太陽とともに現れた女の子は今にも噛み付いてきそうな猛犬・・・・というか猛獣のようなオーラさえ放っていた。それはとてつもない怒りのオーラだと一瞬で感じ取れた。
その子のその感情はあたしの隣にいるショウと、そしてたぶんあたし・・・にも?

「カイミ。」
ん?ショウ?やっぱりこのこショウの知り合い?

「ショウ!!どーゆーことだもん!その女誰だもん?!

それに、なんでここにいるんだもん?!パパの後継いでBエリアの領主になったのに」
凄まじい形相でショウに問いかける女の子
その子とは逆にショウのほうはめんどくさげに

「なんでも自由にしていいってのがBエリアの領主なんだよ。まあ、エリア外にいてもいつでも連絡はとれるしね♪

で、それからこれは・・・」

とショウはあたしの肩をぽんっと叩いて、にやりと卑しい笑みを浮かべながら

「ボクの愛人v」

「ひっ、はひっ?!」

なっなにを言ってるんだ?こいつは?!
はっ、カイミって女の子のほうはみるみる顔を赤らませながら
ゴゴゴゴと効果音が聞こえてきそうな
まるで鬼のような恐ろしい形相になっていってるじゃありませんか?!

「ちょっショウ!」
あの子の精神状態がそうとうヤバイことになっているのに気づいたあたしはすぐさまショウを否定させようとしたけど、こいつ・・・・
ニタニタと楽しそうに笑ってます。
まさか、ワザと?!

女の子のほうはもう怒り頂点ってかんじで、まるでやかんのお湯が沸騰したみたいに、暴れだす直前みたいに
暴れるぞ!やかん!

「ショウに絶対女を近づかせるなと、あれほどレイトに注意しておいたのに、レイトのやつ
ほんとに使えないもん!Bエリアに戻った時はばっちりお仕置きしてやるもん!」

うわっ、ギリギリとすごい念をBエリアのレイトに送っていそう・・・
いえ、レイトのことなんてどうだっていいよ、それよりも我が身!

「あたしという婚約者がありながらっ・・・・そんな女とぉっ


許さないんだもん!!!!!!!!!」

まさに咆哮!で!マーク多すぎっ
殺人オーラ全開でこちらへと向かってくる!

飛ぶように走ってくるカイミはショウ目掛けてとび蹴り、ミサイルのごとく突っ込んできた。
ショウは「うわっやべぇ」とか言いながらそのミサイル攻撃を軽く飛んでかわし、にやりと笑みを浮かべながら、逃げるように後方にダッシュ
「あっ」という間に姿を消した。と呆れる前にその蹴りをかわされたカイミはすぐ側にいたあたしをギンッとあのレイトと同じような刺すような目で睨みながら

「お前みたいなクソ女なんて!」

「えっちょっ」

待ってください誤解ですなんて弁解させてくれるヒマなんてありゃしない
ビュオッと空気を切る音があたしの耳に聞こえた。
死ぬ
思わずうしろへとよろけたあたしは幸いにも回し蹴りが肩をかすっただけで
外れた攻撃は背後の文具屋近くの白い壁にガリガリ音を立てて、壁が抉られた。
削られた壁の肌はカイミってこの足元にパラパラと落ちていた。

なにこの破壊少女は、なに今のは
あ、あたし殺されるの?!

壁にめり込んだ足を引き抜こうとしている今のうちにと
あたしはまたしても走って逃げた。
ショウの逃げ足には敵わないけど(てあいつ早すぎ、忍者かよ?)
全力で、もう全力以上で

さっきはテンから、そして今度はこのカイミって破壊少女から

「うらぁぁっぶっ殺すもーん!!!」
また咆哮が背後から
もうもう必死に逃げる、驚くほど自分でも足めちゃめちゃ動いてます!危機迫ると人間ってすごいね!
なんて感心してる場合かっ、ああもうなんで

Aエリアに戻ったっていうのに、テンはハチャメチャしちゃうし、いきなり会った女の子に殺されそうになるし、もうなんでなんなのよ!?

身を隠すように途中左折し、細い路地へと入り息を整えようと足を止めた。建物と木を壁にするように、そこで身を潜めた。ここまで来ませんようにと祈りながら
うわっ、止まって初めて気づく、足ががくがく止まりません、ありえないほど汗噴いてて、息がなかなか戻らず乱れっぱなし、限界超えた力出してました?自分。疲労だけじゃない別の汗もある気がする、そう感じた時。

「へぇ、よくあのカイミから逃げられたね。まああいつキレると視野狭くなるみたいだから。」

?!
耳元に変な息がかかっていると思ったら

「ショウ!」
いつのまにか隣にいやがった!しかものー天気に笑みまで浮かべやがって
だいたいこいつのせいで!

「うがぁぁぁぁどこに逃げたもん?!」

びくぅっ、甲高くも鋭い殺意を感じる声がすぐ近くでしている
思わず息を飲み込む。
よくわからないけどあのこのキレっぷりは尋常じゃない、だけどたしかにわかることは・・・・

声が遠ざかったことを確認して、ショウのやつに問いかける

「あのこなに?アンタの婚約者って?なにあの破壊生物?なんでAエリアにあんなこがいるわけ?
それに愛人じゃないから!!」

「雷門カイミ、雷門家の当主の雷蔵伯父さんの子でボクの従兄妹。ガキくせーけどボクの二つ下でガクセーだから、Aエリアにいるわけ。」

「いっ、従兄妹ってもろ身内じゃない!」

「それから婚約者ってのはあいつが勝手に言っているだけだから。
雷蔵伯父さんは次期当主にはカイミの婿になる人に決めるらしいんだけどさ。
雷門当主の座は欲しいんだけど、カイミと結婚てのがなぁ。」

ハーとのん気に息吐きながら、こいつは。緊迫感とか0だな。

「あとあいつ、キレたらすげーめんどいから。人の話は聞かないし、とにかく暴力で相手を鎮めようとするから。
別名台風ガール。あいつが暴れた後にはなにも残らないっていわれているほどだし。

カイミを力ずくで止められるのは、雷蔵伯父さんか、あとは
Dエリアに行ったキン兄ちゃんくらいだろうな〜。あはははv」

「なにがおかしいのよ、それってつまりアンタじゃあのこの暴走止められないってこと?」

「オフコースv」

「うぉいっっ」

「あ、でももしかしたら、あのオッサンならできるかも。
でもオッサンのことだから、勢い余ってカイミ真っ二つにしちゃうかもね♪」

こいつ、身内の女の子が真っ二つにされちゃうかもとか言って笑っているし、どういう神経してんだ

「あと、愛人ってのは、おもしろいから。」

は?
ショウのやつ、またおもしろそうにニタニタしている。まさかこいつ、ワザと?
わかっててワザとあの子を怒らせたんじゃ・・・・?なんで
なんのメリットが?

ショウへの不信感不快感がじわじわと上がり始めた頃、あたしが逃げてきたのと逆方向からこちらへと向かってくる存在があった。

「あっ、ショウ様発見!」
ボブカットで制服姿の女の子はショウを目にして驚いている様子、そして慌てて
「あっ、どうしようっ、レイトに連絡・・・あっそれより先にカイミ様を、ああっ」

なんだかわてわてと落ち着きのない様子

「まさかこのこもショウの知り合い?」

問いかけるとその慌てる女の子の顔をマジマジと確認するように、そのこに近づくショウ

「きゃっ、ショウ様、あっあの」

ショウのやつしばらくしてぽんと思い出したように明るい顔で

「そうだ、たしか君レイトの妹の!」

レイトの妹?、ショウの言葉にその女の子はうれしそうな満面の笑みで頷く。

「は、はい!レイカです!きゃあ、うれしい覚えててくれてvvv」

レイトの妹のレイカ?にしても同じ兄妹でも全然雰囲気違うなぁ。
なんてかこのこは普通の女の子ってカンジだし、ふつーに恋する乙女みたいな顔・・・・
ん?恋するってショウにか?!
その時点でフツーじゃない気がするけど、人生間違ってます。

「はぁ・・・・ショウ様がこんな近くに、レイカもう死んでもいい・・・・vvvv」

ショウなんぞに見とれてうっとりしてる?
!やっぱりフツーじゃなかったわこのこ、レイトの妹なの頷けてきたかも、と呆れかえっていると。


「こんなとこでチチクリあってたもん、絶対にゆるさんもん!!」

破壊神カイミ登場!!なんかもう怒りの炎がゴゥッと背後に見えてくるような
それになぜか風が、今日はほぼ無風だったはずなのに、もしかして風というか気なのか?!
殺気という風のような、いえもう暴風っていう気!?
彼女に睨まれるたび、近づかれるたび、肌がビリビリと痛いものを感じている
全細胞が、ヤバイぞリンネ!と警告しているように

殺意を抱かれるというのが、殺気を感じるというのが
こんなにも痛いものなんてっ

そして彼女の言動からなんとなく察した、その殺意の源は嫉妬心
つまりはこいつだ、ショウ!

「ちょっと、待って!違うから、あなたが思っているような関係じゃありませんから
だから落ちつい・・・」

ギリギリともう女の子というよりももう人間さえ捨てちゃっているような恐ろしい表情で近づいてくるその台風カイミ号を、そのすごい気圧に押しつぶされそうになりながらも、生きるため、生き残るため、必死とあたしは誤解を解こうと話しかける
たとえ台風だろうと元は人間、話せばきっとわかってくれる・・・はずっ

「じゃあ、どーゆー関係だもん?!」

うぇっ?どーゆーって、?どーゆー関係だ?
加害者と被害者、てのも違うか?

あたしがその問いかけに言葉を詰まらせていると、隣のショウがにこやかに

「全裸で抱き合った関係vかな」

ぶっっふぅーーー、ななにをこいつは、消し去りたい記憶をっっ

「あー、ごめんね、ぶっちゃけちゃってvAエリアでは露出狂のヘンタイだってこと隠しておかないとダメだったんだよね?リンネ」

「おっおまっっ」

こいつワザとだ、またあのイジワルな笑みを浮かべて、そしてカイミの様子をうかがう。

「ッッッコロース!!!!!!!!!」

バリバリ、あたしの肌が悲鳴を上げる、髪の毛がありえないほど重力に逆らう、それはつまり・・・・


来る!!

奇声を上げながら突進してくる殺人鬼(予定)、恐怖のあまり硬直するあたしの隣のショウは余裕の怪しげな笑みを浮かべながら、近くにいたレイカの腕をぐいっと引き寄せる。

「レイカちゃん、ちょっと」

「きゃっvショウ様」

ショウのやつ、そのレイカを抱き寄せるように引き寄せたかと思うと、こちらに突進してくるカイミ号に向かって
「人間バリアーその2!」

と言いながらまるで盾にするようにレイカをカイミ向かって突き飛ばす。
ひでぇ、やっぱこいつ最悪だ
とショウに呆れる場合ではなく

「はい逃げるよ」
くるりと向きを変え、またしゅぴぴと忍者のごとくダッシュ、あたしも命を守るためとにかく逃げなきゃ。

突進カイミにぶつかったレイカは激しい衝撃とともに歩道に倒れこみ、痙攣していた。
「チッ」と舌打ちしているカイミの手にはなにか光る武器らしきものが見えた。
でもそんなのじっくり見ている余裕はない、逃げなきゃ、こっちが殺られる!!

ああっ、もうなんであたしばっかりが命狙われなきゃいけないのよ!
なんであんな危険な子に!
あたしの平穏な日常はどこにあるのーー!?

疲労がまだ残っている足で、だけどとにかく必死で走る。
Bエリアに比べると道の舗装がずっとキレイだけど、でも地面から強い衝撃が走るたび下から襲ってくる。
もう、限界・・・・だれか助けて・・・・

「リンネ、速く、もう追いつかれちゃうよ。」
頭上からショウの声
見上げると建物を屋根づたいに走っているショウの姿が
お前いつのまに?とか疑問に思うよりも

「あのこ・・・ヤバイよ!
なんか物騒な武器持ってた!」
息切れながらも、なんとか伝える。本気でヤバイよあの子

「あー、たしかにヤバイかも。
雷門の連中が持っている武器ってほとんどがミントって人が作ったちょっと特殊なやつばかりだから。
カイミが持っているのは、殺傷能力を高めたスタンガン。一発でもマジで喰らえば
リンネなら即死かもねv」

はひー?なんでそんな危険なものを?ここはAエリアは護身目的であっても武器の所持絶対禁止のはずなのに!?

「来た!」

「死ねーだもん!」

?!すさまじい勢いで襲い掛かってきた殺気
走りながら振り返るともうそこにはあたし目掛けて飛び掛ってくる猛獣の牙が!

「!?」

バチィィッッと焼き貫くような音と瞼の裏からも感じた青白い稲妻の閃光
反射的に閉じた目をゆっくり開くと、あたしの前には影が・・・・

「なにをしているバカがっっ、戦え!」

「テン!?」

あたしの前に立つその存在は・・・・防風林・・・なのか?


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