あたし達の前に現れた少年はNゾーンのキングと名乗った。
生意気な口調ながらも、あたしより背丈の低い、年もずっと幼そうな、(10歳くらい?)
こんな男の子がNゾーン最強のキングって?!
目を丸くしているであろうあたしを見てテンが
「子供だからといって油断するなリンネ!」
「うえっ、でも・・・」
テンってば、こんな子供相手にでも斬りかかる気?!
いや、テンならやりかねないよな、Aエリアでのカイミってこのこともあるし
でもいくらDエリアだからって、子供が惨殺されるとこは見たくないです!
「ちょっとテン!こ、子供を殺すのだけは勘弁してよ」
「命はとらん、こいつには領主の元に案内してもらわねばならんからな。
手足を斬りおとして、ダルマにしてやる程度だ。」
おい!!
それって出血多量で死んだりとかしないの?!
とテンにつっこもうとした時に、少年は壁に足掛けながら飛び上がり、再び屋根の上へと
あたしたちを見下ろしながら不敵な笑みを浮かべ、あの奇妙な音でまるで鳥達に合図を送るようなしぐさで
「みんな、ごちそうじゃん、おもいっきりやっちぇえじゃん!」
少年のその合図で、屋根の上に大人しく止まっていたカラスたちが黒い目をギラリと光らせながら
あたしたち目掛けて飛んできた。
「きゃああーーー!」
カ、カラスに襲われる!数羽のカラスたちが鋭く尖れた嘴が、襲い掛かってきた。
あたしは必死でライフルをぐるぐる振り回しながら、カラスから逃げる。
でも、とてもなんとかできる数に勢いじゃない!いやーー
あたしカラスのおかずになっちゃうの?!啄ばまれた服や髪は無惨なことに
切り裂かれた肩からは流血が・・・
いっいたー・・・?!ぼたぼたとすさまじい量の血が地面へと降り注いでいる
あたしの血?!と思ったらソレは・・・
「!?」
ばさりばさりと、まるで叩き落された蛾のように次々と鮮血とともに落ちてくる黒いカラスたち
テンはあっという間にあのカラスの大群を死骸にと変えてしまっていた。
大量殺鴉事件!?みたいな、いやだ。
テンはガクガクしているあたしを見て、いつものように
「カラスごときでギャーギャー騒ぎやがって、情けないバカがっ」
カラスでギャーギャー言いますよ!普通の乙女はっっ
Dエリアな男のDエリアな考えに反論しても疲れが増すだけなので
めんどくさく、ムン。と頷いた。
「お前、よくもおいらの仲間を・・・・
許さないじゃん!」
無惨な姿で横たわる黒い鳥達を見て、怒りに震える少年が怒号
だったら仲間を武器みたいに使うなよ、・・・それがDエリア的考えなのでしょうか?
ならばあたしには理解不能だが
少年は足元の屋根の瓦や木の板を剥いで、飛び道具のように次々と投げてきた。
カラスの次は瓦に襲われる!
あたしは慌てて後方へと走って逃げる。
ガキーン
?!
あたしの足元に落ちて砕けた瓦が、こんなの頭に落ちてきた日にゃ・・・真っ青。
「おっしぃーー♪」
青い顔したあたしに、残念外れたね、と嫌らしく笑う声が
また安全な場所にちゃっかりと避難してあたしの災難を眺めていたらしい
ショウ!
とあたしが怒鳴ろうとした時、背後ですごい音がした
「それより止めなくていいの?オッサン
息の根止めてしまうかもよ?
やっとキン兄の居場所知ってそうなやつが現れたってのにさ。」
「えっ?!」
振り返ると、あの少年がテンに片足掴まれ、壁にとぶつけられていたらしい、さっきの音はその音だった。
「テン!」
慌ててテンのほうへと駆け寄ったが、少年は最後の抵抗かテンの足にと噛み付いていた。
そのまま、気を失っていた、浅黒い頬をうっすらと濡らしていたのは、苦しさから零れたものなのか、悔しさから零れたものなのか、その両方なのか
「Nゾーンのキングか・・・」
9歳でキングになったというテンも、この少年のような子供だったんだろうか?
ちっさいテンなんて、やっぱり想像さえできなかった。
敗者は勝者に従う・・・それがDエリアの掟であると
テンに負けたこの少年は渋々ながらも、テンの命令に従う。
少し前までぐったりしていたこの少年はもうぴんぴんしていた、このタフさがDエリアの人間なのか
少年は最初は負けた悔しさからか、そんな表情を向けていたが、なぜか今は、あたしたちを案内しながらどこか楽しそうに見えた。
少年はどうやらDエリアの領主と顔なじみらしい、彼の口ぶりから、かなり親しげに感じられた。
親しげというか、慕っているような、どこか自信に満ちている。
「あんたもこのDエリアではかなりの強さみたいだけど、御大将はそれ以上じゃん。」
自慢話にも聞こえる。
あたしたちの少し前を行く少年は、野生児のような身軽な動きで、汚い建物を飛び越えながら道案内をする。
「へっへっへっ、楽しみじゃん、あんたらがボコボコにされるとこ。」
キヒッと嫌な笑みを浮かべる少年にムカリときたが、それに反応するように
「ボコボコ・・・ぷっv」
あたしとテンの後ろをゆくショウがまたやな笑いを。
こいつ、またろくでもないことを想像しやがったとみた。
それに同時に反応するあたしとテン
「ちょっとショウ!」「ガキィ!!」
「いやーん、ボコボコになったオッサン想像したら、そりゃさぞかしおっとこ前だろーなぁってvv
(ヤバイね、超見たいよ♪)」
「ガキー!!」
お約束のようにショウに斬りかかるテンに、
「うひゃーーv」
お約束のように逃げるショウに
「ちょっと、いーかげんにしなさいよ!」
このチャンバラ好きのバカコンビがっっ
「あんたら、仲間じゃないじゃん?」
やつらのやりとりを不思議そうに眺める少年もなんだか呆れ顔。
それにあたしは首を振りつつ
「仲間って、あいつらと一緒にされたくありません!」と否定
「俺は愛の為に生き、愛の為に死せる、愛のテロリストだ!」テン主張
「仲間じゃなくってー、リンネは愛人形と書いてあいじんだから♪」ショウ・・・
愛人ゆーなー!!はぁはぁ
ああもうこいつら疲れる、そしてDエリア・・・
早く領主のとこ行って、おばあちゃん見つけて、そしてなんとかしてAエリアに帰ろう。
キョウなら、なんとかしてくれる気がする。事が済んだら、相談してみようそうしよう。
少年も生意気ながら、テンに負けてからは特に歯向かう様子もなく、素直な男の子に見えた。
領主とも親しげだし、おばあちゃんともすぐ会えるかも、そうすればもう
このムチャクチャ男テンの暴走から、解放されるんだ。
そう思うと、少し足取りも軽くなった気がした。
「タカネ・・・」
横を行くテンの顔をふいと見たら、すごく真剣そうにおばあちゃんの名前をつぶやいて
「すぐに、俺が助け出す」
そして少年を急かす。少年もテンに逆らえず、スピードを上げ、目的地へと走る。
Nゾーンを抜けるとまたDエリアの飢えた野獣どもがケンカを売ってくる。
でもそれにスピードを落とすこともなく、テンと少年は次々と蹴散らしていく。
その後を行きながら、またむわんと漂ってくる血とか体液の混じった嫌な臭いにまた気分が悪くなってくる。
なるたけ息を止めながら、嫌な物を見ないようにととにかくテンたちの後をついていった。
少年がスピードを緩め、教えてきた。
「ついたじゃん。あそこ・・・あの黒い屋根のとこじゃん。」
ほとんど息を切らしていない少年とテンとは対照的にあたしはひぃひぃ言っていた。
こいつらに疲れとかないんだろうか、こんなに走ったことってきっとないよ、はひはひぜいぜい。
「やっと・・・ついた・・・・」
「ふーん、ここにキン兄が。会うの久しぶりになるな。」
あたしの尻を後ろから抓みながらそう言うショウの手を払いながら、息を整え問いかける。
「Dエリアの領主もアンタの兄さんなんでしょ?どんな人なの?」
キョウみたいな人ならいいんだけど・・・・こいつやテンみたいな奴だったら、ヤダなぁ。
「ああー、キン兄はボクやキョウ兄がAエリアで学校行ってた頃、Bエリアの雷蔵おじさんのとこで戦闘訓練続けながら、Dエリアに行って武者修行してたから、あんまり学校は行ってないけどさ。
でもBエリアでは一番強かったよ。肉体ひとつで雷門の戦闘兵蹴散らしていたし。
あのカイミのストレス発散に付き合えるタフな人間は、キン兄くらいしかいなかったしね。
はっきりいってバトルバカなんじゃない?オッサンといい勝負・・・」
「ふん!御大将のほうが強いに決まっているじゃん!」
こちらをギンと睨みながら少年が割り込んでくる。
「じゃん!だってさ。
でもさ、見てみたいと思わない?オッサンとキン兄、どっちがDエリア最強なのか、さ。」
テンのほうを見ながら、どこか楽しげな笑みを浮かべるショウ、でも
あたしにはそんなことどうでもいい、というか興味ないよ、てなんで
戦いが前提なわけ?
その領主とは少年もショウも知り合いなのに、むしろ身内なのに
なんで話してわかってもらおうとかその選択肢はでてこないのか
ここがDエリアだから?!
Dエリアの人間二人に、Bエリアの領主・・・
まともな思考回路はないわけ、ね
はあ、早くここから、こいつらから離れないとあたしもおかしくなっちゃうかもしれないよ、やだ。
「Dエリア最強の男に挑むのは、Dエリアの人間にとっては夢だからな。」
テンがなにか言ってます。
「Dエリア最強も、案外安いもんかもしれんな。
だが、そんなものどうでもいい。俺にはタカネさえいればそれだけでな。」
はいはい、いちいち言わなくてもわかってます。
そう言うと、テンは前方にいる少年を払いのけ、建物へと突進する。
その後を慌てて追う少年が叫ぶ
「ちょっとアンタ待つじゃん!
御大将!!」
古びた、だけども重たそうな扉をテンは勢いよく蹴り開ける。
その後を少年やあたしたちが続く。
建物の中はがらーんと殺風景になにも置かれていない、下は土間のようで、灰色のじゃりっとしたそこは不思議な空間、空気が漂っていた。
その奥の扉から姿を見せたのは、ボサついた黒髪は重力に逆らうように跳ね上がっている、大柄でガッチリとした男だった。180を越えているテンもかなりの長身だけど、そのテンよりもはるかに高く、154センチのあたしや、あたしより少し高いショウにあたしより低い少年はずっと小さく感じるくらい、そんな迫力があった。
「御大将!」
その男を目にするなり、そいつのもとまで駆け寄りながら少年がそう呼ぶその男が
Dエリアの領主?!
「おう、ポッキーどうしたんじゃ。」
駆け寄った少年を大きな手でがしがしと頭を撫でながら男は話しかける。少年はポッキーて名前らしい。
男の態度から、少年とは親しい間柄なのだとわかった。
男はすぐにこちらへと目線を向けた
「客人か、珍しいのう。」
「そうじゃないじゃん、御大将、こいつら・・・」
「俺は、愛の為に生き、愛の為に死せる愛のテロリストだ。
貴様をぶっ倒して、俺の愛であるタカネを返してもらう。」
ギリと男を睨みつけながら、テンは刀を抜き、気を漲らせる。
て、テンてば、なんですぐそう敵意ギンギンにしちゃうわけ!ふつーにおばあちゃん返してって頼んでみようとか試みないんだ?!
そんなテンに応えるかのように、ポッキーを退けるように手で合図しながら、テンのほうを見ながら、体を動かしつつ、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ほう、久しぶりに楽しめそうな相手が現れるとは
最近ヒマでつまらんかったからなぁ。こんな、全力でやりあえそうな・・・
ワシ好みの男に会えるとはのう。」
そして睨み合いの中、テンがつぶやく
「ゲイ・・・か。」
・・・それにつっこんでいいのかよくわからないあたしは、その二人のやり取りを見守ることになったのだ。
それがあたしの知らないとこで起きる受難のきっかけになるとは、思いもしないまま。
バックしちゃうじゃん つぎのぺーじへ