第五話 旅立ち新たに

突如現れたドーリアの恐ろしきこと恐ろしきこと
だけども本物じゃあない、ただの幽体劣化版〜
とはいえドーリアの魔力、あなどれず、偽者でも超魔法発動可!
シャニィもカツミもまったく逃げないあきれるぜ〜
ホツカ二人を守るため、不利な状況なんのその
ドーリアの光に闇で対抗、だけどもドーリア強すぎた
押され押されまくるホツカだが、ピンチピンチで奇跡が起きた?
ドーリアから見事二人を守ったホツカだが、いったいなにが起こったのか?
見よ!キチガイどもの夢の跡!五番からホツカたちの物語再開だよ!







「んんん……あ!」

ホツカは闇の世界から抜け出した。つまり、目覚めたのだ。最初に目に飛び込んできたのは、じっとこっちを覗き込んでいたシャニィの顔だった。

「やっと起きた」

「えっと、ここは君の…」

ベッドの上でホツカは寝ていた。掛け布団をめくり上げながら、ホツカが体を起こす。見覚えのない部屋の中だが、推測するにシャニィの家だろう。それを証明するように、シャニィが立ち上がり、下の階に下りてくるようにホツカを促す。

「オヤジが飯の用意して待ってる。早くこいよ」

たんとんたん、とテンポよく階段を下りていく音がした。ホツカもベッドから降りて下へと向かう。

「気を失っていたのか。…情けないな。本物のドーリアがいたら、今頃無事でいられたわけがない」

はぁーと息を吐いてホツカは額を手のひらで押さえる。
ドーリア、アレは本物のドーリアではなく思念体だった。実物の半分の力を出せていないだろう。それでもアレだけの魔力だ。ホツカとは段違いとは知っているが、改めて実感する。ドーリアの魔法使いとしての強大さを。

誰が運んでくれたんだろうか。シャニィだろうか? でもあの魔法はしばらくは視力を失うものだ。すぐにシャニィが動けたとは思いがたい。事前に忠告はしたが、パニックになっていたかもしれない。シャニィでないならカツミの可能性もありそうだが、あの戦闘狂いがわざわざホツカを助けるようなことをするだろうか。となると、シャニィの父親が来てくれて、彼がここまで運んでくれたと考えるのがもっとも正解に近いだろうと思った。



下の階に下りるとすぐの部屋は食卓となっており、四、五人が座れるほどのテーブルの上食事が用意されていた。シャニィとシャニィの父がすでに席に座っている。

「いただきまーす」

と真っ先にシャニィが勢いよくごはんをかっ食らい始める。
ホツカは事情をシャニィの父に訊ねた。話はホツカの予想どおりだった。
ドーリアは撤退したはいいが、そのままホツカは気を失ってしまった。シャニィはまだなにも見えない状態で、カツミの名前を必死に叫んだらしいが、カツミの返事はなく、視力が戻った時にはカツミの姿は見えなかったという。そこに騒動の声を聞きつけてシャニィの父が現れた。呼んでもホツカが目を覚まさなかったので、仕方なくおぶって、自宅まで運んだらしい。

「そうでしたか、すみません、ご迷惑をおかけして」

「いやいや気にすんな坊主。まあ迷惑かけたのはうちのシャニィだしな」

はっはっはと豪快に笑いながら、シャニィの父は「とにかく飯食え。腹減ってるだろ」とホツカに食べるよう勧めた。

「シャニィ、お前もカツミに会えたんだろ? もう満足したろ。あんまりおいたが過ぎると、本部の幹部連中がきちまうぞ」

笑いながらおかずをつまむシャニィ父。ホツカが見るに、シャニィの顔は満足しましたというものではなく、物足りないといった不安がにじむ渋い顔をしていた。シャニィの態度から、カツミはすでにこの町から出て行ったのだろうと推測する。
シャニィの父は知らないみたいだが、幹部どころか親玉の分身がやってきてました。しかも殺されそうになりましたなんて冗談でも言えそうにない。

「むー、せっかくカツミに会えたのに、目が見えるようになったらどこにもいなくなってたんだ。
おい、お前なら知ってるんだろ? カツミの居場所!」

ぐいっと身を乗り出しながら、シャニィがホツカを問い詰める。

「どうして僕が? 悪いけど知り合いじゃないから知らないよ」

ホツカはキッパリと答えた。だがそれにもシャニィは納得しない顔つきで、ぐぬぬぬと唸っていた。



食事を終えると、ホツカはシャニィの父に礼を言い、町を旅立つことを告げた。

「なんだ坊主もう旅立つのか。急ぎのようでないならゆっくりしていってもかまわないぞ。シャニィのやつあんなんだから、他に友達ってのがいなくてなー」

シャニィの父の申し出はありがたかったが、ホツカはここでゆっくりしている暇などなかった。早く次の目的地に向かわなければならない。
また夢を見た。
鋼鉄の魔動ロボが、次々と人々を処刑していく、恐ろしい夢だった。
操縦していたのは、ドーリアの弟で協会幹部のヤデトだった。

予知夢は恐ろしい内容がほとんどで、ホツカを休ませてはくれない。ホツカが動かなければ、そのまま予知どおり、悲劇が現実のものとなってしまうだけ。時を巻き戻す魔法はない。そんな魔法があれば、悲劇が起きても時を戻して回避すればいい。しかし、いくら超魔力を得たとしても、それだけはできないのだ。できるなら、ホツカはそうしたいと願うだろう。あの日の悲劇を変えられていたなら、ホツカの運命も、ホツカの両親も、そしてドーリアの運命だってもしかしたら、大きく変わっていたかもしれない。


アシャヒカの北側の門近くで、白いカラスが羽ばたいてホツカのほうへと飛んできた。

「師匠! ご無事でよかった」

『ふむ、お前も元気そうでなによりだ。…どうじゃ、次の目的地が見えたのか?』

「はい、行きましょう。ヤデトを止めなければ」

『ヤデトか…』

師匠は複雑そうに目を細め、ホツカの肩で小さく唸る。
ドーリアはもちろんだが、ヤデトもやっかいな存在だ。ホツカとはまだ面識がないが、向こうはホツカを知っている様子だった、予知夢の中でヤデトはホツカを呼び出そうとしていた。ドーリアから聞かされているのだとしたら、ホツカのことを知っていてもおかしくはない。

「目立たぬように行動するのは難しそうですね。ヤデトは僕との対峙を望んでいる…」

今までのように、ひっそりと人々を助けるというのは難しいだろう。ドーリアから逃れることは不可能なのかもしれない。

『遅かれ早かれ、協会とは事を構えることになる。仕方ないのじゃ……』

師匠は小さく『すまんのぅ』とホツカに伝えた。師匠がホツカに謝罪することなんてなにもない。協会とは、ドーリアとは浅からぬ因縁がある。いずれ正面からぶつかり合う日が来る。それはホツカにもわかっている。

「ドーリアと戦えるのは、魔法使いである僕しかいませんから」

『しかしホツカよ、お前の力ではドーリアには敵わぬぞ。あの偽者すら敗れぬようでは、到底敵うはずもない』

それはわかっている。だからと言って、逃げ回るだけではなにも進まない。ドーリアには寿命などない。彼女も同じく不老不死で、超強大な魔力は枯れることはないだろう。
しかし、師匠はホツカには望みがあると話す。

『だがしかし、希望の光はある。ホツカよ、お前あの時に無意識に【シンクロ魔法】を使ったろう』

「シンクロ魔法? そういえば、あの時…通常よりも魔法の威力が高まって…。あれがシンクロ魔法?」

『ふむそうじゃ。あの時側におったカツミという男。あの男は闇の属性じゃ。お前はカツミを仲間とみなしていた。シンクロ魔法は人々との絆を力に変える。これは孤高のドーリアには使えぬもの』

パアアと師匠の体から明るいオーラが増して、嬉しそうにバタバタと羽ばたいた。

「そうでしたか。あの時たまたまカツミさんがいて、たまたま使った魔法属性が合致した。運がよかったわけですね」

『いいや違うぞ。運などではない。カツミを引き寄せたのも、お前の力であろうな』

「え」
ぱちくり、とホツカが目をしばたかせる。師匠は言う、カツミがあの場に現れたのはけしてたまたまというわけではないのだと。これから先、ホツカは出会うだろう。多くの人々と。そして絆を深め、ともに協会という巨大な悪に立ち向かう。
たった一人の戦いではない。仲間とともにお前は戦うのだと。ドーリアを倒す鍵は【シンクロ魔法】にあるのだと。

道行く先で再び出会うことがあるだろう。ホツカの元に集う力、それは人々の力。

「シンクロ魔法、それがドーリアに立ち向かえる力…」

『うむ』

「おおーい、待てよー」

「その力を使いこなせるかどうか、再びカツミさんに会えばわかるかもしれない。
いきましょう、師匠」

ホツカは顔を上げる。その目はまだ見えてもいない次の目的地を映し出す。

「まーてーって…いってんだろーがぁっっ!!」


ちゅどーん!

ホツカの後頭部で爆音が響く。やれやれとホツカと師匠があきれた息を吐く。とっさに魔法でバリアを張ったのでホツカにダメージはない。今の音は、振り返った先でがに股で立っているちょんまげ頭で息を切らせながらこちらを睨みつける少女…シャニィだ。

「人を呼び止めるのに爆弾投げつけるのってどういうことでしょう」
『さてな…。理解に苦しむ娘っこじゃな…』

「アタシも一緒にいくぞ! カツミのところに案内してもらうんだからな」

ビシッと指さしながらシャニィが言う。やはりカツミのことは満足してなかったようだ。無視してもムリヤリついてきそうな勢いだ。
困ったように息を吐くホツカに、師匠が提案する。

『ふむ、よいではないかホツカよ。あのシャニィという娘は火属性だ。仲間にしてやればいいじゃろう』

シンクロ魔法を極めるなら、いろんな属性の仲間を入れたほうがいい。それには一理あるが、大丈夫だろうか? 不安要素もあるが、ホツカはシャニィの申し出を受けた。

「自己紹介がまだだったな。アタシはシャニィ。得意なのは自作の爆弾でいろんな攻撃ができるんだ。
ところでお前ただの坊主じゃないよな? さっきもなんの裏技か知らないけど、アタシの鼻水くしゃみが止まらない弾を防いだし、なにしたんだよ?」

『地味にえげつない爆弾じゃのう。ホツカよ、この娘になら話してもいいんじゃないのか?
共に戦う仲間になるんじゃからのぅ』

「…そうですね。ドーリアに見つかった今、誰とも関わらないように進んでいくことも難しいでしょうし」

肩に止まっている師匠に話しかけるホツカに、変なやつだなとシャニィが首を傾げる。

「僕はホツカ、裏技ってのは魔法の力なんだ。つまり、魔法使いなんだ」

ホツカの言葉にシャニィは驚くでもなく、「ふーん、そうか、それであんなことができたわけか。便利じゃないか!」といってニカリと笑った。

「ようし、それなら魔法の力でカツミの元に瞬間移動しろ」

「……ムリだよ」

やれやれと肩をすくめながらのホツカのクールな態度にシャニィは「なんだとー?! やってやれないことなどなーい」とむちゃくちゃな自論でまた爆弾をどんどこ投げまくる。
荒野に爆発音が鳴り響く。

すでに空中に退避した師匠が、やれやれとあきれながらも、ホツカたちの様子を見守る。

『素行に問題ありじゃが、頼もしい仲間が増えたことは喜ばしいことだぞ、ホツカよ』

羽ばたきながら白カラスはホツカたちを眩しそうな眼差しで見つめていた。







ホツカと師匠の二人旅に、元気な仲間が加わった!
旅は道連れ、世は情け
ホツカよ君は一人じゃない、仲間と一緒にあるんだぜ〜
切り札はシンクロ魔法!?
もしかしたら、すごいかも?すごいかも?
ホツカの可能性無限大かも?ドーリアにも勝てちゃうかも?
ととと、そんなこと言ってたらおっかないのがきちゃうきちゃうよ、お〜こわや
さてさて、ゆっくりしている暇ないぜ〜
予知夢の場所へそら急げ!助けを待ってる人がいるー
シャニィとのコンビネーション気になるねぃ? 続きも聴きに来てくれよ?シーユーバイチャッ!


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