再びいきなりあたしの前に現れ、あたしの恋路を否定していきやがったあの自称愛のテロリストのせいで
ムカムカしてろくに眠れなかった。
結局ビケさんも帰ってこなかったみたいだし・・・。

そんなわけで気晴らしにとCエリアの街をふらりとしてみることにした。

うっ!
と思わず情けなく呻いてしまった、はぁ、この街って
朝から輝いているんだもの。

街の景色がもうすべてが朝からパーフェクト!てかんじでして
これじゃ気晴らしどころか・・・・
この街の人はみんな完璧星人に見えてしまう。
歩き方から立ち方から、常に自信に満ち溢れている。
そんな人たちがなぜかあたしのほうをちらちらと見ている。

通りのショーウインドゥに映った自分を確認すると、うはぁ・・・。

領主館で風呂に入ったとはいえ、Dエリアでついた傷や痣が浮き出ていた。
いろいろストレスになってたこともあってか、ろくに手入れする間もなかった髪や肌もひどい状態だし。
Bエリアなファッションも、ここではかなり浮いているかも。
すごい場違いなかんじ?

こんな世界にあたしいていいんだろうか?
そう思うと凹んでくる。恥ずかしい・・・うわわ。

一瞬逃げたい、という感情が湧きそうになったが、瞬時にそれはかき消された。
ビケさんの顔が浮かんだから
きっとどんな想いもビケさんへの想いには勝てないのだ。

「ねぇ、君ちょっといいかな?」
突然あたしに声をかけてきたのは、おそらく十代後半かと思われるイケメンくん。
まあビケさんしか眼中にないあたしからすりゃイケメンとか感じたりしないだろうけど、まあビケさんと比べちゃいけない、世間の目からすりゃかなりのいい男なのだろう。

一瞬なに?この人、と思っていると、あたしが返事をする間もなく、ムリヤリ腕を引かれてどこかへ連れて行かれる。

「ちょっ、ちょっと、なんですか?!」
わけがわからず、少し怒りも込めてそう言うあたしに、彼はにこにこと笑顔で振り返りながら

「今CMの撮影やってて、ちょっとでいいから君に参加してもらいたいんだ。いいよね。」

は?CMの撮影?
て、ちょっと、勝手に「いいよね。」って決め付けないでよ。

「ちょっと待ってよ、あたしは・・・」
抵抗するあたしにはお構いなしに、そいつはあたしをずるずると連れて行く。
その先には何人かの人が集まっている。彼が声をかけると皆こちらに、あたしに注目する。

「!?」
な、なんか、気のせいか、すごい視線が刺さるようなというか、すごく冷たい目?
一瞬悪寒がはしったのだが、その撮影の責任者らしき人の元まで連れて行かれると、

「うん、いいね。この素人くさいオーラに、B級ファッションセンス!サイコーだよ!」
とあたしを見て大絶賛?
いや、バカにされてるんですか?あたしは。

「あのいったいなにを・・・」
いきなり連れてこられて、バカにされて、わけがわからず、少し怒りも込めて反論するあたしに、彼らは聞く耳を持たないのか

「よし。早速始めよう!」
その合図で、ライトが眩しくあたしを照らし、カメラが向けられる。

なにこれ、あたしの承諾など関係なしですか?

「ハイ、君!走って逃げて!」
手で走れと合図を送られ、とにかくあたしはそこから逃げ出したいこともあり、走って逃げる。
そのあたしのあとを、さっきのあたしを連れて行った男と、そいつと同じ年頃っぽいかんじのイケメン男子二人が現れ、笑顔で追いかけてくる。

「へ、なにこれなにこれ、もう。」
よくわからないけど、通りを走って逃げる。人にぶつかりそうになりながら、途中のカフェの手前の細い路地へと入り、逃げる。そこは人通りが少なく走りやすかったのだが、

「遅いねv」
ぽんっと尻に軽い衝撃を受け、ふっと真横に顔が現れ、それはにこにこ怪しい笑顔のあのイケメンボーイ。

あたしが「ひぃっ」と悲鳴をあげる前に、逆から顔が現れ
「ほんと任務とはいえ、やりがいのない・・・」
あとで現れたイケメン男子のもうひとり。

そしてあたしの上空をなにかが飛び越えたような影がぶわっと
「でもあの人、怒らせると大変だからんねv」
あたしを飛び越え、その行く手を遮るように着地したのは、イケメン男子の最後の一人。

右側にいた男に足をかけられ、あたしは走った勢いのまま、すっ転んだ。

「ふばっっ」
ズザッとこけたあたしは、すぐに身を起こすと、三人はあたしを囲むように立っていた。
きょろきょろと周囲を見渡すが、カメラはいないし、他に誰もいなかった。
ここにはあたしと、こいつらの四人だけ。
くすくす。と小さな笑い声を零しながら、彼らはあたしを見下ろしている。
笑顔だけど、不気味なものを感じたそれは

あたしは警戒全開のオーラで、身を固くする。
彼らは、アイドルスマイルのような笑顔のまま、あたしを見ながら

「消えてもらうよv桃山リンネ」

「?!」
な、なんであたしの名前を?!
こいつら何者?!
消えてもらうって、まさか・・・?

彼らの手の中には、小さくキラッと光るものが、刃のような鋭い物が見えた。
まさか、あれって・・・!

あたしは危険察知が働いたのか、すぐに脇をすりぬけ、走って逃げる。

「逃げてもムダだよ。」
声が聞こえる。でも振り返らずあたしは走った。
笑顔に優しい声に、すぐには気づかなかったけど、あいつらが放っていたのは殺気で間違いない。

なんであたしが狙われるのか、わけがわからないけど、でも
BエリアにAエリアにDエリア、と何度も命を狙われ、危険な思いをしてきたあたしは、危険察知能力だけは上がっているのかもしれない。
それって喜んでいいことなの?!
でもなんであたしばっかりがっっ

あいつらから逃げて、おそらくわずか数秒の間だったはずなのだが、あたしにとってはかなり長く感じられたのは、ピンチだからなのだろうか。
「さあ、消えてもらうよ。」

「はっ!」
まるで忍者のような身のこなしで、奴はあたしを飛び越え、笑顔で威嚇しながら、鋭い物を構える。

「僕ら三人によって昇天させられるんだから、君は幸せ者だね。」

わけがわからんよ!
て、なんで昇天なんて、してたまるかっての!

その時、あたしがとっさに叫んだのは

「ショウ!!」

「なんでそこで、ボクを呼ぶわけ?」
あたしの後ろの建物の屋根の上にいたショウが返事する。
そう、さっき走っているときに、屋根の上でのん気にアイスをしゃぶっていたショウの姿が見えたのだ。

「チッ、散るぞ。」
ショウに気づいた三人組は、しゅばっと忍者のごとく、姿をくらました。
と、とりあえず、ほっ。
その場に膝をつく、あたしの横にショウが着地する。

「あーあ、いっちゃった。ちぇっ、つまんないの。」

こいつは・・・・

「けどさ、ここで呼ぶならおっさんじゃないの?リンネのヒーローはおっさんなんでしょ?」

「はっ?テン?なんでテンになんて頼らないといけないのよ?!」

テンのこと、思い出すだけでムカムカしてくるよ。ビケさんだけは好きになるな、とかビケさんの悪口散々言いやがって、もう本気でムカつく。

はぁ、疲れた、もう戻ろう。


領主館に戻って、なんとなしにテレビを見ていてあたしは驚く

『今日のゲストはこの三人♪』

『ど〜も〜、イッサですv』 『バショウでござるv』 『ブソンでハーイv』

『三人合わせて、ハイセーズ♪』

「ぶはっ」
こ、こいつらはあの三人組!ハイセーズって?!

「やっぱり、こいつらさっきの。金門のやつらじゃん。」
同じくテレビを見ていたショウがそう言う。

「金門って・・・なんであたしを金門が狙うの?」

わけがわからない、一体あたしがなんだって言うのよ?
テレビの中でアイドルスマイルを振りまいているハイセーズの三人に、ムカムカきているあたしに朗報が!

「ビケ兄帰ったみたい♪」

「えっ、ビケさんが?」
ビケさんのもとに走り出しそうなあたしの背後でショウから

「あのさリンネ、今日のことビケ兄には話さないほうがいいよ。」

「へっ」

「ビケ兄に迷惑かけてほしくないしさ、つまんないことで。」

つまんないことって!
う、だけど、そうかも、ちょっとだけビケさんならあたしのこと助けてくれるかもって期待していたけど、
でもただでさえこれだけしてもらっているのに、これ以上迷惑とか心配事なんて、ビケさんにかけられない。
そうよね、好きな人に迷惑なんてかけたくない、自分の問題は自分で解決しなくちゃ。

とはいっても、またあいつらが襲ってきたら、どうすれば・・・
武器は今ないし、こんな時テンだったら・・・?
って、テンなんて知らない。あー、なんかムカついてきた。


ビケさん・・・

あたしはビケさんの部屋の前に立っていた。あわわ、来ちゃったけど、めちゃめちゃ緊張してきてます。
で、でもちゃんとお礼を言ってなかったし、そうお礼を言わなくちゃ。

ビケさん、いるんだよね?時々ドアの向こうで少し物音がして、そのたびにバカみたいにどきつくあたしの心の弱さがなんだか恥ずかしい。
なんて思っていると、ガチャ。とドアが開いて、そこには美しい顔が

「ビッビケさんっっ!」
アホみたいにわてつくあたしとは対照的に、ビケさんは落ち着いた優しい笑みで

「やっぱりリンネね。来るんじゃないかって気がしていたから。どうかしたの?」

「あっ、そのお礼を、まだちゃんと言ってなかったので、あの行くあてのないあたしを助けてくださってほんとに、ありがとうございます!!」
ものすごい勢いで頭を下げたあたしの上で、ビケさんの「くす。」という声が聞こえた。

「ふふ、いいのよお礼なんて。それより大変だったでしょう。あんなテロリストに連れまわされて・・・」

!テン・・・

「タカネのことなら安心なさい。必ず見つけて、あんな危険な男には渡さないわ。」

「ビケさん、あのテンは・・・」

それはほんとに一瞬のことで、瞬間あたしの脳内ではなにがおこったのか理解できず、パニック状態に陥りそうな・・・
ビケさんの唇があたしのおでこにフッ。と触れたから

「ほっわっビケっさん・・・」
よろける体と爆発しそうな赤い顔の情けないあたしにビケさんは止めを刺すかのように

「もう遅いわ。早く寝なさい。

ここで一緒に寝る?」

「へっ、えっうえっっ!!?」
うおお、もうまともな脳じゃ理解不能です、ビケさんそれは本当に!!!?

「冗談よv おやすみ、リンネ。」
最後まで余裕の笑みでビケさんは扉の向こうへと戻っていった。
しばらく呆然と廊下で立ち尽くしていたあたしは、数分後に冷静さを取り戻す。

「じょ、冗談、って、冗談にきまってるじゃないもう。」
と自分つっこみいれながら、ぽかぽかしている両頬に手を当てながら考えてみる。

もし冗談じゃなくて本気だったら、あたしは「はい。」つってたんだろうか、と真剣に考えていた。
それにおでこにチュv・・・・・じたばた!!

あたしもう顔洗いませんから!!!



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