「僕は、どの扉も選ばない」

ホツカがきっぱりと言い放つ。
たった一つの世界しか救えない。無茶苦茶な選択をホツカは放棄した。
だがそれも想定の範囲だったのか、シラセナンキョクは「うむ、その選択もありだ、ホツカ。ならばお前はお前の世界に戻れ。だが後悔してもしらんがな」

無責任なシラセナンキョクの声。ホツカに選んでもらえなかった各世界の主人公たちは驚いた顔でホツカのほうを見ていたが、すぐに彼らの姿もかすんでいく。意識が、遠のく。






「…くん、ホツカ君?」

誰かが呼んでいる。
目を開けると、そこにいたのはホツカの仲間のヤードだった。心配そうな顔をしてホツカを覗き込んでいる。

「夢…」

先ほどの異空間は夢だったのか。夢ならあのおかしな世界も理由がつく。だが、夢にしては妙に体が…不思議な疲労を感じている。いつも予知夢を見たときはここまで疲労することはない。特殊な夢の域だろうか。

だが、夢ならよかった。
こうして倒れたはずのヤードは元気にしている。

「あ、なんでもないです。ちょっと変な夢を見てしまって…」

心配するヤードにホツカはそう答える。「予知夢ではないですよ、ただのなんでもない夢です」と言って。


たしかにアレは夢だった。
目覚めるとそこはヤードの館で、同じ仲間のフィア、シャニィ、カツミも無事でいた。やっぱり夢だったと、そう思いたいホツカだったが、それを否定したのは同じ体験をした師匠だった。

『シラセナンキョクとはいったい何者だったのか…』
「師匠! やはりあれは夢ではなかったのですか?」
『さあな、わからんよ』

師匠はさっぱりだと首を振る。師匠も夢を見ていたように目覚めたのだろうか。だが記憶はしっかりと残っている。
そして、ホツカは毎夜悪夢にうなされる。
あの空間で出会った者たちの、世界が滅びていく様を。必死にあがく彼らの、力が及ばず絶望にくれる姿を。
だが、ホツカは彼らを救ってはやれない。ホツカの力では彼らの世界へ行くことはできないのだから。


END

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