1500年2月3日、まさか自分の十九回目のバースデーをこんな形で迎えるなんて思いもしなかった。
初めて立ち入るその場所は、この国の聖地【鬼が島】。
そこに向かうのは、大切なおばあちゃんを救い出すため。
大好きなあの人を、ぶっ倒すため。
そんな野蛮な理由で聖地へと…、隣には危険な男テロリストのテンがいて。
見上げる壁ははてしなく高くて、空との境界線がわからないほどにある。
早朝からその例の場所…鬼が島への門が開くというBエリアの端川沿いのそこ。
前日に何度もミントさんにメンテしてもらった武器を両手に抱えて、いつでも突入できるようにと準備して待っているんだけど。
まだ変わらず、門が開くような動きはない…んですけど。
はー、とため息ひとつ吐いた時、通信機が鳴った。
通信機の向こうに映るのはキョウ、そして数秒遅れてキンからも。液晶画面は上下にわかれて上にキョウ、下にキンが映る。
『リンネ、そちらの様子は?』
「うん、いまのとこまだなにもないんだけど……そっちも?」
キョウはAエリアにいる。実は鬼が島への門は三箇所あるらしくって、あたしとテンはBエリア側の正門、キョウはAエリア側の東門、で残るはDエリア側にあるという西門だけど、問答無用でキンの担当になったのだ。
『ええ、まだ動きはありませんね。キン兄さんのほうは?』
『こっちもまだぴくりともせんのぅ。まあまだ日も昇っとらんし』
「うん、たしかに気が早いのかも。しかし、寒い寒い」
真冬の早朝だし、当然ともいえる寒さ。まぎらわせようとその場で足踏み足踏み。
「そんな薄着で当然だろうが、どこまでもお前は…」
「ええーいうるさい!真夏に厚着のテンにだけはいわれたくありませんからっ。たしかに寒いけど、厚着だと動きにくいでしょう!」
なので当然の準備なわけですよ、薄着はね。
「そういえば、今日はお前の誕生日だな。せっかくだ、祝いの歌を唄ってやろう」
「え?」
突然なに?テン。
「ハッピバースデーリンネーー」
ええっ?なに、いきなりテンが真顔で歌いだした!しかもムダにいい声!
「うわっちょっ、なに?なんですかーー」
うろたえるあたしの耳に、なにやらハモるように聞こえてくる歌声が。
『ハッピバースデーリンネーー、ハッハッハ』
「ちょっキンまでーー」
やめてやめてなんですか?このイヤガラセはーー。
『ハッピバースデーリンネーー』
「うわっ、ちょっ、キョウまでやんなくていいからーー」
『なにか唄わなくてはいけない空気だったので…』
そんな空気読まなくていいからーー。
死ねる、恥ずかしさで死ねるわーー。
必死でストップ連呼して、恥ずかしい歌は終了した。ぜいぜい、こんなとこでムダに体力消耗したんですが、テン。
涼しい顔してあたしの前に立つテンから、またドッキリ発言が飛び出そうとは。
「リンネ、お前にとびきりのプレゼントを用意している」
「え、プレゼントってえ、なにまさか」
どきどき、プレゼントってもしかして、宝石?現金?いやいやテンのことだから、きっと手作りビーフシチュー一年分とかかしら!うっひゃーー、ヨダレがたれまくりそう。テンの手料理超がつくほど美味しいんだものv
「またろくでもないことを考えているな。お前のアホな想像とは違うが、楽しみにしていろ」
にっ、とテンが笑う。なんだろう、テンのプレゼントって。期待していいのかな。
『リンネー、ワシからもあるぞ、これじゃー』
と画面の向こうのキンが持ち上げて見せたのは、黒っぽい塊の……。
『花火じゃ。こいつをドカーンと、鬼が島で打ち上げてやるからのぅ!』
キンが楽しそうに笑いながら花火を見せてくれた。鬼が島との戦い前だっていうのに、キンは変わらず陽気で緊張感ないなぁ。あ、だから楽しいのか。まるで祭りに向かうみたいな心境になってくる。
「ありがとう、キン。楽しみにしてる」
『はっはっは、礼など不要じゃ。惚れたおなごのために花火上げるんは、男として当然のことじゃからな!』
「ぶほっっ!ちょっっ、惚れたっていつの間にですかー?」
なにさりげにどっきり発言かましてんだ、この男は。
『おお。たった今じゃ』
にかっ、と動じることなく白い歯を見せて笑うキン。ん…、まてよ、また問題発言なかった?
「たった今って、じゃああの島で言ったことってやっぱり冗談だったんかい!」
ふんがーーー!
『はっはっは、おんもろいのー』
「ちょっとなに笑ってんのよ、それにおもろくない!」
おどりゃー、乙女の純情玩ぶなー、このマッチョバカーー。
「ん?なんの話だ」
『あの島って、例の無人島のことですか?』
「食いつかなくていいから!」
ああー、もうまたまた疲れちゃったじゃない、たく。バカバカ。
それよりも、鬼が島…。
同時に門が開くことになるんだろうか、その辺はまだよくわからない、とにかくその時になってみないことにはわからないということで。
Dエリア時代のテンでさえ最も危険なエリアだと言う鬼が島。どんな危険が待ち受けているかしれないそんな場所に、あたしはテンがいるからいいとして、キンはともかくキョウはたった一人で大丈夫だろうか?
「キンはともかく、キョウはたった一人で大丈夫なの?あたしにはテンがいるからいいけど。もしかしたらDエリアよりも危険なエリアかもしれないのに」
『心配なら無用ですよ。ミントに武器も強化してもらいましたし。それに、Aエリアを守る為にもこちらの門は死守してみせます』
その時、通信機から通信音がした。Aエリアから、ミントさんだ。
画面は三つ区切りになって、一番下にミントさんが映った。
『おっとまだ門は開いてないようっすね』
「ミントさん」
『おおミント』
『ミント』
三人の声が重なる。画面のミントさんはにこにこと笑っている。
『間に合ったみたいっすねー。若旦那、そっちに強力な助っ人が向かったっすよ♪』
『え?助っ人って?…!カイミ?!』
驚くキョウの声、キョウの背後に映るのは、見覚えのあるツインテールの女の子、カイミさん。
『ちょっ、ミントどういうことですか?』
『言ったって聞かないんだからしょうがないっしょ。それにお嬢なら即戦力っすよ』
困った顔のキョウとは対照的にミントさんは嬉しそうな顔。
そしてキンのほうからも、別の声が。
『ずるいじゃん御大将。こんな楽しそうな祭り、一人で楽しもうなんて』
聞き覚えのある生意気そうな少年の声は。
『ポッキー。おお、すまんかったな、よし!ワシら二人で大暴れするぞ』
『もっちろんじゃん』
楽しそうなキンとポッキーのやりとり。鬼が島との戦いもこの二人にとっては祭りなんだな。
『ダメって言ったってついていくんだもん。もう決めたんだもん』
カイミさんのぐっと力を籠めた声からはがんとした強い決意を感じる。困った顔をしていたキョウだけど、カイミさんの強い決意を感じとったのか、諦めたように息を吐いて
『仕方ないですね。でも絶対無茶はしないと約束ですよ』
『わかったもん!』
カイミさんが助っ人にきたなら、キョウのほうも心配ない、かも。
空が明るくなりかけた時、キョウとキンがなにか異常に気づいたように声を上げた。
『キン兄さん!空を見てください』
『おお、見とるぞ。あれは温羅の魂か』
「え、なに?なんなの?空がどうしたの?」
『リンネ、鬼が島の上空ですよ。空へと昇っていく光が見えませんか?』
「え?」
言われてあたしは空を見上げるけど、空にはなにも見えないし、光なんてどこに?
『なんじゃ、見えんのんか?あの光が』
「ごめん、なにも見えないんですけど」
「なにを言ってるんだ、やつらは、幻想でも見えているのか?」
テンにも見えてないらしいし。キンとキョウにしか見えていないみたいだけど。
『たしかにあの光は……、温羅。温羅の魂です』
ううーん、あたしにはやっぱりさっぱり謎の光など見えないけど、霊能力なんてないし。でもキンたちに見えているのがほんとに温羅の魂だというのなら……。
「ということはー、ビケさんから温羅が離れたってー……こと?」
頭の横で人差し指をくるくるさせながら、キンたちに確認をとるように訊ねる。
『そういうことですね。ビケ兄さんと温羅の間になにが起こったのかわかりませんが、温羅の魂が離れたということは』
『うむ。リンネ、お前の勝機も見えてきたな』
「そうか。温羅が抜けたってことは、ビケさんから温羅の力がなくなったってこと?」
『おそらくはそうじゃろうが。だが兄者から温羅の力がなくなったとしても油断はできんぞ』
「だな。フン、ビケのことだ。なにをしてくるかわからんからな。死にたくないなら覚悟決めておけ」
「うん、わかってる。あ!」
『!開く』
『おおっ、こちらもじゃ。鬼が島の門が開くぞ』
正面に見える鬼が島を囲う城壁に、四角い隙間が生まれたのが見えた。そしてその隙間はどんどん広がっていく、ゴゴゴゴという重い音と共に。
城壁のほうからこちらへと伸びてきたのは石でできた橋。ドゴンと接続の音を響かせて、Bエリアと鬼が島を繋ぐ橋がかかると、門も完全に開いて動きが止まった。
「フン、ビケめ、じらせやがって。行くぞ!リンネ」
しゅばっと刀を抜いて、橋を渡るテン。
四角い空間から、見えてくるのは初めて目にし踏み入る未知の地。鬼が島。なにが待ち構えているのかわからないけど、なにがあっても引き返す気なんてさらさらない。
ビケさん、あなたにたどり着くまでは。
揺らがないように、見据えて、その場所へとまっすぐに。
「待ってて、必ずたどり着くから」
武器を抱えなおして、あたしは石の橋を駆けて、門をくぐった。禁断の地鬼が島に侵入を果たした。

門をくぐる直前に、変なレーザーやら飛んでこないか?と思っていたけど、先に門を通りぬけたテンは何事もなく、あたしに来いと合図した。
どうやらそこには危険な罠はないみたいだけど、いやしかし、未知の地、もっとも危険なエリア鬼が島。油断は禁物。
「…爆弾の類の罠は、ないみたい、ね」
「ああ、だがなにが待ち構えているか、今回の鬼王の趣味はどんなものか」
にやり、とテンが不敵に笑う。なに、罠が楽しみですか?このヘンタイテロリストめ。
門をくぐりぬけて、あたしは生まれて初めて鬼が島にと足を踏み入れた。
思っていたよりずっと殺風景で、ところどころに石があって、ところどころに木が生えていた。池のようなものもあるみたいで。庭園、なんだけど、あまり手入れはされてないカンジ。地面は舗装されていない、むきだしの土で、その表面は荒く、点々と雑草を生やしている。
すべてを拒絶するような、天にも昇る勢いの城壁と比べたら、そこはエリアの心臓部でもある城を纏う存在はどこにもなかった。まるでからっぽで、寂しい景色。
そんな庭に囲まれて、立つお城は黒色で、不気味なほど静かにあたしたちを見下ろしている。
城を見上げ、あそこにビケさんがいるのだと、あたしはごくりとツバを飲み込んだ。
通信機が鳴って、再び通信ボタンを押すと、キンとキョウと繋がる。
『リンネ、そちらはどうですか? こちらは無事に門を越えたところです』
「うん、こっちも。何事もなく中にこれたけど」
『おお、なんじゃ、なにもないんか。む、しかし、なんじゃ、このどす黒い気は』
『ええ、たしかに感じますね。気味の悪いものを』
「あ、あのののの」
またしてもこの二人だけの世界に突入ですか?なにか妖怪?とかですか?ついていけないんですけど。
「なんだ?やつら、病気か?」
「ちょっ、思っても言っちゃいけません、そんなこと」
ああもう、変なことであたしがフォローしなきゃいけないってどうよ。
キョウとキンはもうオーラの見える丘とか行っちゃってください。ええ、もういっそ禁断の地へ。
『なに言うもん! キョウ兄はおかしくないもん! こんな不気味な場所、オバケが出てもおかしくないもん』
『御大将さすがじゃん! 目に見えない存在も感じるなんて、やっぱすごすぎじゃん』
信者のしと、ムリしてフォローしなくていいから、なんか切なくなるから、こっちも。
「俺は霊など信じんが。…生き返る死体というのはあるようだな」
はーー?
テンまでおかしくなったー?と思ったら、ややや、それがまさか今目の前で起ころうとは。
なにもない殺風景な庭園の土が、もごもごと蠢きだしたから、てっきりもぐらですか?とか言いそうになったら、とんでもない。土を盛り上げながら這い出てくるのは、古代の鎧兜姿の、えっと、肉とかふつーの人とは違う、もうなんていうか……。
「ゾンビゾンビー?!」
ただれた皮膚に、歴史を感じさせる錆びついた鎧を纏い、コスプレみたいな昔の武器っぽい槍やら矛やら剣やらを手にした兵士たち。顔は、なんかもう見分けつかないから性別も年齢も判別不能っぽい。
なにもなかったその場所に、次々と土が盛り上がって、どんどん地面から生まれてくるゾンビ兵士たち。
まさか、罠ってこれかーーー?!
ビケさんはネクロマンサーですかーー?
『く、なんて数』
『ぎゃーー、なんだもん、こいつらキモすぎだもん!!』
『わおっ、なんかすごい盛り上がってきたじゃん♪』
『なんか、懐かしいのぅ。ようしゃ、早速祭りの開始じゃーー』
通信機から聞こえてくる声の様子から、西門も東門も同じ状況になってる?
「フン、ビケめ。あいつの友達はこんなんばっかか」
お友達じゃないと思いますが、と一応心の中でテンにつっこんでおく。
そしてそして、皆さんの代わりに、あたしがつっこんでおかねば(強い使命感の元に)
最終幕だからってなんでもありかーーー?!
そのとおりなんて答えはキックじゃーー。
と、突然通信機から新たな通信音が。通信切り替えのスイッチを押して、聞こえてきたその声は。
『ひさしぶりね』
「ビケさん!」
通信機越しながら、久々に耳にするビケさんの美声だけど、ときめきよりも、なにか熱く燃え滾る感情が。
「ビケさん、今からあなたをぶっ倒しに行きます!!」
鼻息荒く、あたしは通信機の向こう、というか鬼城にいると思われるビケさんに告げる。予告というか宣戦布告。
『ふふ、言うようになったわねリンネ。だけど、のんびりしていていいのかしら?
ついさきほど、タカネを逃がしたのだけど、まだ城内にいるんじゃないかしら?早く助けないと、地獄から蘇った亡者どもに食い殺されるかもね』
なっ!
「なんだと!? ビケ貴様どこまでも腐りはてやがって」
あたしの耳元でテンが怒りを露わに叫ぶ。
「なに考えているの?ビケさん、こんな危険な場所におばあちゃんを」
通信機の向こうからはビケさんの笑う声。ムカムカムカー。ビケさんってば、あんなにおばあちゃんのこと大切だなんて言ってたのに、こんなことって、もう正気の欠片もなくなってしまったの?
なら、その目あたしが冷ませてあげるしかない。
「その腐った根性叩きなおしてやるっっ」
「切ってからいうな、バカが」
てへ、バレてた? すでに通信機は通信オフになってたことを。まあいいの、そんなことより、今は早くお城へと向かわなくちゃ。
て決意新たにしたら、わわわ、目の前に迫るとろけた古代風兵士の大軍がーーー。
「ちょっ、こないでよ!」
銃の引き金を引いて、目の前に迫ってくるゾンビ兵へとファーストアタック。
弾丸は見事兵士の胸のど真ん中を貫通したんだけど……。兵士は弾を受けた瞬間、衝撃で上体をそらしただけで、何事もなくそのまま歩いてくる。
そうか、ゾンビだから、痛覚もなくて、不死身なわけですね!
「て、ジョーダン勘弁なんですけどっっ。いい加減倒れてよ」
ダンダン攻撃を浴びせても、なかなかやられてくれないタフネスめ。ちょっとずつ後退しながら、銃撃を浴びせ続けるけど、もーー、キリがない。数もすごいし、て、まだまだ地面から出てきてますよー、新しい人たちがー、いや死んでいるから新しいもなにもないけど。
もー、弾だって限りがあるんだから。こんなとこで無駄遣いするわけには。
「おいリンネ、銃撃はやめろ。こんなやつらちまちまと相手にするだけムダだ。フン、下がってろ」
とテンが言った直、テンは懐からなにやら物騒な物取り出して、それを迫り来る亡者どもに投げつけた。
「ちょっそれって」
あたしの言葉をかき消すくらいの、激しい音に光煙。テンのやつ、爆弾使いやがった。耳が、目が、やられるっつーの。もうー、どんだけ爆弾好きなんだ、こいつはリアルボンバーマンめ!
煙がはれていくと、あんなにたくさんいた亡者達の数が減っている。そして地面には、いやーな肉片や錆びた金属の欠片などが飛散っていた。
「リンネ、進むぞ。こんな気持ち悪い壁などすぐに突破だ」
テンは城に向かって走りながら、また懐から取り出した爆弾を投げつけ、ゾンビたちを倒していく。
過激だけど、たしかに効率いいかも。テンのあとをあたしは追いかけながら走る。
「うっうわ、ちょ、まだ出て来るしーー」
倒してもまだまだ絶賛生産中ですよとばかりにもくもくと、地面からゾンビが産出されています。つまり、キリがなさすぎる。そのたびにテンの爆撃がゾンビを襲い、そのたびに砕けていくかつての人間の肉片たちを見てしまう。あはははは、ここに来て、コロッシアムでの体験が糧になっていたと実感なんて。笑っちまうぜ。
「リンネ、お前へのプレゼントだがな」
え? 突然テンがあたしに話しかけてきたそれは、突入前に話していたあたしの誕生プレゼントのこと?
「ビケをぶっ倒す権利、お前に譲ってやる。本当は俺もあいつをぶちのめしたくて仕方がないが、特別だリンネ、ありがたく思え」
前方の敵を見据えたまま、テンは口元に小さく笑みを浮かべてそう言った。
ビケさんをぶっ倒す権利がテンからのプレゼント。……ってなんてDエリアなプレゼントなんだ。
でも、嬉しいテンありがとう。余計に負けられないって気持ちが強まるよ。
ビケさんへの想い、テンだって強いのに。
テンのおかげで、目の前の敵を飛ばして、そのすきに前進。抜いた先で、すぐ後方から新たに生まれたのが迫ってくるから立ち止まることはできないし。
緩やかな坂になっている庭を駆け上っていく。どんどんお城は大きくなって近づいてくる。段々お城の表面も鮮明になってきて、入り口らしき扉が確認できた。走りながらテンがあたしに伝える。
「リンネ、あそこがおそらく正面口だ。お前はあそこから城内に入れ」
「うん、わかった。え?テンは」
あたしはってことは、テンは一緒に行くわけじゃないの?
テンは城の近くまで来てすぐ、きゅっと踵の向きを変え、別の方向へと向かいだした。
「ちょっとどこ行くつもり?」
「このデカイ城の入り口が一つなわけないだろう。もしタカネと行き違えたらどうする。俺はタカネの救出を最優先する。この先は別行動だリンネ」
「テン、わかった」
あたしは頷いた。たしかにおばあちゃんが城内にいるなら、必ずしも正面口に向かっているとは言い切れないし。それぞれ別ルートを進んだほうがいいよね。
テンはあたしに背を向け、城を沿うように走っていった。
さて、あたしは正面口と見られる城内へと続く扉をくぐりぬけた。たどり着いたそこは、鬼王が制する未知なる場所、鬼城。
どんな罠が待ち受けていようとも、驚かない、びびらない。この先はたった一人。
おばあちゃんを救う為、そして、ビケさんあなたと戦うために。薄暗い木製の階段を駆け上っていく。
クライマックスまで、立ち止まれるかってのよ!


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