「おっし、完成じゃー」
何度か失敗を繰り返しつつも、なんとか花火を完成させたぞ。
花火はAエリア時代に授業で作ったことがあったんじゃが、久々で感覚が離れとったがなんとかなるもんじゃ。
鬼が島への門が開くのは二月三日らしい。
桃太郎と温羅はその日にこだわりがあったということでな。
鬼が島への門はBエリア、Dエリア、Aエリアそれぞれが開くという事じゃ。リンネはテンとBエリア、キョウはAエリア、ワシはDエリア側から入る事になった。
というわけでワシはまたDエリアへとおる。水路の向こうには天までそびえ立つ鬼が島の高い城壁が見える。
遠い昔、チュウビであるワシは温羅の居城であるあの鬼が島に向かったんじゃなぁ。それから幼い頃にも鬼が島にいたことがあるんじゃが、いまだにその時の記憶はあいまいなままじゃ、まあええじゃろ。
手に花火を抱える。サッカーボールくらいあるぞ。こいつは打ち上げるもんじゃからな。キレイな花を咲かせてやるぞ。リンネのやつ喜ぶじゃろうか。花火は見るものを幸せにする力があるからのぅ。祭りを盛り上げる最高のアイテムじゃ。ワシも花火は好きじゃからのぅ。


祭りの日はやってきた。
1500年2月3日。桃太郎と温羅が決戦を望んだその日、じゃがその目的を果たす前に桃太郎の奴は消滅してしまったんじゃ。テンと組んだはずの桃太郎はテンに拒絶され、リンネからも強く拒絶されてこの世に留まることができんようになったんじゃ。残ったのは温羅なんじゃが…。
温羅は兄者と一心同体じゃ、温羅は兄者であり兄者は温羅じゃろう。しかし、あれだけ互いを意識しあっとった桃太郎がいなくなって、温羅の奴の心情はどういう状態にあるじゃろうか。温羅は…兄者は…。
昔のワシはまさか鬼が島や兄者に背くなど考えもせんかったじゃろう。そういう気持ちにさせたキョウやリンネは、やっぱ特別な存在じゃと思う。
リンネの奴は兄者に裏切られ、怒りながらも、それでも兄者が好きじゃと言うとる。戦う事でその道を貫くんじゃとな。リンネはやっぱり桃太郎じゃ。いやあの桃太郎とは違うんじゃが、そうじゃなつまり、チュウビがついていこうと思った桃太郎みたいなもんじゃ。
チュウビは桃太郎が好きじゃった。ワシもリンネが好きじゃ。おもしろいやつなんぞリンネは。ワシはそのリンネの戦いに最後までついていってやりたいと思う。見届けてやりたいのぅ。あの兄者にリンネは敵うじゃろうかと。ワシは兄者の実際の強さというのはようわからんのじゃが、温羅の力があるんなら、リンネの勝利は遠いもんじゃろう。しかし、リンネはテンを味方につけた。んでもって頼もしいワシやキョウというお供もおるんじゃぞ。大将までの道は安心してもええところじゃ。こうしてワシらを味方につけたのも、リンネのパワーじゃからな。
日の出前からワシはDエリア側の門が開く場所へと待機しておった。今頃Bエリア側ではリンネとテンが、Aエリア側ではキョウのやつがまっとるじゃろう。
通信機が鳴り、ワシは通信機を開く。おおキョウとリンネが画面に映ったぞ。
『リンネ、そちらの様子は?』
『うん、いまのとこまだなにもないんだけど……そっちも?』
キョウとリンネのやりとりじゃ。まだどちらも動きがないみたいじゃのう。ワシのほうもじゃが、おそろしいほどに静かなんじゃ。
『ええ、まだ動きはありませんね。キン兄さんのほうは?』
「こっちもまだぴくりともせんのぅ。まあまだ日も昇っとらんし」
『うん、たしかに気が早いのかも。しかし、寒い寒い』
『そんな薄着で当然だろうが、どこまでもお前は…』
『ええーいうるさい!真夏に厚着のテンにだけはいわれたくありませんからっ。たしかに寒いけど、厚着だと動きにくいでしょう!』
なんじゃなんじゃ、リンネとテンは楽しそうにやっとるのぅ。
『そういえば、今日はお前の誕生日だな。せっかくだ、祝いの歌を唄ってやろう』
お、なんじゃテンのやつがリンネのために誕生日の歌を唄いだしたぞ。心憎い演出じゃのう。よし、ワシも一緒に唄うぞ。
『ハッピバースデーリンネーー』
『うわっちょっ、なに?なんですかーー』
「ハッピバースデーリンネーー、ハッハッハ」
『ちょっキンまでーー』
ハッハッハ、なんじゃリンネのやつテレやがってかわいいのぅ。
誕生日を祝ってもらってリンネも幸せなことじゃろう。じゃが、これだけではないぞ。ワシからはこれもあるんじゃからな。
「リンネ、ワシからはこれをプレゼントじゃ」
ワシは通信機に映るように花火を掲げて見せる。通信機の向こうのリンネも驚いとるようじゃ。
『キン、それってまさか?』
「花火じゃ。こいつをドカーンと、鬼が島で打ち上げてやるからのぅ!」
『ありがとう、キン。楽しみにしてる』
「はっはっは、礼など不要じゃ。惚れたおなごのために花火上げるんは、男として当然のことじゃからな!」
『ぶほっっ!ちょっっ、惚れたっていつの間にですかー?』
「おお。たった今じゃ」
『たった今って、じゃああの島で言ったことってやっぱり冗談だったんかい!』
リンネのやつ、えらい騒いどるのぅ。ほんとうにおもしろいやっちゃ。
「はっはっは、おんもろいのー」
『ちょっとなに笑ってんのよ、それにおもろくない!』
やいのやいの騒いどると、通信機が鳴った。通信先の主は、これを作ったミントじゃ。
『おっとまだ門は開いてないようっすね』
「おおっミントか」
『間に合ったみたいっすねー。若旦那、そっちに強力な助っ人が向かったっすよ♪』
ん? キョウのもとに助っ人とは、もしや?
『え?助っ人って?…!カイミ?!』
はは、助っ人とはやはりカイミか、ほんにやんちゃなやつじゃのう。
『ちょっ、ミントどういうことですか?』
『言ったって聞かないんだからしょうがないっしょ。それにお嬢なら即戦力っすよ』
カイミまで参戦するとは、この祭りも盛り上がってくるのぅ。
「ずるいじゃん御大将。こんな楽しそうな祭り、一人で楽しもうなんて」
ん? ワシの背後から聞こえるその声は
「ポッキー。おお、すまんかったな、よし!ワシら二人で大暴れするぞ」
「もっちろんじゃん」
お前をのけものにするつもりなどなかったんじゃが、来てくれて嬉しいぞ。ワシがDエリアに来てよかったと思えるのはお前の存在が大きいんじゃぞ。
ワシはポッキーとともにDエリア側の門が開く時を待つ。
空が明るくなっていく頃、キョウの声でワシは空を…、鬼が島上空を見上げる。
『キン兄さん!空を見てください』
そこには、天へと昇って行く光が一つ。ワシにはわかった。それは温羅の魂じゃと。キョウのやつもそれに気づいとるようじゃった。
「おお、見とるぞ。あれは温羅の魂か」
『たしかにあの光は……、温羅。温羅の魂です』
温羅の魂が天へと昇って行く。ということは、兄者から温羅が離れたということじゃろうか。それならば、リンネの勝利もずいぶん近い場所へと降りてきたことになる。
「御大将!」
ポッキーが鬼が島を指差す。おおっ、ついに門が開く時がきたようじゃ。
門は開き、鬼が島への道ができる。いよいよじゃ、さあこの祭りを大いに楽しもうぞ。
「よっしゃ、いくぞポッキー!」
「もっちろんじゃん御大将!」
ワシはポッキーとともに鬼が島へと走った。なにが待ち受けておるんじゃ、わくわくが止まらんぞ。
待ち焦がれたこの祭りを思う存分楽しんでやるんじゃ!



キンの記憶 完
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