身一つでAエリアを出、Bエリアへと向かうキンと同行するあたしだが。
やってきたのはBエリアの港通り、なんだか懐かしい。
海が見えるその場所で、さらに海へと近い場所へと進む。
近い場所というか、もろ海?
視界の先には海に浮かぶいくつかの小さな島々。ほとんどが人が住んでいなさそうな無人島のよう。
海から流れてくる肌を逆立たせる冷たさを含んだ風に、あたしは自らを思わず抱く。
夏なら心地良いだろう潮風も、いまは肌寒いだけ。
まさかとは思うが、まさかとは、でも、キンのことだからまさかって。
海へと向かうキンに思わず叫ぶ。
「ちょっ、まさかあんた、お、泳いで渡る気じゃあ?!」
焦るあたしに、陽気に振り向いてキンは答える。
「はっはっは、まさか泳いではいかんぞ。ちゃんと船でいくわ」
な、なんだ、よかった、それならよし。
「リンネ、もしや泳いでいきたいんか? それならかまわんぞ。ワシ一人で乗っていけるからな」
「はー? なに言ってんですか?! アホかー!」
よっぽどのバカかドMかい。ありえないし。
で、船は?
港に浮かぶ、いくつかのヨットを見やる。でもキンが向かうのはそのヨットを無視してさらに港のはしっこ。
そこにあるのは、ぽつんと浮かぶ小さな木製の船で。
「まさか、それ?」
不安な顔で木の船を指差すあたしに、キンは真顔でそうじゃ。と頷いた。
「ヨットでも、モーターボートでもなしに?それって手動?」
ゆらゆらと不安定に波に揺られる木のボートに、ドンと手をついてキンが答える。
「どこにエンジンがついとる?」
ははは、やっぱり。
でもまあ、目の前に目指す島は見えているし、この距離ならモーターなしでも、問題ないかも。
モーターはモーターで結構大変な目に合ったからな。テンの運転でZ島に行った時のことを思い出す。
「まあいいか。キンが漕いでくれるんだし」
ふー、とため息ついて、あたしはぐらぐらと揺れる木の船にゆっくりと足をかける。
「なに言うとんじゃ? 漕ぐんはお前ぞ」
「え?」
な、なにを言ってます、か?この人は。
不安定な船の上で、不安定に立つあたしの後に、キンがどかっと乗り込んできて、その振動でさらに激しく船がぐらぐらと揺れ、あたしはよろけて手をついた。
「ちょっ、え? なに、なんであたしが漕ぐわけ?」
ありえないんですけどっ、とあたしは抗議するが。聞く耳持たずとばかりにキンは船の上あたしと向き合う形でどん、と座り込んだ。あぐらをかいて。
「なんじゃ?その楽しようという根性は。ふぅ、それじゃから兄者に…」
「ちょ、なによ今の後半は?!」
むかっ、思わずムカついて立ちあがったけど、今度は自分の起こした振動でまた船が揺れて、あたしはよろけてしりもちついた。
「これも修行じゃあ、頑張って漕げよ」
腕組んで、殿様みたいに座りやがって、キンめ。こいつは乙女扱いというのを知らんようだな、ああ知らんだろうさ。
「わかったわよ、漕げばいいんでしよう、漕げば」
あそこまでなら、1時間ほどでいけるだろうと予測。でも甘かった、重い、めっちゃ重い。一回漕ぐだけでかなり体力消耗する。しかも少し休憩すると、波ですぐに岸辺へと戻されているし。
「なんじゃ、全然進んどらんぞ」
ええーい、うるさい、こっちは必死こいてやってるっつーのに。荒い息と肌に浮かぶ汗見て察しろ。
「きちんと漕がんと乳揉むぞ」
よっ、と腰を浮かせてキンがあたしへと近寄る。て、待ったー、なに考えてんだこのセクハラバカはー。
冗談じゃないとばかりに、あたしは体を後方に倒しながら、足をせいいっぱいのばしてキンを蹴り押す。
「冗談じゃないわ、このーー、フンフンフンフン!!」
筋力全開にして、あたしは両腕を動かした。重たい波があたしの腕筋を跳ね返そうとするけど、あたしはそれ以上の力で対抗する。目は目の前の猛獣(変態)を見据えたまま、全神経使いすぎ。
「お、ええぞ、進んだ進んだ」
どかっと乱暴に腰を下ろしたキンのせいで、危うくバランスを崩しそうになり冷や汗。
「ちょっとー、動かないでよ! 海に突き落とすわよ!」
冗談じゃなく結構マジで。
「おいおいそれは勘弁願うわ。しかし必死じゃのう」
「揉まれてたまるかーーー!ふんがーーー」
「ええ眼じゃ。燃えとるのぅ」
波と戦い潮風と戦い目の前の変態と戦い、ようやく島へとたどり着くことが出来た。
一体何時間かかっただろうか。考える余裕もなかったが、すっかり影が伸びてしまっている。
ざかー、と音立てて、船は砂浜へと乗り上げた。
「よっと、ついたか。ずいぶん時間はかかったが、まあ合格としといてやるか。根性でな」
キンが島へと上陸したらしい音を聞いた。あたしはついたとたん疲労でばたんと船の中で倒れこんでしまった。
痛い、だるい、ヤバイもう……指一本動かす気力ない。
波の音を聞いていた…、まるで子守歌のように心地良くそれは響いていた。
ずっと波の音を聞いていた。夢の中で、潮の香りを鼻の奥で感じて。
髪の毛が肌を何度もなでるのは、風のせいだろう。
ああ、ここはどこだろう。あたしはゆっくりと目を開ける。
そこに広がるのは、白い砂浜によせる波。めの荒いごつごつとした石のまじった土を越えて、緑の茂る場所にあたしは横たわっている。
十メートルほど先に海を見る位置で、あたしは眠っていたみたいだ。
知らない場所……、どうしてここに? 体を半分起こして、あたしの視界に映ったのは…。
海とあたしの間に立ちはだかるのは、重力に逆らうように立ちあがった黒髪がわずかに風に揺れて、あれってなんの線? 一瞬考え込んでしまうような表情を見せる大きな背中、腰に当てたその手は大きくてまさに男の手って感じで、堂々と仁王立ちで、その手のすぐ近くに見えるのは、もしやもしやと、見えるのは……。
きゅっと、効果音が聞こえてきそうな、ウザイほどに引き締まった……ケツ?
ケツ、ケツですよね、あの割れ目は、あたしの知識の範囲内になりますが、人間の…ケツ……。
「ケツー!?」
ガバッ! あたしはケツで完全に目が覚め、飛び起きてしまった。
あたしの目の前には、なぜかキンが、全裸で、腰に両手をあてて仁王立ちしている。幸いにもこちらに背を向けているから、一番やばーい箇所は見えてないけど……、や、なんかかすかに見える気もするけど、乙女フィルターでなかったことに。
「おお、リンネやっと起きたか」
今のあたしの叫びで、キンが気づいてこちらへと振り返る、全裸のまま。
「まっ、バッ、ちょっ、こっち向くなーーー」
あたしは急いで、目の前で蟹をつくるように両手を重ねてキンの見たくない箇所を隠しながら、叫んだ。
「はっはっはっ、裸の一つや二つで大げさにするやっちゃのぅ」
あほかーー、たしかに以前テンの裸の時も騒いだことありますけど、テンの時とはワケが違うっつーか、レベルが違うんじゃボケーー!!
眼の下半分を掌で隠しながら、全裸のまままったく恥じることなく堂々と歩いてくるキンから逃げるように、後退さる。
「だいたいなんで、全裸になってんのよ? まさか…泳いだの?この時期に?バカ?!」
「泳いどりゃせんが。こういう場所に来ると開放的な気分にならんか?」
気分で全裸かよ?!
いくら無人島だからって、「よーし全裸になるぞー」なんて思うバカどこにいますか?目の前にいますか……。
「お前も気兼ねせんと、脱いだらええぞ」
そうか、あたしも全裸でまさにリアルアダムとイヴってわけね。……ってだほかーー!!
なにあたしにも全裸強要してんだ、このド変態がーー。
「だれが脱ぐかー!…ってちょっ、近づいてこないでよ!せめて下はなんか穿け!」
後ろ向きで、逃げるあたし。来るな来るな!穿け穿け!と連呼しながら後ずさる。
「おごっ」
背中に突然の打撃があって、変な悲鳴を上げてしまった。
ひたすら後ずさったあたしの背後には壁のように立つ土の壁。しまった、もう後ろに逃げ道はない。
迫り来る全裸の変質者。
「クッ、こんな時こそ……」
頭脳プレイを見よ!どこが?というツッコミはなしですからね。
あたしはミントさんより渡された通信機を取り出し、Aエリアへとつなぐ。
電源が入って、通信のボタンを押すと、液晶画面にミントさんが映った。
「あっ、ミントさん! 助けて!今まさにあのバカが全裸『ブツッ』!あっ」
通信は力ずくで遮断されてしまった。
「外の者に頼ろうという根性はいかんぞ。これはワシが預かっておくからな」
キンのやつに通信機は奪われてしまった。おのれ、全裸のくせに、全裸のくせにっっ!
「さてと、昨日は着いてすぐ寝てしまっとったからなー。今日からは、みっちり…やるからのぅ」
「ひっ」
あたしの目前まできたキンの腕が伸びてきて、ダン!と音立ててあたしの後ろの土の壁に手をつく。
パラパラと落ちていく土よりも、目の前の全裸が気になってしょうがないし。
「だから服着て!ふくーーー!!」
「目を瞑って現実逃避はいかんぞ。ちゃんと見て、己の目で見極める力を身につけるんじゃ」
したくもなるわ、っていつまで全裸でいる気だこのバカはー。
「お前こそ現実見ろ! 服を、せめてパンツ穿け! 噛み千切るぞっ、ソレ!」
本気なわけないが、目では見ないでキンの股間を指差しながら叫ぶ。
「おっ、おお。かまわんぞ、むしろドントこーいじゃ」
バッ、頬染めるな(キショイわ!)、興奮するな! もー、どーしたらこいつにパンツ穿かせられるんだー?!
「ちょっ、バっ、密着するな! いっ?! 変なモノが当たってるんですけどーーー!
ぎにゃーーー!だーれーかーーーー!!」
無人島に木霊する切ないあたしの悲鳴だった。
「はぁはぁ…」
「なかなか、ええ動きするようになってきたのぅ、リンネ」
この無人島にきてから何日が経過しただろう。冬が近くもう日も短い。あっという間に日が暮れて一日が終わる。
二週間は経過した。Aエリアとはキンが連絡取り合っているけど、相変わらずあたしの通信機はキンが持っているので……。たまにはキョウやミントさんと話したりしたいのにさ。あたしのコミュニケーションの相手はもっぱらキンオンリー。飽き飽きもしそうだけど、こうして長いこと二人でいると、キンへの友好度も自然と上がってきたわけです。
一日の日の昇っている時間の大半はキンとのトレーニングに費やしている。
キンもあたしが思っていたほどバカでも自己中でもなくて、トレーニングもあたしの力量に合わせてやってくれている。それでもかなりキツイけど……。キンのやり方のおかげなのか、あたしのなれなのか、少しずつだけど鍛えられてきた。もしかしたら、あたしの中にいたあの悪の枢軸桃太郎のおかげもあるのかもしれない。体の記憶力…どれほどのものかって疑問もあるけど。
そうそう皆さん安心してください。キンはちゃんとパンツはいてます!
まあたまに、全裸になっていることもありますが。その時は、パンツはいてくれるまであたしは逃げることにしているので実際そこまで問題でもないのです。
ドン!
キンの豪腕が地面を襲う。あたしを狙ったその攻撃をなんとかかわしたところで、疲労やらでよろけてしりもちをつかされた。
あたしを見下ろすキンの顔は、もう暗くてよく見えない。ハァハァと口を開けて荒い息のあたし、もう次の攻撃はよけられそうにない。
「おっ、もう七時か。今日は終了じゃ。メシにするぞ♪」
キンの表情はころっと愉快な笑顔に変わった。もう辺りはすっかり闇に覆われている。真剣な時は、時間の流れさえ忘れさせる。だけどやっと待ちに待ったその時間にほっとする。
どうでもいいけど、キンは時計なくても時間がちゃんとわかるらしい。どこまで正しいのか時計を見てないあたしには判断しかねますが。
はー、ごはんかー。気が抜けると一気に疲労が襲ってきて、立ち上がれない。腹が減っていたことを思い出した脳が、いまぞとばかりに音を立てているのに。
「ほれ」
キンがあたしへと手をさし伸ばす。キンへと伸ばしたあたしのその腕をキンが掴んで起こす。
全裸になる癖とか、暴力主義なDエリアの男だとか、な部分はともかくとして、キンはいい奴だ。
「おっと!こういう役目はワシじゃなかったか」
「えっ?うぉっ」
途中まで起こしといて、突然キンは掴んでいた手をぱっと離した。当然のようにあたしはそのまま後ろへと倒れる。再びしりもちを。
「なにすんのよ!」
「はっはっはっ、メシにすんぞー。はよこんと全部喰うからのぅ」
「ばっ、まっ、そーはさせるかーー」
ぶんばっと勢いよく起き上がって、よろけながらもあたしはキンの後を追いかけた。
まったく、見直したというのに、撤回だ。この無神経バカ男!
真暗な世界にそこだけ灯りがあるみたいに照らしているまあるい空間。
炎を囲んで、あたしとキンは昼間にとった魚を焼いて食べている。
キンってばおもしろいように魚とるんだもんな。どこにあったのかしらん銛を持ってきて、岩間から一瞬で魚を仕留める。
店などないこの島で、自給自足しています。
そのままとって焼いただけの魚なのにやけにおいしい。海水だけで十分なのかも。というかこうして獲りたての魚を食べられるって贅沢なことなのかもしれないな。
「いっっ!」
魚を食べるのがヘタクソなあたしは、魚の骨が口内で突き刺さり、痛みに顔をしかめる。
じんわりと広がる血の味。おいしいのに、痛い!
「なにやっとんじゃ?」
赤い光に照らされたキンがあたしの顔を覗きこむ。
「骨…たったー…」
半分涙目。
「なんじゃ、情けないのぅ。見せてみぃ」
「うぉっ、ひょっ…」
キンがあたしの口の中に大きな指を突っ込んで、強引に開く。
「おごっ、ひょっ…おぇっ」
人の断りもなしに、乙女の口の中を探っていいのは歯科医だけでしょーが。なんてキンに常識いったところでわかるはずないかも。
ちゃんと見えているのか適当なのか、キンはあたしの中でぐりぐりと手を動かして、さらにあたしを不快にさせる。深くつっこまれてあたしは思わず中のものを戻しかけた。
「とれたぞ」
「お、おぇっ」
さらに涙目になったあたしに、キンは陽気な顔してあたしの口の中にあったその骨を見せた。
「おっ、骨がとれたんがそんなに嬉しいんか?」
地面に両手ついて、おえーっとなるあたしを見て、そういうキン。
「あのねー」とあたしは低く唸りながら
「いきなり手を突っ込む奴があるかっ。たく、キンは乙女心を一向に理解してないんだから」
「そんなことないがのぅ……」やれやれと言いながら頭を掻くキン。そんなことあるっての。
「リンネのほうこそわかっとらんじゃろうが」
「は?なにがですか?Dエリア的考えなんてわかるつもりもありませんが」
「そうじゃのうて…。まあひたすら兄者だけを追う姿も悪くないが…、もう少し視野を広げてもええんじゃないか? 絶対損しとるぞ」
?なにが言いたいんだ?キンは。
「なにが言いたいわけ?」
「おおっと、ワシの口から言うことじゃないか。明日も早いぞ、リンネ早く寝たほうがいいぞ。ワシは浜辺でもう少し汗かいてくるわ」
「ちょっと、キン!」
全部の魚の身を平らげて、キンは浜辺のほうへと走っていった。
やれやれまったくなんなのよ、あいつは。
あたしはすっかり冷めた残りの魚を食べて、小さくなった焚き火の炎を、砂をかけて完全に消した。
この島にはいくつか洞窟がある。島の大きさからして当然規模は小さいけど。
雨風をしのぐにはいい。でもけっして快適じゃない。所詮屋外だもの。それでもこの島では貴重な寝床。
岩と岩の間にあたしは身を縮めて座り込む。そこに置いてあった毛布に身をくるんで。
毛布、なんでこんな場所にあるのかって?
実はAエリアから送ってもらったのだ。この毛布だけね。ふつーにこの島に宅配屋が来たのは驚いたけど。その時点で無人島じゃないでしょ。たぶんミントさんかキョウが気を使って送ってくれたんだと思うけど。キンにそこまでの気づかいなんてないだろうし。
汗がひいて、気温も夜になってどんどん下がって。こうして毛布に身をつつんでいても結構冷える。
自然と体がぶるると震える。
キンは平気なんだろうか。……。まあキンのことだし、浜辺で全裸でいてもおかしくないけどね。
なんとかは風邪ひかないって言うしね。
あたしは体をさすりながら、目を閉じた。
「魚とったどーー!」
なんで口調が違うのよ!ってツッコミはどうでもいいとして。
その日は早朝からキンは漁をしてきたのだ。大量の魚を、ぴちぴちと激しく暴れる新鮮な魚を抱えて戻ってきた。
お前は海の男か!?って言ってやったら、はっはっはと笑いながら否定した。その理由が
「海は苦手じゃー。生まれつきなー」
意外なことに、キンにも弱点があったのか。そういえば、一度として海水に濡れた姿は見ていないし。
そのわりにその才能は、なんというかもったいない。漁師になればいいのに。
「ワシは肉が好きじゃが、自分でとって、魚ばっか喰っとったら、魚好きになってしまったようじゃ」
「焼き魚もおいしいけど……、やっぱあたしはビーフシチューのほうが好き。はぁ、またビーフシチュー食べたくなった。長いこと食べてないし」
「もうしばらく辛抱せぇよ。……にしてもリンネ、お前もずいぶんいい体になってきたのぅ」
視線を上下させて、あたしを見ながらキンがつぶやく。その目はけっしてエロい目線ではなくて、純粋に感心しているような目だった。
というのも、あたしの体も、キンのトレーニングの成果あってか、かなり引き締まってきていた。お腹もつまめなくなったし。これってすごくない?!
でも引き締まってよかったなんて喜べない。
「軽く腹筋割れてきたし。これ以上はちょっとやばくない?」乙女として。グラップラーみたいな腹になるのはどうかと思うんだけど。
「いやいやいいぞ。もっと鍛えたほうがワシは好みじゃがな」
「キンの好みなんて聞いてません! はー、それよりも、海水や汗で肌も荒れてきたし」
ここにいたらまともなスキンケアもできないから。ちょっとザラつく肌ってまずいでしょ。かなり。
「それに、見てよほら。こんな痣だらけ」
そでをまくって、痣だらけになった腕を見せ付ける。
「気にするな、そいつも勲章じゃ」
まったく、あたしは乙女なんですよ。できるだけきれいな体で、肌でいたいって思うじゃない。
ほんとキンはそんな乙女心なんてわかっちゃいないんでしょうけど。
鬼が島に、ビケさんに勝つために、強くならなきゃ、鍛えなきゃって、自ら選んだ道だけど。
傷が増えていくと、複雑になっちゃうな。
「はー、こんな体じゃお嫁にいけないかもー」
なんてあたしが冗談交じりにつぶやいたら
「なら、ワシの嫁になったらええ」
「……はい?」
なに?キンのやつ、今なんて言いました?
鷲の嫁? 猛禽類とはどうやって結婚しるますか?
て、うぉぉぉい!
「あのね、冗談やめてよね、びっくりするじゃない、たく」
いつものにかっとした笑顔だから、冗談言って励ましてくれてるのか。
「冗談? ワシは結構本気なんじゃがなー」
「ほ、本気も勘弁! 第一あたしは」
ビケさん一筋だって、知ってるでしょうが。
「わかっとるわ。兄者にあたって砕けたそん時は、遠慮なくワシのとこに来ていいぞ」
「ちょっと、なんで砕けること確定みたいに言うのよ! あたしは絶対負けるつもりも諦めるつもりもありませんからっ」
「はっはっはっ、その意気じゃ。鬼が島に挑むその心持ちを忘れんなよ」
はー、もう調子狂わせないでよ。どこまで本気かわからないけど。さっきのってプロポーズ?になるのかな?
「お?なんじゃ、赤くなっとんか?」
「ばっ、赤くなんてなってませんからっ!なに言ってんの?」
なんであたしがキンの発言に照れなきゃいけないのよ、もう、ありえませんからっっ!
ムカツいたから、キンをどついてやろうと、ふっと天を仰いだとき、視界に不自然なものが映った。
小高い丘の上、まばらながらに立つ木々の間、動いたのが見えた、たしかに人。黒っぽい服装の人がいた。
「キン、今……」
あたしが説明するまでもなく、キンもその存在に気づいていたように「ああ」と頷いた。
「ありゃ、雷門の奴らじゃなぁ」
無人島じゃなかったのかーー?!
BACK TOP NEXT