睨み合う超雄同士・・・てどんな表現だよ。
灰色の土が敷き詰められたこの部屋の中で闘気を漲らせる、テンとDエリア領主のキン
そのせいか部屋の温度がぐっと上がったような、だけども妙な悪寒もあって、へんな汗が浮き出てくる。
まるで地面が揺れているような錯覚さえ感じるほど、男達の熱い気を嫌なほど感じているあたしは
なんだか、どうにかなりそうだ、吐き気が襲ってきそう。

と、いうかちょっと冷静に一言つっこんでいいですか?
・・・・・

お前ら地下闘技場にでも行け!!!

「男なら誰もが夢見る地上最強・・・・なんてね。」
あたしの隣にいるショウがなんか言ってます。
あたしとショウは連中の闘気から逃れるように、巻き込まれないように、壁に沿うように立っている。
少年ポッキーは壁の端でうんち座り(やだ、下品な表現!)でわくわくしながら見守っている。

「キン兄、気をつけたほうがいいよ、そのオッサンの持っている刀さぁ・・・」

「なんじゃ、どこのガキかと思っていたら、お前ショウか!」
キンのその一言にショウの声がワントーン下がる。

「あに言ってんの?そこまで久しぶりに会ってないわけじゃないでしょ!

(ちっ、脳みそまで完全筋肉だよ、こいつ)」

キンはショウの言葉で気にしたわけでもなく、最初からテンの手にした刀を怪しげに見ていた。
「その刀、ずいぶんと禍々しい気を放っとるのう。

一体何モンじゃ?」

テンの刀が禍々しい?・・・まあたしかに、斬りまくっていますから、人・・・。

「フン、貴様に話す必要はない、それよりも、タカネを返せ!」

そう言って、最初に動いたのはテン
すぐに懐に飛び込み、下から斬り上げる。
白い線が下から上へと延びる、延びてくる剣先を顎を逸らしながらわずかなとこでかわすキン
テンが次のモーションへ移る直前、バオッと空気を切る?押し切るような音ともにキンの太い拳がテンへとのびる。
テンは素早く横へ飛び、すぐさまバネのように飛び上がり、上空よりキンへと斬りかかる。
キンはそこから一歩も動かず、テンの攻撃を拳で止める。
拳の表面からは赤いものが伝っていたが、痛みを感じないのか我慢強いのか、顔を歪めず、いや、痛がるどころかにやりと笑みさえ浮かべている?・・・まさかマゾ・・・

後ろへと飛び去ったテン、再び構えなおしながら
「さすがDエリア最強の男か、他より少ししぶといらしいな。」
と言いながら、余裕気な笑みを浮かべている。

「久しぶりじゃ、いやもしかしたら初めてかもしれん、ここまでわくわくするのは。

男が男に惚れるのはこういうことなのかもしれんな。」
そういうキンにテンは眉を寄せながらぼそりと

「こいつ、やはりゲイか・・・ゲイ猿がっっ」

・・・・たぶんそういう意味で言ったのと違うと思います、でも思い込み激しそうなテンには何言ってもムダっぽいし。

そしてまたぶつかり合う二つの魂、男魂(ダンコンと読まないで、おとこだましい)
その闘気に当てられて、あたしの体はおかしくなる。うえ、さらに吐き気が・・・頭が、ガンガンしてくる。

じゃっと地を蹴りながら仕掛けるキン、素足で駆けたその後には抉れたような跡が、それとともに砂煙が舞う。キンの攻撃を待ち構えるテン。
テンは他の手持ちの武器は使わないらしい、今手にしている刀のみでキンと戦うつもりのよう。
うっすらと汗を浮かべた顔も、余裕の表情だけは変わらない。
長身のキンの空から降ってくるミサイルのような破壊拳が、ものすごい音と衝撃とともに、テンを襲う。
舞い上がった砂煙が晴れてきて気づく、その威力のすごさに。
地面はクレーターのように抉れていた。あんなのまともに喰らったら、さすがのテンも・・・

でも、テンはそこに倒れてはいなかったし、そこにテンはいない?!
「これで終わりにするぞ、ゲイ猿!」
キンの肩に足掛け刃を向けるテンがいた。

その時、激しい目眩にあたしは襲われた。視界が真っ黒になっていく。
二人の闘いの熱気にやられて、もうかなりふらついていたので、たぶんあたしは
気を失ったのだ。


そして、また変な夢を見ていた。
あたしの声でしゃべっている・・・?だれかが

「俺様の獲物、取るんじゃねぇ。」
そいつは、あたしの声で乱暴に下品な言葉ばかりを吐いていた。
もう、わけわかんないや、あたしは早くこんなとこ・・・・・
早く平穏な日々を送りたいだけなのに。



ん・・・・・
い・・・・痛い・・・・・
なんか、ものすごく・・・・・全身が
全身がギシギシと・・・・痛・・・・

黒い世界からあたしは戻る。
瞼を起こすと、見えるのは、知らない・・・天井?木の、どこか古びた・・・ここは?

「リンネ」
横からしたその声はテンの、だ。
あたしは横を向くとテンがイスに座ったまま、こちらを見ていた。
て、痛い!
あたしは、ベッドで寝ていたようで、でも、ここって?

「テン?あたし・・・」
よく状況がわからないあたしをテンはさらに混乱させるような発言を

「リンネ、お前丸三日も寝て・・・」

「へっ?」

「だいたいなんだ?あれは・・・お前は・・・」

「なに?ちょっと待って、え、あたし三日も寝ていたって・・・それにっ、いたっっ!
くっ、なんかすごい体中が・・・・痛い!」
体がびきっびきっと全身が痛み、あたしはろくに起き上がれない。
なんかもう、打撲?みたいな、そんな痛みが。

「痛いのも当然だろう、お前あんなムチャクチャを、まるで、自分の体などどうでもいいみたいな。

あんなムチャな戦い方など、バカかっ?」

は?ムチャ?戦いって?
目を丸くしているあたしを見て、テンも察したらしい

「お前、なにも覚えてないのか?」

うん、なに?あたし気を失って、それから・・・なにが?

そうだ、キンとの勝負はどうなったの?!
おばあちゃんは?
首をぎぎっとまわして周囲を見た、そこはどこかの一室でテンの家くらいの広さの狭い一室。
あたしの前に座るテン、おばあちゃんの姿は見えない。

「たしかに、あの時のお前は、いつもとは違っていた。いつものヘタレでビビリのお前とは別人のように。」

「えっ?」

「俺があのゲイ猿に止めを刺そうとした時、突然お前は倒れたかと思うと、起き上がったお前は別人のような、ギラついた目になったかと思うと、いつもとは違う口調で・・・

その獲物をよこせとな、突然こっちに突進してきたかと思えば、あのゲイ猿をボコボコに・・・」

「はい??」

テンの言っている意味がまったく理解できないあたしに、突然部屋へと飛び込んできたのは

「おいらは、おいらは絶対に認めないじゃん!お前なんか、お前なんかが

御大将より強いはずないじゃん!お前みたいなヘボ女・・・

Dエリア最強なんて、おいらは絶対認めないじゃん!!」
とものすごい叫びのような声を浴びせるポッキー、なんか半分泣き喚きながら、慌しく部屋を飛び出していった。

なに?なんなの??あのこの言っていた意味がまったくわからないんですけど??

呆けたままのあたしに、テンは不思議気な表情であたしに言う。

「やはり、覚えがないらしいな、リンネ。お前はあのゲイ猿を倒したんだ。」

「へっ、はい?なにそれ?どっきり大作戦?」

「それから、自分をこう名乗っていた・・・・

桃太郎、だとな。」

ごめん、やっぱりわけわかんない!なにそれ、は?あたしが、あの筋肉領主を倒したとか?
それに・・・
桃太郎って??
あの歴史に残る大悪党の?
なんで?あたしがそんな、そんな理解不能なことを?

もしかしてこの体中の痛みは・・・・

混乱極まっているあたしのとこに、キンとショウが現れた。


「あっ、リンネやっと目が覚めたんだ。」

「おおっ、大したもんじゃのう。」

「キン兄こそ、あんだけボコボコにされて、血吐いてたのに、一晩寝てもう回復しちゃってるし

バケモノ並みの回復力だよね♪

それよりも、リンネのあの暴れぶり、超ドSっぷりときたら、ヘタレMな中にドSな部分を隠していたんだね。」

ショウの言っている意味も理解不能。暴れ?あたしが?まさか気を失って、無意識に?
そんなバカなこと

「勝者に敗者は従う、それがDエリアの掟じゃ。」

「て、ことは・・・リンネがDエリアの領主?」

「ちょっちょ待ってよ!なんであたしが、冗談じゃ・・・絶対イヤ!!」

「そうか、なら、またワシが続けるしかないのう。」

冗談じゃない、なにかのイヤガラセか?それ
もう、わけわかんない、こいつらグルになってあたしを騙しているのか?
それとも本当に?あたしが、このキンを倒したなんて・・・・もし本当ならあたしって・・・

多重人格者とかってやつなの??まさか、あわわ。ううしかし、痛い。

「そうだ、テン、おばあちゃんは?」
キョウの話なら、Dエリア領主のもとにいるって、横にいるテンに聞いてみた。

「タカネはここにはいなかった。

あのメガネ犬、俺を騙しやがった。」

え、おばあちゃんいないの?・・・そんな、あたしどうすりゃいいの?

「おい、そりゃおそらく誤解じゃ。ワシが言うのもなんじゃが、キョウは平気で人を騙せるような男とは違う!」
テンにそう言うキンに、あたしも心の中で頷いた。キョウがあたしたちを騙したとは思えないし思いたくない。
数少ないあたしの味方だと信じていたかったから。

「ということは、誤情報?・・・一体だれが?」
そう聞くあたしにキンは首を傾げるだけで

「キン兄はそんな情報Aエリアに送った覚えないってさ。」

え、え、なにどういうこと?あたしらはウソの情報に振り回されて、ここにDエリアに来たっていうの?
こんな痛い思い、怖い思いして?

「いいかげんにしろ!散々振り回してバカにしやがって!
あいつの目は嘘をついとらんと思い込んだのが腹立たしい!貴様ら鬼の言うことなど、二度と聞かん!

タカネをどこにやった?!とっとと調べろと何度も言ったが、もう我慢の限界だ!」
声を荒げるテンは勢いよく立ち上がると、刀を引き抜いた。おもいっきりキンたちを威嚇している。

「ちょっとテン、少し落ちつい・・てて。」
ベッドから上半身を起こしたあたし、体がびきびきと痛みが走る。

「そうじゃ、そのことなんじゃが、Cエリアにおるワシの兄者が協力してくれると言ってきたんじゃ。」

「え?」

「そのタカネというもののこと、ワシはまったく知らんし、鬼が島が関係しとるとは思わん。
聞いたところそのタカネと言う者、元Cエリアの住人らしいのう。それで兄者に相談しとったんじゃが、兄者がぜひ協力したいと言ってきてのう。
Cエリア行きの許可も兄者から出とる。
そういうことで、すぐにCエリアに向かったらええ。兄者は頼りになる男じゃ。」

Cエリア?芸能文化の街と言われるきらびやかな、贅沢な街。
Cエリアに行くなんて選択があたしの中になかったから、急に理解できなくて・・・・
というか、なんかたらい回しにされているような気がしなくも・・・。

Cエリア・・・急に言われても、あたしはすぐに頷くことができなかったのだけど。
体はまだ痛むものの、早くDエリアから出たかったあたしは行き先がCエリアでもかまわないと思った。
それにこのキンも最初はとんでもない男かと思っていたけど、そこまで悪い奴には思えなかったし
信じてみてもいいと思った。

テンは眉間にしわ寄せながらも、引き抜いた刀を鞘に戻しながら、Cエリアへの道案内を急かした。
やっぱりテンにとって最優先することはおばあちゃんのことなのだろう。
そんなテンになぜかキンのほうは好意的だった。闘いの中で芽生える男の友情とやらか??
よくわからんが。テンのほうはうっとおしい顔をしていたけど

「ほんとならワシがDエリアの出口まで送ってやりたいんじゃが、ポッキーのやつが妙に嫌がってな、案内はしてやれんのじゃが。」
建物の出口であたしたちを見送るキン、道案内はキンの命令(頼み?)でポッキーがしてくれることに、体は痛むが歩けないほどではなかったので、なんとか自力で歩いた。
Cエリアへと向かおうとするあたしにキンがうしろからこう言う
「リンネと言うたのう。今度日を改めて、また本気でやりあわんか!もちろんテンも、じゃ!
ワシは強いやつが好きじゃからのう。

特に強い女子はワシの理想じゃ、いつでもDエリアに来るとええ!」

「はっ、なにそれ?!」
やりあうって、殺り合うってこと??冗談じゃないってばっ、暴力反対、Dエリアな考え理解できませんから!こんな街、もう二度とこない!あたしは普通の女の子な日々を過ごすんだから!
笑顔で見送るキンにあたしは「お断りです!」と笑顔で断り背を向けた。

「俺はお断りだ。貴様のバカな趣味に付き合えるほど俺は暇じゃないからな。」
テンも無愛想に断り、キンに背を向ける。

「なるほど、Dエリア最強の座は返さないってわけか♪」
茶化すショウに反論する。だからあたしは最強じゃないってば!
なにかの、なにかの間違いよ、絶対・・・そんなことあるはずないんだから・・・。

はぁ、なんかもうわけわかんないし、体にはたくさんの傷に痣だらけ・・・。
乙女なのにな、あたし、普通の女の子なのに・・・こんなDエリアなんて無縁だと思っていたのに


ポッキーの道案内で、あたしたちはついにDエリアを抜けることになった。
汚い建物の群れを越えた先に、橋の向こうにはきらびやかな世界が見える。
天国と地獄、ここが地獄なら向こうは間違いなく天国であろう。
Cエリアが見えるとポッキーは足を止め、顔をしかめる。
「もうここでいいじゃん。とっとと行くじゃん。」
厄介払いするように手でしっしとするポッキーにとりあえず礼を言って別れる。

「あの先がCエリアか・・・・、大丈夫なのかな?キンは向こうが許可してくれているから大丈夫って言ってたけど・・・・。」

普通ならこのDエリアからCエリアへの移動なんてできない気がしたんだけど・・・・。
Cエリアの領主・・・・あたしたちに協力してくれるって、一体どんな人なんだろう。

橋を渡る、DエリアからCエリアへと
まさかこんな形でこの街に行くことになるなんて思いもしなかった。
あたしたち三人がCエリアの関所へと近づいた時、Cエリア側にこちらへと近づいてくる存在があった。

「!ビケ兄!!」
隣で表情を輝かせるショウに気づく余裕などあたしにはなかった。
痛みとか嫌な想いとか、全部吹き飛んでしまったのかと思えたくらい、あたしは
あたしは・・・
口が開きっぱなしだったとか、ぼろぼろな格好だとか、気にする余裕もないくらい
あたしは・・・

ふわりとした金色の髪が眩しく光を反射している、白い肌に長い睫毛、笑みをたたえた瞳水晶。
あたしの貧相な言葉じゃとにかく表現しきれない、とにかくすごく、すごくステキで
あたしはきっと、生まれて初めて、誰かに見とれている。
というより、心を

あたしは吸い込まれるように、その人の元へと近づいていく。
まばたきを、ツバを飲み込むことも、呼吸さえもうっかり忘れてしまいそう。
そんなことをするくらいなら、あの人を一秒でも見ていたい。

肌が悲鳴を上げる、でもそれは心地よい悲鳴、まばたきを忘れた瞳からはうっかり涙が零れそうになる。頬が体が、熱くなるのを恥ずかしいほど感じてしまう。
あたしは、あたしは変になってしまいます。
あなたは・・・・
あなたは誰なのですか?

気がつくと距離は1.5メートルほど、その人はあたしのほうを見て、優しく微笑んでいる。
きっと恥ずかしい顔をしていると自覚がありながらも、あたしは目を逸らせなかった。
胸が張り裂けそうな状態のあたしに、甘く響く低音が耳をくすぐる。

「はじめまして。私がCエリアの領主の鬼門ビケよ。」

ビケ・・・さん・・・

あたしは、あたしの人生を激しく揺るがす運命の人に出会った。


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