恋愛テロリスト
第五幕 開催コロッシアム 6
そして拷問再び・・・・
試合、じゃなくて死合をみなくてはならない。相変わらずキンに捕まって逃げられないしね、そんな力もないわけだけど。
出る奴出る奴、卑劣極まりない奴らばかりで、
ひたすら目潰しだの、ひたすら急所狙いだの、噛み付いては終いには人肉だの骨だのぼりぼり喰らう気狂い野郎だの、もう、ほんとに乙女の限界越え映像が満載でして。え?マニアにはたまらない光景だって?だったら代わってくれませんか?本気で!
何度も波の様に襲ってくる吐き気と戦う中、そうだ、もう変換しちゃえばいいのよ!と思って
アレやソレを豆腐なんだ、とか、大根なんだとか、もううどんだな♪とか・・・・・ご、ごめんなさい
ちょっとムリがありましたね、はい、うえええええ。
はぁはぁ、しかし一応乙女のプライドがあるもので、ビケさんの前でゲロリは絶対にしない!と固く誓い
必死でなんとかこらえました、こんな時って時間経過の遅いこと遅いこと
気分悪さに顔色最悪のあたしをキンはおろかビケさんも気にしてくれないしね。
心に風が吹いているよ。冷たい風が吹いているよ。
別にかまってほしーじゃないけどね、寂しいよ、切ないよ。
それに、デコチュー・・・・・、あうう。ビケさんがショウにデコチュー。
麗しき兄弟愛とはわかっても、心が痛いですよ、嫉妬の炎というか氷ですよ。
切ない、心にブリザード。
悲しい、ちらりと横目でビケさんを見ると、悲しさが霞むくらいときめいてしまう。
はあ、そして心に春の風。
「あら? 休憩にはいかなくていいの? リンネ」
さすがに吐きすぎて喉が荒れてきたので、キンの上でぐったりんこのあたしに、ビケさんが優しく声かけてくれた。思わずシャキーンとなる。
「あ、今回は大丈夫、です」
「そう、なら少しお話ししない?」
ビケさんとトークタイムですと?! 地獄のようなコロッシアムの最中のボーナスタイムきたー。
「は、はいぜひ!」
「それなら兄者、ワシも聞きたい事があったんじゃ」
ちょっ、なんでキンが割り込んでくるんですかーー。んもー。
「あら、なにかしら?」
「兄者は寝るときどんなかんじなんじゃ?」
バカっと心で罵ったキンごめんね、グッジョブ!ナイスその質問。あたしもすっごく知りたいです。だって同じCエリア領主館で寝起きしているというのに、あたしビケさんの寝姿とか、寝起きとかさっぱり見てないんだもの。気になる気になるアンサープリーズ!
「寝るときの格好? いつも浴衣ね。昔からだから、そうじゃないと落ち着かないのよね」
ゆゆゆ浴衣ーーー!イイイイ! ああーんビケさんの浴衣姿とか、きゅん死ねます!
「なるほど、たしかに楽そうじゃなー。ワシも今度着てみようかの」
「アンタはどうなの?」
「ワシはDエリアではだいたいマッパじゃな」
「ぶふっパンツくらい穿いてください!」
キンの裸なんて見てないけど、見たくないけど、マッパはやめろ。
「そうね、リンネの言うとおりだわ。風邪をひくわよ」
!?
ビケさん、あたしはそういう意味で言ったのでは。と、そっかビケさんってば弟の体も心配するなんて、優しいお兄さんなのね。麗しき兄弟愛パート2なのね。じーん。
「でもなんとかは風邪ひかないっていうような…」
「ん? リンネなんかいうたか?」
いえ、なんでも。
「ところでリンネはどうなのかしら? 領主館にいても会う機会があまりないものね」
ひゃああー、ビケさんから質問きたーー。あたしの寝る時の姿なんて興味あるんですか?ほんとうに。たとえ社交辞令でもきゅんとしちゃいます。はわわ、普通に、部屋に置いてある寝巻き借りて寝ているだけなんですけど。
「そういやショウから聞いた話じゃと、お前もマッパで寝とるらしいの」
なんでキンが答えるの!ていうか
「違いますから!それ」
ショウのやつそんなデタラメキンに話したのか?まさか、ビケさんにも?!
「くすくす」
ビケさんに笑われて、ち、ちが、違うのにーー。て弁解しようとわてわてしているあたしに、ビケさんは。
「今は夏だから油断しがちだけど、裸で寝ると風邪をひくかもしれないわ。よければ私が温めてあげるわよ」
え、えええーー。ビケさんが温めて? 浴衣って寝乱れそう…、乱れたビケさんが温めて寝てくれる?って、きゃーーー、本人目の前でえっちぃ妄想禁止ですからってヤバイ、顔面の赤面現象が止まらない、異常事態進行中!
「リンネ、ワシの上でさっきからもぞもぞするのやめてくれんか? アソコのスイッチが入ってしまいそうなんじゃが、そろそろ試合も始まるしのぅ、あとにしてほしいんじゃが」
「ぶっなんのどこのスイッチですか?!」
「二人とも…いちゃつくならあとになさいな。そろそろショウちゃんの出番よ」
!? ビケさん、そんな、誤解ですってば!
で、ショウの二回戦が始まる。
ううう、ショウのおでこを穴が開くほどに見つめながら、くうーーー憎い、あのでこーー
成り代わりたい、ショウのでこに!
もういっそあのでこを切り取って永久保存したい!!
ワーー、ヤレーー!
とまた大音量の歓声の中、あたしの思考は病的になっていくような・・・・・
そんなデコドリーム?から覚めるように、ショウの試合が始まった。
またまた相手は、でる作品間違ってますよね?と大いにつっこみたいような、怪物みたいにデカイ男。
筋肉なのかこぶなのかどっちなのかわけわからん盛り上がりボディの男。
ガーー!ともう怪獣みたいな叫び声をあげながら、デカイ締まりのない口からは汚い液体が垂れ流されていた。・・・・・・せ、精神面かなりヤバイ人かこれ? 変な薬とかやってそう・・・・、まあドーピングもありなんだろうな、このなんでもありな祭りは。うん、つっこむだけムダだと。
ビケさんに「瞬殺禁止令」を受けたショウは、最初めんどくさそうな表情を見せたのだが、太鼓の音と同時にカエルのようにぴょんぴょんと男の周りを飛び回りながら、バカにするような言葉を飛ばしている。
ふー、なんかまた余裕そうなショウの動きに、あたしもホッとしたのだが
男の唾液らしきもので、ショウは足をつるっと滑らせ、バランスが崩れたところを男が狙ってましたとばかりにショウを掴みにかかる。
「ゲッショウ!」
と思わず立ち上がりそうになったあたしの予想を裏切るように
足を滑らせた時、マズイという表情を浮かべていたのは演技だったのか、と思うような、ぴきーんと闇夜に輝く猫の目のように怪しく光ったかに見えた目と、口元には嫌らしい笑みを浮かべながら
「ゴミは消えろ」
伸びてくる男の手を踏み台にして、体の中心を下から上に、真っ二つに切るように、容赦ない攻撃を浴びせて、ショウが着地して、数秒後に、男は断末魔と共に崩れ落ちた。
はぁ、グロいものを見たのは気持ち悪いけど、ショウの勝利にほっとした。
それからすぐに、観客からのヤレヤレコールが始まった。
ヤレヤレ、なにをヤレヤレかって? なんとなしにわかる、いやこいつらの期待していることって・・・
その声に応えるかのように、ショウは手を挙げながら、
「汚い物は派手に処分ね♪」
銃口を地面に伏した男に向けると・・・・
ちょっちょっと、まっっっ
バーーン☆☆・・・・・脳みそバーン・・・
バカッッ! ああもう、イチゴ練乳最高(現実逃避)
「あうううう」
激しくうな垂れるあたしに
「トイレいくんか?」 「・・・・・はい」
便器とお友達になりそうな勢いです。
「はぁ・・・・」
トイレの個室に入って、目元を押さえる、辛い。
生きているうちに悪いことをすると地獄に落とされると聞きますが、これはすでに、あたしにとっての地獄なんですけど、神様? ああ辛い。
なんかもうカイミにびびっていたことが遠い彼方に思えるから不思議、それだけショッキングシーンに襲われていたのだ。
「て、のんびりもしてられないんだ。ちんたらしているとキンがムリヤリ連れて行くって、言ってたし」
もう、あそこ以外ならすべてが天国に思えそうだよ、今のあたし。
「相変わらず、情けない顔だなリンネ」
はいはい、悪うございましたね、どうせあたしはふつーの・・・・って
「テン?!」
聞き覚えのある声が個室の上部からしたものだから、見上げたらそこにはその男があたしを見下ろしていた。
「なにをしているお前は?」
「・・・・・てそりゃこっちのセリフよ。ここ女子トイレだしね、のぞいている奴に言われたくないっての」
テンの登場の仕方に呆れつつ脱力。はー、と息を吐きながら、個室を出たあたしにテンが差し出したのは、オレンジジュース(ビンのやつ)百%じゃないやつ・・・・
「一本五千円だ」
「たかっ、ぼったくりかよ?」
真顔で五千円要求してくるし
「まあ、お前なら特別にまけてやってもかまわん。特別にな、四千九百九十九円だ」
「全然嬉しくないし、むしろムカツクんですけど」
ケンカ売ってんのか?
そういや、カイミがテンのこと追っかけていたらしいけど、やっぱりいたんだ。
そして、なにか企んでいるに違いない。このテロ男のことだし
「まさか、ジュース売りにきただけじゃないよね?」
「こんなバカバカしい祭りで騒いでいる奴らの気がしれんな。殺し合い祭りなど、キチガイ共め、胸糞悪い」
明らかに不快そうな顔のテン、珍しくあたしと同じ意見なんだ。
「そうだよね、こんな祭りおかしいよ!」
「当然だ、こんなクソ祭りぶっ壊してくれる」
あれ、なんか今テンがめちゃくちゃマトモに見える。できることならぶっ壊してほしい・・・・
「じゃなくて、ダメ! そんなビケさんに迷惑がかかっちゃうじゃない!」
テンの意見に頷きそうだったけど、ビケさんの主催祭りだと思い出してブンブンと首を横に振る。
「フン、バカがっ、お前まだあいつの側にいるのか? どこまでもバカなやつめ
このマゾがっっ」
「ちょっマゾじゃありませんがっ、そんなのあたしの自由でしょ。だいたいなんでテンはビケさんのこと悪く言うのよ?
ビケさんのなにを知って」
「あいつはとんでもない嘘つき野郎だ。あいつを信じてもろくな想いをせんぞ、ムダだ!」
「な、なにが嘘つきだって言うのよ? テン、ビケさんに恨みでもあるわけ?単に僻んでいるだけ?」
あーもー、ムカついてきた。なんでテンはビケさんの悪口言うわけ?あんなにステキでいい人なのに
おばあちゃんのことだって協力してくれるっていうのに
こいつは・・・・他人を信じるってことができない人なのか?!
「安心しろリンネ。こんなクソ祭り俺がぶっ壊してやる」
「ちょっ」
またしてもあたしの言葉には答えずに、あたしの前から去ったテン。ジュースはくれなかった。
この祭りは壊してほしいとは思いつつ、ハチャメチャされる怖さもあったり
でも実はそんなことよりも、テンがビケさんに向ける感情のほうが気になった。
テンは鬼政府を悪だと思っているし、ビケさんのこともよく思ってないのはわかる。
テンがビケさんに向けるのは殺意なのかもしれないと、不安な感情がぐるぐるしていた。
トイレから出て、また頭を抱えそうになったあたしの手を頭にと持っていくのを止めたのは
俯くのはもったいないから、顔を起こした。
だって、あたしを待っていたのは、キンじゃなくて、ビケさんだったから
「ビ、ビケさん」
「リンネ大丈夫?具合は」
「あっ、はいなんとか」
ううっ、笑顔眩しい! ビケさんの笑顔で、ステキオーラで、気持ち悪さも忘れますから!
「ならいいけど、でも・・・」
と言いながらビケさんがあたしに歩み寄る。はっ、しまった、トイレから出る前に鏡でチェックくらいしとくんだった。変な顔してないだろうか? 変な汁の跡とかついてないだろうか?たらたら
とか考えているうちに、ビケさんが至近距離にいて
「疲れた顔しているけど、なにかあったのかしら?」
「ぷひゃああああ!!!」
ビケさんの手があたしの頬に軽く触れたから、って驚きのあまり奇声発して、半歩あとずさってしまった。
「った!」
ぴーん、と頭皮に軽い痛みを感じた。てっっ
あたしの髪の毛数本が、ビケさんの服の飾りに引っかかっているし!いやぁぁぁぁぁ!!
最悪だ、恥ずかしい、穴があったら入りたい!
おおう、落ち着け自分。
「ごっごめんなさい! すぐにと・・・切りますからっ」
えーん、こんなことならちゃんと手入れしとくんだった、シャンプーのCMの髪みたいなスルスルの髪にしていれば、今更後悔。
あせあせと髪に手をかけようとしたら
「大丈夫よ、すぐにとれるわ」
ビケさんはそう言って、あたしのムダに長い髪に手をかけて、ゆっくりと絡まったそれを解いていく。
ビケさんの長い指、キレイで、もう美術館に飾っててもおかしくないというか。
ぽーと見惚れていた。そしてあたしの脳内ではあの指が
あたしに触れてくれたら、どんなに・・・・・
あたしの髪に、頬に、唇に、首筋に…ってエロ妄想ストップしろ!
て、ヤバイ! 鼻血が出そうっ 出るっ 引っ込め(気合)
もうずっと絡まっていればいいのに、あたしの髪。むしろスルスルヘアーじゃなくて万歳?
よくやった!偉い、偉いぞ!あたしのスルスルとは程遠い髪質!
「もうとれたわよ」
「えっあっ! す、すみません」
ちょっとぼーとドリームしていたあたしはビケさんの言葉で現実世界へと引き戻される。
はぁ、この辺りかなー、ビケさんが触れた部分って・・・と髪を触ってまたドリーム。ビケさんに触れられた部分絶対切らないぞっと。とキモ乙女スキルは表に出ないように発動しないと。
はぁー、でもほんとに、ビケさんって指もキレイ。髪も睫毛も、いえもう顔はゆがみの欠片もないほど美しいのですが、上から下まで、完璧なかんじで、きっとすべてが・・・・・きゃーー、なにを想像しかけているのだマイ脳みそはっ。ちらりと見える鎖骨とか、美しすぎてセクシーでガン見したくなる。時間を止められるならガン見しちゃいます(きりっ)
想像不可能の域なのに、興奮しちゃうじゃないか!
ビケさんの恋人は、ビケさんに愛される人はほんとに幸せ者だな。
ビケさんに恋人・・・・いないって聞いたけど、きっとステキすぎて近付けないんだと思うし。
ビケさんの好きな人って・・・・好きな人っているんだろうか
そんな幸せな人がもしいるんだとしたら・・・・
「なに 考えているの?」
「はっあっ」
またぼーとしていたあたしはビケさんの問いかけにわたわたと恥ずかしい汗をかいてしまう。
そして、勢いのまま、気になっていたことを聞いてしまった。
「あの、ビケさんって好きな人、いるんですか?!」
て、きっと聞いた本人が一番どきどきしていると思われます。勢いって大事かも、だけど、それが自分にとって失敗だったと後悔するのは、この直後
あたしの問いかけに、ビケさんは笑顔で「いるわよ」と答えた。
「ええ、いるわよ。ずっと、心の底から愛して止まない大切な人が」
聞かなきゃよかったなんて思う余裕もなかった。音が遠ざかるのと、白く霞んでいく視界の中で。
意識が遠くへと向かっていくのを感じていた。つまりは現実逃避・・・・・・
その影響で、その後の試合は全部平気になったというか、もうあれだ
まるで現実感に欠けた、まるでテレビの中の映像でも見ているかのような
殺し合いが気持ち悪いなんて感じる余裕などないほどあたしはショックを受けていたのだろう。
ずっと、白い世界の中で・・・・・ビケさんに好きな人がいるビケさんに好きな人がいるビケさんに好きな人が・・・・・・だれだれだれだれ、その世界一幸せな女はだれよだれよだれなのよ
ぐるぐるぐるぐると
まさかまさか、変な汗と共に、まさかそんなことはないと思いながらも、あの女の顔が一瞬浮かんで青ざめる。
金剛カナメじゃないよね?あんな性格最悪女がビケさんの想い人なわけないない!
違う違うと心の中で、唱えるように言い聞かせるように、あたしの心は白い世界の中彷徨っていた。
「おおっ向こうも盛り上がっとるのう」
キンは向かい側の観客席にと注目していた。どうやら乱闘騒ぎがあったらしい。あたしには関係ないと思いながらも、その先にはカイミの姿があった。
場外で乱闘が起こっても放置の方向らしい。さすがDエリア。
そしてその騒ぎの影で、テンが怪しく動いていたことなど、あたしは気づいてはいなかった。
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