第二十六話 エンジェルとプリンセス

ワマヨ操るキュートロボと戦鬼カツミのバトル
なんとカツミが苦戦しちゃう
協会の新ロボ開発侮れないね
気が抜けないね〜ねぇホツカ
悪夢のとおりにさせてたまるか
ホツカたちの活躍で、なんとか悲劇は回避だよ
まだまだフェスは盛り上がるけど、フェスの裏では
かわいい〜あのにゃんこの姉妹にドラマかい?
ラキラやカピカもメロメロのかわいいあのこに注目さ!




フェスのにぎやかさが薄れた地帯。そこは住宅街。繁華街から少し外れ、人もまばらで石畳の道を軽やかに歩く足音。人の靴音、だけではなく、すたすたと軽やかに肉球が弾く。
黒い肉球が見え隠れする。ご機嫌にも見える後姿は黒猫のメスでまだ若い。
黒猫はエンジェル。そうあのカピカの溺愛する彼の愛猫。愛猫を越えた特別な存在だが、エンジェルにとってはカピカのことなど頭にない。今は…別の存在に胸躍らせる。
目的地に着き、迷いなくその家の窓に飛び移り、開けてーと窓をカリカリとこする。
「あらいらっしゃい、ほらナニャ」
家の住人と思われる中年女性が窓を開け、エンジェルを迎え入れる。女性の脇を潜り抜けエンジェルは家の中に入る。
エンジェルの行動や女性の様子から、エンジェルは何度かこの家に訪問をしているようだ。そしてお互い顔見知りなのだろう。エンジェルが向かう先に、籠上の猫用ベッドの中一匹の猫が顔を上げ、ニャーと鳴きエンジェルを呼ぶ。エンジェルは一目散にその猫の元へ向かい、一緒にベッドの中へ。嬉しそうに顔を摺り寄せ、においを嗅ぐ。幸せそうに目を細め、ベッドの猫の腹元に顔を埋め丸くなる。
「ふふふ、いくつになっても甘えん坊さんなのね。ねぇナニャ」
中年女性が振り返り、二匹の様子を嬉しそうに眺める。ナニャと呼ばれたのはエンジェルを幸せそうに見つめながら、そっとその体を舐めてやっている。
「大好きなのね、ほんとうにあなたのことが」
幸せな時間、だがずっとそこにいるわけにはいかない。しばらくしてエンジェルは起き上がり、入ってきた窓辺にいき、窓をカリカリと手で擦り出す。お外に出しての合図だ。女性もその行動をわかっている。
「はいはい、また今度いらっしゃい」
窓を開けて、エンジェルは出て行った。ほんとうはもっといたい。ずっとそばで甘えていたい。だけど…。そうしないのはエンジェルなりに愛だから、ナニャもまたエンジェルのその愛をわかっている。愛おしい眼差しで黒い艶毛の後姿を見送った。


スタスタと路地を歩くエンジェル。細い路地を抜け、角を曲がる、そこで目の前の存在に驚き足が止まる。
自分とは違う真っ白な毛の猫。お互いによく知る存在でもある。なぜならそこにいるのは、プリンセスだから。

「にゃっ」

小さくかわいらしい声でプリンセスが鳴く。一瞬エンジェルの丸い目が揺れたが、すぐに後ろ飛びで距離を置き、シャッと威嚇する。反対方向にくるりと向きを変えて、エンジェルは立ち去った。
少しの間、プリンセスは立ち止まったが、エンジェルが立ち去ってすぐに、今度はプリンセスが先ほどエンジェルが向かった場所へと向かう。
「あら、いらっしゃい」
先ほどの家の中年女性が、今度はプリンセスを迎え入れる。同じようにプリンセスもまたナニャという猫の元に行き、甘えるようにくっついてそばで眠る。ゴロゴロとこねこのように甘えて甘えて、優しい毛づくろいにリラックスの表情を見せる。
「ふふふ、こうしてみると子猫だったころと変わらないわね」
家主である女性はプリンセスとナニャの様子に嬉しそうに目を細める。この光景は何度か目にしている。そう、小さかった白猫と黒猫の愛らしい子猫の姉妹は、かつてここに……。


「あああーー、なんてラブラブな関係なの! プリンセスちゃんったらすみにおけないんだからー」
その様子を覗き見している怪しく腰をくねらす女がいた。
「ん、でもまてよ、さっきの黒猫と入れ違いでいちゃいちゃしているぞ。あの猫二股野郎なんじゃー」
ぐぬぬぬと唸りながら一緒に覗く怪しい姿の少女もいた。
「あーん、恋愛にはいろんな形があるのよ。シャニィちゃんもいろんな恋を知ればわかるわよー」
「はあ?二股なんて男らしくないだろ」

「二人ともなにやってるんですか…」

あきれながら二人の後ろから現れたのはホツカだった。やれやれと彼の肩に止まっている師匠もあきれている。

「ゲっ、ホツカもプリンセスのストーキングしてたのかよ」
「ああーん、ホツカくんだってプリンセスちゃんのラブが気になっているのよ」

「ラブって…、プリンセスはお母さんに会いに来ていたんですよ。ねえ、師匠」
「お母さん? それじゃあ…」

フィアもシャニィも勘違いをしていた。プリンセスとくっついて眠るナニャという猫は、彼女の母猫なのだ。

「てことはさっきの黒猫の…」
「うん、エンジェルとプリンセスは姉妹で、二匹ともここで生まれた。こうしてナーオに戻ってきたことがなつかしくなって、お母さんに会いにきたんだね」


しばらくの大好きな母との時間。だけどずっとそうしているわけにはいかない。プリンセスは知っている。すくっと起き上がり、ナニャに挨拶をして窓から外へ出る。

「あっ、プリンセス帰るみたいだ」
「そうね、プリンセスちゃん、ラキラ様のところに帰らないとってわかっているのね」

こっそりとフィアたちもプリンセスのあとを追う。ホツカも師匠と一緒に二人のあとをついていく。
道の途中で、プリンセスは見知った相手を見つけた。黒い艶やかな毛のエンジェルだ。

「にゃーん」

愛らしい高い声でプリンセスが呼ぶ。こちらを見るエンジェルは、「シャッ」
威嚇して牙をむく。近づかない両者。プリンセスが一歩近づく、シャッと威嚇を止めないエンジェルに、なおもプリンセスは近づき、至近距離になる。「にゃっ」鼻を近づけ、においをかぐ。大好きな母のにおいがした。どちらもさきほどまでナニャに触れ合っていたのだから。大好きな懐かしいにおい。ずっとそこに包まれていた子猫のころ。ほんとうはずっと一緒にいたかった。「みゃん」たまらずエンジェルが頬を擦り付ける。それに幸せそうに応えて顔を舐めてやるプリンセス。

「見て、ああなんて美しい姉妹愛なの〜」
腰をくねらせながら影から見守るフィアたち。
「あの二匹、ほんとうはすごく仲良しなんじゃないかー」

「そうだね、プリンセスとエンジェルは元々仲のいい姉妹なんだよ。だけど二匹の主人は…」

二匹の向こうにラキラとカピカの姿を重ねる。皮肉にも仲良し姉妹の主人は双子の兄弟ながら敵対関係にある。そのことをプリンセスとエンジェルはわかっているのだろう。すりすりとふれあいの時間はわずかなもので、別々の道へと歩き出す。それぞれの主人の元へ戻る為に。

「なあホツカ、あの二匹なんとか一緒にいられるようにしてやれないか?」
とシャニィの言葉に「そうよー」とフィアも同意する。
「うん、なんとかそうしてやりたいけれど、ラキラさんとカピカさんしだいだろうね」

あの二人の和解は、そう簡単に行きそうもないだろう。だけどいつか、近いうちにラキラとカピカの関係をよくしたい。愛らしい姉妹猫の幸せのためにも。


フェスも盛況のうちに最終日を迎えようとしていた。
ホツカの予知夢にあったシンとコウの兄弟の悪夢も無事回避でき、なにかを企む協会の動向に警戒していたが、ワマヨのロボ騒動以降特に協会の目立った動きはなく、ナーオの街はここ一番の盛り上がりを見せていた。
アドルのライブも毎回大盛況のようで、ロデューもかなり手ごたえを感じていた。
アドルの大ファンであるシンは、自分が誰よりも盛り上げなければという強い意志で、公演中も熱い声援を送りライブを盛り上げる一端になっていた。
そんな感情もあってか、アドルと親密なホツカに鋭いまなざしを向けていた。そしてそれは弟のコウも同様だった。
フィアに恋い焦がれる少年コウは、フィアと親し気なホツカに時々嫉妬のまなざしを向けるのであった。フィアの想い人はカツミなのだが、そんなことはコウは知らず、自分と年の近いホツカにライバル心を燃やすのだった。
隠すこともない兄弟の激しい嫉妬心に、ホツカもげんなりさせられそうだった。

「まあとにかく、あの二人が難を逃れてよかったんですけど…」
『どうしたホツカ、なにか気になることでもあるのか?』
師匠の問いかけに、ホツカは不安をにじませ「ええ実は…」と告げる。

実はあのあと、ホツカは別の予知夢を見たのだ。それは、さらに不吉な光景だった。
冷たいまなざしでホツカたちの前に立っているのは、カツミ。
そのカツミの足元に横たわった状態のシャニィ。
フィアの悲鳴が響き渡る。
信じたくない光景だ。
無抵抗のシャニィに、あのカツミが容赦なくその拳を……。
振り落とされるその瞬間に目覚めたホツカ。
「そんな、どうして、どうしてカツミさんが…カツミさんがシャニィを、殺すなんて…」
うそだ、うそだ。
信じたくなかった。だが、それは近いうち現実に起こる。
ホツカの向こうで、笑う女の声。

「ドーリア…」

絶望の中、不気味なほど笑顔の救世士ドーリアが見えた。

「絶対にそんなこと、だけど…」

シャニィとカツミ、二人はそこまで親密な関係でもない。シャニィのほうが一方的に好いているだけだ。カツミがシャニィを思いやるなんて、考えられないが、だがカツミがシャニィを殺すような人間とはホツカは思わない。
詳しくは知らないが、カツミはヤードとは特別な関係を築いているようだ。ヤードの意に反することをするとは思えない。それに、ホツカともシンクロ魔法を使える関係だ。少なくとも、絆がなければ使えない。
だから、あの光景は、ドーリアがなにかをした結果だ。
協会は近いうちに仕掛けてくるだろう。とても、おそろしいことを。
警戒しなくては、改めて感じるホツカだった。


「みなさんのご協力もあり、ライブは連日大成功、私のアドルアイドル計画も順調にうまくいってます。
改めて感謝を伝えたい。皆様本当にありがとうございます!」
フェスもいよいよ最終日を迎えるというころ、ロデューの口から意外なことが提案される。それは…

「実は皆さんにお願いしたいことがありまして、ぜひライブにゲスト参加していただけないでしょうか?」
ヤードたちにアドルのライブに参加してほしいと頼み込んできた。それにヤードやシャニィやフィアはノリノリで参加表明をする。アドルもヤードたちのゲスト参加に嬉しそうに同意している。ただホツカは離れた位置で、彼らのそんな様子を眺めていた。
「も、もちろんホツカ君も出てくれるよね?」
「ああもちろんだよ」
「ちょっとなんでロデューさんが言うんですか?僕は出ませんよ。陰ながらアドルたちのライブが成功するよう、見守ってますから」
当然のように首を振るホツカ。ライブなんて目立つマネ絶対にしたくない。
「ええっそんな、ホツカ君、出てくれないんだ…」
しょぼんとなるアドル。それに怒りをあらわにしてシンがホツカを非難する。
「お前、アドルちゃんを悲しませてこの責任どうとるんだ?」
「ホツカ、お前ほんと空気読めないなー。いいじゃんライブ出るくらい」
シャニィからもあきれたように非難される。
「どうして僕が悪者扱い受けるんだ…。魔法使いの僕は陰ながらアドルたちの協力をするよ」
『ホツカよ、観念して覚悟を決めるのだ』
「師匠まで…、はぁー、わかりました。一度だけなら」
そう諦めたようにつぶやいて、ホツカはアドルのライブに参加する運びとなった。


ゲスト参加と言えど、無様な演奏はできない。特にヤードは気合を見せていた。なぜかといえば、元々趣味でギターをやっていたヤードはライブへの熱も相当だ。そしてホツカと一緒ともなると余計に熱も入る。ホツカにとっては余計なことなのだが。
「やるぜー」
「いえーーいよー」
シャニィやフィアもノリノリだ。この二人はまあそうだろう。カツミはどうだろう?とホツカがチラ見する。カツミはさすがにやる気はないが、ヤードに命じられて仕方なしに参加するようだ。
ヤードはギターを演奏するようだが、他のみんなは打楽器といったものになるそうだ。楽器が使えないものはダンスでの参加でもいいですよとロデューが言った。
「ああーんダンスもいいわ。情熱的な恋のダンスがしたいわ〜」
腰をくねらせながらのフィア、ダンスならフィアも得意そうだ。
まあゲスト出演は一曲二曲の予定で、まあなんとかなるだろう。ライブの盛り上がりの勢いで、ちょっとくらいのミスもやりすごすことができるだろうとホツカは思った。
ライブの心配より、ホツカが気がかりなのは、あの悪夢のことだ。

シャニィがカツミに殺される。

今のところ二人におかしな動きはないが、いつドーリアの魔の手が及ぶかわからない。ホツカは二人に注意していないとと思った。


そしてついにアドルのライブ最終日、フェスの最終日でもある、ナーオの街はこれでもかとばかりに人であふれ、いたるところで盛り上がりは最高潮を迎えていた。
「みんな今日はせいいっぱい楽しんで盛り上がろうね」
アドルの掛け声に、シンたちもそしてロデューも、シャニィたちも全員声を合わせて「おおーー!」と気合を入れる。
アドルも公演を重ねて自信がついてきたようで、舞台の上でも堂々と歌っている。
ライブも順調に進み、ついにゲストの登場の番になった。アドルから紹介を受けるヤードたちゲストに拍手が送られる。
ヤードたちも演奏に加わって、ライブもさらに盛り上がる。ヤードは元々趣味でやっていたギターは素人にしてはたいした腕前だった。カツミはうまいこと乗せられてドラムをすることになった。カツミのパンチングにもドラムは耐えて、そのパワフルな演奏で盛り上げる。シャニィはタンバリンを鳴らしながら陽気に跳ねる。フィアは自慢のセクシーボディをいかして魅惑のダンスを踊る。ホツカは後のほうで目立たないように鈴を鳴らしていた。
「(僕の役目は、陰ながらライブのサポートをすることだ。魔法の力で…、ちょうどヤードさんがノリノリだし、舞台の上にはたくさんライトがあって、光魔法が扱いやすい)」
さっとホツカは手早く魔法をかける。光のポジティブ魔法だ。仲間たちを活性化させ、動きを機敏にさせる。それは演奏のよさにも繋がり、歌い手のアドルの心をますます高ぶらせる。
演奏で盛り上がる中、みんな魔法のことに気付かない。だがそれでいい。それこそがホツカの望みだ。
「(僕は目立たなくていい。主役はアドルなんだから)」
キラキラと輝く少女を後から見守りながら、ホツカはそう思っていた。
アンコールも盛り上がりのまま幕を閉じ、アドルのライブは最後まで大成功だった。

「ブラボー!さすがアドル、世界をとれるスーパーアイドルになれるよ!」
興奮した様子のロデュー。
「うん、とてもよかったよ。私もこうしてギターを舞台で演奏できて、すごく満足しているよ」
「あーーん、恋もドキドキするけど、こういうドキドキもステキな体験よね」
ヤードとフィアもとても満足げだ。
「あたしも楽しかったぜ。カツミも意外とノリよかったんだな」
えへへと笑いながら、シャニィはカツミを見る。それに「フン」とカツはいつものように無愛想にそっぽを向いた。
いつもの二人の様子にホツカはほっとするが、またあの悪夢の映像が脳内に流れて、不安にかられる。
「カツミさんがドラムを壊さず演奏できたのは意外でした」
とホツカに言われるカツミ。
「はははっ、それはホツカ君じゃなくてもみんなそう思ってるよ。よく付き合ってくれたね、ありがとうカツミ」
と言いながらヤードはカツミの肩を叩いた。
「ヤード、お前の頼みだから仕方なくだ」
そういってカツミは背を向けた。

「(カツミさんってやっぱり、ヤードさんにだけは心開いているみたいだな)」
ホツカは感じていた。ヤードとカツミ二人の間には特別な絆があるのだろう。ホツカたちの知らない特別な絆が。

「ふふふっカツミったら照れているのね、かわいいんだから」
と腰をくねらせながら相変わらずカツミに熱視線を送るフィア。そういえばフィアはどうしてそこまでカツミのことが好きなのだろう。二人の出会いにもなにか特別なことがあったのかもしれない。いつか語られるだろうそれぞれの出会い、そんなことがかすかに気になりながらも、ホツカたちはフェスを終えたナーオの街をあとにする時が来る。






最初から最後まで盛り上がりのフェスがついに終わっちゃったよ。
お祭りってのは楽しいよね〜お祭りの後はどこか切ないよね〜
だけど後ろ髪ひかれても、進まなきゃダメなんだぜ〜
アドルたちとはしばらくさよなら〜、それぞれの目的の為進み続けるよ
ホツカは悪夢が気になってるって?
まさかまさか、シャニィとカツミが大変なことになっちゃう?
そんな恐ろしいこと絶対あっちゃいけないよ
頼むぜホツカ、悲しい悪夢は夢のままにしてくれよ!
次はカツミに迫る魔の手だって?ハラハラしながら続くよバイチャ!

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