第六話 笑いと爆弾

見えてきたきた希望が見えた
おそろしきドーリアに対抗するすべだって〜
ホツカ無意識に使っちゃってたカツミのおかげで使えてた
師匠がいうにはそれがホツカの力らしいぜ〜
ホツカの行く先、頼もしき仲間が集うであろう
なんちゃってね〜
いやいや冗談じゃないみたい、早速シャニィが仲間入り
二人旅から三人旅だよ、進めホツカ!助け求める人の元へ!
見よ!キチガイどもの夢の跡!六番からさらに物語が動いていくよ!








「おっ! 町が見えてきたぞ! 走るぞホツカー」

号令が荒野に響く。声の主は一人はりきるシャニィで、彼女のテンションに反して後方から歩いていくホツカはやれやれとうんざりした顔でため息をつく。
ホツカを待たずにシャニィは町のほうへと走っていく。小さくなっていく背中を見ながら、ホツカはまたやれやれと息を吐いた。

道中、簡単に予知夢の内容をシャニィに話したが、彼女の場合、処刑が行われるという恐怖よりも、協会のやつらをボコボコにできるというほうに興味が大きかったらしい。
戦いイコールカツミと遭遇できる確立のアップもあるのだろうが、シャニィ自身も協会相手に戦えるというのは望んでいることだ。子供のころ楽しかった祭りが禁止になってしまった。大人たちだけでなく、子供たちの中にも協会に対するうっぷんというものがわりと相当たまっているようだ。

望んで協会に力を貸す者、渋々ながらも従っている者、それから反対の意を示しているもの。

シャニィの父などのように、協会に対して不満を抱いている者は少なくないだろう。
ホツカたちはそれをこの先向かう町で目の当たりにすることになる。


シャニィから遅れることホツカも町に到達した。門を潜ると、アシャヒカと比べたらぐっと活気のある町だった。店の並ぶ通りには人々が行きかい、売買などで賑わっている。
ところどころでマネキンのように立っている魔道兵士を見かけるが、監視を行っているようで、特別おかしな動きをしなければ警戒はされそうにない。逆に町の中になじんで見えてしまう鋼鉄の人形に違和感を感じるほどだ。

はたから見たら平穏そのものだ。
何事もなく、普通の生活、表向きの景色でしかないそれを平穏と言っていいのだろうか。
人波に紛れて、ホツカは通りを歩く。


「ここは【ヒャケン】の町。商業が盛んで、商店通りは活気に満ちてます。一見協会との関係も上手くいっているようには見えますが…」

ホツカも、彼の肩に止まる白カラスも渋い顔つきで町の様子を見ながら歩く。
ホツカたちは感じていた。この楽しそうな活気の裏に隠された、不穏な空気……

『監視の数も多いの。それだけ、協会から警戒されとるということじゃな…』

人々もそれに慣れてしまっている様子だ。特別注意しなければ気がつかないが、兵士たちの様子をチラチラと確認しながら、店員たちは呼び込みをしている。

『お前の予知では、ヤデトがここでも処刑を始めることになるのだったな』

「はい、ですが早く着いたので、まだヤデトはここには着ていないようです」

確かに、ヤデト…魔動ロボの姿は見当たらない。あのデカイ丸っこい人型の異物が動いていれば、すぐに目に付くだろう。それにヤデトのことだ、派手に騒いだり、挑発したりするだろう。ホツカの夢の中では、ヤデトはホツカを呼び出そうと、ワザと大きな声でパフォーマンスしていたらしい。

ホツカの足元には小さな影、太陽が真上にあり、そろそろ腹時計が鳴り始める時間だ。ホツカはともかく、エネルギー燃焼の激しそうなシャニィは空腹を訴えるころだろう。

「まずは、シャニィを探して合流しましょう」

『そうじゃな、しかしどこにいったんじゃ? あの娘っこは。トラブル起こしてなければよいが…』

師匠のつぶやきに、ホツカもいやーな予感の汗がたらりと伝う。
その予感的中とばかりに、通りの奥のほうから奇妙な爆音がした。

『今の音は…』

「ほぼ間違いなく、シャニィですよ」

苦笑いを浮かべながらホツカは杖を取り出し、魔法をかける。自分の足に纏う移動速度を上げる風の魔法。周辺に居た風の精霊たちがホツカの体をくるくると回りながら足元に固まり、ホツカの体を少しだけ浮かせる。俊足で駆ける。通りにいる人たちの間を突風が駆け抜ける。ホツカの後から、『テロリストテロリストホバクホバク』と機械的な音声を発しながら魔動兵士たちを率いて向かってくる一回り大きな魔動兵士がいた。

「魔動隊長もいるのか…」

少しだけ振り返って、ホツカはロボたちを見てつぶやいた。魔動兵士より少し性能の高い人型のカラクリを魔動隊長と呼ぶ。兵士よりも複雑な命令を組み込めて、兵士たちを指揮することもできる。片言だがしゃべることもできるようだ。兵士のように量産が難しいため、めったに見かけることのないカラクリだ。それがいるということは、この町を協会がどれだけ警戒しているのかがわかる。


ホツカは前方にシャニィの姿をとらえた。予想通り、手に爆弾を持っており、シャニィの周辺には続々と兵士たちが集まっている。元々町には多数の兵士たちがいたため、短時間でシャニィを捕らえに援軍が駆けつけるだろう。
幸いにもシャニィはすばやく身をかわしながら、兵士たちから距離をとって挑発している。

「くらえ! こしょう爆弾!」

ばふんと弾けて、砂煙のような粒子が兵士たちに降りかかる。

「なにやってんだよ!」

まとっていた風の精霊たちがホツカから離れる。ホツカがシャニィのそばに駆けつけた。あきれと怒りの混じったホツカの言葉に、シャニィは反省するでもなく、「なにいってんだよ、一気に連中集まったじゃん。これなら幹部のロボも時期にくるだろ」としたり顔で言う。
シャニィが動かずとも、ロボはここにくる予定なのだが……。

「先に君が捕まったら、こっちとしては余計な手間が増えるんだけど…」

「誰が捕まるって? お前の目は節穴か!? シャニィさまの腕を見くびるなよ。あんなになってアタシを捕らえられるもんかい」

鼻息荒く自信満々な態度のシャニィ。ハッタリではなく、たしかに兵士たちの様子がおかしかった。少しずつ、動きが硬く、軋むような異音を立てている。「なにしたの?」とホツカが訊ねると、「コイツだよ」とシャニィは手製爆弾を見せつけながら答える。

「機械を不調にさせる粉を配合したこしょう爆弾さ」

『こしょうで故障…ダジャレなんかい』

後方の木の枝に止まっていた師匠がシャニィのネーミングにつっこむ。が、師匠の声はシャニィには聞こえない。
ダジャレはともかく、シャニィの爆弾は口先だけじゃなかった。しっかりと効力を発揮し、彼女を捕らえようとしていた兵士たちはギシギシ軋む音をさせながら動いているが、ものすごくスローで、シャニィたちを捕らえられそうにない。

「なるほど、君も少なからず考えて行動しているってことだね。ちょっとだけ見直したよ」

シャニィに背中を向けながら、ホツカは後方からやってくる兵士たち(隊長含む)への攻撃に備える。

「はあ? ちょっとだけだと? 大いにだろッッ」

「ぐえっっ、首を絞めないでよ」

シャニィの首絞めも本気ではなく、すぐに開放された。涙目になりながら、ホツカは魔法を発動させる。

「こっちは僕にまかせてよ」

杖を地面に向けて土の精霊に命じる。やつらの足場を封じるようにと。先頭の兵士の地面が突然波打って陥没する。転倒する兵士たちだが、それでもシャニィたち目標目掛けて足や手を動かす。ホツカの魔法は足場を陥没させただけでなく、落ちた兵士たちの足元に締め付けるように土が集まり固まる。次々と押し寄せる兵士たちがぶつかり、隊列が大いに乱れる。

「よっしゃー、とどめはまかせろ!」

ホツカの頭上をはるかに越えて、バチバチと火花散るボールはわらわらと混雑しているカラクリの集団へとぶつかり、「爆発ッ!」とシャニィの掛け声と同時にちゅーどーんと爆発音が響いた。煙が晴れると、全部というわけにはいかなかったが、爆弾近くに居た兵士たちは頭なり腕なり部品が弾き飛ばされて、まともに動けない状態になっていた。要修理だ。時期に兵士たち回収の戦車がやってくるだろう。が、その前に…

「これ以上騒動は、さすがに町の人の迷惑になるよ…」

しばらく兵士たちは動いてこれない。ここから移動しようとシャニィに合図する。

ホツカたちは喧騒から逃れるように、細い裏路地へと入る。逃げたところで協会へは兵士たちを通じて騒動は知られていることだろう。もうすぐすれば戦車がくるだろうし、ホツカの予知どおり、ロボに乗ったヤデトが現れる。

『ホツカよ、奴がやってきたぞ』

逆光の中から師匠がホツカのほうへと飛んできた。

戦車に乗って、丸いボディの魔動ロボが町の中に現れた。ざわざわと群集が注目する。戦車そのものが町の通りを自由に行き来できる大きさではないため、中から小型の荷台付の戦車が出てきて、それらが兵士たちの回収に走る。

「群集どもー」

戦車の上に二本足で立つ魔動ロボ、その中のヤデトの声が機内のスピーカーを通して拡張されてあたりに響く。

ざわざわ…
人々が戦車の…ロボの周りに遠巻きながら集まりだす。

「この中にいる愚か者ども、よおく聞け、そして見ろ! 我らが協会に逆らう愚者どもの哀れな最期を。協会に歯向かうものには未来などない!」

ぐるり、と群集たちをヤデトが見渡す。しかし遠くすぎて人々の顔も性別すらろくに判明しない。ロボからのモニター越しでは、余計だ。それに歯がゆく思いながらも、ヤデトはホツカらしき人物を探したが、どれだかハッキリしないし、この中にいないのかもしれない。

「救世士ドーリアから反逆者だと認定された者がいる。そいつがここにいることはわかっているんだ!
今日はそいつを処刑しにきた。さあ潔く姿を現すがいい!」

ざわざわ。群集がひそひそと話し始める。「まさかあの人のことじゃ…」「なんども命は狙われていたらしいけど、ここまであからさまにやるなんて」なにを考えているんだ、協会は、と。
後ろのほうで様子を見ていたホツカたち。どうやらこの町ではホツカ以外にも協会に反逆しているものが多数いるようだ。それであれだけ監視の目も多かったということだろうか。

「出てこないのか? 臆病者め。ならばここにいる群集どもに一人一人尋問していくぞ。反逆者を知っているのに知らぬと嘘をついたり、庇い立てする者も同罪で裁くからな。このハンマーでぺしゃんこにしてやる」

ヤデトが脅す。ロボの腕にはあの巨大なハンマーが装着されてある。威嚇としてハンマーを振り上げるが、戦車の上でバランスを崩しそうになりヤデトが焦る。戦車のサイドからアームが出てきて、両脇を支えるようにしてロボを固定してくれた。

「ふう…」

ほっとしてつい漏れたヤデトの息がスピーカーを通して一帯に聞こえた。思わずそれに「ぷっ」と噴出してしまったものがいた。慌ててしまったという顔をして口を塞ぐが、ヤデトがそれに気づき、怒りを露にする。

「そこのお前! 今ボクを侮辱したな!」

ざわざわ…群集のざわめきが犯人の出所をあいまいにしたが、ヤデトは犯人の目星が着いていた。アームに補助されながらロボは地面に降り立つ。ズシンズシンと肩を怒らせながら魔動ロボは群集のほうへと歩いてくる。皆しばしそれを見守っていたが、ロボが近づくと危険を感じて散っていく。噴出してしまった男も皆に紛れて逃げ出そうとしたが、「そいつだ、捕らえろ!」とヤデトに見つかっており、兵士たちに捕まり逃げられなくなってしまう。

「違う誤解だ、さっきのはただのくしゃみだ!」

恐怖におびえながら男が叫んだ。

「そんな言い訳が通じると思うのか! 許さん、ボクへの侮辱は協会の侮辱、つまり姉上に反逆する行為と同じだ!」


建物の影に潜みながら、ホツカは魔法を唱えようとする。

「…ダメか、雷精がまたヘソを曲げている…」

魔動ロボには直接魔高炉へのダメージを与えられる雷の魔法が効果的なのだが、その雷の精霊がいかんせん気難しい性質でたまにしか力を貸してもらえない。別の魔法で、と切り替えようと模索するホツカに、上空から師匠がアドバイスする。

『ホツカよ、せっかくじゃ、あの娘っことシンクロ魔法を試してはどうか?』


恐怖に震える男の頭上をバチバチと火花散る見覚えのあるボールがロボに直撃し、ちゅどーんと弾ける。

「うわぁっ、な、なんだ? 今の衝撃は?」

よろけたロボは男より後方へと下がった。シュタンと景気のいい着地音をさせて、ちょんまげを揺らすいきのいい少女がまるでヒーローのごとく男の前に現れた。

「アンタだけじゃないって、アタシも笑いこらえるの必死だったしな。つーかなんだよお前、コントやりにきたのかよ?」

ぶはは、と耐え切れないといった様子で、シャニィは腹を抱えて震えだした。プルプルと怒りで震えるのはロボの操縦席に居るヤデトだ。

「な、なんだと? 貴様、無礼すぎるにもほどがある! ここまでボクをバカにするクズがいるとは。
そうか、貴様だな? 貴様が悪名高いホツカだな!」

くわっと口が裂けそうな形相でヤデトが叫ぶ。ヤデトはホツカとは面識がない。勝手にシャニィをホツカだと思い込んでいるようだが……

ヤデトがシャニィにブチキレている間に、男を捕らえていた兵士たちが崩れ落ちる。

「今のうちに、逃げてください」

ホツカが兵士たちを倒していたようだ。男はまだ恐怖の残る顔でこくこくと頷いて、走り去った。

「まったく、君は勝手に突っ走らないでよ。少しはコンタクトとるなりしてほしいんだけど…」

やれやれとため息つきながらホツカが姿を見せる。ちらりとホツカに振り返りながら、シャニィの反応は悪びれる様子もない。

「なんだよ、お前がもたもたしてるからだろ。にしても悪名高いってなにやらかしたんだよ? ホツカ」

協会にだけは言われたくないなーとホツカが心で毒づく。ドーリアに敵対する者は、すべて悪という認識なのだから、今さらだろう。

二人のやりとりでヤデトも後から現れた小柄な少年のほうがホツカであると気づいた。そして、メラメラと怒りの炎を燃やす。

「そっちのお前がホツカか。ふふん、今からお前をこのハンマーにてぺしゃんこにしてやる。そしてあの世で大いに悔いるがいい。そして姉上とボクに謝罪をしろ、永遠に!」

巨大ハンマーが振り上げられる。


「シャニィ、君の力を貸して。大爆発だ」








特攻隊長シャニィの暴走止まらない!
勘弁してほしいけど、たまに頼もしいその行動
こしょう弾、名前はアレだが、なかなか便利な爆弾ね
そしてそしてヤデトが再び現れたよ
今度は裏からこっそり、じゃなくて、正面から堂々対決〜
ヤデトちょっとなさけない?そう感じても笑っちゃだめだよ、お〜こわや
ホツカとシャニィのコンビネーション、楽しみだねー
大爆発ってなにをする気なのか、そしてヒャケンの町他にもなにかありそうだねぃ?
ホツカたちの戦いの続き、ぜひ聴きに来てくれよ?シーユーバイチャッ!



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