『ゲームオーバー』
くそっ、またかよ! このクソゲーがっ!
自称ゲーマーのボクですら、このゲームのクソっぷりには我慢の限界を超えさせられた。
作ったやつに文句言ってやりてぇんだけど、のタイミングで通信機が鳴る。繋ぐと、このタイミングでかけてきたのはこのクソゲーの製作者だった。
『や、どうっすか? 例のゲーム楽しんでいるっすか?』
能天気なこの口調が妙にいらつくなぁ。
「は? ふざけてんの? なんなのこのクソゲー、これ作ったやつバカなの?」
『あんまりっすね。人に作らせといて酷評もいいとこっすよ。まさか、また壊してたりしないっすよね?』
「あ今からぶっ壊そうかなーと思っていたところだけど『ちょーっとだめっすよ! そんなことしたら、アンタ』
通信機の向こうで叫ぶミントの声がうるさすぎて、ボクは通信機から耳を離す。
『それコピーとってないんすから、壊したらもう二度と、その記憶使ったゲーム作れないんすからね』
「それはめんどくさいし困るな。じゃあさ、今から作り直してよ、コレすぐにそっち(Aエリア)に送るからさ」
『ムリムリ、それもうロックかけちゃったすから、修正もできないんすよね。バグとかなら大丈夫と思うっすよ。
とにかくとっととクリアしたらいいだけっすよ、ようはヒロイン落としてラスボス倒せばクリアっすから』
「ずいぶんと簡単に言ってるけどさ。ちっとも進まないんだけどさ、あとさ、これのどこが陵辱ゲーなの? すぐ死ぬんだけど、なんなの? ジャンプ一つで即死の虚弱体質主人公なの?」
『すぐ死ぬのは選択間違ってばかりじゃないすかね。基本ヒロインの友好度を上げれば自然とストーリーは進む仕様っす。それからちゃんとイベントこなせばレベルアップするっすよ。ただステータスは非公開だから、レベルアップ音のみを参考にしなきゃだめっす。あーあと、オレっちの趣味でゲームは純愛シミュレーションになっているっすからね♪』
「…………はぁ? なに言ってんの? 脳にうじでも湧いてんの?」
『まあまあいーじゃないっすか、ゲームの世界でも、純愛楽しんだら』
はぁ? なんだよそれ気持ち悪くてキモイんだけど。…じゃあ純愛という名の陵辱プレイでも楽しむ事にしてやるよ。めんどくさいけど、このゲームにしかないわけだしね、…桃山リンネの失われた二年間の記憶。

ボクがこのゲームをミントに作らせたのは、Aエリアに向かったオッサンテロリストとリンネについていったとき。リンネの記憶データをミントに渡してゲームにしろって命じたわけ。キョウ兄や他のやつらには絶対秘密だってね。鬼が島の指令をミントの奴に教えるわけにはいかなかったけど、カイミのためというウソくさいウソでもってミントの奴をだましてやったのさ。…まあミントの奴は別の意味で捉えたみたいだけど、めんどくさいから言い訳もやめたけど。
鬼が島から指令を受けたのは、ボクがリンネを買ったあとのことだ。桃太郎の血族、とてもそんな風には見えない、しょぼい女だったから、半信半疑だったけど、いろいろおかしなこと言ってたし。でも鬼が島の指令に逆らうわけにはいかない。四領主は鬼が島の下僕だ、それに鬼が島である鬼王は、…絶対的な存在。だけど…
『お前ならできるわ。信じているわよ』
ビケ兄…、ボクはビケ兄の信頼のために、指令をこなす。それが原動力だ。
鬼が島が警戒する桃山リンネ、どう見てもしょぼいそいつは、雷門の特にレイトの怒りを買った。だから何度もレイトの奴に殺されそうになって、ああめんどくさかったな、思い出すだけでうんざりしてくる。でもまあ、物足りないのも強いけど、いじりがいはあったかな。Aエリアについたらついたで、カイミの奴に殺されかけるし、ほんとうっかり死んだら鬼が島どうするつもりだったんだろ。
つまりボクは鬼が島からリンネの監視を命じられたんだ。そのリンネ、リンネ自身も自分のことわかってなかったんだよね、それが二年間の失われた記憶。ひたすらAエリアの住民である事を主張していたけど、リンネはBエリアで自分を売っていたんだ。それはおそらくだけど、リンネはBエリアで記憶を売ったってことだろう。
Bエリアには記憶の売買を行っている施設がある。何件かあるんだけど、すぐに領主館の雷門の連中駆り出して記憶屋を探させた。もちろんレイトの奴には内緒でね。リンネの記憶はすぐに見つかった。…低値で売られていたらしい、しかも二年間も売れ残っていたからよっぽどだよな、価値のなさっぷり。まあそれもリンネが桃太郎の関係者だと知られていなかったから当然だろう。手に入れたリンネの記憶データ、それがどうも純粋なものじゃなかったんだよね、あんないい加減な記憶屋で売ったから、扱いも酷かったもんだろうよ。そのどうしようもないデータの使い道を、ボクはミントの力によって利用しようと思いついた。
それがこのゲーム。
完成したのは、あれからDエリアからCエリアに渡ったあとになる。ボクはCエリア領主館にいた。完成したゲームはここCエリアにてプレイしているってわけ。その間いろいろと、あったんだよね。Dエリアでは、リンネがDエリア最強のキン兄を倒しちゃうし、その時のリンネも一瞬あの時の凶暴なリンネになったんだよね。そしてCエリア…。リンネの奴はウザイことにビケ兄に一目惚れして、図々しくもビケ兄の厚意に甘えてCエリア領主館に居座っている。…とまあウザイことこの上ないんだけど、今度は金門に狙われてて、まあいい気味なんだけどね。ほんとゲームでもリアルでもリンネは災難を引き寄せる体質らしい。


ちっ、めんどくさいし腹立たしいんだけど、とっととクリアしておくべきだなこのクソゲー。
携帯式ゲーム機の電源をオンにしようかとした時、戸をノックする音に遮られた。
「ショウちゃん、私だけど」
「ビケ兄!」
急いで戸を開く。ビケ兄、最近忙しくてここ領主館に留守がちだから、直接会うことってめったにないんだよね。
「ごめんなさいね、ここのところ忙しくて、なかなか領主館に戻る事ができなくて。特に問題はなかったのかしら?」
問題ね、リンネの奴が金門に狙われたり、ビケ兄のことばっかり聞いてきてうざかったりしたけど。
「特に問題ないよ」
「そうよかった。ここしばらくはキンとも連絡が取り辛くなるだろうけど、気にしないで頂戴ね」
別にキン兄に用は無いからどうでもいいんだけど。
「ところでショウちゃん、一つ聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」
「え、…なに?」
「最近変な夢を繰り返し見るとか、そんなことはないかしら?」
「夢…? …別に思い当たらないけど」
ビケ兄、なんだろ、なにか考えこんでいるような。…というかそんなにじっと見つめられるの、なんか困るんだけど…、別にボクビケ兄にウソなんてついてないしな、ついてないよ。
「そう、ならいいけれど」
「どうして急に、変な夢とか、なにかあるの?」
「まあね」
ふふふとビケ兄が意味ありげに笑う。
「実はね、父上が気にされてらっしゃるのよ。前世の事についてね」
「前世?」
父王が、前世の事を気にしてる? まあ父王は英雄温羅の生まれ変わりだから、そのことだろうか。
「キョウから話を聞いたのだけど、キョウは前世の夢を何度も見ているそうなのよ」
「キョウ兄の前世?」
「ええ、キョウは前世で温羅に関わった者だったらしいわ。そのことをよく夢で見るのだとね。キンも前世のことを話してくれたわ。やはり父上のおっしゃっていたとおり、キョウもキンも前世で温羅とゆかりのあった者たちだったのよ」
「へーー、世間って狭いね」
「そうね、前世での縁が現世でも繋がっているという事かしらね。…ということは、ショウちゃん、お前もそうだということじゃないかしら?」
「前世ね…、ボクはそういうの縁はないと思うけど、キョウ兄たちとは違うし」
「そうかしら…? 私はあると信じているわよ。こうして私とショウちゃんの繋がりも前世の縁があったからと、思えてならないのよね」
ビケ兄…?
ビケ兄がそういうなら、そうなのかもしれないけど。ボクにはピンとこない話なんだよね。前世とか、そんな縁がなくたって、ボクとビケ兄は強く深く繋がっているはずなんだ。そう信じている根っこになにがあるのかって? それはきっと…、忘れたくて忘れていたあの記憶…、あの記憶に繋がる事になるけど。
!? ああくそっ、気分悪くなってきた、ビケ兄に久しぶりに会えたっていうのに、あのクソゲーの…リンネのせいだ。
「ショウ?」

ビケ兄の声とぬくもりで意識が引き戻される。
「きっと近いうちに思い出してくれると信じているわ。私と出会った時のこと…、共に過ごした記憶を、取り戻したその時は…、私は今よりもっとお前を愛するでしょう」
ビケ兄の言う事は、実際にボクとビケ兄が出会ったことよりもずっと昔…みたいに聞こえてくる。前世なんて信じないけど、ボクは…ビケ兄との絆だけは信じている。ビケ兄が望むなら、ボクは忌まわしい記憶すら手に入れてみせるよ。


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