自称「最上級の女」金剛カナメ。
あたしをおもいっきり下の者として見下ろしながら、嫌味っぽく口元に笑みを浮かべている。

こんなこんなろくでもない女にあたしは・・・・・

あたしは死んでも負けたくない!

ギンッとカナメを睨みつけあたしは吼える。

「この世は正義が勝つの!アンタみたいな腹黒女の思い通りになんていかないんだから!

そして、あたしの愛こそせ、正義なんだから!!」

カッッ!ビシッと悪を指しながら言ってやったぞ!

そんなあたしに動じることなく、かはっと変な笑い声をもらしてすぐカナメの合図

「悪はアナタでしょう、桃山リンネ。この街での正義は金門にしかないのよ。

バカには体でわからせてあげないとね、やっちゃってちょうだい!」

一歩下がって合図するカナメの声に応えて、ハイセーズのイッサがあたしに向かってくる。
手の中にきらりと光る物騒な物をちらつかせて!

ぬおおおおう、マジかよこいつら、Dエリアの人間じゃねーーーか!!!

「いやーーーーー!!!」

逃げる、情けなくも逃げるしかないあたしは人の間を縫って走る。
そんなあたしを見て高らかに、むかつく笑い声をあげるカナメを段々と遠くに感じながら、走って逃げる。

正義の味方ハイセーズよ悪を倒せ!とばかりにカメラがあたしたちを追う。

周囲の連中はやんややんやと祭りのように盛り上がり歓声があがる。

「こーろーせー、こーろーせー」

ま、マテやコラ。
これって公開処刑?

なにが正義よ?いたいけなかよわき乙女を凶悪死刑囚のごとく、悪だと謳うこのCエリアの、金門の奴ら、絶対ぶっとんでる!!


「ハァハァ・・・・」
全力で逃げるあたしを、たまに飛び越え追い越しながら、チャッと飛び道具でその動きを乱すイッサ。

「ハハハ」とむかつく笑い声を上げながら、まるでおもちゃのように小動物をいたぶる猫のように、それを楽しんでいるみたい。

「ひぁっっぶっっ」
つまづき、地面にダーイブするあたしを囲むように、ハイセーズの三人がよってきた。

「あーーー、そんなくさい演技もういいからさー。
いい加減本性見せてくれなきゃ、かよわい女の子いたぶってるみたいじゃない。」

みたいじゃなくて、いたぶってるんだよ!
地面から起こしたあたしの目に映るのは、にこにこと無害そうな笑顔が不気味なイッサたち。

「Bエリアを火の海にして、Dエリア最強の男を倒したっていう黒い部分がみたいわけ。

いつまでももったいぶっていると、二度と太陽拝めないことになっちゃうよ。」

ちょっ、なんでそのこと知ってるの?!こいつら・・・・
いや、一部あたしじゃないんですけど・・・・

て、なに言おうが、わかる奴らじゃないよね。
じりじりと近寄ってくる三人組から、逃げるパワーもないあたしは、もう・・・・・・

覚悟を決める・・・・

「わけない!うりゃーー」
近づいてきたイッサの膝目掛けて渾身の蹴り

「おっとぉ」
あっさりと横にかわされて空を蹴るあたしの右足を掴むイッサ。

うわ、しまった、バランスが崩れて後ろに頭から落ちるあたしを後ろから支えるようにバショウが掴んだ。

頭部殴打は防がれて、ほっ・・・・・じゃないや

「パ、パンツ見えるーーーー!ちょ、放せ」

足を掴まれ持ち上げられた状態で股全開で、乙女としてあるまじき状態
しかも今日あんまりかわいくないやつだし、これも最悪乙女心。

「つまんないけど、終わらせるか。」

あたしのパンツ丸見えに完全スルーのイッサは、つまらなそうにため息をついてから、右手を振り上げ、その手にある刃物をあたしの喉元目指して振り下ろしてきた。


!!??
前後で掴まれて身動きの取れないあたしは、ここで、ここでほんとに終わっちゃうの?!

あたしがぎゅっと目を閉じた瞬間、あたしとイッサの間に走った何かを感じた。
素早くそのほうへと視線をやる三人組、カフェの屋根の上であくびしている猫・・・・のほうじゃなくて
右手に小銃を構えて、頭のゴーグルを掴むように長い前髪を押さえながら、飛び降りてきたのは

「ショウ!」

「はぁ、めんどいことはイヤなんだけど・・・・・リンネに死なれると困るんだよね。」

「ちっ」
あたしの前後でそう舌打ちが聞こえた瞬間、体が宙を浮く。

「わっわっ。」
びたん!
思い切り両掌で地面を叩いたあたしはその痛みと重みに悲鳴さえ殺された。

おうおう、とひいひい声を上げて見ると、周囲は静かになっていた。
そこにはもうあのハイセーズの姿もなく、いつもどおりの街の姿になってて・・・・
まるでさっきまでが夢の一部であったかと思い込んでしまいそうなくらい・・・・・

「よくわからないけど、た、助かった。」

ショウが現れたおかげで、あいつらはいなくなったし、・・・・・ん?
気になったことが

「ちょっとアンタなんで武器なんて持って?」

「は、それがどうしたの?」

Cエリアでは武器の携帯ご法度なのに、あっ、それいやあのハイセーズどももか、なんかもういい、んなつまらないことで疲れるだけだ。

いやそこじゃなくて、さっきショウのやつが言ってた・・・・

「あたしに死なれると困るって、どういうこと?


まさか、まさかビケさんが・・・・?」


私がいない時はショウお前がリンネを守ってちょうだい。
リンネは私の大切な・・・・・・


な・・・・な・・・・とかとかきゃあああーーーvvv

ばこっ
「はいありもしない妄想終了。」
いた、妄想ムリヤリ終了させられたー、くそ、ショウのやつ頭叩くことないじゃない!

「そこは、リンネの知ることじゃないから。」

な、なによそれ。
ん、そういえばなんでタイミングよく現れるわけ?そういや前もこんな風にショウが現れるとあいつらは消えたし・・・・まさか

「アンタあいつらとグルなんじゃ?!」

「は?・・・・・ボク一応雷門側の人間だけど。金門とは面識ないし。」

「じゃあなんで、アンタ見ると逃げ出すわけ?」
こいつはテンみたいにハチャメチャ強いってわけじゃないのに。

「鬼門の人間だからじゃないの?金門は鬼門とは絶対にもめたくないらしいし。

ビケ兄の立場もあるし、金門はビケ兄のこと特別視しているみたいだし。」

はーなんだもう金門って・・・・あもう考えてもむかつくだけだ。
とにかく理解不能な連中だってことはよーくわかった。

「!あ、てことは、四六時中ショウが一緒にいればあいつらに襲われないってこと?!」

そうよ、いつも一人の時に狙われていたし、今気づいた。

「あ、なんかBエリアに帰りたくなったかも。
最近ビケ兄忙しいみたいだし、ここにいてもヒマだしなー。」

くるりと向き変えて行こうとするショウの服のすそをガシッと掴んで捕らえる。

「なんで急にBエリアに帰りたくなるのよ、イヤガラセか?!」

「はー、でも側にいろって言われているしなー・・・」
ぼそりと漏らすショウ

「え、側にって・・・・やっぱりまさかビケさんが・・・・・」どっきーーん

「あ、なんかまたむかつく妄想してそう・・・・・とっとと領主館に帰ろうっと。」
領主館へと向かうショウにずるずると引っ張られながらあたしの脳内では・・・・・


『いい愚弟、私の愛する人・・・・・つまりはリンネを命に代えても金門のバカどもから守りなさい。

ごめんなさいね、リンネ。いつも側にいてあげられなくて、でも

どこにいても私の愛はアナタの側にあるわ。』

「はい、ビケさんvvv」

あたしは感じています。ビケさんの声も呼吸も・・・・暖かい手のぬくもりも・・・・・
え、夢?夢じゃない、こんなにも近くで、息遣いを感じるのは妄想が行き過ぎているからですか?
顔にかかる息を感じる。ビケさんの息?!
ふわっはぁはぁビケさんの匂い、ここぞとばかりに嗅ぐ!

てちょっと待って、ビケさんいきなりそんなあたしまだ心の準備が
てかあたしたちまだキスも、デコチューしかしてないのに、でもでもああっ

ビケさんだったら・・・・あたし・・・・・

「んっぐぅむーーー。」
ベッドの上、妄想もとい夢に癒されていたあたしの腹部に重たく苦しい存在が、そして口元を押さえられている手。むーむー言っているあたしが暗闇の中、光ふたつの目玉と目が合う。

「いい夢見てた?」
あたしに馬乗りになっているそいつは、ハイセーズのイッサだった。
なに?今これどういう状態?!
ここは領主館よ?なのになんでこいつが

「もうちょっと色っぽい寝顔が見たかったけど、君に期待するだけムダか。」

うるさい!てあくそっ、あたしはこいつの息をビケさんだと勘違いして、うわーーん、ムカツク!
あたしの幸せタイムを返せコラ!

領主館の中にまでこいつらがくるなんて・・・・あっ、そういえばショウは?
少し首を動かしてみたけど、この室内暗くて良く見えないけど、他にだれもいないみたい。
てことはこいつと二人きり、そしてあたしは上から押さえつけられて、口も塞がれて身動き取れない
万事休す?!

ドーーン!

一瞬室内が照らされ、すごい音が響いた。今のは爆発音のような・・・・
そして室内に窓から勢いよく飛び込んできたのは、ハイセーズのひとりの

「どうした?!ブソン、今のは」

「ヤバイよあの男。わけわかんない、いったん引こう!」
焦ったようにも聞こえるその声、そんな二人のやりとりのうち、意識があたしから離れた一瞬を狙って、むおぅっとベッドから飛び降り、奴らから離れる。

「ちっ」
すぐにあたしに向けられる視線、あたしはベッドの横にあったあたしの体の縦半分はある花瓶を両手で持ち上げ、振り上げ威嚇。

「そっちはともかく、こっちが先だろ。」
そう言って、ベッドに足掛け飛び上がろうとするイッサ目掛けてあたしは「うおりゃーーー」と武器?を投げつけた。

「めめっちいよ。」
あたしが投げたそれを空中で掴んで、あたしにと投げ返してくる。

「ぎゃあっ」
ズルっと足を滑らせたのが幸いか、頭すれすれのとこを花瓶が飛んでいった。
同時にまた爆発音がした。下のほうから

「来る!ヤバイよイッサ。あいつ、あいつにバショウやられ・・・」
激しく動揺しているブソンの姿が見えた、ベッドの上部のほうしかあたしからは見えないけれど、開けっ放しだった窓から、黒い影がやってきた。それにひっと声を上げ、そっちへと構えるブソン。そしてイッサもキッと険しい顔をそっちへ向けていた。

この爆発といい、あたしの中で思い出されるのは、あいつしかいなくて・・・・

「テン・・・・」

「貴様らに用はない、あいつはどこだ?どこにいる?」
ベッド越しに見える、闇より現れた自称愛のテロリスト。
あいつ?あいつって、ビケさんのこと?

「あいつ、なんて知るか。くそっよくもバショウを!」
少し震えているようにも見えたブソンがそう言って、テンへと飛び掛る。
ブソンの背後よりテンに向かって刃物をダーツのように投げるイッサの攻撃をすべて刀で払い落としながら、飛び掛ってくるブソンに切りつけるテン。

「くぁっ」
素早くかわしたブソンはそれでもダメージを受けたらしく、月明かりのしたキラリと光るテンの刀刃からは赤い汁がつうっと伝っていた。
後ろジャンプでベッドの上へと避難したブソンの重みと衝撃で、シーツの上に赤いシミがぽつぽつと広がる。
集中しなければならない相手と判断したイッサはブソンにはいっさい目を向けず、テンへの攻撃に神経を注いでいた。
Dエリア並の実力者に思えるイッサでさえ、テンには苦戦しているようで
素人のあたしの目にも押されているというのがわかった。

テンは強い、テンはあたしが知る中で一番強い人なんだ。
ハチャメチャで自分勝手で強引で。
強い・・・・・

そしてあたしが大嫌いなDエリア的考えで・・・・・
血の匂い、鉄のかすれあう音

嫌な感覚、また気持ち悪くなってきた。
ああ、前にも、こんな風に
Dエリアでも、こんな感じなったんだっけ?

ついさっきまでの気持ちいい妄想タイムははるかな夢だったとばかりに思い始めている。

「オッサン・・・」
後ろのほうからショウの声が聞こえた気がしたけど、そんなことたいして気になることじゃないくらい、この気持ち悪さに死にそうになりそうで
意識が遠ざかっていくんだ。

もう最悪、テンのせい、テンのせいで、暴力のせいで
変になるんだ。

「リンネ・・・?」

それからは夢を見ていた。それはもう気分悪くなる夢のようだった。

「俺様にも獲物回しやがれ!」
夢の中のあたしはベッドを軽く飛び越え、ブソンにとび蹴りかまし、奴の持っていた刃物を手にし、ありえない動きで窓に手をかけ屋根の上へと。
夢なのに、足の裏にひんやりとした屋根の冷たさを感じていたりして
あっけにとられているイッサの胸元に飛び込むように、刃物をイッサの胸部につきたてた。
そのままイッサたちがどうなったのか確認してないまま、テンのほうへと視線を向ける。

「よう、また会ったな。」
それはあたしの口から、発せられているあたしの声なんだけど、でもあたしじゃなくて

「リンネ・・・・・?いや、貴様は、あの時の・・・・・・」

少し不思議そうに、厳しい表情でもあるテンの顔を見ている。

「前に名乗っただろ。俺様は桃太郎だ。」

なんか言ってる、もうあいつらが、金門の連中があたしのこと桃太郎の生まれ変わりだなんてほざいていたからきっとこんなふざけた夢見ているんだ。

「貴様・・・・・いったい、なにがしたい?」
テンの低い声、じっとこっちを見据えている。

「天下が盗りたい。俺様は温羅の野郎をぶっ倒してぇのよ。1500年前、俺様は温羅に敗れて、天下を逃した。そして、温羅のやつはなにより欲していた女を手にすることが叶わなかった。

俺様と温羅、お互いに悔いが残る人生だった。そして1500年の時を経てやっと同じ時代に転生が叶い、お互い果たせなかったことを果たせるチャンスが巡ってきた。

俺様と温羅、そして、温羅が欲した俺様の女だったビキ。」

「・・・・・・・・。」

「ビキのほうは俺様たちより少し早く生まれちまったみてーだな。

現世では、今お前の女になっているやつだ。」

「!タカネのことか?!」

「ああ、俺様にはどうでもいいが。温羅のやつは現世でも欲しているみてーだな。」

「やはり、鬼がタカネを・・・・・」

「お前はその女を救いたいんだろ?

そして俺様は天下を手にする力が欲しい。そのために・・・・・

お前の体が欲しい。」



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