アリティア解放を目前にして、マルスたち解放軍はカダインへと向かった。
かつての同盟国であったグラのジオル王を倒したが、亡き父王コーネリアスとともに失われた神剣ファルシオンは、カダインのガーネフの元にあるとされた。
カダイン、砂漠の中にある魔道都市。魔道を志す者、魔道を極めし者が集う魔道の町。大賢者ガトーによって築かれたこの魔道の楽園は、今はそのガトーの弟子であるガーネフによって掌握されていた。
ガーネフは人でありながら地竜王メディウスと手を組み、大陸全土を巻き込んだこの戦争の元凶である。邪悪な心に身を染めた、闇の司祭。
カダインはガーネフに支配され、かつてのような自由な都市ではなくなっていた。
ガーネフよりカダインを救う事は、この地の司祭であるウェンデルの望みであった。カダインだけでなく、世界を救う為にも、黒幕であるガーネフは倒さねばならない相手だ。


「王子、お時間よろしいですか?」
カダインへと向かう船内で、マルスのもとを訊ねたのは魔道士マリクだった。
マリクの顔色が渋いのは、変わり果てたカダインに対する不安感だろうかと思ったが、どうもそうではないらしい。マリクの不安は別のことにあった。最近仲間となったある人物に対してだ。
「王子は、リンダをどう思いますか?」
「リンダかい? そうだね、…幼いながらによくがんばっていると思うよ。彼女の使う超魔法オーラの力でジョーゼンもグルニア木馬隊のギガッシュも倒せたんだからね」
最初は守ってやらなければと思った。彼女の主君のニーナもリンダの保護を望んだ。しかしリンダ自身は守られる事より、自ら戦う事を選んだ。そして果敢にもはじめての戦いでマムクートのジョーゼンを倒し、手ごわかったシューター部隊の隊長ギガッシュも倒したのだ。
嬉々とするマルスに反して、マリクの表情は重く、重い息を吐く。
「彼女についてなにか思うところがあるのかい? マリク」
「ええそのとおりです王子。リンダは初めての戦闘で勝利しました。さらに強敵であるグルニアの将にも」
「うん、そのことが彼女の自信に繋がっているみたいだね。初めて会ったときとは見違えるようになったと思う」
「私はそこが不安なんです。リンダは強敵に次々と勝っている。それが自信になっている。それもオーラという強力な魔法によって。…王子、リンダはあの魔法を使うには心が幼すぎる。魔法の強さに心の強さが追いついていないのです。そのような状態でカダインへ向かえば…」
「カダインにはガーネフがいる。リンダにとってガーネフは父親のミロア司祭の仇…」
「はい、当然冷静ではいられないでしょう。そんな状態で超魔法を使えばどうなるか。王子、私の口からは申し上げにくいので、王子からニーナ様に頼んでいただけないでしょうか?」
「魔道に関することは、僕よりも君のほうが詳しい。君が危惧するほどの事だ、避けたほうがいいだろう。わかった、僕からお願いしてみるよ」



「それにしても大きな船だなー。ああー、ボクもこんな立派な船がほしいよ」
うえーと甲板で嘆く一人の大男、彼の名はダロスだ。解放軍の戦闘の要としてがんばっている斧使いだ。仲間からは海賊ダロスと言われている、が本人は海賊じゃないと言い張っている。
「そうですね、ほんとうに大きな船ですね。…なつかしいですねダロスさん、ガルダの港町で出会ったこと、もうずいぶん前に感じますが。あれから、アカネイアを解放して、そしてついにマルス王子の祖国アリティアの解放も目前です」
ダロスのすぐ横にて彼に話しかけるのは、僧侶リフ。懐かしいと目を細める。リフがタリスでマルスたちと出会い、共に旅立ってから、そう月日は流れていないはずだが、ここにたどり着くまでいろいろあった。
「うん。気がついたら仲間がたくさん増えているしね。アカネイアの騎士たちや、ジェイクやベックのシューターってすごいよね、アレ。ちょっと乗ってみたいんだけど」
「ええ、ほんとうに。…おや、あそこにいるのは」
リフが気にかけたのは甲板の端でじっと海の向こうを見やる一人の少女だった。
「リンダさん、早く休まれたほうがいいですよ。明日の早朝にはカダインへ着くのですから」
「あ、はい。それはわかってるんですけど、どうしても寝付けなくて…。すごく手に汗かいちゃってるし。緊張してきちゃって」
「そうですね、ガーネフは怖ろしい魔法の使い手と聞きますから、ムリもありません」
「はい、たしかにガーネフは怖ろしい敵…だけど」
ガーネフの恐ろしさはここの中ではだれよりリンダが知っている。目の前で父ミロアを殺された。死の間際、ミロアはオーラの書をリンダに託した。ガーネフから必死で逃げたが、その後ガーネフに遭遇する事はなかった。世間知らずの少女は逃亡先で、不幸にも奴隷商人に捕まり奴隷として売られることになった。リンダは薄汚れた少年のふりをして、いつかは自分も他の子供達のように奴隷として売られていくのかと震えていた。そんな中、マルスによって救われ、共にいたニーナによって発見され身を明かした。ニーナもマルスも自分を守ってくれると優しく言ってくれた。だがリンダは戦うことを決意した。死の間際の父を思い出して、父が託してくれたこのオーラの書を使って必ず仇をとってみせると。
そして初めての戦いで、サラマンダーと化したジョーゼンと対した。ペラティで同じサラマンダーのマヌーと戦っているウェンデルとマリクの助言で、魔法が弱点だと知ったリンダはオーラを使った。強力な光の魔法は一瞬にしてジョーゼンを葬り去った。震える体を奮い立たせて戦ったが、その勝利が自信へ繋がった。魔道士として戦えるという事を知ったのだ。
「私には父より授かったこのオーラがあります。あの時は震えて逃げるしかなかった。でも、今度は違う。私は負けない、必ず父の仇をとってみせます」
リンダの目は隣にいるリフを見ていない。遠いこの海の向こうにいるはずの、ガーネフを見据えているようだった。
「リンダさん、どうか肩肘張らないで下さい。私たちは今まで皆さんと力をあわせて成し遂げてきました。これからも、仲間の皆さんと力をあわせて戦って行きましょう」
リフの言葉に、リンダは頷かず強気で答える。
「でも私は一人で倒しました。ジョーゼンもギガッシュも。この手に超魔法オーラあるかぎり、私は負けません」
そう言い放って、リンダは船の奥へと消えていった。
「かよわそうな女の子だと思っていたけど、リンダは強い子だよね、リフさん」
ダロスのそれにリフは答えず、ただ不安げな眼差しをリンダが消えた先へと向けていた。
「リンダさん…」


夜が明け、船は無事カダインへと着いた。桟橋でリフはリンダに声をかけ、彼女に小さな小瓶を手渡した。
「リンダさん、これをお持ちください」
「リフさん、これは…聖水?」
「はい、カダインには魔道士の敵が大勢待ち受けているでしょう。それにもしガーネフに遭遇しても、それを使えば致命傷は受けずにすむはずですから」
「ありがとう。でも、大丈夫です。私は負けませんから」
息巻いて砂漠へと向かうリンダの背を、リフは不安げに見ていた。
昨夜、ニーナの説得にマルスは失敗したらしい。目の前で父を殺され、ガーネフを憎むリンダの想いを無下にできないと。結局周りでサポートをするという結論に落ち着いた。彼女のサポートには、魔道に通じたウェンデルとその弟子のマリクが、そしてリフが名乗り出た。ペラティの戦いなどでリフの退魔能力の高さを知っていたウェンデルも、リフの協力に賛同した。
「リフよ、気を引き締めてゆくぞ」
背後からリフの背中をトンとウェンデルが叩く。
「はいウェンデル様。カダインの地はウェンデル様が頼りです。お導きを願えるでしょうか?」
「うむ、ゆくぞマリクよ。ガーネフの手よりカダインを救うのだ」
「はい先生! このエクスカリバーに誓います。いざ!」


砂漠の地を魔道の衣を身に纏った魔道士たちが走る。彼らの上空を天馬たちが行く。シーダに、先日グラで仲間となったマケドニア白騎士団のパオラとカチュア。ペガサスは魔法耐性が高く、また機動力の高さがこの砂漠の地で大いにいかされる。三人のペガサス使いたちが魔道士と戦い、そこに襲いくる敵のドラゴンナイトは弓使いが後方援護で仕留める。活躍を見せたのはアカネイア一の弓騎士ジョルジュだった。ハンターのカシムも身軽さをいかして飛兵たちを相手にしていた。がその活躍はジョルジュには及ばなかった。アリティアの弓使いゴードンは重装備がたたり砂地に足を囚われまともに活躍できず。魔法にも砂地にも弱いアーマーのドーガやロジャーは前に出ることさえかなわなかった。ここはシーダたちペガサス騎士たちと、砂地でも移動をとらわれない魔道士たちの独擅場といってもいい。
パオラとカチュアの対魔道士への能力は群を抜いていた。シーダが特別劣っていたわけではないが、我流のシーダと比べ、二人はペガサスの産地マケドニアの者。しっかりと天空騎士としての修行を積んでいるものとの差だった。二人の活躍を羨ましいと思う反面、シーダは感心していた。
「ざっとこんなもんでしょ」
「すごいなぁ、あっというまに敵が片付いたよ。ボクなんててんで出番なしだなぁ」
まあ戦わない事にこしたことはないとほっとしつつ、ダロスはカチュアたちの強さに感心していた。
「ほんとすごいわ、パオラもカチュアも。私も負けてられないわね」
「ふふふ、でも私たちの強さはこんなものじゃないのよ。妹のエストが加わればもっとすごいことができるんだから」
「カチュアまだ気を抜いてはダメよ、敵はまだ残っているのよ」
ビクリとリフの体が震える。邪悪な気を敏感に感じ取る。感じたことのない怖ろしいまでの邪悪な気、それはおそらくこの地を統べるある者に他ならないだろう。
「みなさん下がってください!」
リフの声が響いた。ウェンデルとマリクが皆を守るように前線へと出る。あの者の魔力であれば、魔法に耐性の無い者は即死するかもしれない。
「小ざかしい」
うなるような低く響く男の声。怖ろしいまで邪悪に耳の奥を震わせる。闇のオーラを纏いわずかに浮遊しながら、その男はウェンデルたちのほうへと近づいてきた。フードから覗く目は赤く充血し見開いている。目元や口元に深く刻まれたしわは年を重ねてついたものとは違ってみえた。闇に身を落とし、人ではない死人のようなバケモノのような風貌だ。夜中に対面したらダロスはきっと驚いてちびってしまうかもしれない。
ブツブツと男がつぶやく、呪文の詠唱だ。邪悪な気が集まり、それが魔法となって放たれる。死者達の怨念の声、邪悪なのろいの魔法。それを受けると恐怖に身がすくんで動けなくなる。
「きゃあぁっ」
「カチュア!」
悪霊たちが怨念の声を放ちながら天空のカチュアへと向かう。動けない主をかばうように、ペガサスがとっさにかわした。
「ペガサスといえどまともに食らえばただではすまんぞ! さがるんじゃ」
ウェンデルの表情もいつもに増して厳しい。ウェンデルのほうを見て、ガーネフは不気味に、ほぅと微笑んだ。
「たかが一司祭が、このワシにたてつくというのか。身のほどしらずが」
ガーネフの周囲に次々と魔道士たちが沸いてきた。ワープの術で次々とこちらへと送られてきているようだった。カダインマージたちは皆ガーネフによって操られ、自我を失っていた。ただの殺戮マシーンとなっていた。術を免れた僧侶達は抗うすべもなく恐怖に震えながらガーネフの言われるままに働いていた。それが今のカダインの姿だ。マリクが憧れてきたあのころのカダインとは違う。
マリクやウェンデルの顔に脂汗が浮く。じりじりとガーネフを睨みながら後退する。これ以上近寄るのはマズイ、ガーネフの操る闇の魔法【マフー】は魔法物理すべての攻撃を封じる。さらに闘志を奪い、生きる気力も奪っていく。ガーネフはこの魔法によって無敵だった。マリクの超魔法【エクスカリバー】ですら無力化される。
「だめだ、風の精霊の力がすぐにかき消されてしまう」
風の力を身にまとうことすらできない。邪悪な負の気に、マリクたちの魔法は届かずじまいだ。
次々と召喚されるカダインマージたちにカチュアたちはてんてこまいだ。弓使いたちや剣士のラディたちも援護に加わるが、魔耐性のない者が大半であり、魔法による一撃はくらうとでかかった。
「くっそー、どうも魔道士相手ってのは苦手だぜ。あいつらはなれたところから攻撃してくるからな。なんとか対策ないのかよ?マジ」
手斧で応戦しながら、サジは相棒のマジへと訊ねる。同じくマジも手斧で河川の向かい側から魔法攻撃を放つ魔道士と戦っている。魔道士たちは素早く、やすやすと斧攻撃をかわすから、相性が悪い。
「あ? なんだとそりゃ俺の名前がマジだからか? マジだけにマージ対策ってか? んなもんわかんねーよ!」
中州で防戦一方の解放軍。河川を挟んで魔道士たちの容赦ない魔法攻撃が続く。さらに無敵のガーネフが彼らのほうへじわじわと攻めてきている。ウェンデルがマジックシールドをはりなんとかしのいでいるが、魔法効果もそう長くは続かない。
「(王子、まだですか? これ以上もちそうも)」
ガーネフを中州へと引き付けている間、マルスとモロドフは盗賊のジュリアンをつれてカダイン南東の宝物庫へワープの術で忍び込んでいた。モロドフの読みではここに奪われたファルシオンがあるはずだったが、見当たらなかった。ファルシオンの力ならばガーネフを打ち破れるかもしれない。マリクたちはそれにかけていた。
「くくく司祭よ、お前から先に葬ってくれよう」
ガーネフのミイラのような指がウェンデルを指差す。
「そうはいかん。お前の思い通りに死んだりせんぞ」
ガーネフの恐怖にウェンデルは屈しない。ガーネフからすれば相手でもない名前もろくに知らない一司祭だ。そんな相手が怯みもせず、挑戦的な態度で見据えてくる。あの時の光景を思い出し苛立つ。あの時の…ミロアと対峙した時だ。
その光景を思い出したのはガーネフだけではなかった。ミロアとガーネフの戦いを目撃していた、ミロアの娘であるリンダの中にも、その時のシーンが強く蘇る。体を内から焦がすように、激しく湧き上がってくる感情。魔力がほとばしり、リンダの長いポニーテールが激しく揺れる。
「ガーネフ! よくも、お父様を…」
目が光り輝き、スパークする光の精霊を身にまとうリンダがガーネフの前へと現れた。普段の彼女とは別人のようなその姿に、周囲も驚いたが、リンダは超魔法の使い手、さらに大司祭ミロアの娘。ガーネフと互角に渡り合ったとされるミロアの血を引き、ここまで数々の名立たる将を倒してきたリンダなら、と皆の心に期待があった。ごく一部の者以外は。
「誰だ? 小娘。…ああ、そうか、ミロアの娘か。くくく見逃してやったというに、わざわざ死にに戻ってくるとは」
ガーネフのその言葉にリンダの心はさらにカァッとなる。見逃した、…自分はあんなに必死になって逃げてきたというのに。ガーネフははなからリンダを殺す気がなかった。殺すに値しないと思われていた。ミロアを倒したあの時に、オーラが驚異でないと知ったからだろう。侮辱だ! 亡き尊敬する父に対しても、自分に対しても。
「許せない! お前は私がこの手で倒す!」
オーラの詠唱を目の前で始めるリンダに、ガーネフは眉一つ動かさず、不気味に微笑み続ける。
「よせリンダ!」「待つんじゃ!リンダ」
マリクとウェンデルの声が重なるが、二人の抑止の声などリンダには届かない。いつも以上に強い光がリンダを覆う。
「オーラ!!!」
強い光の帯がリンダの体より放たれ、ガーネフへと向かう。ウェンデルたちの声をかきけしながら。
光の魔法はガーネフを包むことなく、ガーネフの手の中で光の塊として集まった。
「なっ!!」
驚きで目を見開くリンダへと、ガーネフは笑いながら不気味な目を見開く。
「くくく、愚かな小娘よ。激情のままに戦えば早死にするぞ。それもよかろう。父親の元に送ってくれよう」
ガーネフは受けた光魔法をリンダへと弾き返す。
「う、うそ…そんな」
細い足が震える。ガーネフの闇魔法ではないのに、体が動かない。
「ぐっっ」「うわぁっっ」
目の前で二人の人影が光によって弾かれて、倒れていった。
「ウェンデル様? マリクさん?」
リンダに代わって光魔法を受けたのは、ウェンデルとマリクの二人だった。魔耐性の強い二人とはいえ、リンダの限界超えた超魔法の威力は、ただではすまないダメージだ。なにが起こったのか理解できない。リンダの脳内は白まりかける。
「うう、リフ」
ゆるゆると身を起こしながら、ウェンデルはリフへと合図を送る。
リフはリンダへとかけよる。
「リンダさん、さ、さがるのです。ガーネフにあなたの力は届きません」
「そんな、そんなことない。私は負けない!」
リフを押しのけ、リンダは己を奮い立たせ、再度オーラの詠唱を始める。
「ダメです!リンダさん」
リフの声で異変を察し、ダロスが駆け寄る。斧を捨て、リンダの手からオーラの魔道書を奪う。
「うぐわぁっ」
激しいスパークに巻き込まれて、ダロスはゴロゴロと地面を転がった。
「どうして? 私の邪魔をするの?」
リンダの疑問に答えるのはガーネフの声。
「わからぬか? お前から手柄を横取りする為だ。欲望のために人は動く。そやつらはお前がねたましいのだ。だから邪魔をする」
欲望の果てに闇に身を落としたガーネフの言う事は、正しいことのようにリンダの心に響いた。だがそれを受け入れてはいけないと誰かが伝えてくれた気がした。亡き父か…いや、幻聴でなければ今こうして自分へと呼びかけてくれている人がいる。
「リンダさん、ダロスさんたちの行動の意味、あなたならきっとわかっているはずです」
ハッとするリンダの前に、リフの背中があった。杖を掲げ、ガーネフと対峙する僧侶リフ。
「さあどうかこの私の想いも察してください。私の法力ならいくらか時間はかせげるはずです。今の内に」
「リフさん…」
「くくく小ざかしい。僧侶風情が、このワシの相手だと? おもしろい、ならば受けてみるがいい。我がマフーを」
「むん」
マジックシールドの術でもってリフはマフーを耐える。邪悪な悪霊たちがリフを食らおうとしがみついてくる。
「く…くくく」
リフの顔が苦しそうに歪む。リフの退魔能力であっても、ガーネフの圧倒的な魔力では敵わない。じりじりとシールドが破壊され、隙間から闇魔法がリフの体へと襲い掛かる。
「ぐぅっ」
「くくくはははは」
膝をつき、苦しそうに呼吸をするリフを見下ろし、ガーネフは笑う。とどめとばかりに容赦なく闇魔法を放つ。
それでもリフは諦めない。気力で持って体を支える。
「いや…いやぁぁぁーーーー!」
リンダの目にはあの時の光景が完全にだぶる。自分を守ろうとして、最後まで戦ったミロアの姿。辛くて悲しくて、無力な自分に打ちひしがれる。
「諦めては…なりませんリンダさん。お心を強く持たれてください。私の力は、まだ破れてはいません。ハァッ!」
杖で体を支えながら、リフは立ち上がり、さらに力をこめる。シールドがわずかに回復し、マフーを防ぐ。
「ダメ…もういい、逃げて、リフさん」
怖い、自分の目の前で、誰かを失う事などもう二度と見たくはない。
「くくく嘆くがいい小娘。無力な仲間に、無力な己に。そしてワシの偉大な力を恨めしく思うがいい」
ガーネフの追撃、マフーがさらに放たれ、リフを容赦なく襲う。もうこれ以上は耐えられぬ、限界であるとガーネフは読んでいた。しかしリフが思いのほか粘り、苛立ちがガーネフを襲う。
とどめの一撃がガーネフより放たれようとしたとき、リフの体から眩い光が放たれた。その光がガーネフの闇を振り払った。
「なっ、この力は?! ガトー、貴様の仕業か。く…今回も命拾いをしたな。マルスに伝えておけ、ファルシオンがほしくば、テーベまで取りにくるがいいと」
ワープの術でガーネフは去った。勝利を確かめることもなくリフはそのまま力を使い果たし倒れてしまった。


ガーネフが去った後、残った敵もわずかとなり、すぐにカダインを制圧した。宝物庫には宝がいくつかあったが、肝心のファルシオンはなかった。やはりガーネフが持ち去ったのだろう。落胆するマルスへと、テレパシーで語りかけてきたのは大賢者ガトーだった。ガトーはマルスたちの戦いを遠くマケドニアの地から見守っていたようだった。ガーネフに対抗する術を教えてくれた。光と星のオーブを手にして持ってくれば、マフーを打ち破る魔法【スターライトエクスプロージョン】を授けてやろうと。


「あー、もう魔法はこりごりだよ」
ぐるぐると肩を回しながら、カダインの城内でダロスがぼやいていた。
「あーまったくだな。なあダロス、お前デビルアクスとガーネフとどっちがこりごりだ?」
ダロスに賛同しながらサジが訊ねてきた。
「なにそれ! 究極の選択だよ! どっちも勘弁願いたいよ!」
笑うサジに手を振って、ダロスは城内の一室へと向かった。そこにはリフがベッドで横たわっていた。傷はたいしたことないが、強敵ガーネフの魔法を防ぎきった事で法力を使い果たしてしまった。しばらくは意識がもどらないそうだが、命に別状はない。そのリフの傍らで、祈りを捧げるリンダがいた。
「やあリンダ、リフさんの看病してくれていたんだね」
話しかけたダロスに、リンダは力なく首を横に振った。
「私のせいです。私のせいで、みんなを傷つけてしまった。…私にはもう戦う資格がないんです。私にできる事は、こうして祈る事だけ…」
「リンダ…」
すっかりと元気をなくしているみたいだ。無理もない、リンダは魔道の才があるとはいえまだ幼い少女だ。心は傷つき、戦う気力を失っている。元々ニーナはリンダが戦うことには反対だったから、これでよかったのかもしれない。がそう思う反面、落ち込んだ彼女を見てダロスも心が痛んだ。
「ダロスさんにも、酷い事を…」
「あー気にしないで、ボクはほら打たれ強いから、へっちゃらさ」
魔法はこりごりだとぼやいていたくせに。
ダロスは明るくリンダを励ます。
がダロスの心は彼女には届かなかった。失敗と敗北と恐怖。リンダの心は恐怖の感情でいっぱいになっていた。
「リンダ、ここにいたのか。ほら」
「あ、マリク」
ダロスに続いて部屋を訪れたのはマリクだった。リンダを探していたらしく、彼女を見かけると一冊の本を彼女のほうに投げてよこした。
「なに、それはオーラの書?」
ダロスが目をパチクリとさせる。リンダが持っていたはずの超魔法オーラの魔道書だ。ダロスだけでなく、どうしてという表情をリンダもしていた。
「どうしてこれをマリクさんが? 私ニーナ様にお渡ししたのに。オーラの魔法は封印しようと」
「王子から話は聞いた。君はもう戦いには加わらないと言ったそうだな。ずいぶんと無責任じゃないか?」
「私はもう戦えない! もう嫌! 誰かが傷つくのも、恐ろしい思いも…、もう二度と見たくない」
「戦いがいやなら最初から王子たちに守られていればよかったんだ。君は自分の意思で戦うと決めた。自分の言葉と決意には責任を持つんだ。君は知っているはずだ。戦いの時に聞いた声を、君を守り戦ったミロア司祭の想いを。オーラの書に込められた想いを感じとってみろ。魔道に生きる者の、それがなすべき事だ」
マントを翻して、マリクは言い放って立ち去った。リンダの目には涙が滲んでいる。マリクが言いたかった事はなんとなしにダロスにもわかったのだが、なんて励ましたらいいのか言葉を探す。
「…リン、ダさん」
その声にリンダとダロスもベッドの主へと意識を向ける。
「リフさん!」
リフが意識を取り戻し、ゆっくりと瞼を開いた。
「リフさん、ごめんなさい、私のせいで。私、私…もう」
ぐずりながらリフへと謝るリンダに、リフは優しく首を振る。
「私なら大丈夫ですよ。皆さん無事のようで、ほんとうによかった」
「私が…未熟なせいでこんなことに」
だからもう魔法は使わないと、誓うリンダに、リフが優しく諭す。
「ええ、リンダさんは未熟です。ですから、これから一人前の魔道士を目指しましょう」
にっこりと微笑んで、彼女の手にオーラの書を握らせる。
「でも私、もう」
「マリクさんもおっしゃってましたね。魔道書にこめられた想いを知ることが、魔道に生きる者のなすべきことだと。マリクさんのエクスカリバーの書にはマリクさんのウェンデル様の、そしてそれに関わったいろんな方の想いが籠められているのです。同じように、リンダさんのオーラの書も。その書に籠められたミロア様のお気持ちを感じられますか?」
「お父様の…想い…」
「どうかゆっくりと感じてみてください。きっと、あなたの進む道を照らしてくれるのではないでしょうか?」
ぎゅっとリンダはなにかを想うように、両手で書を胸に抱きしめた。
「お父様…」
「(きっと、ミロア様はリンダさんに敵討ちのために書を託したのではないと思います。なんのためにその力を託したのか、リンダさん自身で気づいてください)」
マリクもウェンデルも同じ気持ちに違いないと、リフは思った。


アリティアへと向かう道中で、ダロスがリフに話しかける。
「ねぇねぇリフさん、聞いた話だけど、リフさんがガーネフと戦っていた時、リフさんからすごい魔法が放たれたって聞いたけど、いったいリフさんなにしたの?」
「え? なんのことでしょうか? 私は攻撃魔法は扱えぬはずですが。…ただあの時、温かく力強い光に包まれた気がします」
この時リフはまだ知らなかった。あの時にリフへと語りかけた、ある者の想いを。


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リンダの設定は暗黒竜旧作の設定で書いてます。リンダはロリ!は個人的に譲れないところなのです。
新暗黒のイメージ絵を最初にみた時、やたらと色気ムチムチなアダルティーに描かれていたので「やりすぎだろ」と思ったのですが、ゲームをやって11章の違和感にびびりました。当時と比べて規制が厳しくなった事に影響してかの自主規制なんだろうけど。リンダの奴隷設定もなかったことになってるとかびびったけど、リンダが女の子ではなく女性として扱われているのにもびびった。マルスより年上の成人女性ぽいリンダを保護したいとかいってるマルスやニーナにむずむずw 設定改変といえばエリスも最近クロニクル読んで気づいたけど、ガトーの弟子でなくなってるのですね。オームの杖の設定が変わったためなんだろうけど。他に王族の女子たくさんいるじゃんなにやってんの?ガーネフみたいなw
とまあ私はFC版暗黒竜にこだわって創作しているのですが、でも…FCのガーネフって宝物庫から動かなかったよねwここを忠実にしたなら、宝物庫に忍び込んだマルスたち三人が「ぎゃーー」なるわけです。
そんなこんなでこの話は、スターライトリフに繋がっていきます。スターライトリフとは…以前当サイト内で期間限定公開していたリフのマンガです。あれをいずれ小説にしたいなと思っていたので。私の事なので脳内創作で終る可能性も大だし、いつになるかもわかりませんが、もしあげた時は読みにきていただければありがたいです。ダロスとリフの小説が読めるのはダロ船だけ!をアピールしたいですね。というかダロス扱っているサイトさんをほとんど見かけなくて切なくロンリーですよ、だれか私にダロ創作恵んでください。
私はうちのヘタレダロも、新のお人よしダロも、某小説のガチ男前海の男ダロも大好きなのです!