レヴィンがツッコミのつもりで軽くティルテュのおでこを突付こうとした瞬間
悲鳴を上げたティルテュは顔色悪くへたりこんでしまった。
風精アレルギー??
「うわー、どうしたの?!レヴィンさんこのこになにしたのさ?」
突然レヴィンの背後からしゅばっ、と現れ騒ぐのは、黄色い髪の毛を一つ括りにした年は14、5くらいの小柄な少年。
「ねぇ、大丈夫?セクハラされたんでしょ?
サイテーだねぇ、かよわい女の子のお尻を触るなんて!ね!」
突然現れ、喚くその少年にウザがりながら、半分パニック状態のレヴィンは
自分の前をちょこまかうろつく少年の頭をガシッと上から掴むと、後方へと投げた。
「うるさいデュー!少しあっちいってろ!」
投げられたデューはしりもちつく前に受身をとり、すぐに体勢をもどす。チッとしたうちしながら、レヴィンに妙な視線を送ったまま、二人の様子を見守る。
「どういうことだよ?風精アレルギーって?」
一呼吸おいてから、ティルテュが答える。まだ本人も少し混乱しているようではあるが
「アレルギーかどうかはわからないけど、でもたぶんそうなのかも。
あたし、体質的に風精が苦手、なんだと思う。」
そんな人間がいたのか?レヴィンも初耳だった。
レヴィンは風使いセティの血を継ぐシレジア王家の王子だ。
生まれながらに風使いとしての強い能力を持っているレヴィンは魔法を使わない時でも、意識しなくとも、自然と風精を呼び寄せてしまう体なのだ。
それはレヴィン自身もどうしようもないことで。
「それって、もしかして、レヴィンさんが近くにいるだけで、気分が悪くなっちゃうってこと?」
二人の間に割り込みながらそう言うデューはどこかおもしろげな表情。
「そういうことに・・・なるのかな?」
それを聞いたデューはにかっ。と企むような不気味な笑顔をレヴィンに見せながら
「そいつは大変だ!報告報告ーー。」
「おい待てデュー!」
レヴィンの制止を振り切り、すごいスピードで逃げていったデュー。
「なんだよ、そりゃー。」
レヴィンは頭を抱えた。
なんてこったい、俺の存在そのものがこのこを傷つけることになるっていうのか。
気分は、よくない。
デューのせいでその噂はあっという間に広がってしまった。
デューのやつはレヴィンに恨みでもあるのか?・・・?それはさておき
「レヴィンアレルギー。」
だれがそんなことを言い出したんだ?
気分が悪い。俺の存在そのものが害みたいじゃないか。
レヴィンだって凹む。
レヴィンを見て、皆が「おっ、アレルギーの元だ。」などとからかい指を指し笑う。
まるでトリッ○の山田奈○子の心境のよう、とにかく不愉快だ。
「おっ、歩く病原体♪」
「ちょっと、それ差別発言よ!」
涙目でキレるレヴィンにけらけらと笑いながら「泣くな泣くな。」と彼に話しかけるのは
「おもしろいことになってんな。」
「おもしろくなんかないよ、ブリさん。」俺にとっては特に。
ブリさん。とレヴィンに呼ばれた女性は見た目はエーディンに似た美しい外見ながら、中身はがさつな印象を受ける。それもしかたないのかもしれない、なにしろ彼女は海賊の頭を務めていた女性である。
エーディンの双子の姉なのだが、幼い頃に海賊に攫われ、海賊の娘として育てられた彼女は女ながらがっしりとした体つきで、筋肉のつき方なども男のレヴィンよりもよっぽどたくましい。
名前はブリギッド。実に漢らしい彼女にレヴィンも惚れ惚れしている。男が男に惚れるという感覚だ。(ブリギッドは女だが。)男友達の少ないレヴィンにとっては貴重な男友達なのだ。(だから女だって)
しかし、相手がブリギッドであれ、そう言われるのはレヴィンとてかなり不愉快であった。
「まあ、災難だな。」
無神経にけらけら笑うブリギッドに、レヴィンもムッとした表情のまま。
「て、ことはだ。お前、ティルテュに二度と近づいちゃだめってことになるんだな。」
ブリギッドのその言葉にハッとした。
たしかに、そういうことになってしまうのか。
ただ悔しかったし、どこか気持ちがよくなかった。
自分は悪くはないはずなのに、レヴィンアレルギーだとか言われて、二度とティルテュに近づくな、だとか、さすがに気分は悪い。
レヴィンはティルテュと話しているとき、少し楽しかったのだ。
どこか自分と似ているなにかを持っているティルテュとは友人になれそうな気配があったというのに…。
風精アレルギーなんて・・・
なんとかならないものだろうか・・・?
レヴィンはけっこう真剣に悩んでいた。
「レヴィンのやつけっこう落ち込んでいたみたいだったぞ。」
ブリギッドはアゼルとエーディンの部屋にてレヴィンの様子を二人に話していた。
「そーなんだー。でもレックスは悔しいだろうなぁ。」
頷きながらそういうアゼルの横顔はどこか楽しげに映る。
「は?なんでレックスが?」
「風精アレルギーってことはさ、レヴィンは近づくだけでティルテュを感じさせちゃうんでしょ?
うらやましい変態体質だなー、と思ってさv」
にこにこアゼル、笑顔の悪魔め。ブリギッドも少し呆れる。
「お前なぁ。」
「アゼルったら、そんな言い方をしてはだめよ。」
「うん、ごめりんこv」
恋人エーディンとのバカップル全開のアゼルにさらに呆れつつもブリギッドももう慣れてきた。
「誠意を感じねぇよ、お前の謝罪文句は。」
「ごめんね、ちゅv」
とさらに恋人にキス。
もうアゼルったらvと頬染めラブラブモードのエーディンに、ブリギッド息を吐いて、室外へと向かった。
「謝る相手間違ってるしな。」
ま、いいか。とアバウトなブリギッド。
レヴィンは城下町に下りていた。あるものを購入しようと思い、やってきたわけだ。
二年ぶりとはいえ馴染みの街、目的の店へと向かおうとしたとき、怪しい動きの人物を発見。
それはレヴィンの見知った者だった。
「デュー?なにやってんだあいつ。」
妙に怪しいので気になって後をつけてみる。
どうやら誰かを追っているらしい。
どうせろくでもないこと企んでいるんだな。
「おい、デュー!」
こっそり近づいて真後ろから突然声をかけたレヴィン。予想以上にデューは驚き、声をあげる。
「うわっ、レヴィンさん、ちょっ脅かさないでよ。」
「なにやってんだ?どうせろくでもないことなんだろーな。」
「レヴィンさんこそ、こんなとこでなにやって・・・」
「俺はまあ、あれだよ。ティルテュの体をなんとかしてやれるかもしれないとナイスなアイデアが浮かんでな。
それで馴染みの店で買い物に来ただけ。」
「へ、えっ・・・」
なぜかデューはレヴィンを見てしばらく、妙な表情を浮かべ
「レヴィンさん、あんた間違ってるよ。」
「は?」
「見損なったよド変態魔王!!サイテー」
「は?!」
きゃーと悲鳴を上げながら逃げていくデューの後姿に首を傾げたレヴィンは、その数秒後に気づく。
自分の真後ろにあったいかがわしいピンクな専門店。
変態さんいらっしゃ〜いvな大人の玩具専門店とある。
ビシっと全身の毛が総立ちになり、レヴィンは一瞬固まる。
「まっ、待て誤解だ!こらーー。」
と叫んだところで、もうデューの姿はない。きっと逃げ足はレヴィンより速いのだろう。
がっくりとうな垂れるレヴィン。
俺の知らない間にこんな店ができてるなんて・・・
二年の月日をずっしりと感じた。
それよりデューのやつ、また先走って変な噂広めたりしないだろうな
ただでさえ、不本意で帰郷したレヴィンは肩身が狭い思いをしているというのに、変態だの噂が広まるとますます居心地が悪くなる。勘弁してほしい。
こう見えてもデリケートなハートの持ち主なのだから、乙女並に傷つくのだ。
「違う違う。ここじゃないんだ、俺の目指している店は!」
身を起こし、目的の場所へとレヴィンが向かおうとした時、突然目の前に怪しげな老婆が立っていた。
「ん?」
老婆はレヴィンの行く手を遮るように、仁王立ちしている。
そしてその眼光は鋭く、ギラリとレヴィンを睨みつけているようだ。
なんだ?この婆さん、邪魔だな。
レヴィンがそう思って、道を譲ろうとした時
「なにをしているんだい?!アンタは!」
いきなりすごい剣幕でレヴィンへと怒鳴る老婆。わけがわからず立ち尽くすレヴィンに老婆はそのままのテンションでさらに怒鳴る。
「早くあの娘のところに行くんだよ!
チャンスは数えるほどしかないんだよ!アンタはあの娘と結ばれなければならないんだ。
間違ってもあの小娘に近づいてはならん。あれは災いを呼ぶ忌まわしき存在だ。」
なんだ?この婆さん、いきなりわけわからんことを。しかも俺怒られているし?
なにこれ、インチキ占い師?
相手にしないほうがいいな。レヴィンは老婆を無視して通り過ぎる。
「地獄に落ちるよ!!」
後ろからそう怒鳴っていたのが聞こえた。
やっぱりインチキ占いババアだな。
むかついたので気にしないことにした。忘れることにした。
それよりも目的の場所へと、レヴィンが向かっている途中
「レヴィン様!?」
レヴィンを呼び止めた声がした。
その声に聞き覚えがあった。二年間会わなかったとはいえ、馴染みの声だから。
「マーニャ?!」
長い緑の髪の美しいシレジア女性はフュリーとよく似た白い天馬騎士の鎧を身に纏っていた。
フュリーの姉であり、シレジア四天馬騎士のトップに立つ彼女はマーニャ。レヴィンの幼馴染。
レヴィンに声をかけられたマーニャは、柔らかい優しい笑みをレヴィンへと向けている。
なんでマーニャがセイレーンにいるんだ??
BACK TOP NEXT