それはあっという間の出来事でした。

ショウが怪物男に「ゴミクソ野郎」発言をした直後怪物男を襲ったものは
怪物男の体に無数の穴を開けた、激しい空気の撃・・・
それは再び、ショウの手より放たれた物で、眉一つ動かさず、無情にも攻撃を止めない
怪物男の体はドンドンを打たれるたび、まるで踊っているようで、もう途中からは完全に自分の意思では
立っていなかった。

ショウの攻撃が止んだとたん、男はデカイ体をぐらりと、地へと倒れこんだ。
ちょっと、カメラわざわざ寄らなくてもわかりますからっ、絶命しているんだってことは!

なにかが逆流するように、その体はびくりと動き、いろんな穴から、ごぼりと嫌なものが流れていた。
みるみるとそこが海になっていく。

ほんとにあっという間の出来事で、・・・・・ん、そういえばまだ開始の合図なかったんじゃ、
い、いいのか?それ、反則負けとかないのか?
太鼓の音はまだしてなかったけど・・・?

で、少しして、ドーンと太鼓の音が響いて、ショウが勝者とのアナウンスが流れて、ワァッと声が上がった。

なんか、あれか、なんでもありとか言ってたっけ? この祭り・・・・・、反則とかないわけ、ね。

と少しほっとしたあたしは、再びガクガクすることに

「弱い奴は死ぬんだよ」
かすかに笑みを浮かべながら、ショウは完全に死んでいると思われる怪物男に向けて発射
怪物男の頭は、原型をとどめない状態になった、つまりは

脳みそバーーン☆

☆なんてかわいく表記している場合か、いやもう、そう誤魔化させて・・・・、だってだって
乙女の限界超えてますからっっ

脳みそバーンの瞬間、アホな観客たちがさらに盛り上がるのを遠くに感じながら、あたしは気持ち悪さとムカツキにうな垂れていた。

少女漫画的ラブコメディってなに? 花びらが舞う代わりに、血と肉が飛び散るわけですか?
ああん、もうますます恋が進展する気配ゼロじゃない・・・はぁ、ため息ばっかだな自分


「・・・・ダメね、ショウちゃん今のは酷いわ」

へ!? ビケさんの言葉にむくりと顔というか上半身を起こす。
そう、そうですよね、ビケさんも同じ気持ちなんだ!
それにあたしの元気も少し回復した。

「そうですよ、ビケさん!アレはあんまりですよね!」

「ショウちゃんに、ちょっとダメ出ししてくるわね」
と席を立つビケさん。
それに嬉々としてあたしもついていく。

ふっふっふっ、ショウのやつ、ビケさんに怒られるがいいさ!そしてこの機会にそのDエリア的考えを改めるがいいさ! 清く正しくAエリア的人間にとまでは言わないけど、せめて、ね。

アリーナから出た通路で、控え室へと向かうショウにビケさんが声をかけ止める。

「ショウちゃん、おつかれ」

「あっ。ビケ兄」

ビケさんへと振り向くショウ、その手にはタオルが握られているけど、欠片も汗なんてかいてないあたり軽くムカつきます。

「勝利したのはいいんだけど、ひとつ言いたいことがあるのよ」

「へ?」
きょとんとしたショウにビケさん言ってやってくださいな、このアホに
人としての常識ってのを

「さっきのは酷いわ。あんな試合をされては困るのよ」

そうそう、死んだ相手にわざわざ傷つけるようなことする必要ない、てか脳みそバーンは止めれ

「瞬殺はダメよ。盛り上がらないでしょ。コロッシアムはショーなのよ、もっと観客を楽しませる闘いをしてくれなきゃ、勝てばいいってわけじゃないから」

はいそうそう、瞬殺はって・・・・・えっっ?!
そっちですかーい?!

「ええっ、ちょっと注文多くない?」

ちょっと不満気な表情を向けるショウに

「コロッシアムは見てて楽しめる殺し合いじゃからのう。

なんじゃショウ、できんのか?」
あたしの後ろからキンの声、少しショウを馬鹿にしたような(ん、挑発っていうのか?)
それにショウは少しむっとした顔で、ため息吐きながら「わかったよ、やれるだけやる」と返事した。

「なんでそこまでがんばらなきゃいけないんだろう、リンネのために」
さらにはぁーとわざとらしく息吐きながら、ショウ。
こいつは、余計な一言がっ

「大丈夫よ、ショウちゃんならやれるわ。次もがんばりなさい」

はぁ、ビケさん、麗しい兄弟愛、とじーんとしながら見ていた。
ショウに近づいたビケさんが、ショウの頭を撫でながら、・・・・ってムカッ、羨ましい、とあたしが嫉妬の炎めらりとさせた時、あたしの中で衝撃の瞬間を目にする

ビケさんの唇がショウの、あのショウの額に触れるのを見てしまったから、て、それは、それは


デコチューーーー!!!
ふぉぉぉぉうデコチューですよデコチューデコジぐっっっか、噛んだー

「あら、リンネどうかしたの?」

ビケさんの声が遠くに感じる。ムリもないさ、あたしはショックのあまり気を失っていったみたいで
顎が外れるくらいに開いたアホ全開な顔のまま、後ろにがくりと倒れるのがわかった。



デコチューデコチュー・・・・・あたしだけじゃなくて、ショウにも、やっぱり、自覚するのは怖かったけど
あたしの存在って、たいしたものじゃないのかも・・・・・
ネガティブな感情がぐるぐるしはじめた時、またあの変な声が聞こえた。

『おいヘタレ、このクソ女、クソヘタレ女! くそームカツクできることなら殴りてぇぇぇ!!』

なんだよ、乱暴な言葉、だれなのよ、アンタは・・・・・ムカツクのはこっちだ

でもほんとに誰? 夢? 夢なんだろうけど、姿は見えないでも声は、存在はなんとなしに感じる。
それは直接、頭に語りかけているような、なんとも不思議な感覚なのだった。


気を失ってから、どれだけ経過したのかわからない。少しずつ目覚めるのを感じながら、薄らと目を開けてみると、あたしはベッドの上にいた。
医務室かなんか? 狭い一室だった。
よく覚えてないけど・・・・・ビケさんがショウにデコチュー・・・・・!!??ぎゃーーー
落ち着け自分、夢よきっと夢だったのよ、ええもうコロッシアム自体が夢だったのよ、悪夢は終了、はい。
と思いたいけど・・・・・・、リアルに思い出されるアレやソレ・・・・・べっこり凹みそう。

いっそおもいっきり時間経過していて、祭りが終わっていればいいのにと思ったけど、壁にかけられている時計を見ると、ショウの試合が終わってから30分も経ってなかった。軽く寝ていた程度かよ。
また凹むよ、べこ。

はぁーと情けなくため息吐きながら、ベッドから出た。だれがあたしを運んでくれたのかな。
ビケさんなら嬉しいけどvvv・・・・・ないか、キンだよなー、おそらく。
いっそ乙女妄想でもできればいいのに、それさえできないなんて、こんな不安になるのもこの祭りのせい。

足取りは重くも、ビケさんのもとに戻るかと、扉に手をかけようとした時、扉の外から話し声が聞こえた。
それにおもわず、手を放してその声に耳を傾けた。
その声は、キンとキョウ。二人がなにを話しているのか、少し気になって、や、別に盗み聞くつもりじゃないけど、だってなんか話している内容があまりにもアレなものだったので・・・・・

「じゃあ、やはり、この祭りはショウのためのものなんですか?」

「鬼が島の指令らしいからのう。ショウの中のゼンビの記憶を目覚めさせるのが目的らしい」

「そういえば、ショウは前世の記憶をまだ思い出してないんですよね?
私やキン兄さんと違って・・・・」

な、なに? 前世とか、なにかよくわからない発言を。ドラマとかのネタ?
どうにも出づらい空気で、もうしばらくこの二人のちんぷんかんぷんな会話を聞く。

「おおっ、兄者の話じゃ全然らしい。

ワシにはチュウビの、お前にはサカミマの記憶があるというのに」

ちゅうびとかさかみまとか、んー、なんかの役の名前?

「ゼンビのことは覚えていますか?」

「おおっ、覚えとる。ワシらは三人一緒じゃったな」

「ええ、そうですね。三人で、天下を目指そうとよく語り合ってましたね」

「ゼンビの奴はいつも温羅と桃太郎のことばかりじゃった。

あいつは温羅に憧れて、桃太郎に敵対心メラメラじゃったからな」

「ええ、そうでしたね・・・・! あ、それでショウはリンネの側にいたのですか?!」

「桃太郎の生まれ変わりであるリンネの側にいることはショウの中のゼンビの記憶を呼び覚ますきっかけになるとにらんどったらしい・・・・・じゃが、思っとったようにいかんかったらしい。

それでてっとりばやく、闘いの中にほおりこんで、ゼンビを起こそうということらしい。

それから、ついでにリンネにも刺激を与えておけって話じゃ、リンネの中の桃太郎にな」

わからん、なにちんぷんかんぷんな会話をしてるんだ、この兄弟は。
だいたい違うし、金門のでたらめを真に受けないでよ。あたしは桃太郎の生まれ変わりじゃないし
こんな場所に似合わないふつーの女の子なんだから!
と抗議しようとしたら、カイミの声が近づいてきたことにビクゥッと全身の毛が総立ちになる。

「くっ、見失ったもん!」
ハァハァと息を切らしながら、走っていたのがわかる状態のカイミ。
キョウのもとまで走ってきたらしい、キョウに声をかけられると一瞬「あっキョウ兄」と甘えた猫みたいな声を出していた。

「なにを慌てているんですか?」

「だってキョウ兄、あ、あいつがいたもん」

「なんじゃ? またリンネを追いかけとったんか?」

「あいつだもん! 忘れもしない、あのデカ男!

あいつジュース売ってたもん、しかも一本五千円ってぼったくりなんだもん。

お前みたいな小娘にかまっている暇など俺にはない、消えろ貧乏小娘がっって・・・・

もーーーー、ムカツクもーん! 桃山リンネもムカツクけど、あのデカ男も超ムカツクんだもん!!!」

むきーーとじたばた暴れている音が扉越しにもビンビンと感じられた。そして反射的に目を閉じてしまうビビリなあたし。

て、ん? あのデカ男ってまさか、もしかして

テン?!

テンがいるのか?この祭りに?まさか、でもいや、ありえなくはない
神出鬼没のテンのことだし、それにたしかテンのやつ、ビケさんのこと探しているふうだったし

なんか嫌な予感がする。テンのことだから、なにかしでかすんじゃないかって

「カイミ、席に戻りますよ、じゃキン兄さん」

キョウとカイミが遠ざかる足音を確認して、あたしはそっとドアを開けた。

「おおっリンネ起きたんか。あと十秒ほどしたら起こしてやろうと思っとったからな。手間が省けたわ」

キンがあたしを見ると、あたしに断りもなく強引に抱きかかえて、席へと向かう。
だからー、もっと乙女を丁寧に扱えって、言うだけムダかも

さっきしていたキョウとの意味不明な会話がどうこうより、あたしの脳内は
ビケさんのデコチューとか、テンのこととか、殺し合い祭りのこととか、脳みそバーンとか
それが休みなくグルグルグルグルしていたのだった。



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