馬 駆ける
第七話 嫌な予感、アイツのピンチ?
今日のレースも無事勝利して終了。
最近レース会場に来るのが楽しみで仕方ない。理由? それはもちろん天使君ことアマツカ君に会えるかもしれない場所だからね。…今日は会えなかったけど、会場のどこかにいたりするんだろうか? ああでもあの時もたまたまって言ってたから、またここで会えるとは限らないだろうけど。うん、予感っていうの? 感じるんだよね。
駐車場へと続く通路を歩いている最中に、突然マケンドーがピタリと立ち止まった。
「カツ、カケリを連れて先に戻ってくれるか?」
マケンドーの発言にカツさん少し驚いていた。なにも打ち合わせてなかったみたいで。
「心配するな、野暮用だ。かまわず戻ってくれ」
「は、はい。ではまいりましょうか、カケリ様」
マケンドーとカツさんそれぞれ背を向けて歩き出す。カツさん、ちょっと心配そうな表情に見えた。なんなんだろ?でもあたしは特に気にせず、カツさんとそのまま屋敷へと戻った。
まさか、あんなことになるなんて、想像もつかなかったからね。
カツやカケリたちとは反対方向へと向かうマケンドー。
「コソコソと最近俺の周りを探っていたのはお前か?」
誰もいない通路、コンクリの壁にマケンドーの声だけが響く。
鉄の管の向こう、ゆらりと人影が動いた。それをマケンドーは見逃さない。
「待て!」
追いかける。逃げるのは少年だ。最初は距離を離されるばかりだったが、突然少年は「うっ」と呻いて足を縺れさせスピードを落とした。そのすきにマケンドーが距離を詰める。
「お前、足を痛めているのか?」
膝を押さえながら体を起こす少年を見て、マケンドーが訊ねる。
「待て、逃すか」
片足を壁のようにして少年の前に出し、マケンドーが行き手を遮る。
「お前、何者だ? どこの回し者だ?」
「ごめん」
小さくそうつぶやいて、少年は素早く後ろ向きに飛んで、マケンドーから逃れる。
「待て」
振り返るマケンドーは、今度は別の人間にその行き手を遮られた。
「カクバヤシ・マケンドー、悪いが少し付き合ってもらおう」
「!? なに」
ズラリと屈強な男たちにマケンドーは囲まれていた。
「人質もおさえてある。抵抗はお互いのためにならない」
「(人質? まさかカケリたちが?!)」
ギリッと悔しそうに歯噛みしながら、マケンドーは男たちに従った。
「ゲ、兄上!?」
マケンドーは地下の狭い一室へと連れてこられた。そこで彼を目にして驚きの声を上げたのは見知った相手だった。なぜお前が?と互いに怪訝な顔で見やる。
「ショーリン、お前がなぜここに」
背後の唯一の出入り口が閉められ、ガチリと鍵がかけられる音が響いた。
そのことよりも目の前の弟を見据える。
より不満そうな顔をしているのはショーリンのほうだった。
「ちっ不意打ちとか、男のすることじゃねーよ、卑怯者のくそったれどもが」
「ふ、不意打ちでやられたのか、情けないやつだな」
「なんだと?!」
カッと血が上り、ショーリンがマケンドーの胸元に掴みかかる。
「少し落ち着け。お前までなぜここに連れてこられた?連中は何者だ?心当たりはあるのか」
ぎゅっと唇を噛みながら、ショーリンは掴んでいた手を離す。
「さあ、知らないよ。兄上にこそ心当たりがあるんじゃないか? いっぱい敵いるみたいだしさ。とんだとばっちりだよ」
心当たり、…あるとすれば。
カクバヤシ家に恨みでもあるのか、それとも。
あの少年は何者だったのか。最近自分の周りを探られていたことにマケンドーは気づいていた。
カクバヤシに強い恨みを持つ者か…。心当たり、あるにはあるが、確証はまだない。
帰宅して、あたしを下ろしてからカツさんは慌しく出駆けて行った。いつも落ち着いたカツさんにしてはめずらしいなと思っていた。それでもあたしはその時さほど気に止めないで、いつものように食事して眠って、朝起きたらいつものようにトレーニングルームでモリオカさんとトレーニングをやっていた。
その日もそのまま終って、終るだろうと思っていた。マケンドーとその周辺で大変なことになってたなんて、思いもしなくて。
朝から忙しなく携帯で連絡を取っているカツさんが目についた。マケンドー、見てないな。ふと気になってカツさんに聞いてみた。
「マケンドー様のことなら心配ありません。カケリ様はご自分のことに集中されてください」
にこり、と笑顔でカツさんはそう答えたけど、あれ、なんだろう。変な感じだ、こういうのって、あれだ。
胸がざわつくっていうの?嫌な予感って言うの?そんな感じ。
「はー、よりによって密室で一緒に閉じ込められたのが兄上なんてさ。…どうせならカケリちゃんと閉じ込められたいよ。おれの姿が見えなくて今頃心配させちゃってるかもなぁ」
「安心しろ、それはないだろうからな」
「へぇそうかな? 兄上のほうこそ心配されてないんじゃないの?むしろ、いなくなってせいせいしているだろうね」
「……」
「あれ? もしかしてちょっとショックうけてたりするの? 兄上もしかして、カケリちゃんのこと結構本気だったりするんだ?」
「うるさい、少し黙っていろ。ムダに体力消耗するな」
ちっ、舌打ちしてショーリンは冷たい壁にもたれる。
誘拐されて、二人してこの狭くて冷たい密室に閉じ込められて、何時間が経過しただろうか。険悪な兄弟が嫌でも二人っきりにさせられて、衝突をさけるほうが困難だった。イラついていたのは弟のショーリンのほうだった。よほど兄のマケンドーと一緒にいるのが不快らしい。
マケンドーにも焦りがないわけはなかったが、ショーリンほど乱れてはいなかった。不思議と精神に余裕を持てた。昔しごいてくれた師匠のおかげかもしれない。
それにカクバヤシの人間が二人も行方不明になれば、気づくものは多数いるだろう。マケンドーの場合はカツが上手く立ち回ってくれているだろうという安心があった。が長くこんなところで閉じ込められているわけにはいかない。
「連中に付き合ってやるとするか?」
「はぁ?」
敵を探る。その心でマケンドーは連中の動きを待った。謎の男たちは顔を覆面で隠し、屈強な体で威圧してくる。
「来い」
乱暴に連れられ、腕を縛られ目隠しをされた。別の部屋へとマケンドーだけが連れて行かれた。こんな状況でもマケンドーはパニックを起こさなかった。感覚を研ぎ澄まして、連中が何者なのか?なにが目的なのかを探ろうとする。
一人部屋に残されたショーリンの元にも、迎えの男たちが現れた。警戒の構えをとるショーリンに対して、男の一人が携帯電話を目の前に差し出してきた。怪訝な顔を崩さないショーリンだが、男に電話に出るように言われ手に取る。
電話の声は自分が知る相手だった。その相手に驚きの声を上げた。
「ユキちゃん?!」
『ショーリン君? 大丈夫? あのね、すぐに帰してもらえる様に、手配してもらったから、だから大丈夫だから、安心して』
付き合いのある青原市出身のアイドルの少女、ミナミ・ユキの声だった。彼女はショーリンの数多くいるガールフレンドの一人になる。まさかの相手にショーリンは驚きを隠せない。
「待って! 今回の件、まさかユキちゃんが関係してるの?」
『違うの! ショーリン君と急に連絡取れなくなって、心配して、事務所の社長に相談してなんとかしてくれるってことになって。学校のほうにも対応済みだから。今回の事は忘れてほしいって』
「なにそれ?話が全然見えない、どういうこと? そっちの業界が絡んでるってこと?」
『違う、そうじゃなくて、あの…ごめんね、私もよく知らなくて、それに話しちゃだめだって言われて』
言葉途切れ途切れに嗚咽が混じるのを聞いて、ショーリンも彼女の心情を察する。
「ごめん、わかったなにも聞かない。じゃあおれは無事にここから帰れるんだね」
電源を切り、男に電話を返す。そのまま男たちに連れられショーリンは部屋を出た。
ショーリンはあっさりと帰された。がマケンドーだけはそうはいかなかった。元々連中の目的はマケンドーでしかなかったようだ。ショーリンは人質という名目で連れられてきたようだった。
「くっっ」
皮を打つ音が室内に響き、マケンドーのうめき声が零れる。体の自由を奪われ、視覚も奪われた状態で、肉体を痛めつけられている。ひゅっと空を切る音がして、それがマケンドーの体を打ち続ける。衣服は乱れ、皮膚は痛み、赤い染みがじわりと広がる。打たれるたびに体がゆれ、汗や血といった体液の雫が舞った。
「そろそろ我慢の限界ではないのか? 早く返事をしないと気を失うぞ」
暴力を振るう男の声、がマケンドーは男の言う返事とやらはまだしていない、するつもりもないようだ。目隠しをされたままの顔でにやりと不敵に笑う。
「ふ、この程度で俺が屈すると思ったか?残念だが、お前らの望みどおりには動かん」
「やれやれ、まだ足りないようだ」
びゅっ、鋭い空きり音がして、直後マケンドーを激しい痛みの打撃が襲う。
「ぐぅっっ」
これしきなんてことない!マケンドーは心でつぶやく。なんてことはない、師匠のしごきに比べたら痒いものだ。思い出しながらマケンドーの顔には笑みが浮かぶ。痛みに苦しみもがく姿を見せはしない。そのマケンドーの姿に歯がゆく思うのは、目の前にいるマケンドーを痛めつけている男…ではなく、隠しカメラのモニターの向こう側にてここの様子を眺めていたある男だった。
「気にいらん。どうすれば這い蹲る?」
ぎりっと歯軋りして、憎々しげにモニターに映る痛々しいマケンドーを睨みつける。
男の携帯の呼び出し音が鳴り響く。着信を見ずとも相手はわかる。通話ボタンを押し、出る。
「どうした?」
不機嫌を隠さない低い声で通話する。
『秘書の男が動いています。すぐに感づかれるかも』
チッと男の口から舌打ちが漏れる。通話相手は声の感じからして若そうな男の声だ。この男の部下の者だろうか。
「カツとかいう男か。足止めして時間をかせいでおけ」
『……』
「どうした、返事は?」
『はい…わかりました』
ぴっ。通話を切り、男は再びチッと舌打つ。
「かわいげのない犬め」
トレーニングを終えて、あたしは部屋へと戻った。食事を済ませて、入浴で体を休めながら、ずっと気になっているのはマケンドーのこと、そしてカツさんのこと。
心配いらないって言われたけど、マケンドーの姿あれから一度も見ていない。マケンドーがいないこともあってカツさんいつも以上に忙しそうにしていたし、邪魔はできないし。
だけど…
「だいじょうぶ、なのかなぁ…」
ベッドに腰掛けながら、声だけでもかけに行こうかななんて考え出した頃、室内の電話が鳴った。こんな状況だからかなりびくって驚いて、あたしは受話器を取る。
『カケリちゃん? おれだけど…』
「ショーリン君!? こんな時間にどうしたの?」
なんだろう、なんか妙に心臓がばくついてる。ショーリン君の用事ってなんなんだろ?
『あー、うん、その、さ…』
電話の向こうのショーリン君の声のトーンがいつも以上に低くて、だからか余計に不安な気持ちが増していくんだけど。
「なに? ショーリン君なにかあったの?」
『カケリちゃんおれのこと、心配してた?』
「へ?…なんで?」
『…ちょっと前までおれ、監禁されててさ』
え? なにさらっととんでもないこと言わなかった?ショーリン君。
「か、監禁って? 大丈夫だったの?」
『まあなんとか、おれのほうは…』
後半言葉を濁すショーリン君、まさか?
「マケンドーも一緒に?!」
『…まあね、でもさすがに命の危険とかはないと思うし』
「待って! すぐカツさんに伝えなくちゃ」
あたしは急いでカツさんのもとに走った。
「カツさん! マケンドーが!」
マケンドーの名前を耳にしたとたん、カツさん素早く反応した。
「マケンドー様が見つかったんですか?!」
「う、うん、あたしが…じゃなくてショーリン君から」
「ありがとうございます! すぐに迎えにいきます」
カツさん身支度も整えないで、そのままで車のほうへと走って出て行った。
大丈夫、なのかな。もうこんな時間だし…、明日はレースだし、ちゃんと間に合うよね?
このまま部屋に戻って休むべきか、それともカツさんについていくべきか。急にその選択肢で迷って。たぶんここは、カツさんにまかせて、あたしは戻るべきなんだろうけど…。
だめだ、まだ不安な気持ちが晴れないままだ。なにもないだろうってショーリン君言ってたみたいだったけど…、だけど、監禁されていたなんて、なんかただ事じゃないんじゃないの?
迷いながらもあたしの足は駐車場のほうへと動いていた。
「カケリ!」
屋敷を出てすぐに、あたしを呼び止めたその声は。驚いて目を見開く、どうしてここにいるの?
「アマツカ君!?」
暗がりの中、うっすらと浮かび上がってくる顔。偶然もここまで続くともう運命と断定せざるをえないかもと、いや、そんなときめいている状況でもないんだけど。カツさんを追いかけなきゃと思う気持ちと、アマツカ君と話したい気持ちとで新たな迷いが生まれる。
「カケリ、お願い。あの人を止めて」
「え?」
あの人ってカツさんのこと?
アマツカ君の真剣な眼差しはカツさんのことを心配してくれているようだった。もしかして、カツさんの身に危険が?
「うん、わかった。ありがとうアマツカ君!」
結果あたしの迷いは晴れた。アマツカ君が晴らしてくれた。裸足になってカツさんを追いかけた。
ちょうど車を発進する前だった。
「カツさん!」
「カケリ様?!どうし…」「あたしも一緒に行かせて!」
一瞬驚きの顔を見せたけど、カツさんにこりと頷いてドアロックを解除してくれた。
マケンドーを捕らえている男たちの元に一つの指示が届いた。
撤収の指示だった。五分も経たない間に男たちは皆姿を消した。マケンドーは担がれ別の場所へと運ばれた。意識は朦朧としていた。どこへ連れて行かれるのかも見当がつかず。完全に意識を失い、冷たい壁にもたれやがて冷たい土の上に倒れこんだ。
「…う、ここは」
痛みがビシビシと走る。目隠しを外すと、そこはまだ暗闇で。屋外にいた。空はすっかり闇色だ。数メートル先に地面を照らす灯りがあった。どこかの公園の公衆便所のすぐわきに倒れていた。気を失っている間に移動させられたのだろう。まるで狐に化かされた様な状態だが、走る痛みは現実にあったことなのだと証明している。あの謎の男たちは存在すらもう近くに感じない。なにが目的だったのか?
こんなところで考え込んでいても時間の無駄だ。マケンドーは体を起こし、カツと連絡の取れるところまで移動する。
移動中にカツさんの携帯が鳴って、それがマケンドーからだった。
公園の近くで、一人立っているマケンドーを見つけた。
「マケンドー様! ご無事ですか?!」
カツさんがマケンドーに駆け寄る。あたしもカツさんと一緒にアイツのそばへ。
「ああこの通り生きている」
そんなこと言われなくてもみりゃわかる! カツさんが聞きたいのはそんなことじゃないでしょ。
「カツさん本当に心配していたんだからね! 一体今までどこにいたのよ!?」
「悪かったな、お前にも心配かけたか」
「は? べっ別にあたしはマケンドーのことなんて心配してないし、ほら、なんかあったらうちの親金の亡者だから、いろいろとめんどうっていうか、あたしも自由になりたいし」
心配くらいするっつーの、こんな奴でもなにかあったら気分悪いし、人として!
「俺はカツを信じている、カツも俺を信じてくれている、だから心配などない」
カツさんとマケンドー、二人の絆は簡単に切れないし計れない…のかな。
「こんなところで長話している暇はないだろう。戻るぞ」
ささくさと車へと向かうマケンドー。監禁されていたって聞いたのに、何事もなかったかのように振舞って…、たいしたことなかったのかな、ならいいけど。
「明日はレースだからな、準備にぬかりはないだろうな?」
やっぱりマケンドーはマケンドーだ。監禁されている間もずっとレースのことでも考えていたんだろうな。ほんと、変に心配して損したよ。
あ!? そういえばアマツカ君、どうしてあんなところにいたんだろう? それにカツさんのこと知っていた?
アマツカ君のこと気になっていたけど、屋敷に戻って注意深く探してみたけどそれらしき人はもう見当たらなかった。マケンドーかカツさんの関係者だったりするのかな? でもだったら、もっと堂々と会えてもよさげなんだけどな。まあ、会えるよね? また近いうちに、そう信じているからね。
カケリが想うアマツカは、ある邸内にいた。カクバヤシの別邸に負けず劣らずの剛健で豪勢な邸内は、権力者の象徴とも言える。通路を歩くアマツカの表情は、無表情に近かったが、どこか沈んでいるようにも見えた。
「おかえりなさい」
前方から聞こえてきたその声へと反応するように、アマツカは顔を上げた。前方より自分を迎えてくれたのは無表情に近い顔をしつつも、わずかに笑みを見せてくれた少女。
「ただいま、テンカワ」
アマツカがテンカワと呼ぶのは、あのテンカワだ。中央東の馬、鋼鉄の天使ともてはやされているチャンピオン…テンカワ・ワタル。
「ねぇ、…大丈夫なの? 体の具合悪くは」
テンカワはアマツカの顔をのぞきこむ。純粋に彼を思いやる表情で。
「大丈夫だよ。全然なんともないよ」
優しい笑顔で答えるアマツカ。それにテンカワは「そう」と小さく答えた。自分の横を通り過ぎ、彼は向かう。
「待って!」
振り返って呼び止める。普段大人しい彼女にしてはめずらしく語尾が強まる。
「あの方に報告に行かなくちゃ。テンカワはゆっくり休んでなきゃだめだよ。明日はレースなんだから。油断できない相手だから」
「ねぇ、もう…」
必死の眼差しの向こうにある彼女の想いを、アマツカは痛いほどわかっていた。それでも、止まるわけには行かない。アマツカにはアマツカの譲れない想いがあるから。
誰の制止だろうが、振り切る。強い決意で、アマツカはそこへと向かう。
「酷い…、マケンドー様、痛みは?」
自室に戻り、上半身裸のマケンドーの体を見たカツが、痛々しい姿に顔を歪める。生々しい傷跡が彼の体に刻まれていた。「平気だ」とは言うが、その額には脂汗が浮いている。簡単な手当てをして、痛み止めを打ったが、とても平気に見える状態ではなかった。
「明日はレースだ。治療など後回しでかまわん。それに、職務もたまってしまったしな。傷など時が治してくれる」
弱音は吐かない、けして。マケンドーの根底にあるのは亡き師匠の教えだった。心配ははれていないが、ひとまずカツは安堵する。
「で、連中についてわかったのか?」
「ええ、証拠はつかめてはいませんが、思い当たるのは…」
「少なくとも、犬の顔は覚えた」
マケンドーがなにもない空間を見つめながら、目を細める。そこに思い描くは自分の周りを探っていたあの少年の顔。カケリが運命の相手だと思い込んでいる、謎の美少年アマツカと瓜二つだった。
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