っていた。
アメジの戦いには苦しさも微塵と感じさせない

楽して生きることを常としているアメジにとって
苦しいであろう戦いでさえも、もしかしたらその中に楽しみを見つけているんじゃないかと
その姿に彼女の父オルドが重なりもして

アメジの姿を見守りながら、トパーズは胸を熱くさせていた

そして実感した、もうアメジは自分の手をとおに離れてしまっていることに

それはうれしくもあり、どこか寂しくもある・・・複雑な想い

そしてその原因となったのが自分が発したある一言であったり、それがアメジの人生を、自分の人生を大きく変えたのだということに

「ギャアアアーーーー」
二体の黒水晶は確実にダメージを受けていた、アメジが戦った黒水晶と比べたら戦闘能力も三分の二ほどであった。
一度に2体も相手にするのはアメジも初めてであったが、アメジは確実に実戦の中で成長していた。
それは、今回が初戦でもあるモンドも・・・・

シルバに対する想いと、眠っていた才能が戦いの中でぐんぐんと高まっていった。

疲労した巫女達と入れ替わるように、新たな巫女達が戦いへと加わった。
黒水晶たちに休む間も与えさせない、アメジが描いた道をタルがプラチナが次々と攻撃を続けた。もちろん他の聖獣たちも

ジストの隣に並んだモンドはジストに声をかけた。

「へぇぇ、アンタずいぶんやるなぁ。アンタほどの水晶使いが名前知られてないなんて、変な話だな。」

「いえ、ご先祖様こそ」
思わずご先祖様と言ってしまったジストだったが

「へ?ゴセンゾじゃなくって

おれはモンド!

一応族長なんだから、間違えないでくれよ」

二人がそんなやりとりをしていると同時に戻ってきた二人の聖獣が
「マスター!」

「ジスト!」

戦士の瞳をランと輝かせ、同じ目で主人を見上げる

「プラチナ!」

「タル!」

ジストとモンドは同時に水晶を聖獣へと注ぎ込む。

休む間もなく、光を放ちながら敵へと飛ぶプラチナとタル

プラチナは隣を翔るタルへと・・・

「君は・・・立派な聖獣になる。」

その言葉にタルもうれしく答える

「もちろんたる!だってタルはプラチナの子孫たるよ!」

そんなタルの答えにプラチナもフッと微笑を返す。

「そうだな。私も、タルが子孫であることを誇るよ」

黒水晶へと水晶の道をつないだアメジは行き違いになるタルたちに向かって叫ぶ

「タル!プラチナ!いっけーー!!」

二体の聖獣は光の矢のように黒水晶へと命中

他の聖獣たちの活躍もあって、二体の黒水晶はそのまま地面へと倒れこんだ。そのままその巨体は持ち上がることはなかった。

戦いっぱなしだったアメジはかなり疲労していたが、そんなことを感じる間もなく、モンドたちの元へと駆けていった。

「やったな!モンド

アンタもやりゃできるじゃん!」

はっはっはっ、笑いながら両手でモンドの肩をぱんぱんと叩いた。

「当然ですよ、私は最初から言っていたでしょう。

マスターに勝る水晶使いはいないと」

モンドを誇りに思うプラチナは鼻高々で言った。

「へへへ、まあそりゃそうなんだけど。


でも、みんながいてくれたからだよ。アメジ、サンキュな、おれあのままじゃかっこ悪いまんまだったもんな。

二度とシルバをあんな目にあわせたくないしさ。

おれ、ちゃんとやっていくよ。アメジに負けないくらいかっこいい生き方目指すよ!」

「アメジはかっこ悪いたるよー。」

「なんだと?こらっタル!(怒)」

「アメジ殿、落ち着きなさい。このこなりの愛情表現なのですよ。」

「ぶへっ、そうなのかータル、きもーい」

「ちっがうたるよ!プラチナ大きな勘違いしてるたる!!」



戦いは終わった。
アメジ、ジスト、タルは寺院へと戻り疲れた体を休めた。
その夜、トパーズは書斎にて今日の戦いの記録を書にまとめながら、なにか思いながら、手にした物は
ひとつのドクロ水晶
師としての役目を果たせていなかった気がするのはこれをアメジに渡せなかったことだ。
あの頃のアメジには無用のものであったが・・・・

今のアメジになら・・・・やっと・・・

なにひとつしてやれなかった、アメジは自分の手を離れて走り始めている
背中を押してやることしかできないのかもしれないが・・・
それでも・・・・

そして・・・朝を迎えた。



「赤目の黒水晶か・・・・
すまんな、たいした力になれずに・・・・」
アメジたち再び水晶神殿へと戻ることにした。アメジたちを見送るトパーズはすまなそうな表情で謝る。

「いいってトパーズ様、また神殿に戻ってオヤジに問い詰めてみるよ。

それより、また黒水晶がやってくるかもしれないし、気をつけてよね。」

「アメジ、お前にこれを・・・」

トパーズが袂からアメジにと差し出したのは、朝日を受けてきらりと輝くドクロ水晶

「これ・・・トパーズ様・・・」

アメジはそれをトパーズから受け取ると手に抱えたまま、じっと見た。

「ああ、本当ならお前に渡すはずだったドクロ水晶だ。

まさか、お前が聖乙女になってこれを渡すことになるとは思わなかったな。」
そう言いながらトパーズはハハハと笑った。
アメジも同じように笑い返し、そしてそのドクロ水晶を大事そうに衣服の内側のポケットにとしまった。

「お世話になりました。トパーズ殿」
トパーズにそう言い、お辞儀をするジストにトパーズは告げた。

「ジスト君、君やアメジの戦いぶりを見ていて、私の目には遠い未来が見えたよ。
あの姿からは暗い未来など感じ取れぬ、その曇りなき心を持ち続けることも黒水晶に打ち勝つための大事な武器だ。

遠き未来の君たちに繋がるよう、私もモンドも日々全力を尽くそう。」

「トパーズ殿、私はあの戦いでご先祖様の勇ましき姿を忘れません。
きっと私の中で欠けていたものがご先祖様の中に見えた気がします。
私はモンド族長という誇りを胸に抱いて、100年先の、私達のリスタルを守ると誓います。」

「うむ・・・」
そんなジストにトパーズはモンドの姿を重ねてみた、それは近い将来のモンドの姿であるのかもしれない。

「さっ、いくたるよ!」

「じゃっ、トパーズ様

いってきます!」

「ああ!」

手を振りながら、トパーズの元を離れていくアメジたち

アメジたちは遠い未来へと帰っていくのか・・・

これが二度目の

そして最後の別れになる・・・・トパーズはそう実感した。
その姿を見送ることしか出来ない自分を歯がゆくも思い、そして

アメジを誇りに思った

想いは

あのドクロにと籠めた

自分の籠めた水晶はアメジとともにあることを




アメジたちは神殿への道をてくてくと歩いていた。

「タルたちちゃんともとの時代に帰れるたるよね?」

まだ少し不安げにジストに訊ねるタルにジストは答える

「ああ、オルド殿の話だと、もう一度時を越える水晶は残っていると言っていたし。」

「あっ、もしかして、今神殿の中の棺の中にアメジはいないってことたるか?
アメジはもうタルたちの時代に飛んでるたるかね?」

ジストとタルが会話を交わしながら歩いている中、アメジは二人の後ろを歩いていた、アメジ早く来るたる!とタルが促した時
歩みを止めたアメジ

「わっるい・・・ちょっと忘れ物

先行って待っててよ!」

アメジはそう言ってくるりと方向転換し、もと来た道を走り出した。

「なにやってるたるかー、もうアメジはほんとダメダメたる!」

「アメジ・・・・」

ジストにはわかった。アメジはトパーズに会いにいったのだ。

トパーズはアメジにとって師であり、父である特別な存在
アメジがトパーズを慕っていることは鈍感なジストにも感じ取れたのだ。

もし、アメジがこの時代に未練が残り、ここに残ることになったとしても、自分はそれを引き止めることはできない。

アメジの幸せを考えてやりたい、そう思う気持ちがあった。

ジストとタルはそのまま先に水晶神殿へと向かった。



姿が見えなくなってもまだ、トパーズはアメジたちを見送った場で立ったままでいた。

寂しいの一言ではすませられない不思議な気持ちを抱えたまま

「子は親のいない場でも育つものなのだな・・・・」

トパーズには娘がいた・・・それはアメジが生まれるよりもずっと昔
だが、大事な娘は黒水晶に殺されてしまった。妻にも先立たれ、トパーズはずっと独りだった。

そんなトパーズにとって、アメジは問題児でありながら、かわいい娘だった。
かけがえのない存在になっていた。

そして今また、自分の元を去っていった

もう二度と会うことはない、そう覚悟していた時


「トパーズさまぁ!!!」

階段をジャンプしながら駆け下りてくるその声は

「アメジ!!」

トパーズがアメジに気づきそのほうを見たとき
アメジは走ってきたその勢いのまま、トパーズ目掛けて飛びついた。

「どうしたお前、なにか忘れたのか?」

驚くトパーズにアメジは笑顔で頷いた。

「うん、大事なことをね。忘れていた

あたし、トパーズ様の娘で幸せだった。

この先の遠い未来で、あたしがどんなに偉くすごい存在になっても
トパーズ様への感謝の気持ちは忘れない。

あたしはトパーズ様に誓うよ、聖乙女として立派に戦い抜くことを・・・

そして、楽して生きる人生を掴むってことも!」

アメジは満面の笑みでトパーズにそう告げた。

トパーズもそれに思わずフッと笑みを漏らしながら答えた。

「アメジ、お前は・・・


私もお前を誇りに思う。私の大事な娘だ。忘れたりせぬ

遠き未来のお前に祈りを・・・あのドクロに籠めたのだぞ。」

「うん、あたしこれを持って黒水晶の奴ぶっ倒すよ!」

アメジ力強くトパーズの前でガッツポーズ

「ああ、アメジよ。未来のリスタルを頼んだぞ。」

アメジは力強く頷き、そしてまた水晶神殿へと向けて走り出した。トパーズへとは二度と振り返らず、真っ直ぐ力強く未来へと駆けて行くアメジの姿を眩しく感じながら、トパーズは見送る。

アメジ、お前が最後の水晶の聖乙女になるんだ

トパーズの代で聖乙女制度は廃止になる。
シルバを始めとする巫女達はリスタルの大地の上で、勇ましく可憐に黒水晶たちと戦いの歴史を刻んでいったのだ。



神殿の中で、青水晶へと歩み寄るジストたちの姿があった。
ジストが水晶へと呼びかけると、それに反応するように青白くぽうと光った。

「よお、ジスト君よ、答えは見つかったかい?」
陽気に答えるオルドにジストは頷いた

「はい、明確なものではないのですが

でもご先祖様の中に見えた気がします。


私達は私達の力で戦わなければ、ラルド様に言われてアメジの存在を頼ってきたが・・・」

「ジスト?」
ジストの様子を不審に思い、タルが見上げる


「オルド殿、私達を現代リスタルへと戻してください!」

「へ?ジスト、でもアメジがまだたるよ?」
あせあせとするタルを優しげな表情で抱きかかえたジスト、タルを説得するように

「いいんだタル。アメジは本当ならここで幸せに生きるべきなんだ。

我々の時代のことは我々の力で解決するべきなんだ。

アメジだって、本心はここに残りたいと思っている。
だからトパーズ殿のもとに・・・」

主人の言葉に逆らえないが、タルはやっぱり納得がいかなかった。

「け、けど・・・ジスト・・・」

「さあ、戻ろう」

ジストが青水晶へと手を伸ばした時


「ちょっと!

なに人置いていこうとしてんのさ!!!」

神殿入り口からのその声


「アメジ!!」

ジストの態度にぷりぷりしながらアメジが近づいてくる。

「しかし、アメジ・・・お前はここに・・・」

ジスト自身アメジを思ってのこと、しかしアメジ心ジスト知らずだ


「はっはっはっ、残念だったなジスト君、アメジは厄介払いできなかったな。」
水晶から愉快なオルドの声

「そ、そんなつもりでは・・・・」

「アメジ、お前はつくづく男運がないな。

まさか二度も男に捨てられる人生とは・・・はっはっはっ」
陽気に笑い続けるオルド
ジストは慌てて否定していた

「あたしは未来のリスタルに戻るわよ!」

アメジのその答えにタルの表情も明るくなる、そしてジストもそれがアメジの本心と知り、表情がゆるんだ。

「だって、あっちのほうが聖乙女としてちやほやされるし、

なんてったってマリンちゅわんがいるもんねーvパラダイスゥ」

緊張感のないアメジの答えにタルもガクゥとなる。

「やっぱりお前はダメ巫女たる!!!」

「うるさいモチ聖獣!!ほんとプラチナとは大違い!」

「なんたるか?!タルはプラチナにほめられたるよ!!」

ムキィーー

いつものようなバカなケンカを繰り広げるアメジとタル

「とっとと黒水晶倒しに帰るたる!」

「そうとも、楽して生きるために!!」

アメジたちは短い間であったがこの100年前のリスタルに別れを告げるのだった。


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