恋愛テロリスト
第二幕 暴風警報〜Aエリア 4
ツインテールの殺人鬼からあたしを庇うように現れたのはテンだった。
カイミの一撃を受けてもなんともない顔でピンピンしているテンに
カイミも不快な表情で見上げている。
瞬時に一歩後ろへと飛びずさりながら睨みつけながら叫ぶ
「なんだもん?!このデカ男」
「情けないな、リンネ、こんな小娘になぞみっともなくビビリやがって。」
カイミを見下しながら、あたしに呆れるテン
「フン、弱いくせに武器を簡単に捨てたりするな。
死んでから後悔しても遅いんだからな。」
テンはあたしにあたしがテンに投げつけたライフルを投げてよこした。
とっさにキャッチしてしまったが・・・・、くっせっかく捨てたのに
テンに睨まれながら、カイミは悔しそうな表情を浮かべながらも互いににらみ合ったまま緊張状態が続いている。
素人のあたしにはよくわからないことだが
おそらく、カイミにはテンの強さというものがわかるのだろう。
ギリギリと悔しさを前面に出しながらも、うかつに飛び込んで来れなくなっていた。
そんな状態を、ショウのやつは高いところから楽しげににたにたと様子見していた。
さっきまでの猛獣はヘビに睨まれたカエルの立場になっていた。
そしてあたしはさっき言ったショウの言葉を思い出し、ハッとなった。
オッサンなら真っ二つにしかねない
Bエリア、そしてAエリアに来たときのテンの暴れっぷりを思い出し、また惨劇が繰り広げられる恐怖がよぎった。
「テン!そのこショウの知り合いみたいなのよ。とりあえずお互い武器収めて、話し合いを・・・・」
解決は話し合いで、Aエリアらしい解決法で!
「ね!ショウ」
上にいる原因の源の同意を求めると
「話し合いって?全部話していいわけ?
ボクとリンネのあんなプレイやあんなことまで事細かに?」
と!またまた事態をややこしくなるような問題発言を!絶対ワザとだこいつ
見れば案の定、カイミの体はぷるぷると震えて
「お前ら全員死刑だもん!!」
怒り頂点を抑えきれなくなったカイミがこちらをギンと睨みつけてきた、その目は赤く充血していた。
「出力最大だもん!」
カイミの手元からは凄まじい火花が散っている。あたしの耳にまですごい音が聞こえてくるほど
雷様ご乱心のままつっこんでくる
「あたしを見下ろす奴も大ッキライだもん!
消えろ!デカ男!!」
カイミはテンに突進
「テン!」
次の瞬間、空高く舞ったのは、彼女が手にしていた武器、バチバチと青い光を放ちながら
地面へと激しくぶつかり、その破片が辺りに散った。
そして空へと舞ったものはもうひとつ
それは赤いもの
「ひっ、くぅっっ」
呻くような悲鳴のような小さな声がしたと思ったら、地面に滴る赤いものは、血だった。
手を押さえながら、鋭くテンを睨むカイミ、流血はカイミのほうで
圧倒的な実力の差を感じていたカイミはただ悔しそうに、だけど目だけはテンに負けじと鋭い光を放ったままだ。
睨み合う獣と獣、だけど弱者と強者
素人のあたしには見えないが、たぶんこの二人には見えているのだろう、お互いの強さというオーラみたいなものが。
睨み合いだけでも数秒後、耐えられなくなったカイミのほうがギャンギャン暴言を吐きまくった。
「デカ男ー!お前なんてウンコだもん!このウンコウンコーーー!」
なんて低次元な・・・女の子がウンコなんて言っちゃダメーっ
「お前みたいなキチガイは、怪しいキノコ飲み込んで、内臓キノコに侵食されて、全身が腐り果てて、そのままウンコになっちまえもん!! 尿道に錆びたぐにぐにの釘がのめり込んで、ぐちょぐちょになる病気になれもん!」
そんな病気があるのか?、ってそのくらいでとどめてくれないと、当作品の品位が・・・ってなにを言ってるのだあたしは?
「弱い小娘ほど無意味に吼えるな、騒いで強くなるのなら苦労せん」
テンには効果ゼロですよ、お嬢さん。
まったくショウの「オッサン」にはブチきれるのに、カイミの文句には無反応とは、変な奴。
そんなテンの様子にカイミの怒りメーターは上がるのみだ。
その声に、周囲も気づきだしたみたいで。
目を覚ました人たちが、何事かとあたし達に気づきだした。
「ヤ、ヤバイよ、テン、このままじゃ」
慌てるあたしをまたバカにするように
「みっともなく慌てるな。情けないやつめ。
俺の道を邪魔するならたとえ小娘でも容赦はせん。」
虎が鼠を睨む。
力量差を気持ちでカバーしようとするカイミは、すごい奇声を上げながら、したたる血をそのままに再びテンへと突進、そんな彼女にためらいもなく、テンは刀を向ける
カイミがそうとうやけっぱちなのがあたしにも見て取れた。
ショウが言ってたように、テンなら少女といえどもためらいなく真っ二つにしてしまうかも?!
いくらバケモノみたいな女の子でも、目の前で切り殺されるのは勘弁!
身内の子が殺されるかもって緊急事態にも関わらず、ショウのやつはその様子を止めるどころか、むしろ楽しんでいるように笑いながら見ていた。
身内のピンチを笑ってみているやつも、女の子にためらいなく斬りかかるやつもあたしには理解不能。
Bエリアの男二人の思考なんて、Aエリアのあたしが理解できるはずがない。
惨劇を避けたくても、あたしにはこいつは止められない
次の瞬間、広がる血の海を覚悟した、その時
あたしの左肩をかすめるように飛んできたものがあった。
それはあたしの前にいるテンの刀を掴むように、テンの攻撃を封じた。
テンはそのせいで刀をカイミに振るうことができず、そのままつっこんできたカイミをとっさに足で蹴り払った。
「うっ」と呻いたカイミは地面へと転がったが、すぐさま起き上がり、ギッとテンを睨みつける
テンの刀を掴んだのは、ムチのような形状の・・・・・
その元を目で辿っていくと、そこにいたのは
白っぽい髪の眼鏡をかけた若い男
「キョウ兄!」
そう叫んだカイミは急に違う人間になったみたいに声色まで変わっていた。
気がつくとあたしたちは大勢に囲まれていた、みな武器を手にこちらを威嚇していたのだ。
人が変わったように泣き喚くカイミのもとには数人の看護士らしき者が走りより
別の場所へと連れて行かれていた。
連れて行かれる途中、その眼鏡の男のほうに同情を誘うような顔をしながら、涙ながらに
「カイミ怖かったんだもん、もう少しで殺されるとこだったんだもん。」
それはさっきまでの台風娘とは別人のように、かよわい女の子な顔をしていた、わざとらしいほどの演技だ、大根役者がっ。でもたしかにテンには殺されそうだったけど。このシーンから見た人は、いたいけな女の子を殺そうとしていた凶悪なテロリスト、にしか見えないかも。
そしてあたしのほうにはまたあの鋭い殺意のこもった目で
「お前の顔。よーく覚えておくもん!」
いえ、忘れてください・・・。
「清く正しく生きるAエリアの住民の安全を脅かす存在を許すわけにはいきません。
ましてや、テロリストなど・・・」
朝日を受け眩しくうつるその彼はまさにAエリアのヒーローのごとく現れた。
眼鏡の奥に光るその目は、正義の申し子のように、強くこちらを見据えていた。
ヒーローみたいに現れる人っているんだ。テンの場合は、まあテロリスト丸出しだけど。
スーツに眼鏡とか見た目がAエリアの真面目な男って感じで、それにイケメンだし。
一体彼は何者?
「フン、出たな、鬼が島の犬がっっ。」
悪役っぽいテンもまた彼を睨みつける。
その二人に挟まれたポジションのあたしはただ事態が飲み込めず呆然とするだけだった。
「タカネを返せ!Aエリアを火の海にしたくなければな!」
相手が誰であれ、強気なままのテン、だけどむこうもたじろがない
「させません!たとえ何者であれ、Aエリアを乱すことは断じて見逃すわけにはいきません。
武器を捨てなさい、下手な抵抗は・・・・こちらとて容赦しませんから」
はいはい捨てます!あたしはすぐに武器を投げ捨てた。すごい汗噴いてます。手を広げて無抵抗なのを強調している。
「ショウ、お前も降りてきなさい」
男にそう言われて、ショウは建物の屋根からひょいっと飛び降りてきた。
そして眼鏡の彼のほうに親しげに手を振りながら
「キョウ兄、久しぶりー」
となんとものー天気な挨拶を・・・・
ん?
てことはこの人がショウの兄のAエリアの領主なの?!
テンとは正反対に正義の化身のような、この人がヘンタイバカのショウのお兄さん?!
想像していたのと違っていたかも
「Bエリアからの連絡でだいたいのことは聞いていますが・・・・」
「そうそういろいろあって大変だったんだからー」
ケラケラとのん気に笑うショウは二人の屈強な男達にガシっと取り押さえられ
「うわっ、ちょっなにすんの?!ボクそんな趣味ないのに!」
動きを封じられ男達に担がれながら
「話は別の場所でゆっくり聞きます。
そちらも早く武器を捨て大人しく・・・」
テンは力ずくでAエリア領主の絡みついたムチを払いのけ、周辺の武装した連中を斬りつけながら
「Aエリアだろうが、どこだろうが関係ない!
タカネという愛を取り戻すためならすべての障害など破壊しつくしてやるだけだ!」
激しく睨みつけた後、テンはあたしの前から去っていった。
「あの男は・・・・一体何者ですか?」
「あの人はテンって言って、あたしのおばあちゃんの恋人らしいんです。
そのあの過激さもおばあちゃんへの愛ゆえにというか、おばあちゃんさえ見つかればおとなしくなるとは思うんですが」
なぜあたしがテンのフォローをしなけりゃならないのか
なんかパニくっている中、背後からガシッと取り押さえられる。
「あっ、あのあたし、テロリストの仲間じゃ・・・」
慌てて弁解していると
「話は別の場所でゆっくり聞きます。手荒なことはしないので大人しくついて来てください。」
この人はあたしが今まで会った男たちとは違って、紳士的で優しそうな空気だった。
どこに連れて行かれるのかという不安はありながらも、この人のことは信用できるという気がした。
「なーんーでーー」
あたしは嘆いていた。なぜなら、なぜなら・・・・・
あたしが連れて行かれたのは領主館と並立している地下施設の
「牢獄なんて・・・こんなとこ一生縁のないとこだと思っていたのに」
手荒なことはしないって、あの紳士的な態度を信じたのに、なんで
「あたしは犯罪者じゃありません!!」
なんでこんなことに、なんであたしが牢獄に入れられなきゃならないのか。
泣き喚いているあたしの向かい側の牢には
「牢獄プレイなんてそうそうやれる機会ないよね。
Bエリアにはない施設だし。
あっ、リンネもし便意もよおしたら教えてねv見ててあげるからさ。
あー、でも臭いがこっちまできそうだよなー。リンネの屈辱に震える姿は、見たいんだけどなー」
と変態発言しながらケタケタと笑っているのはショウだ。
「なによ、そっちだってトイレ行きたくなったら同じでしょーが。その時は大いに笑ってあげますからーー」
「おっけー。その時はさ、大口開けて笑ってくれていいよv そこ目掛けて放射してあげるからさw」
しまった、ヘンタイにとってはご褒美だった?
Aエリア領主の弟と言いながらあたしと一緒に牢獄に入れられたショウ。
Aエリアに行く際、自分がいればなんとかなると思わない、とか言っていたくせにこの様だからな。
ちょっといい気味とか思った直後、自分もそうだと思ったらまたまた落ち込みモードに突入した。
せっかくAエリアに帰ってきたっていうのに、凹む。
だいたいなんでこんなことに・・・・、あのカイミって子が暴れるから・・・・
ん?その原因ってこいつじゃん!ひしひしと怒りが
「そういえばオッサンは?」
「知らないわよ!あんな暴走テロリストなんて!」
そしてテン!あんなのと関わったばっかりにあたしの平穏はどんどん遠ざかって
うきぃーーー
と発狂しかけた時にあたしたちの前にやってきたのは
「大人しくと言ったのに、Aエリアでは子供でも守れることをあなたたちはできないのですか?」
呆れながらそう言うのは
「あっ、キョウ兄!」
牢を掴みながら陽気に飛び跳ねるショウにキョウは冷めた目で
「ショウ、お前がカイミを怒らせるようなことをしたんでしょう?」
丁寧ながらも静かに怒りを感じる声だ
「ちょっと待って、あいつが勝手に怒って暴れだしたんだって。」
目であたしに同意を求めてくるショウだが、だれがそうはいくか
「はいその通りです!そいつがあの子ワザと怒らせて楽しんでいました!」
キョウは激しく呆れたようにため息を吐いた。
「理由はなんであれ、暴れたカイミにも責任はあります、あの子はまだ学生なので処分のほうは学校に任せてあるのですが、そのことはともかくとして
リンネ、あなたはおばあさんを探していると言っていましたね?」
「え、うん」
「そのことなんですが・・・・」ドォーーーン「キャア!」
あたしの背後から爆発音がした、と振り向くとそこには
やはりというか・・・
「テン!」
爆発によって開いた壁の向こうの部屋から姿を表したのは
「リンネ、貴様捕まるのは趣味か?」
テン!・・・・こいつは普通に登場できんのか・・・。
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