テンが去った後、ドアごしからショウとレイトのやりとりが聞こえてきた。
「なにたった一人のテロリストに振り回されているわけ?
領主が雷蔵伯父さんじゃなくなったからって、お前ら気抜きすぎなんじゃないの?」
半分怒ったような半分呆れたようなショウの声が聞こえてくる。
「いえ、あの男只者でない強さです。雷門の戦闘兵一度に五人も切り伏せられて・・・
今までのテロリストの比ではありません、あの全身から漂う危険なオーラは
それに、あの男の刀剣から放たれる禍々しい妖気
まるで・・・・桃太郎のような・・・・」

桃太郎?
桃太郎ってあの初めて鬼政府に、つまりは初代鬼王温羅にケンカ売ったと言われる最初のテロリスト
歴史に語り継がれる大悪党
ゆえに温羅の一族・・・鬼門、雷門、金門からは忌み嫌われている1500年前の反逆者

「ぷっ」
「ショウ様笑い事ではなくてあの男本当に危険すぎる男です。
一人の腕を切り落とした後、それをこちらに投げつけて、挑戦的に
タカネを早く帰さないと次は頭をシュートしてやる!と脅してきたのですよ!
しかも、ショウ様のお命を狙っているんですよ!」
「完全にバカにされてんじゃん。お前ら雷門の意地とか見せてやろうとか思わないわけ?
だいたいタカネってだれだよ?」
「さあ・・・・私も心当たりが、ショウ様もご存知ないので?
今まで・・・そのショウ様が買われた女共の中にタカネという女は・・・・
!?まさか・・・あのクソ女のことじゃ・・・
間違いない、くそっあのクソ女めっ、とんだ疫病神だ!」

おっおいおい、レイトのやつあたしがタカネだと思い込んでまた怒りゲージ上げている?!
ううっ、でもあたしのおばあちゃんだし関係なくはないけど、
でもあたしとタカネが関係あるって知れたら、きっとただじゃすまない気がする。
て、テンやっぱりどこまでもムチャクチャな奴・・・・
頭シュートってなに?・・・・深く考えないほうがいいよね、うん。心のために

興奮しているレイトを鎮めているショウの声がした
とりあえずあたしは今はショウのお気に入り(?)のおもちゃ(自分で言ってて悲しくなった)なわけで、ショウを敵に回さない限りは、きっとあたしの命は安全だ。身は安全じゃないが・・・。



その夜、領主館前の女神像の瞳が怪しく光った。
テンの合図だ
テンは愛を取り戻すためこのBエリアを火の海に
そしてこの領主館を血の海にするという・・・・
ってちょっと待て!やっぱりムチャクチャな男だ。
でも、あたしをここから救い出してくれると約束してくれた(あくまでおばあちゃんのついでだけど)
どうせムチャクチャなこのBエリアだ、もうあたしも腹くくってやる!
Aエリアに帰ったら、まともな普通の生活を取り戻すんだから


数度におよぶ爆発に殺人予告、レイトたちもそうとうピリピリしているみたいで
レイトたちの様子からしてもテンのムチャクチャっぷりはそうとうのものなのだろう。
まあこいつらもムチャクチャな人種なのでどっちもどっちだと思うけど
その緊張感はこちらにも伝染する、ただショウだけにはそれはうつらないらしく、レイトたちとは温度差があるようだ
そしてあたしも・・・・ちょっとはムチャクチャ
いや
かなりのムチャクチャをしなければならないとは


ショウより先に部屋にと戻ったあたしは最終確認をする。
照明のスイッチの位置に出入り口障害物、そして
ショウよりもらったあの武器にと
それをあたしはベッドの下に隠してもう一度確認する。
これを武器にすることはあっても発砲はしません、と固く誓って

窓の外、もう一度テンからの合図
女神像の上に月明かりを受けて怪しく輝くそれはテンの刀の反射
それが女神像からつーっと下へ・・・・・?飛び降りたのか?あの高さから??
その瞬間また館周辺で激しい爆発があった。
館の男達(雷門の連中)はその現場へと走っていくのが見えた。

「ショウ様!また奴です!
どうか館内の安全な場所で身を潜めててください。」
慌しい音と共にレイトの声がした
「わかったから、今度こそとっとと仕留めてこいよ」
「はっ、もちろんです必ず、雷門の名に懸けて!」

館内にいた雷門一族全員がテンの元へと向かったみたいだ
雷門はかなり好戦的な連中だって聞いてたけど、それだけじゃないんだろう
テンに散々玩ばれた悔しさとか意地とか
自称愛のテロリストひとりにやられたとあっては雷門の名に傷がつくこともたしかだし
レイトの口ぶりからして鬼気迫るものを感じた。

テンがどれだけ強いのかあたしは見たこともないのでわからない、
でも心強い味方であると信じたい、いや今だけでも信じないとやってけない
そしてこれが最初で最後のチャンスであると
あたしは気合を入れながら
身につけていたすべてを脱ぎ捨てた

それから一分も立たない間にショウがやってきた
まあ下手に時間を置かれるとこちらも気持ちがもたないだろうし
勢い任せの度胸のみが武器で
逃げ場を与えない目で、あたしはショウを挑発する
「もう、待ちくたびれちゃったv」
「・・・・へぇ」
素に帰れば今の自分のキモさに死にたくなるだろうが、そんなこと考えている余裕はない
ここから脱出する、そのことのみ集中する

照明をおとしているもののお互いの姿は確認できる程度の明るさはあった
当然衣1つ纏わないあたしの姿もショウには見えているわけで
だからこそ気持ちで負けるわけにはいかない、勝利を確信するまで目は逸らさない

「テロリストのおかげでうるさいレイトのやつもいなくなったし、
これでゆっくり遊べるってもんだね♪」
ベッドの上であたしを見下ろしながら小悪魔の笑みを浮かべながらショウが笑う。
支配権を握りたがるショウから逃れるため、あたしは言葉をつなげる
「でもテロリスト、ずいぶんな暴れぶりみたいだけど
本当に桃山タカネに心当たりないの?」
近づくショウを優しく押し戻しながら、問いかける
それにショウは目を細めながら疑うような口調で
「まさか、タカネって君のことじゃないの?」

ふげっ!ヤバイ疑われている?!
タカネじゃないけど、そのタカネの関係者だとバレたら、あいつと少なくとも関係していると知れたら、いくらショウだってあたしのことただですますわけない
ちょっとヤバイ汗伝いつつも、誤魔化す
「そんなわけないじゃない」
「でもたしか記憶売ったとか言っていたよね?」
「うっ、でも自分の本当の名前くらい知っているわよ。あたしはリンネ!」
二年の記憶を失っていても自分を無くしてはいない
「へぇ、リンネっていうんだ・・・」

ショウに悟られないようにあたしは枕元に仕掛けておいた糸をゆっくりと引き寄せる
ベッド下のライフルにとつないであるそれをこそこそと引き寄せながら、チャンスをうかがいつつ
ソレでどうやってこいつをぶちのめそうかといろいろシミュレーションしつつ、必要以上に触れられないようにさりげなく体をよじったりしつつ、足の筋肉緊張しすぎつつ。腿に当たっているナニかが妙に気になってるけど、深く考えないほうがいいよね、うん。
時折窓の外にドンドンと爆発音が響いていた

「桃山タカネ・・・って、桃山ってさぁ、なんか」
なんか?なによ?
「桃太郎連想しない、まあどうでもいいけどさ」
ふがっ、こいつ意味深に言うからなにかと思ったら、そんなことかよ!?
「そういや、レイトのやつ、あのテロリストが桃太郎みたいだとか言っていたけど」
!?
や、マズイ?!なんか途中でライフルが引っかかっている?
ムリな体勢で引っ張っていたから腕が痺れ・・・・
「桃太郎なんてさー、鬼に成敗されちゃうのが運命だっていうのに・・・」
キーーン
爆音と緊張の限界かいきなりのすさまじい耳鳴りに襲われたと思うと、数秒ほど意識が飛んだきがした。
「成敗されるのはてめぇらクソ鬼どものほうだ!クソがっっ」

バキャッ

なに、今の・・・夢?・・・バキャッ?

感じたのはほんの数秒だ、その数秒後あたしは我が目を疑う羽目になる
なにが起こったか理解不能、だけど目の前にショウの姿はない
身を起こして周囲を見渡してみると、ベッドの横に無様に横たわったショウがいた・・・・全裸…なのでマジマジと見られずチラ見で確認した。

なに?なに?なにがあったの?この一瞬に
なにかはよくわからない、だけどなにか熱いなにかがあたしの中にすうと溶け込むように消えたのを感じた。その時のあたしはそれがどういうことかまったくわからなかったのだが
ただ今はそのことについて考えている場合ではなく、ショウが完全に気を失っていることを確認したあたしは身を整え、ベッドの下のライフルを手にして
ぎゅっと気合をいれて部屋をあとにした。

部屋を出ると、みんな出払っているらしく、だれもいなかったが、外では爆発やら悲鳴やら戦いの音がしていた。
それに恐怖が襲ってくるより先に、ここから逃げ出したい欲求のがまさっていたゆえ、あたしはムダにびびることなく走ることができた。
入り口の前まで到達、テンの指令にあった場所まで走ろうとした時

!?

正面入り口で鉢合わせたのは
レイト!?
「!クソ女
お前やはりあの男とグルだったのか?!」
あたしと目が合った瞬間、後ろへと飛び下がった後、あたしに向かって発砲した
「きゃっ!!」
偶然にもあたしが胸に抱えていた武器が盾となり、弾丸をはじいた。
それに一瞬舌打ちしたレイトは、あたしがここにいる異常に気づき、
「しまった、くそショウ様!」
あたしのことよりショウの身を最優先するレイトはすぐにショウのもとへと走った。
幸いにも今のうちにと目的の場へと走る。

女神像の立つ館近くの広場にて、いろいろと焦げる臭いと煙がまだ立ち昇っている
そして
死屍累々
「うげーっっちょっちょっ」
もう言葉にならない、現実とは思えない、この異常な世界の中
女神の膝元に横たわる雷門の男達は見るも無惨な姿に
うっぷ、下を見てられないのであたしは夜空を見上げるように顔を上げると
そこには、女神を足蹴にしている不届きなあのとんでも男
テンが高らかに笑いながら、そして見下ろしながら叫ぶ
「愛の為に生き愛の為に死せる
それが愛のテロリストだ。
貴様らが俺とタカネの愛を引き裂くというのなら、俺は力ずくでそれを取り戻す。」
「テン!!」
あたしに気づいたテンはあたしに
「フン、ちんたらしやがってバカがっっ
ちゃんとタカネのことを探ったんだろうな?」
あーもーバカバカ言うな!
「おばあちゃんならここにはいないわよ!
Aエリアに」
「なに?!Aエリアにいるというのか?!」

そんなの当然デタラメだ、ただ今はデタラメであろうとここをこのメチャクチャな街をメチャクチャなこの状態を早く脱したいだけなのだ

Aエリアにさえいけば、きっとなんとかなる。Aエリアの領主ならきっとおばあちゃんのことだってちゃんと調べてくれるに違いない。まあそんなことこのテンがきいてくれるか怪しいところだけど

あたしのその言葉を聞いたテンは高さ5メートルはあるかと思われる女神像よりあたしの側にと飛び降りた。
こいつは忍者かよ?!長身で大柄なわりに俊敏な身のこなし
それにどんな手を使ったのかは知らないけど、これだけの雷門の男共相手にして傷一つ負った様子もない。まだ余裕の表情で息さえ乱していない
「ならば、こんな場所に用はない
Aエリアに行くぞ!リンネ
タカネを一秒でも早く救い出さねば!」


あっさりとあたしのデタラメを信じたテンは領主館へとは逆に向かう通りへと走り出す。
あたしもその後を追いかけるが
通りにいる通行人がまたまた邪魔で
と思った瞬間
「邪魔だ!」
走りながらテンはこちらの進路を妨害する通行人、障害物ありとあらゆるものを
斬りつけ、破壊しながら、スピードを落とすことは一切しない
「なんだ、ぐはぁっ」
「ひぃっ」
あたしにぶつかりそうになりながら、テンに斬られた通行人の男が倒れていく
巻き添えをくわないように必死であたしは後を駆ける
ムチャクチャ、マジこいつムチャクチャにもほどがある

って、おばあちゃん、ほんとうにこの男恋人なんですか?!ストーカーじゃないんですか!?

でも不思議なことにあたしはテンをムチャクチャだと思いながら、あたしにとって危険な存在だとは感じなかった、それがなぜなのかはわからないけど、こんな状況が長く続いたあまり、あたしの精神状態も正常からはるかに離れてしまったからかもしれない

テンはそのままの勢いで道路を横切る、問答無用で突っ走ってくる車に轢かれる!
そう思った瞬間、刀が流れ星のような光の線を描いたと思ったら
車、爆発炎上
それに一瞬足の止まったあたしだが、炎の向こうへと消えていくテンを見つけ急いで後を追う
「ちょっとテン!」
息切れ切れにあたしが呼ぶのと同時に

「ちょっと待ってよ!」
?!この声は!?
テンはあたしの声かその謎の声に反応してかはわからないけど、ぴたりと立ち止まった。
その声は高い場所から聞こえた気がした、見上げると建物の屋根の上になにかの影が
それに間髪いれずテンは短銃で発砲した
おいおいほんと見境ねーな
とテンに呆れるよりもその声の主
「ちょっ待ってっていって・・・」
声は地面へと着地したと思うと、猫のようにすばやく消えたかと思うと
あたしの背後に回り、あたしが振り向く間も与えないほど、瞬時に両肩をつかまれ
「人間バリアー!!」
「うわっちょっ」
あたしを盾にするようにテンから身を隠しているそいつは
「ショウ!?」
いつのまに?!
「フンバカがっ、そんなもので俺から逃れられると思っているのか」
動じないテンは刀を構え、ショウを脅す
って、そんなものってあたしのこと!?なんかムカツクんですがっ
そんなテンに焦るショウは(あたしも焦っていますが)
「ちょっとリンネ、あのオッサン止めてよ!こっちは戦いに来たんじゃないんだって」
「えっ、ちょっテン、それ収めといてよ!」
まさかこいつのことだからあたしごと斬り捨てとかやりかねねぇ
「Aエリアに行くんでしょ?ボクも一緒しようかなーなんて思ってさー」
は?なんで??
「なにを考えているガキィ」
ショウをギンッと鋭く睨むテンにショウのやつはニカッと笑いながら
「おもしろそうだからv
それに、散々このBエリアで暴れたアンタ達をAエリアがすんなり受け入れてくれるわけないと思うけど
でもボクが一緒ならなんとかなると思わない?
Bエリアの領主だし、Aエリアの領主はボクの兄ちゃんだからさ。」

へ?え?なに?なんでいきなりんなこと言い出してんの?こいつ
やっと解放されると思っていたのにこれじゃー・・・
あっ、でもテンが許すわけな・・・

「・・・・・・
フン、いいだろう。」

え?少し考えただけであっさりオッケー?!
テン?アンタこそなに考えて、だってあんなに鬼門を嫌っていたんじゃ

「え、まじ?ヤター
フフフフ」
ちょっこいつ明らかに怪しい笑みを浮かべてますよ
とテンのほうを見たらテンのやつも怪しさ満天の笑みを
「ちょっとテン」
あたしが小声でテンに抗議しにいくと
「認めたわけじゃない、あのガキには利用価値がある」
「利用価値?って」
「ああ、人肉はなかなかいける、むっ、そんなことよりとっとと行くぞリンネ!」
えっ、ちょ、今またスルーしたいワードが出てきたような・・・・

それはさておき、あたし桃山リンネ気がついたら18歳、は念願のハチャメチャな街Bエリアから脱出を果たすことになるのだった、自称愛のテロリストでおばあちゃんの恋人テン、ヘンタイバカ領主のショウとともに・・・
そしてあたしにとって生涯最初で最大の恋を懸けての激しい戦いに向かっている第一歩であることに今はまだ予感すらなかった。


BACK  TOP  第二幕暴風警報1話へ