第九話 会ってはいけない関係
ホツカとシャニィ、ヤードからもてなされ
さらにカツミとも縁があったぜ?
ヤード率いるは、協会から人々守る正義の味方団!
正式名称はまだないんだぜ〜
セクシーお姉さんフィアのセクハラも軽くかわすが
なぜかヤードには気まずいホツカ
これには深い理由あり?
いったいなんなの?早く教えて?ホツカちゃん〜
さらにドーリア瓜二つの幽霊女性は何者かい?
いろんな感情ぐるぐるするよー
見よ!キチガイどもの夢の跡!九番はヤードは実はほにゃららなんだよ〜♪
真夜中にホツカが会いに行ったのは、ドーリアに瓜二つの幽霊体女性だった。いや、ドーリアに瓜二つ、なのではない。彼女は、ドーリアなのだ。正しくはドーリアの精神の一部が分離したものというべきか。冷酷無比なドーリアにはない、それは彼女が隔離した良心ともいえるもの。
その透けているドーリアこそが、ホツカの知るドーリアであって、先日ホツカたちの前に現れた凶悪で冷酷なドーリアはドーリアじゃない。あれこそが本物のドーリアなのだが、良心の欠けたドーリアは人を思いやる心などない。
思いやり、自己犠牲こそが元々の彼女の本質であったというのに…。
彼女に会うたびに、ホツカの胸は潰されそうに苦しくなる。
彼女もまた、ホツカの顔を見るたびに、切なそうに顔をゆがめる。
そんな二人を知る師匠もまた、複雑な胸中で見守る。
「彼女の言いたいことはわかりますよ。早くドーリアを倒して欲しいと…」
もやのような幽霊体のドーリアは闇の中とけるように消えていった。感情をあまり表に出さない少年は、自分の運命を嘆いたり、誰かのせいにしたりあたったり、投げやりになったりしない。
ドーリアを倒す、そのためだけにホツカは魔法使いになった。ドーリアによって、ホツカはその力を得た。心優しいドーリアは、過酷で残酷な役目を幼い少年に押し付けるしか道がなかった。
超魔力、不老不死、膨大な知識に未来を知る力…。
それはドーリアを倒すために与えられた力。人殺しをするために与えられた力。
たった十歳の少年にそれが与えられたのだ。
あの日少年はひとりになった。力を与えられたあの日、大切な家族を奪われ、過酷な運命を背負わされた。死へ逃げることなど叶わない人生を進むことになった。
今日までずっと一人きりで旅を続けて。白カラスでしかない師匠はたいした力にはなれないが、せめてホツカの側に寄り添おうときめた。
だが、ホツカにも仲間と呼べる存在に出会えた。まだ出会って日も浅いが、爆弾娘のシャニィ。それから戦鬼カツミ。そして協会と敵対する勢力の一つでもあるヤードとも出会った。
少年一人が背負うには重過ぎる宿命。勝手かもしれないが、仲間がいることによってホツカの負担も軽減されればいいと師匠は思う。それに、ホツカ一人の力では、ドーリアには敵うはずもないのだから。
『そうだな、ホツカよ。そのためにもお前もあの娘っこと一緒にヤードの仲間になるべきではないか?』
師匠の問いかけにホツカは数拍おいて、首を横に振る。『どうして?』と聞く師匠に、ホツカは語る。
「僕はヤードさんとは出会ってはいけないんです。僕といることで、あの人は必ずドーリアに殺されてしまう…」
『予知夢で見たのか?』
「はい」とホツカが頷く。ヤードと行動を共にする予知は以前から何度も夢に見ている。そのたびに違う選択をし、また違う道をたどることも合ったが、必ずヤードは死んでしまう。必ず、ホツカのせいで命を落としてしまうのだ。ホツカが導き出した答えは、ヤードの死の運命はホツカと行動をともにした時点で決定していたということだ。
『そのことをヤードに話してみてはどうか?』
「いいえ、あの人はきっと、僕のせいで自分が死ぬと知っても、そのために僕を遠ざけたりするような人じゃないってわかるから。だから僕から、遠ざかるしかないんです」
クールな顔つきで淡々とホツカはそう口にした。だけども、微妙に揺れる瞳に師匠は気づいていた。
ホツカがヤードに感じるところはきっとそれだけではないのだろう。
ホツカの選択に師匠はなるほど納得とは頷けなかった。ヤードから遠ざかるということは、せっかく手に入れたシンクロ魔法の力を手放すことになる。
すでに姿を消したドーリアのいた、ただの木をホツカはじっと見ている。ぼーっとしているのではない。ヤードのことドーリアのこと、それから遠い記憶のように感じるホツカ自身の過去…。様々な思いと記憶がホツカの中でぐるぐるとしているのだろう。とホツカを横から眺める師匠は思っていた。
「ホツカ君? そんなところでなにをしているんだい?」
芝生を踏みつける靴音がホツカの後ろから近づく。呼びかけた声の主だ。にこりと微笑みながらヤードがホツカのほうへと近寄る。
「いえ、なんでもないです」
バサリと羽音を立てて、師匠はホツカの肩から木の枝へと飛び移った。師匠のほうに目線をやって、ヤードは再びホツカへと視線を戻す。
「そのカラス君に会いに来ていたのかい。もしかして、シャニィ君が言ってたホツカ君のペットの…」
ホツカが白カラスを連れているということはシャニィから聞いていたらしい。師匠はペットではないのに、シャニィは誤解したままだ。
「違います! ペットじゃありません! 師匠です!」
妙に語尾を吊り上げてそう返してくるホツカにヤードは一瞬面食らったが、「そうか、いやすまない。君の師匠なのだね」とヤードはホツカに謝り、すんなりと受け入れた。たぶんよくわかってないのだろうが。
『やれやれ、別に師匠でもないんだが…』
と師匠はぼやくが、師匠は師匠以外ありえないとホツカは思っているらしい。
『ややこしいことになるならいっそあの娘っこがつけたあだ名で呼んでもらってもかまわんぞ。たしかシラスとか言っておったか?』
「ダメです! 師匠をそんなあだ名で呼ぶなど絶対ダメです!」
師匠のぼやきにホツカがマジな顔して反対を主張する。カラスに向かってむきになっているホツカを不審に思いヤードが「どうかしたのかい?」と問いかけてくる。はたから見ればカラスに話しかける変な少年だ。慌ててホツカは「いえなんでも、独り言です」と返した。
「庭の中だから危険はないが、大事な客人に何かあっては困るからね。そろそろ部屋へと戻らないかな?」
客人であるホツカが勝手にうろつくほうが非常識だろう。ヤードの言うとおりホツカは屋内へと戻った。『やれやれ』師匠のため息はホツカには聞こえなかった。
中庭から繋がる扉から館の中に入る。リビングにはフィアがいて、ヤードとホツカに気づくと「あらー、うふふ」とまたくねくねと腰をくねらせながら二人のほうに近づいてきた。
「組長ったら早速ホツカ君とデートしてきたの? ああーん、いいわー、羨ましいー」
「いやいや残念ながらそうじゃないよ。ねぇホツカ君」
一緒に外から戻ってきただけでなぜデートと言われるのかホツカにはさっぱり理解不能だが、フィアの思考はちょっと一般とずれているようなので深く気にしない。「ええ、ちょっと夜風に当たりに出ていただけです」と答えた。
「うふふ、なるほど。ほてった体を冷やしに行っていたのね」
パチコンとウインクをしながらフィアはホツカの外出理由に納得をした。「別にほてったわけじゃないですけど」とホツカは言い訳したが、フィアには届いていない。
「疲れがたまっているだろうから、早く寝床で休むといいよ」
通路の向こうの寝室からシャニィのいびきが聞こえてくる。ホツカはシャニィほど疲れているわけでも眠気を感じているわけでもないが、時間も時間だ。ヤードの勧めどおり寝床に着いたほうがいいだろう。寝ることを勧めるヤードに反して、フィアはホツカの冴えた目を見て
「あら、組長ったら。ホツカ君眠れないのよね。ううんわかるわー。ドキドキする日は体が寝付けなくなるのよね」
ドキリ、とホツカの心臓がはねる。クールな表情を崩しはしないが、ホツカの微妙な表情やしぐさに、フィアは敏感に感じ取る。ヤードやシャニィなら気づかない微妙なそれを、フィアは見抜いている。この人只者じゃない、と内心焦る。
「うふふ、ホツカ君は誰かに恋しているのよね? 好きな人のことを考えすぎて眠れない夜…。ああん、その気持ちワタシにはよーくわかるわー」
ああーんと艶っぽい声色でますます腰をくねらせるフィア。ドキリとなったホツカはぽかんとさせられる。
「やれやれまたフィアの悪いクセがでたようだ。あまり彼をからかうんじゃないよ。困っているじゃないか…」
「ああーん組長ったらはぐらかしてる。ホントは気になるんでしょ? ホツカ君の好きな人」
パチンとウインクしながらフィアがヤードを茶化す。いつものことなのか、ヤードの対応は変わらず穏やかだが…。「(これってそんなに食いつくような話なんだろうか…)」とホツカは疑問に思う。一旅人の色恋ネタにそこまで夢中になれるものなのか?一般的に女性は恋話が好きな傾向にあるようだが、フィアは特にその特徴が強いようだ。
ぐいぐいと迫る勢いのフィアをなだめながらヤードがホツカを援護するように
「ホツカ君が心配していたのは、大切な友達のことだよ」
ね、と後ろにいるホツカに目配せしながらヤードがそう言ったわけだが、フォローされたホツカが即座にそれを否定する。
「友達じゃありません! 師匠は師匠です!」
「は!?」「え? ししょうって、もしかしてホツカ君のお師匠様ってことかしら?」
フィアにつっこまれて、ホツカは慌てて「え、や、違います。師匠は師匠であって魔法使いの師匠などではありません」と必死に否定した。ヤードとフィアはきょとんとして互いを見やるが、それ以上ツッコミを入れることなく納得してくれたみたいだ。
そんなやり取りの最中、館の中に踏み入る足音がして、それにいち早く反応したのはフィアだった。彼女の興味はホツカから一転その足音の主へと移る。
「ああーん、カツミったら遅いじゃないのーー」
「カツミさん!」
腕に絡みつくフィアを邪魔そうに払いのけながら、ズカズカとホツカたちのいるリビングへと侵入してきたのはカツミだった。ヤードの言ってた通り、彼の護衛をしていたのはホツカたちが出会ったあの戦鬼カツミだった。
入ってきてすぐにカツミが注目したのはホツカだった。ホツカは会釈をしてカツミにあの時の礼を言う。
「カツミさん僕のこと覚えてますか? あの時は助けてもらってありがとうございます。もう一度あなたにお会いしたいと思ってました」
「俺と戦え」
「え…」
無表情のままカツミはじっとホツカを見たまま一言そう発した。
「ちょっとカツミ、ナニ言ってるの? 彼は客人なのよ? んもう、相手ならワタシがしてあげるのにぃ」
ホツカにケンカふっかけるカツミをとめようとするフィアに「邪魔だ、どけ」と乱雑に絡みつく手を剥ぎ取りつき飛ばす。「やめるんだカツミ、彼に手を出すことは私が許さんぞ」とヤードがホツカを背中で庇うようにしながらカツミを諫めようとする。がそれを拒否したのは庇われているホツカだった。
「大丈夫です、かまいませんよカツミさん。僕もあなたに会ってやりあいたいと願ってましたから」
「ちょっちょっとホツカ君?」
心配そうな顔を向けるフィアに、ホツカは自信満々で答える。
「負けませんよ、僕は魔法使いですから」
腰元に携えた杖を構え、ホツカは術を唱え始める。ホツカの対応ににやりとカツミは嬉しげに口端を吊り上げ拳を軋ませ始める。
床を蹴り、カツミがホツカへと拳を走らせる。
「カツミさん! あなたの力が僕へとまっすぐに向かってくる。その力、借りますよ」
闇夜の時間帯、そして活性化している闇の精霊が闇属性の主カツミの下に一層多く集まっている。その精霊たちがホツカの魔力に同調して、ホツカの魔法の威力は格段に跳ね上がる。
「ぐぬっ」
見えないバリアにはじかれるように、カツミの拳はホツカに後一歩で届く…というところで終わってしまった。膝をつき、カツミは床へと倒れこんだ。カツミだけではない、フィアも倒れこみ、二人とも寝息を立てていた。
「深い深い眠りを…。みんな夜明けまでぐっすりと眠ってくれる」
彼らを見下ろしながらホツカがつぶやいた。闇のシンクロ魔法を使ってみた。ここら一帯にいる者たちを強制的に眠らせる闇魔法だ。シンクロ効果で太陽の光を浴びるまでその効果は切れることがない。闇属性のカツミは闇魔法の耐性があるだろうから、途中で目覚める可能性もあるだろうが、通常の魔法より威力は段違いだ。
カツミと出会い、ホツカの目的も果たした。シャニィの後面倒はヤードにまかせていいだろう。ヤードの元を去ろう。ホツカの後ろでヤードも深い眠りについている今のうちに…
「ん? どうしたんだ? 急にカツミもフィアも眠ってしまっているじゃないか? まさかホツカ君、君が使った魔法のせいなのかい?」
「え?」
聞こえてくるはずのない声が後ろからしたため、ホツカは振り返り驚いた。目をしぱしぱさせているヤードがそこにいた。
「ヤードさんは、なんともないんですか?」
「うん? ああなんだか一瞬変な感じがしたがね、特になんともないよ。っとそれよりカツミはともかくフィアはベッドに運んでやらないとね。あのまま寝ていれば肌に型がついてしまうだろうよ」
ヤードは眠り続けるフィアの側にいき、彼女を抱きかかえる。はらり、とスリットの入ったスカートがはだけて白い太ももが露になり、他人事ながらホツカはいいのだろうかという思いから、彼女を寝室へと運び込もうとするヤードに待ったをかけた。それにヤードはさわやかに微笑みながら、心配するようなことはないよと答える。さらに
「私は女性の体に欲情することはないんだ。フィアも私の事はよく知っているからね」
などと言い訳しても信じられるものだろうか。色気の塊のようなフィアの体に何も感じない男がいるなら、希少な存在と言っても過言ではない…?
ニコリ、とホツカに微笑みながらヤードはそのはっきりとした理由を言ったのだ。
「私は少年が好きなんだ」
ぽつんと佇むホツカに背を向けて、ヤードは奥の部屋へと消えていった。
少しずつ明かされてきたホツカの過去
そしてドーリアとの関係も
ホツカとドーリア、二人の間になにあった?
ホツカが魔法使いになったのは、ドーリアのせいだった?
いつか話して聞かせてくれるかい?ホツカよ教えてくれるのかい?
白カラスの師匠は師匠であって師匠じゃない?
師匠とホツカ二人の関係も気になるぜぃ
さらにホツカの予知の中、大変な未来が待ってるなんて?
ヤードとホツカ、二人は出会っちゃダメだった?
悲しい結末、歌うことになっちゃうの?
やだやだおいらはハッピーエンドが大好きよ!
なんてなんて今のは聞かない忘れてくれよん
ホツカよ君は彼らと行くのか、それともまさか?
続きもぜひとも聴きにきてくれよ?シーユーバイチャッ!
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