恋愛テロリスト

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  第五幕 開催コロッシアム 2  

久々にビケさんに会えると思うとドキドキと胸が高鳴る。

でもその向かう先がDエリアだということにテンション降下、でもそれ以上にビケさんに会いたい想いが勝る。

「Dエリアの祭りね」
隣でにたにたと嫌な笑みを浮かべてつぶやくショウ

「なによ、ショウ、その祭りがどんな祭りか知ってるの?」
あたしは知らない、まあろくでもない祭りかもとはうすうす感じてはいるが。

「さあ、詳しくは聞いてないけど、でも、なんかおもしろいことあるかも。

リンネの災難とかさー」

こ、こいつはー、一度くらい天罰下れ!
とショウにお約束のようにむかついておいて、キンからの案内どおりにあたしたちはDエリアへと
そのイベントが催される会場へと向かった。
が、どうやらその祭りの影響なのか、Dエリアの住人のテンションが以前と違っていた。
祭りに興奮して、暴徒と化したDエリアの住人から身をかわしながら、たまになんか投げまくってた、
迷惑この上ない連中だな、まったく。いたるところに血だまりとか肉片とか前回より割り増ししてる?騒ぐならもっと、隅っこの目立たないところでお願いします。
人の波を泳ぎながら、案内どおりに向かった先は…

Dエリアの中では意外な建築物。最近できたばかりのような、新しさも感じたりして、白い壁のドーム型の建物。
人の列に入って、その流れのまま中へと入っていく。
中は外から見たときよりもずっと広い印象。
地下施設で、エレベーターで下へと降りていく。

そんな中気がついたけど、服装からDエリアの住人とは思えない人もちらほら。
キラリと胸元に輝く装飾物を纏った高貴そうな人たち、どうやらCエリアの人のように見える。

エレベーターを降りると、わっと襲ってくるようなすごい熱気と人。
思わず身を硬くしてしまったほど。

「すごい、なんかすごい祭りみたいね」

想像以上のその盛り上がりぶりに、呆気にとられて立ち尽くしていたあたしに背後からどんっと衝撃が

「つったってんじゃねーよ、クソ女、殺されてーのか?!」

「いっっ」

背後にはあたしをはるか上空から見下ろすギロリとした男の目。軽くニメートルは越えてますな。
明らかにDエリアの住人です、なその男に上から睨まれたあたし、そいつは今にも掴みかかってきそうだった。

もう、なんでいつもこんなのに絡まれるのですか?

そしてお約束のように、ショウのやつは少し離れた場所から、そんなあたしのおろおろしている様を楽しげににたにたと眺めている。

「リンネってどこいっても絡まれちゃうよね。そういう定めかー」
うんうんと頷きながら、ショウのやつ、あたしの不幸がそんなに楽しいか?!
やはり一度天罰を!

「ゴミ箱まで運んでやろうかっっ?!」

「いっっう!」
ガッとあたしの腰周りよりもデカイ手に胸元を掴まれたその時

「なにしているの?」

「はっ、その声は!」

あたしの後ろより聞こえてきたその声は、その声は
あたしの心をときめかせてしょうがないステキな美声は!

「ビケさん!!」
あたしがおもいっきりぐきっと後ろに首を回して、ビケさんを見た瞬間、男は手を離してそそくさと消えていった。

ビケさんが放つその神々しいオーラはあのDエリアの荒くれ男たちも簡単に追い払うことができるのね。

それにあたしのピンチに現れるなんて、もう正にヒーローじゃない
ヒーローポジションじゃない、そうよ、ビケさんこそヒーローポジションなのよ!
どこぞの愛のテロリストじゃなくてですね。

「来てくれたのね。嬉しいわ」
はわわ、スマイル!!心臓ひとつ爆破しました。
どっきんときめきあたしはもうもうっ
もうっっっ

「ビケさーーん!」

どきどき勢いまかせであの人の胸にダーーイブ!

「おおうっ、リンネ来てくれたんか!」

「おぶっ」

顔面ごきっと変な音さえ聞こえそうな勢いであたしがぶつかったのは、ビケさんの胸じゃなくて・・・・

「キン、おっちょ放して、くるしっ」
デカイ腕に胸元に抱き寄せられ、胸と腕の筋肉に挟まれてあたし呼吸困難で軽く天国が見えた。

「おっどうしたリンネ、顔色が悪いのう」

「今キン兄、殺しに入ってたでしょ」

「はっはっは、なに言うんじゃ。リンネがこの程度の抱擁で死ぬわけがあるか」

いや、お花畑チラチラしてましたけど、て、なんでこいつが出てくるのよ、ビケさんに抱きしめて貰えたらそのまま天国直行でも悔いないってのに・・・・・。おかげで口から変なの出た。ビケさんの目の前でなにこの恥ずかしすぎる痴態…。




「はあ、ところで祭りっていったい・・・」

キンとビケさんのW主催の祭りでDエリアで開催、ぐらいしか前情報がないのですが

「コロッシアム」

「へ?ころっしあむ・・・・・って?」

まさかまさか・・・・・まさかですが・・・・・

「殺しあむ?」
へへへへまさかーという苦い笑いを浮かべて、それに首を横に振ってくれることを期待しながら
でも期待は裏切られる・・・。

ビケさんとキンはにこりと笑顔で首を縦に振った。

「そうじゃ。最強を懸けての本気の殺し合い祭り、それがワシと兄者で開催するコロッシアムじゃ!」

・・・・・・・・・は?

「Dエリアの人間は戦いの場を求めている。Cエリアの人間は刺激的なイベントを望んでいてね。
Dエリアのキンとで共同で開催しようということになったのよ。これも領主としての務めでね。
けっこうどたばたしたけど」

もしかして、このイベントの準備でビケさん忙しくてあんまりCエリアにいなかったってこと?

「で、どんな祭りなの?トーナメント式?」
にたにたと問いかけるショウ。こいつも鬼畜野郎だな。はあー、殺し合いなんてなにが楽しいのか。
Aエリアの人間のあたしには理解できませんが

「おう、トーナメント式じゃ。一対一で時間制限無し。どちらかが戦闘不能になるまでじゃな。

武器の使用も制限無しじゃ。」

「けっこうなんでもありなんだね。ふーん、女はでないの?」

ちろりとこちらに視線を送りながら問いかけるショウ。
こいつ、またやなこと考えて・・・・?

「うーん、どうやら女はエントリーされとらんなー。」
キンのその言葉に、ちっと舌打ちしながら

「ちぇっ、つまんないなー。いたぶられるの見るなら女のほうが・・・・」

こいつは、やはり神様天罰を


「むう、ワシも女子が闘うのは見てみたかったが、もう決まってしまってることじゃから・・・・・・!

特に、アレにもなぁ、残念じゃー」
とキンの視線がある方向に集中していることに気がつき、そっちをふいと見てみると


「んぎょっ!!」
あたしの目に映ったのは、蘇るAエリアでの悪夢

上下に踊る黄色のツインテール、スキップしながらこちらへと向かってくるその存在は

「カイミー!久しぶりじゃのう!」
キンが大手を振って呼びかけたその瞬間、あたしはささっとキンの背中に隠れるように移動した。
いやもうそれは反射的な行動で

「ゲ、なんでカイミが」
ウザっという顔でショウが視線を壁にとやる。

「ショウ!なんでこんなとこにいるんだもん?!

だいたいBエリアほったらかしで、いい加減にするもん!」

「うっざーー」

「まさか、またあの女が一緒にいるんじゃ・・・・・

あの女、どこにいったもん?」

ひっ、ショウとのやりとりであたしの名前が出てきて、びくびく、勘弁して、もうアナタとは関わりあいたくないんですから。

キンの体越しにカイミの鋭い殺気を感じて、体がビルブルとすごい勢いで震えた。

「おー、カイミ元気しとったか?相変わらずちっこいのー」

「んげっキン兄。なことないもん!キン兄がでかすぎるだけだもん!

それにカイミはもう大人だもん!ピチピチレディだもん!」

ピチピチレディってなんなんだ。

「よーしよし、久々に高い高いしてやろうか?」

「だからー、ガキ扱いするなーーーもん!!!」

うわっ、キンに向かって飛び蹴りかましてきたカイミ、おかげで壁であるキンが動いたので、あたしは焦って身を隠す場所を探す。

キンが動いたせいであたしは隠れる場を失ったけど、カイミの目にはキンしか見えてないらしく、あたしには気づいてない様子。

「おー、なかなかいい動きするようになったのう。お前ならDエリアでもやっていけそうじゃ」

キーーとゲシゲシ蹴りを連発しているカイミの攻撃を、なんともないように笑顔で受けきっているキン、まるで子供をあやしているようなそんな光景の中、カイミの後から現れたのは

「キン兄さん、冗談でも止めてください。カイミ、大人しくする約束でしょう」

「あっキョウ兄!」

ふー、と軽くため息をつきながら来たのは、Aエリアの領主のキョウ。
直に会うのはAエリアに行った時以来。
あたしはもうAエリアには戻れないけど、味方だと言ってくれたキョウ。
テンと比べるとやっぱり・・・正義の味方って感じだな。

キョウに声をかけられたとたん、さっきまで狂犬のように吼え暴れていたのとは対照的に、借りてきた猫のように大人しくなったカイミは声色まで変わってました。
あの台風娘を飼いならすコツみたいなのでもあるんですか?


「リンネ!」
目が合ったキョウがあたしの名前を呼んだその瞬間、スイッチ入りましたとばかりに、カイミの目の色が殺気全開のものに変わる。

「お前!桃山リンネ!!まだショウの側にっっ」

般若モードにガラリと変わり、あたしに殺気ギンギン向けるカイミ
かっ勘弁してってば、好きで側にいるわけじゃないのに!

あたしに向かって突進してくるカイミ、ひぃっ助けて、だれかこの軽く人殺せる勢いの女子高生を止めてください!

「ヤンチャするなや、リンネを傷物にするわけにはいかんからな、な兄者。」

「な、邪魔するなもんキン兄!!」
突進してきたカイミを子猫の首根っこ掴むようにキンに捕まったカイミは手足をじたばたとさせている。
た、助かった・・・て、ん?今さらりと気になる発言がなかったですか?

「え、ちょそれどういう意味・・・・」

「ええ、リンネになにかあっては困るのよ。」

ど、どういう意味ですか?それはビケさん、もしかして、あたしって
ビケさんにとって特別な存在だからとか・・・・・・そんな妄想が爆発しちゃいそうなんですけど

鼻息荒いカイミをなだめながら、キョウがビケさんへと視線をやる。

「それより、来てくれて嬉しいわ、キョウ。」

「・・・・・カイミがどうしても行くときかなかったので、付き添いで・・・・。」

「そうじゃ、いい席のチケットが・・・・」

「いえ、チケットなら持っているので、行きますよカイミ」

カイミを連れてキョウは反対の通路へと向かって行った。
はぁ、心臓縮こまった。あの子苦手だ。


「キョウも大変ね。

さて、アナタたちに大事な知らせがあるから、こっちに来てくれるかしら。」

へ?

ビケさんとキンとともに、あたしとショウは関係者のみ立ち入りのエリアの一室へと連れて行かれた。

うーん、ビケさんの主催の祭りとはいえ、殺し合いの祭りなんて・・・・やっぱり気が重い。
はぁ、あの周りのテンションについていけないよ。てついていけたらだめだよね、Dエリア的思考を理解したら人間お終いです。

「ふーん、で、どんな人がエントリーしているわけ?」
卓上で肘ついているショウに、キンがなにか書かれたボードを手渡す。

それになんとなしに目を通しているショウ、たぶんそれに祭りに参加する選手の名前やらプロフィールやら載っているんだろうと推測。興味ないけどあたしは。

はぁ、そんな祭りの内容などともかくとして、
せっかくビケさんに会うことができたのに、なんだろ、このラブが一向に進展しなさそうな血なまぐさい祭りなんて、なに?なにかの陰謀かな?
少女漫画的ラブコメディ、とかどこかで言わなかったですか?気のせいですか?
そんなことだれも言ってない?あたしの勘違いですか??
はぁ・・・・・・。

はぁー、とあたしがため息をついたのと同時に、ごりっと変な音がショウのほうからした。
ついていた肘がすべった音らしい

「ねぇ、すごいエラー発見したんだけど。」
一点見つめたままのショウが、学校の授業みたく手を挙げながら質問タイム。

「どこがおかしいんじゃ?」

「あのさ、なんかボクと同姓同名の人がエントリーされてるんだよね。

しかも、写真までクリソツだしさ、なにこれ名誉毀損で訴えることできる?」

「ははは、間違いもなにも、お前じゃからのう。」

「・・・・・は?!

なにそれ、初耳なんだけど。」

一点見つめたままのショウが不快感露わに言う。

「知らせてなかったんだから当然でしょ。」

にこにことビケさん、にたりとキン、そんなふたりとは対照的に固まったままの表情のショウ。
一呼吸おいて

「ムリ、絶対ムリ。ありえない。だいたい女相手なら少しはヤル気あるけどさ、

見てよこれ、この人間越えてる化け物、マジありえないって。」

うがーと言いながら、キンより渡されたボードを卓上に抛るショウ。
ボードに載っていたエントリーされている参加者は皆、ゲームやマンガのモンスターといってもおかしくないほどの、人間はるかに越えた容姿の、Dエリア最強クラスの男がずらりと並んでいた。
その一番下にはショウの名前と顔写真があった。

たしかにエントリーされてますねー。ビケさんとキンは最初から知ってたみたいだし、てことはこいつ

騙されたんでやんの!うぷぷいい気味。
そっか、あたしに酷いことしてきたからついにその天罰が下る時がきたってわけね!むふふ。

「イベント盛り上げるためにはショウちゃんに出てもらわないと困るのよ。」

「ビケ兄の頼みでも、ムリだよ。

こんな人間頭からバリバリ食ってそうな奴らなんて、絶対ムリありえない。」

ふてくされた様に机の上に顔伏せて「ムリ」連呼のショウ。
でもそんなショウを笑っていられない状況になるのはこの少しあとなのだと、知らないあたし

「それは困るわね、リンネを賭けてのトーナメントなのに・・・・」

へ?ビケさんの言っている意味が理解できないあたしの口は半開いたまま、情けない表情でビケさんの顔を見上げる。

「悪いけど、二人とも、この祭りに協力してもらうわよ」

待ってください、なんですか?それは、初耳なんですけどっっっ?!
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