皆さんこんにちは、桃山リンネです。
はい? 久しぶりすぎてだれ?状態ですか?
そういえばそんな気がしないこともないような…って、なにを気にしなきゃいけないんでしょうか。
そうそう今日はですね、二月三日ですよ。ふふふ、何の日かお分かりですよね?
え? 桃太郎と温羅の因縁対決の日? 鬼が島城炎上した日?
そ、そんなことはどうでもいいですよね?
乙女にとって、いやさ、あたしにとって重要なのは、あたし桃山リンネのお誕生日だってことなんです。
前回の誕生日は、19歳の誕生日で、鬼が島に乗り込んだ日ですね。テンたちがハッピーバースデーと歌ってくれて(アイツ実に無駄にいい声なんですよね。なんであんな無駄に才能ありまくってんでしょうか、その才能分けれ!って感じですよね!)キンは花火を打ち上げてくれたんだよね。
え? 大勢の人が盛り上げてくれたって? そうそうそうですよね。たしかに地面から古代の兵士みたいな格好したゾンビ的な人たちがたくさんあたしの誕生日を盛り上げてくれましたよね。って違うでしょ!それ!
はぁはぁ、まったくしょっぱなからツッコミさせないでくださいよ。無駄に疲れたじゃないですか。ハァ…今年こそは、受験に受かりますように…ブツブツ。
はっ、それはさておいて。

あたしのお誕生日のお祝い。カフェテンでおばあちゃんがケーキ焼いてくれて、テンがビーフシチュー作ってくれて、という約束をしていたのですが、急遽中止になってしまったのです。なんという悲劇。その理由が、実に酷い理由だったりするんです。ええ皆さん、あたしと一緒に怒ってください。


『いきなりじゃが、Bエリアは二月三日に鬼エリアに改名することに決まった』

Bエリア領主のキンの突然のこの発表に、え?なに言ってんの?コイツと思ったわ。なんで、いきなり改名?その理由がこれまた意味不明でして。

『BエリアがなんでBエリアと呼ばれるか、知っとるか?』

そんなの、誰かさんがてきとーにつけたんじゃないんでしょうか。B級エリアって意味だとか?

『BエリアのBとは、バイオレンスのBじゃ。バカのBじゃ』

はいはい? バイオレンスはBじゃないし、バカのBってなに言ってんですか?あのマッチョバカマンは。

『傍若無人、無礼者。バカの中のバカ、桃太郎じゃ!
ワシのBエリアが桃太郎エリアっちゅう意味になるんじゃ。こんな屈辱はなかろう』

キンがバカにしているのって桃太郎だよね。もうとっくに魂消滅したはずの、あの迷惑極まりない桃太郎の野郎だよね。…なのになんでか、あたしがバカにされているようで、むかつくんだけど、なんでか?

『そこでじゃ。Bエリアを強いエリアとして生まれ変わらせたい! まずは名前から変えてみんかいということで、鬼エリアに改名することを決めたんじゃ。しかし、名前を変えたところで、簡単にバカエリアからは脱せれんじゃろう』

名前とかそれ以前の問題があるかと。なんでもありのBエリアって体質から改善すべきだと思いますけど。

『そこで、二月三日。桃太郎が温羅に退治されたメモリアルデーに、皆で退治の儀式を行うぞ!
聖なる豆を使い、桃太郎退治をするんじゃ!
桃太郎とは、このBエリアにおる。桃山リンネのことじゃ!』


「は、はあーーー?!」
な、なにいってんの? キンのやつ。

『鬼王に牙をむいた大悪党じゃ。皆でリンネに豆をぶつけてやるんじゃ!
二月三日、盛大にみんなで祭りじゃーー!』

「おー」と打ち合わせていたかのごとく呼応する声が響いた。画面の向こうから。あたしはテレビの中継でそれを知ったのだった。
ちょっと待った。なんだこの流れは、まるでかつての金門みたいじゃないかー。そもそもあれは桃太郎が元凶で、あたしはいろいろと災難にまきこまれていたのだし。桃太郎はあたしから消え去って、温羅と桃太郎の因縁からあたしは解放されたはずなのに。なのに…、あれから一年経つけど、学業に復帰も出来ず、底辺這いずり回ってる日々ですし。…あたしって幸せになれない運命なんでしょうか?

ほっかむりをして警戒しながらあたしは港通りに向かう。カフェテンは、本日臨時休業の看板がぶら下がってる。元々あたしのお祝いのために休みを決めていたので、休んでるんだろうけど。でも、急用ってなんだろう。店の中に入ると、シーンとして人の気配を感じられない。

「おばあちゃん? テン?」

呼びかけても返答なし。二人揃って出かけたんだろうか。…あたしの誕生祝中止してどこに行ったっていうのよ。

トン。

奥のほうから物音がして、何の音かと思ったら、白猫ハバネロが着地した音みたいだった。スタスタとこちらに歩いてくる。噛み付かれる心配は無かった。ハバネロは口になにか紙切れを加えていたから。ぱさり、とそれを床に落としてスタスタと奥へと消えてしまった。

「なにこれ、ゴミ? まったくわざわざゴミを人に拾わせるんかい、あのエンジェルちゃんは」

ブチブチいいながら紙切れを拾って捨てようとした。あれ、なにか書いてある。

【リンネよ、タカネばあちゃんは攫っていくぞ。助けたければ領主館前の女神像広場まで来るんじゃ!
待っとるぞ! 鬼エリア領主キンより】

「な、ななななんですとーー!?」

おばあちゃんがキンに攫われた? つーかまじで鬼エリアに改名したんかい。どーでもいいけど。
くーっ絶対許せない。あたしの誕生祝台無しにしたのは、キンの仕業だったってことでファイナルアンサー!

怒りのあまりほっかむりを投げ捨ててカフェテンを飛び出した。あたし、狙われていたんだってことすっかり忘れていましたが、そんな余裕皆無でしたから。

「あでっあでで」

ばしばしっと小粒の硬いものがあたしの体にぶつかる。ぱらぱらと地面に転がる丸い粒は…豆?!

「桃太郎は外! 桃太郎は外!」「鬼は内! 鬼は内!」

通りにいる住人の手には豆が!?そしてその豆をあたし目掛けて投げつけてくる。

「あたっちょっやめっっ」

言った所でやめる様子もなく、いちいちBエリアの住人を相手にしているわけにもいきません。巨大なキンの手に囚われて、助けを求めるおばあちゃん。そんな姿が想像できて、あたしはますますキンへの怒りを募らす。

待ってておばあちゃん。あたしが助けに行くから。桃太郎じゃありませんけど、キンっていう邪悪な鬼は、あたしがぶっ倒しますからッッ!!


「キン! おばあちゃんを返してもらうわよ!」

広場の女神像の上に、不敵な顔して腰掛けるキンにあたしは叫んだ。

にやり、とキンは悪党みたいな笑みを浮かべる。ぐぬぬ、このマッチョ悪党めっ。

「おおっ待ちくだびれたぞリンネ! 早速桃太郎退治の儀式、受けてもらうぞ!」

豆の入った箱片手に、キンはビシっとあたしに宣言する。乙女に豆をぶつけるというなんとも勝手で鬼畜な儀式。公開処刑も同然の、非道なDエリア的なやり方。さすが元Dエリアの領主ですね!イヤミたっぷりに。

「そうだどこかに鈍器的なものない? アイツのドたま勝ち割ってやんなきゃ」

「おおっ、それならあるぞ。おい、例のもの出しちゃれ」

へ?

敵さんから武器の提供ですと?
キンの命令で雷門の黒装束の男がしゅばっと移動して、あたしの前に黒くてぶっとい円柱を持ってきた。

「なにこれ」

「恵方巻きっちゅう聖なる武器らしいぞ。なんでも異国の文化であるらしゅうてのぅ。急遽ミントのやつに作らせたんじゃ」

…ミントさんになにさせてんだよ、こいつは。たく、まあいいや、これでキンの奴を殴って…。

「ええかリンネ。今からワシらはお前に豆をぶつける。お前はその聖なる恵方まきとやらで、豆を防ぐんじゃ!」

ん? んんん?

「おっし、始めるぞ!」

キンの合図で、雷門軍団がどこに潜んでいたのか、それぞれの位置について、四方からあたし目掛けて豆が投げつけられる。

「で、いたっごっおりょ。ちょっ、顔はやめて!豆がめり込んでしまうんですけど」

えほうまきってやつで防ごうとしても、テンじゃあるまいし、四方から飛んでくる豆をすべて叩き落すことなんてできるわけないし。はじき損ねた豆がバッシバッシとぶつけられる。たかが豆と侮ること無かれ、結構な凶器なんですけど。いくつか柔肌に食い込んで、あざになったらどうしてくれる?

「はっはっは、そりゃむくみじゃな。リンネ、すっかりたるんでしまっとるのぅ。また無人島で修行するか?」

「む、むくんでなんかませーん! あと無人島はもう結構ですしー」

女神像の上で高笑いしながら、豆を投げつけるキン。えほうまきでブンブン振り回して、豆をおらおら打ち返す。いくつかはジャストミートでキンのほうへと打ち返した。でも当たらなかったけどね。

地面には豆がたくさん転がって。足場注意っていうか、豆もったいないだろ!そんな貧乏くさいあたしのほうに、キンが降りてきた。あたしは疲労で筋肉がくがくになっていた。片膝ついて、肩を上下させるあたしのすぐ傍までキンがきた。

「もう息があがっとんか、なさけない奴じゃ」

「はぁはぁ、もう、ムリです。…勘弁して…」

ぐったりとうな垂れるあたし。キンの奴勝ち誇ったように笑っている。…くくく、バカめ。
今がチャンス!

「とみせかけて、ヒーット!」「おおっとそうはいかんぞ」

バシッといい音させてキンにヒットしたはいいが、キンの手に見事に防がれた音だった。くー、悔しい。って地団太踏むあたしに、キンのやつは「どうじゃ、楽しかったじゃろう」とにかりと笑う。

「はぁ? 楽しかったって…」

「リンネもいい気分転換になったみたいでよかったわ。キンさんにおまかせして」

「おばあちゃん?!」

何食わぬ様子でおばあちゃんが「うふふ」と笑いながらあたしたちの前に現れた。気分転換ってあれ? もしやおばあちゃんとキンはグル? じゃあこの変な儀式って…。

「リンネ、二月三日はお前の誕生日じゃろう。なにかおもしろいことできんかとばあちゃんと相談してな。異国の文化で節分という祭りがお前の誕生日と同じ日じゃってな。お前のお祝い兼ねてやろうということになったんじゃ」

…はあ?

「なんでも豆をぶつけられると頭がよくなるそうなのよ。それに運動にもなったし、リンネ勉強でずっとこもっていたでしょう。カフェテンでパーティーするよりも、リンネのためになるんじゃないかと思って、キンさんと一緒に企画したのよ」

にこにこのおばあちゃん、にかにかするキン。…じゃあなに、メディア使ってまで、他の人まで巻き込んだこのわけわからんイベントって、あたしのバースデー祝いだったってこと?

「だったら最初からそういってくれればよかったのに…」

「お誕生日おめでとうリンネ。これはケーキ代わりに私とテンで作った恵方巻きという料理よ。縁起のいい方向を向いて、無言で食べるとお願いごとが叶うそうよ」

えほうまきって武器じゃないんか?いろいろと具の詰まった太巻きをおばあちゃんからもらって、いただく。

「?縁起のいい方向ってどこ?」

おばあちゃんもキンも「さあ?」といって首をかしげる。ちょっとそこまで調べといてくださいよ。

じゃあとりあえず、鬼が島に向かって、あたしはもくもくとえほうまきを食べたのだった。

あちなみに、Bエリア改名ってのは冗談だったらしい。まったく人騒がせな。
「Bエリアの伝説が始まるんじゃ」とキンが言っていたけど、なにをするんだか。まあそんなことより、勉強がんばります、桃山リンネでした。皆さんよい二月三日を!


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