目を覚ましたら、まったく知らない新しい世界にいたらいいのに

新しい世界で新しい一歩を踏み出せたらいいのに

そんなことを何度となく思ったことがあった

あったけど・・・・・あったけど・・・・・



なんとなくぼんやりと、まだ半分夢の世界で漂いながら、だけどもかすかに現実を感じているあの目を覚ます直前のような、
そんな感覚で通りをふらふらと彷徨い歩く一人の少女の姿があった。
うつろな目で、行く当てもなく危なげな足取りで、石畳の通りを歩く。
その足はなぜか裸足で・・・・ふらふらと歩く中少しずつ眠りから覚めるように少女の目はまばたきをはじめ、
ゆっくりとその瞳に光が戻り始める。
その時、足の裏にごりっと硬い石が痛みを伝え、その瞬間少女の目はバチっと激しく開いた。
「いたっっ!」
思わずしゃがみこみ、その痛みの元を確認する。彼女は完全に目を覚ましたようだ。
石?
石を踏んだことに気づくと、数秒して裸足であることと、そして・・・

「な・・・に・・・?」
自分の顔の前に垂れ下がってきた謎の繊維に驚く、それは髪のような、だけど自分のものとは違う・・・

「え・・・・・?」
ふと顔を上げ、通りのショーウインドゥに映ったわが身にさらに驚いた

「えっ、やっ・・・なに・・・?!これ・・・あた・・・し?なんで・・・・?」

それは普段の自分とはまったく異なる姿だった。
まるで人形のような衣装を纏い、髪の毛もずっと長く伸びていて、軽くウェーブのかかったその髪は桃色に変色していた。かすかに化粧も施しているようであったが、当の本人にはまったく覚えがないことだった。
思わずガラスにはりつきながら、まじまじと何度もその姿を確認する。

そしてこれは夢ではなく、現実だと確認する。

「なんで・・・あたし・・・こんな格好で・・・・・
というか・・・・・
ここ・・・・どこ?」

振り返り、景色を確認する。だけど、ここはどこなのか、まったくわからない。
本当に知らない場所だ。
ぼぅ、としているとスタスタと遠慮なく通り過ぎる人から思わず身をよける。
行き交う人すべてが、自分を邪魔者のような目で見ながら通り過ぎる。
思いやりのかけらさえ見られない人々の姿に少し怖くなる。
通りを走る車はけたたましい音を上げながら、次々と走っている、よく見ると信号機は見当たらない。
「ふばっっ!!」
少女の顔になにかが飛んできて張り付いた。
それは通り過ぎた人間が捨てた、ハンバーガーの包み紙
紙についていたバーガーのソースが頬についた、思わず手で拭いた。
「ちょっと、なにすんのよ!」
彼女は思わず、その相手に怒りを表したのだが
「あっ、うるせぇな!なにしようと俺の自由じゃねーかよ!」
逆ギレされ、わけがわからず立ち尽くす彼女にその男は無愛想に立ち去った。
謝りもせず、逆に怒鳴られるなんて!!
わけのわからない恐怖と怒りと
このわけのわからない状況が彼女の体を振るわせた。

「なんなの?!ここ
いったいなんであたしこんなとこでこんな格好で・・・・なんで・・・?」
記憶を辿ってみる・・・・だけどまったくわからない・・・この状況



「リンネ?」

「!?」
あれ?今あたしの名前、呼ばれたような・・・・・?
きょろきょろと辺りを見回すと
こちらをじっと見ている強い視線に気がついた。
その相手は、長身で黒い髪に黒っぽいジャケットを羽織ったおよそ20代から30代くらいの年齢の男
でも、あたし知らない人・・・だけど・・・・

だけど、たしかに今あたしの名前を呼んだのは・・・


「お前・・・やはりリンネか?!
こんなところでなにしている?」
つかつかと歩み寄ってくる男、向こうはやっぱりあたしのこと呼んだんだ!
でもあたしはやっぱり・・・全然見覚えない人なんだけどっ
わてわてしているともう目の前まで近づいてた、近くで見ると結構な迫力を放っている人?!
「二年前にAエリアで消息不明になったと聞いて、タカネも心配していたんだぞ。
それなのに、まさかこのBエリアで、そんなわけのわからん格好で・・・」
だれよ?この人・・・タカネって・・・おばあちゃん?おばあちゃんの知り合いなの?
いや、てか今Bエリアとか言って?

Bエリア?ここはまさか
「Bエリアなの?!」
思わず声が出てしまった。

「なにを言っている、今更・・・。ここがBエリアでなければどこだというんだ?」
Bエリア・・・、なにもかもが自由だっていう、あたしのいたAエリアと違って、めちゃめちゃで恐ろしい街だって聞いていたあのBエリアにいるっていうの?あたし・・・
ごーーん・・・真っ白になっていく・・・あたしの頭の中が
「そんなことより、リンネ
タカネはどこだ?!なにか知っているか?!」
「お、おばあちゃん?あなたおばあちゃんの知り合い?」
「ああ、そういえば、お前と直接会うのは初めてだな。
俺はテン、タカネの恋人だ。」

はい、そうですか・・・おばあちゃんのこい・・・

え、ええええーーー?!

この人がおばあちゃんの恋人??!!
年の離れた恋人がいるとは知っていたけど・・・なんか・・・なんか
想像していたのと全然違う・・・もっと紳士的で優しそうな大人の男性だと思っていたのに
なんだかこの人
なんか、どことなく危険な空気が漂っている・・・気が・・・・うわ、
ちょっとショックかも・・・・・しょぼり
自分の想像と違っていて、少しうなだれていると、その人のジャケットからなにかがあたしの足元にと落ちてきた。
「俺は今、タカネを探して・・・」
「なにか、落ち・・・?!」
しゃがみこんであたしが拾ったソレは
銃??!!黒くて硬くて冷たくて・・・マンガやドラマでしか見たことないけどなんとなく知っている
こ、これは人殺しのどうぐぅっっ??!!
ガクガクブルブルこんなこんなもの
ありえませんから、Aエリアではっっ
「キャーーー!!!」
「ほごぅっ」
思わずソレを相手に投げつけ一目散に走り去った。

怖い怖すぎる!やっぱりあいつもこの街もフツーじゃない!
ああっ、もうなんであたしこんなとこにいるの?!だれか教えてよっ!

「あっ、いたいたちょっと!」
「うぎゃん!」
なにか声をかけられ、あたしは腕を掴まれ、足を止められた。
「いたいた、たく、勝手に出歩かれると困るよ。」
「へ?」
なぞのおっさんに捕まった
「あの・・・どちらさまで?」
おずおずと問いかけるあたしに呆れた顔でおっさん答える
「たく、なに言ってんだよ。あんた自分から売りにきたんでしょ!
こっちもさ、なかなか買い手がなくてどうしようかと思っていたんだけど
やっっとあんたを買ってくれるありがたーい客が現れたんだ。
ちゃんと店にいてくれなきゃこまるよ。もうこの機会逃したらきっとあんた一生売れ残っていたよ。」
「はい?」
言っている意味がまったくわかりませんが
「しかも、あんたの買い手はこのBエリアの領主様だよ。まったく売れ残りの身のクセに幸せなやつだよ。
ふぅ、やっと私も肩の荷がおりたよ。やれやれほんとにありがたい。」
なんかよくわかんないけど・・・なんかムカツク。

おっさんに連れられて着いた場所は、一軒のクラシックな建物・・・お店?
掲げられている看板には店の名前らしきものと・・・よく見ると
「愛人形専門店?!」
聞いたことがないそれ、Aエリアにはそんな専門店なかったとです!
なんのお店ですかっ?!

建物の中に入るとおっさんは慌てて受話器へと走る。なにやら話している様子で
「はいはい、お待たせしてすみません、ええ、すぐに向かわせますのでもう少々お待ちくださればと」
慌しく電話を終えると、おっさんはあたしの元に荷物や書類をまとめつつ、それとあるメモをあたしに手渡して
「ここに行くんだぞ。わかるな?領主様に失礼のないように、ちゃんとやるんだぞ。
売れ残りの身で買っていただいたんだから!」
「は・・・はぁ・・・」
またなんかムカツクことを言われた気がしたが、慌しくおっさんに店を追い出されて
手渡されたメモに書かれた住所へと向かってみることに


「よくわからないけど・・・ここにいけばあたしがなぜここにいたのか、わかる・・・のかな?」
不安な気持ちを抱えつつも、とにかく行ってみない事にはわからないと、あたしはそこへと向かったのだった。まさかそれが受難のはじまりだとは・・・・・。

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